第七十五話:女神伝説と勇者伝説
ぺらりと本のページを捲る。
(白と黒の女神と勇者、アースレイ……)
今や王国内で本が置いてある場所にて、置いていないであろう最も有名な勇者についての本。
そして、それと同じぐらいに置いてある、白と黒の女神についての本。
書いている人物自体が違うからか、大体は別々の本に書かれていたりするわけだが、中には勇者は女神の加護を受けたからなどといった理由で一緒に書かれている物もある。
(勇者の仲間は……エリシア・リスタニアにアッシュ・ガウンダー、か)
当然、勇者・アースレイに関して書かれた物の中には、一緒に旅をした仲間の記述が挿絵付きであるものもある。
(そして、勇者・アースレイを支えたとされるミーシャ・ウェザリア。後はキッシュのみだけど……)
アースレイを支えたとされるウェザリア王国の王女、ミーシャに関しても、存在していたことは確認できた。
ただ『彼』ーー勇者一行のサポート役にして、情報収集担当とも言えるキッシュに関しての記述は少なく、彼自身が存在していたかどうかの確認が完全に終わったと言えるかどうかは、まだ断言できない。
しかも、彼の存在については賛否があるようで、彼の記述が無いものについては、後世に残しておくべき存在ではないと判断されたのではないのかと推測できる。まあ、彼自身にしてみれば、存在を否定されているようなものなので、堪ったものではないのだろうが。
「うーん……」
今まで集めた情報と今読んでいる本に記載されている情報に、結理は唸る。
(やっぱり、こうしてみると『ウェザリア王国物語』の登場人物なんだよなぁ……)
異世界転移してきた当初はそんなに気にしてはいなかったのだが、気になり始めたのは、王城に来て渡り廊下で見た白と黒ーー光と闇の女神と、アースレイたち勇者一行の絵を見てからだ。
あの時はあの場にあった絵について、シルフィアによる説明があったわけだが、それでも『もしかして』と思い、調べ始めてみれば一致するところが多々あって。
それでも、違うところもいくつかあって。
この世界は、『物語』の中の世界のようであって、そうじゃない。
(そして、白魔刀と黒魔刀。勇者と魔王の魔力が封印されたと言われている刀だけど……)
その二つの刀が存在していることも、いくつかの資料等で確認済みである。
ただーー
「実際は違うのよね……」
「実際はって、何か知ってるのか?」
何気なく呟いた言葉に返事があり、「ん?」と一瞬疑問に思い、次の瞬間、結理は驚きを露にする。
「うわぁっ!?」
「そんなに驚くなよ」
「いや、今のは普通に驚くって……」
結理の驚いた声に顔を顰めた声の主ーーアクセルに、結理はそう返す。
彼の方に驚かすつもりが無くとも、結理が驚いたのは事実だ。
「で、さっきの話だが……」
「知らないわよ」
アクセルが言うであろう言葉の返事を先回りして封じれば、彼は機嫌を損ねたかのようにムッとする。
「まだ何も言ってない」
「言いたいことぐらいは分かるわよ。私が何を調べてるのか、調べに来たんでしょ?」
「……」
誰かの指示か、それとも個人的なものなのかは、この際どちらでも構わない。
ただ、確認するかのように問い掛ける結理に、アクセルは肯定も否定もしない。
「まあ、私としては、邪魔さえしてもらわなければ気にしないから、調べたいならご自由にどーぞ」
「……」
先程見ていた本を抱えたまま、そう言ってその場を離れる結理に、アクセルはそれを見つめたまま、何も返さない。
(ーーとは言ったものの、本当に彷徨かれても困るし、適当な所で撒くか)
結理としても別に変なことを調べている訳ではないので、疚しくもなければ彼が悪いわけでもないし、詮索されても困るわけではないのだが、自分と似たタイプだという彼の場合、特に迷惑になるようなことをするとは思えないが、何となく調べていることのその先は察しそうではある。
(それで、タイミングを見計らって、廉たちに話すしかない)
ただ、アクセルがどこまで付いてくるのかにもよるが、結理は召喚主であるシルフィアはともかく、付き合いの短い彼(ら)にその先を話すつもりは無い。
何せ、廉は現『ウェザリア王国の勇者』であり、自分たちは『勇者一行のメンバー』なのだから。
その勇者が『知らない』でいるよりは、『知っている』方がきっとマシだろうから。
(ウェザリア王国に伝わる女神と勇者の伝説をーー)
ーーだが、今後のとある行事にて、この事について話すことになることを、今の彼女は知る由もなかった。




