第七十話:休み明けと学年末試験
冬休みが明け、学院に登校してきた生徒たちは、各々が休み中に会えなかった友人たちとの再会を喜んだり、家族旅行の土産を渡したりしていた。
それはもちろん、廉たちも例外ではない。
「遅くなったが、明けましておめでとう」
近づいてきたレイヤに気づいた廉が声を掛ける。
「何だ? その挨拶」
「私たちの故郷の新年にする挨拶。『明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』ってね」
「まあ、それだと長いから省略して、『あけおめ。ことよろ』って言う奴もいるがな」
レイヤの疑問に、結理と廉が説明しながら答える。
「なるほどなぁ」
レイヤの納得したような声に、廉たちも首を傾げる。
「こっちには無いのか?」
「んー、あったとしても、普通に『おはようございます』とかぐらいだな」
「そうか」
異世界とはいえ、日本と似ているところもあるこの世界だが、どうやら新年の挨拶までは一緒ではなかったらしい。
「そういえば、フィアも似たようなこと、言ってたわよねぇ」
朱波がそう言いながら思い出すのは、年明けにシルフィアと会って挨拶すれば、首を傾げられたことだ。
そして、今の廉たちみたいに説明したのだ。
「そういや忘れてたが、今年の抱負は? みんな決めたのか?」
「あー、そう言われると忘れてたな」
棗の疑問に大翔がそう返し、
「書き初め、かるた、羽根突き」
「それはどっちみち無理でしょ。前者二つは道具、後者はスペースすら無いし」
詩音の正月遊技については、朱波が答える。
そんな面々へ、あることに気づいたレイヤが声を掛ける。
「……なぁ。一人だけ明後日の方向を向いてるが、それは良いのか?」
それを聞き、面々が目を向けたのは、もちろん結理。
「ねぇ、結理」
「まさか、持ってるとは言わないよな?」
「持ってはないよ。作る気ではいたけど」
それに頭を抱えるのは、レイヤ以外の五人。
「ちなみに、抱負は御神酒作り」
「ふざけんじゃねーよ。つか、学院で酒を造るとか、堂々と言ってるんじゃねぇっ!」
「おー、見事な突っ込み」
廉の言葉を気にした様子もなく、結理は器用に音が出ないように小さく拍手しながら返す。
「ま、冗談だよ。それは目的の一つだし」
「お前……」
結理の言葉に、廉は顔を引きつらせる。
本当、長い付き合いのはずなのに、この幼馴染のことは分かりにくい。
やれやれと溜め息を吐けば、担任が教室に入ってきたので、友人同士で話していた面々は席に着き始める。
そして、ホームルームが始まり、連絡事項として放たれた担任の言葉に、一種の阿鼻叫喚がその場に響くことになった。
☆★☆
「ようやく、今年度最後の試験ね」
「そうだな」
「みんなで進級できると良いわね」
「そうだな」
登校日から一ヶ月後。
廉と朱波がどこか遠い目をしながら話し合う。
「ま、問題ないでしょ。風邪とか引かない限りは」
「……」
風邪と言って思い出すのは年末の件。
「ところで、結理はどうした?」
「調べ物だって。図書館に行くって言ってた」
「調べ物? あいつ。最近、調べ物多いな」
「本当よ」
廉の言葉に、朱波が同意する。
結理が何か調べ始めたのは、新学期に入って数日経ってからなのだが、何を調べているのかを、廉たちはまだ彼女から教えてもらっていない。
というのもーー
「確信を得たらね」
と、はぐらかされてしまうのだ。
「一体、どうするんだろうな」
「鷹森のことだから、ちゃっかり勉強してそうではあるけど……」
棗と大翔が、どうしたもんかと言いながら、息を吐く。
「勉強、しないのかな?」
結理とて完璧超人ではないのだから、勉強しないと好成績は取れないし、今回の成績次第では留年も有り得るのだ。
「試験も近いのに」
「試験も近いのにねぇ」
タイミングとかを狙ったわけではないのに、廉と朱波のやれやれと言いたげな言葉が重なった。
☆★☆
結理は一人、学院内にある図書館の中を歩いていた。
「えっと……」
様々な種類がある本が収納されている本棚の間を歩きながら、目的の本を探す。
「……」
本来なら、司書に聞くのが良いのかもしれないが、探しているものが探しているだけに、下手に手伝えとは言えないのだ。
「お、あったあった」
目的の本を見つけ、ぱらぱらと軽く中身を確認した後、机のある方へと持って行き、椅子に座って読み始める。
『その後、『光の女神』は主に人間から、『闇の女神』は主に魔族から信仰されるようになった。とはいえ、人間から見て、『闇の女神』が邪神扱いをされているかと問われれば、答えは否であり、逆に魔族も『光の女神』を邪神扱いはしておらず、人間にとっての『闇の女神』は朝に対する夜的な認識であり、魔族にとっての『光の女神』は生活するための明かりを与えてくれる、どちらかと言えば良い神と言うべきなのだろう。』
『勇者・アースレイは、魔族に尋ねた。好戦的なタイプが居ないわけではないが、今まで侵攻すらしてこなかった彼らが、何故いきなりこのような行動に移ったのかを。魔族は言う。「ならば、対峙する時にでも、我らが王に気いてみるがいい」と。』
ぱたん、と結理は二冊の本を閉じる。
ちなみに、補足すると、前者が女神伝説についての一部であり、後者が勇者伝説についての一部であるのだが、他の本にも、女神と勇者については肯定的だったり、否定的だったりした部分はあったが、基本的には似たような物が多かったり、独自の解釈が混ざっていたり、いろいろ脚色されていたものまでと、様々ある。
伝説関係なんて、時間が経てばどこの世界でもそんなものである。
「やっぱり、見覚えも聞き覚えもある名前だと思ったら、伝説に関連してたか」
ふと思い出すのは、王城内で見た、飾られていた女神と勇者の絵。
「……」
少しばかり思案する結理だが、一度溜め息を吐いて首を横に振ると、本を本棚へと戻し、図書館を出る。
(とりあえず、今はテストに集中しよう)
どうせまだ、この学院には二年も居られるのだ。焦る必要はない。
そして、試験に落ちて、留年するつもりも更々無い。
「さーて、そのための勉強でもするかな」
軽く腕を伸ばしながら、結理は友人たちの居る教室へと向かうのだがーー
その際、彼女の側を通り過ぎた二人組に、結理が気づくことは無かった。
☆★☆
「あ、戻ってきた」
結理が戻ってきたことに気づいた詩音が言う。
「みんなは……勉強?」
「いくらあんまり変わらないからって、世界史とかは違うからな。けどまあ、はっきり言って、よう分からん」
「でしょうね」
『字』を必要とする国語や『計算』などをしなくてはいけない理数系は何とかなるが、歴史などは根本的に違う。
「異世界に来てから約一年経つのに、分かんないこと、まだまだ多すぎるのよねぇ」
溜め息混じりに、朱波がペンを回しながら言う。
「それよりも、今は目の前の試験だ。勉強して、出来る限りのことをする。結局は今まで通りだろ」
「そうだね。合格しなきゃ、弟と……下手したら、妹たちとまで同級生になっちゃうし、先に卒業されちゃう」
「こうしてまた高一をやっている時点で、今更だと思うがな」
結理の、懸念する部分がずれているなぁと思いつつ、廉がそう返す。
「……もういっそ、みんなで留年する?」
「詩音、縁起でもないこと言わないで!」
「受験シーズンに落ちる的なことは言っちゃ駄目。ここに受験生が居るんだから」
「おい、結理。それは俺のことか。なあ、俺のことなのか?」
詩音の言葉に、朱波と結理が反応するのだが、会話を聞いていたらしい棗が声を上げる。
「ははっ、何を今更。つか、鷹森家は来年、三人受験生になるんだよ? あのまま元の世界に居ればの話だけど」
遠い目をしながら、結理が言う。
完全に家事と受験の両立しなくてはいけない未来が予想できる。
「あー……年齢差を考えれば、そうだな」
「……そういえば、東雲家も結理たちのとこと同い年だから、蒼緋も受験生になるのよねぇ……」
結理の妹、結の同級生にして、幼馴染でもある弟のことを思い出した朱波も、若干遠い目をする。
「やっぱり、心配か?」
「うちは友愛が居るから大丈夫だと思う。何だかんだで、二人ともしっかりしてるし」
「蒼緋も大丈夫じゃないかな。兄さんも居るし」
特に心配しているような素振りを見せない姉二人。
「なら、いいんだが」
二人が大丈夫と言うのなら、廉たちは特に何も言うつもりはない。
「それじゃ、進級目指して、勉強しますか」
その一言で、面々は学年末試験に向けての勉強を開始したのだった。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
さて、今回で第三章は終わり、次回からは第四章に入ります
面々の試験結果も次話で分かると思いますので、それまでのお楽しみということで
あと、活動報告にも書きましたが、スローペースでプロローグから修正中です。読み直すほどの手は加えてはいませんが、一応のご報告まで
今年の更新はこれで終わりとなりますので、来年も引き続き、お付き合いお願いいたします
それでは、また次回




