第六話:学院での一週間、この世界での三週間
【前回のあらすじ】
学院へ行きました
「疲れたー」
「ふふ、ご苦労様です」
ぐったりする廉を見て、シルフィアは微笑んだ。
この一週間は大変だった。
学院見学を終え、城への帰宅した後、三人はふと気になったこともあり、エフォートにお礼を言った後、シルフィアに尋ねてみた。
「私の年齢ですか?」
「うん。同年代なのは分かるけど……十七ぐらい?」
首を傾げ、尋ねる朱波にシルフィアは頷く。
「はい、そうですが……」
「十七って、高等部二年じゃないのか?」
元の世界と同じパターンなら、シルフィアは高等部二年のはずだ。
それに、シルフィアは頷いた。
「まあ、本来なら私は二年生ですが、以前にも言った通り、私は皆さんと同じクラスになります。皆さんの場合、一学年への編入になりますので、私も使用するのは一学年の教室になります」
「え……」
シルフィアの言葉に、廉たちは固まった。
つまり、一年生をもう一度、やり直すということだ。
しかも、廉たちのために。
「何か罪悪感が……」
もっとよく考えるべきだった、と三人は思う。
「でも、受からないと意味がない」
詩音の言葉に、廉たちは、あ、という顔をする。
その後、合格通知が来たのは良いものの、三人は学院で使う制服や靴の測定し、必要最低限の物を城から寮へ運んだ。
そしてーー
「レン・シノハラです」
「アケハ・シノノメです」
「シオン・カサガネ。よろしく」
三人は編入生として、学院に編入した。
クラスメートたちは、シルフィアがいるせいか、浮き足立っていた。
その上で廉たち三人の編入で、外部生のせいか、三人を見る目が違った。
最初は興味本位で話しかけてきたクラスメートたちだが、それも三日ほど過ぎれば収まった。
それから現在。
編入してから一週間経った今、冒頭に戻るわけだ。
「姫様。もしかして、いつもこの調子なんですか?」
「いつもは違うけど、大体こんな感じね」
朱波の問いに、シルフィアは頷く。
「そっか」
「それで、この一週間はどうでしたか?」
シルフィアの問いに、三人は思い出すように言う。
「そうだな……。最初見たときは、城でもそうだったが、やっぱり『凄い場所』っていうのが、第一印象だったな。魔法専門の科がある時点で、すでに凄いと思うが」
「そうね。私たちの世界じゃあ、魔法なんて無かったし」
「そういえばそうでしたね」
シルフィアも思い出すように頷く。
「ああ。前にも言ったが、俺たちの世界じゃ、魔法じゃなくて科学の方が発達してたからな」
「魔法が無い分、科学力だと勝ってると思う」
「だな。携帯も通じるし……」
詩音の言葉に同意した廉だが、いきなり固まる。
「…………」
「…………」
「?」
他の二人も同じように固まる。
シルフィアのみ、よく分からないと、首を傾げたままだ。
そして、廉は頭を抱えた。
「何で気付かなかったんだろうな。こっちでも携帯が通じるなら、すぐに居場所が分かったのに……」
何で今気づいたんだ、と廉は思う。
この世界に来たとき、携帯は持ってきていた。
城から荷物を移動させる際にも、携帯も移動させた。
(なのに、すっかり忘れてた)
肩を落とす廉に、朱波と詩音は互いの顔を見合わせ、やれやれと言いたそうな顔をした。
「まあ、いいんじゃない? 騎士の人たちも捜してくれてるんだし」
「そうだよ。それに、結理たちなら王都に来るだろうし」
二人が気にするな、と声を掛ける。
あの三人なら、何だかんだで上手くやっていそうだ。
「そうだな」
復活したのか、廉も頷く。
「フィア」
「何ですか?」
それを見ていた詩音がシルフィアに話しかける。
「この世界に電波って、あるの?」
「電波、ですか?」
詩音の問いに、シルフィアは首を傾げる。
どうやら分からないらしい。
科学があるなら、それに類する何かがあるはずだと思い、詩音は聞いたのだが、シルフィアの様子からすれば、名前が違うのか、電波自体がないのか。
「いや、ごめん。気にしないで」
「いえ、私こそ力になれずに申し訳ありません」
謝る詩音に、シルフィアが謝り返す。
詩音はポケットの中で携帯を握りしめ、藍色に染まり始めた空を見上げる。
(今、どこにいるの……?)
数秒してから顔を三人に向けた詩音は、少し先にいる面々に駆け寄る。
「皆さん、明日はどうなさいますか?」
シルフィアが尋ねた。
明日は休みだ。
「そうだなぁ」
廉は考える。
特に用事もない。
「アケハ様たちは?」
「ギルドに行こうかと思ったけど、いろいろ日用品も買いたいからね」
シルフィアの質問に朱波はそう返す。
「私はその時に決める」
詩音の言葉に、廉と朱波は苦笑いした。
詩音には、ある日課があったのだが、こちらに来てしまったために、今はそれが出来ない。
だから、こちらにいる間は、その時の気分で判断することにしたらしい。
「詩音」
「何?」
朱波が話しかければ、詩音は首を傾げる。
「明日、私と買い物しよう」
朱波は詩音の両肩に手を置く。
「そうね」
詩音は再度、藍色に染まった空を見上げる。
星が輝き、月が光を放つ。
風が吹き、四人の髪を揺らす。
「いい風」
朱波が言う。
「うん」
詩音も同意する。
「明日は良い日になるよ」
詩音がそう告げれば、廉たちは頷いた。
☆★☆
一人、寮の部屋で机と向かい合っていた廉は、机の上にある紙と睨み合っていた。 朱波たちは買い物で城にも寮にもいない。
紙に記されていたのは、今までの経緯。
もちろん、いつでも持ち歩けるように、メモ帳を使用している。
外を見る。
夏に近づいてきたためか、少しずつだが暑くなってきた。
召喚されて三週間。
最初の一週間はこの世界について学んだ。
次の週はギルドや学院の入学試験をやり、何とか合格。
その次の週は、学院に編入、荷物整理やクラスメートたちからの質問大会。
ようやく解放されたのは週末で、疲れが一気に襲った。
「もう月末か」
とりあえず、今までにあったことを纏めれば、類似したこの世界の時間軸では月末らしい(しかも四月)。
気づいたときは驚いたが、通貨といい、時間の計算方法といい、元の世界と似てるせいか、異世界という感覚が薄くなりつつある。
剣と魔法はあるが。
「普通に考えれば、例のモノが近いよな」
学生に嫌われる例の奴。
そして、廉もそれに含まれる。
「この学院に無いわけがない」
入学試験をしたぐらいだ。
無い方がおかしい。
クラスメートたちと比べ、勉強開始時間が遅かった廉たちだが、そんなに差はない。
しかも、授業をやって気づいたのは、元の世界で一年生の時にやった内容ということだった。
そのため、復習感覚で授業を受けていた。
苦手分野は今のうちに潰しておこうと、耳を塞ぎたくても塞げなかったが。
とまあ、そんな感じで、学院生活は三人とも今のところ順調である(まだ学院に入って一週間だが)。
問題も起こしていないし、シルフィアの迷惑になるようなこともしていない。
本番はこれからだ。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
久々の短さです
今回、学院編入一週間の話
廉たちが話している日は、曜日で言えば金曜日です
さて、次回はギルド側の話です
戦闘シーン頑張ります
それでは、また次回