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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第三章:夏休み後半・学院編
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第六十七話:白銀の夜


「結構、積もったなぁ……」


 シルフィアを見送った後、少しばかり外に出てみれば、結理は未だに降りながらも、すでに積もった雪を見て言う。


(大丈夫。まだ(・・)大丈夫)


 深呼吸をして、息を整える。


「誕生日おめでとう、兄さん(・・・)


 一緒に祝えない代わりに、空へと幻影の皿に載ったケーキを掲げ、そう告げる。

 いつも一緒だった誕生日だが、今年は別々でありながらも、互いへ向ける祝いの言葉だけは同じだ。


「ありがとうな、結理」

「っ、」


 いきなり聞こえてきた声と頭の上に感じる重さから、はっと周囲を見回すのだが、そこには何もなく。


「気の、せい……?」


 思っていた以上にホームシックが酷く、ついには幻聴まで聞こえたのか、と結理は自嘲する。


「……って、私は何やってんだ」


 彼女の手から、幻影の皿に載ったケーキが、小さな光となって消えていく。

 そして、完全に消えたのを理解すれば、次に何を思ったのか、結理は靴や靴下を脱ぎ、裸足になる。


「うん、本物だ」


 本物かどうかの確認なら、いちいち靴を脱がなくとも、手で確認すれば良かったのだが、雪に触れたことにより、どうやら頭が少しばかり冷えたらしい。


「こりゃあ完全に寝れそうにないなぁ」


 だが、冷えたのは頭だけではなかったらしく、目も冴えたらしい。


「……」


 どうしようかと思案していれば、よく知るとまでは言わなくとも、気配を感じたので振り返る。


「お前、何してんだ?」

「……」

「何だよ、その目は」

「いえ別に」


 そこにいたのは防寒着を着たクラウスだったのだが、結理は思わず何とも言えない表情になる。


「つか、何やってんだよ」

「言わないとダメですか?」

「ああ」


 問われ、確認すれば、頷くクラウスに、結理は溜め息を吐く。


「散歩ですよ、散歩。これで良いですか?」

「嘘っぽいな」


 適当感満載の返答をすれば、クラウスが疑いの眼差しを向けてくるのだが、実際嘘なのだから、否定も肯定もせずに結理は言う。


「別に信じなくても良いですよ。信じてもらうために言ったわけじゃないですし」


 だから、クラウスが信じようが信じまいが、結理には関係ない。


「……そうか」

「何ですか。文句があるなら言ってくださいよ」

「いや、特にない」

「そうですか。では、私は行きますから」

「ああ」


 脱いでいた靴と靴下を手にすると、結理はクラウスに背を向けて、その場から去っていくーーのだが、ある程度の場所まで行ったところで振り返る。


「あ、無いとは思いますが、付いてこないでくださいよ」

「付いていかねーよ。子供じゃあるまいし」


 というか、実は付いてきてほしいのか、とクラウスが疑いの眼差しを結理に向けるのだが、すでに背を向けている彼女は気づかない。


「……ったく」


 結理の去った方向を見ながら、クラウスは息を吐くのだが、先程彼女のいた場所に何かを見つけたのか、少し目を細めると、すぐにその場から立ち去った。





「で、何で付いてくるんですか」

「俺の行きたい方にお前がいるだけだ」


 歩き始めて数分後。

 結理は横目で背後の人物を見ながら問うのだが、そう返されてしまう。


(こいつ……!)


 顔を引きつらせながらも、「相手は王子、相手は王子」と結理は自身に言い聞かせる。


「なら、お先にどうぞ。私は別方向から戻りますから」

「お前の部屋は向こうだろう」

「ぐっ……」


 結理が廉たち同様に客間を使っていることを知っているためか、クラウスにわざわざ遠回りする必要がないと指摘され、何とか笑みを浮かべていた結理の顔は再び引きつる。


「ま、女は大人しく部屋に戻るんだな」

「残念でした。私は大人しく戻るような奴じゃないので」


 そう返されたことにより、ぴくりと何かに触れたのか、クラウスの表情が少し険しくなる。


「いいから戻れ」

「嫌です」

「戻れ」

「しつこいと嫌われますよ?」


 そう言い合いながら、互いに睨み合う。


「……それにお前、裸足じゃねーか」

「あ」


 少しばかり赤くなった結理の足へ目を向けて言うクラウスに、忘れていたと言いたげに彼女が声を洩らす。


「あ、って、今気づいたのか」

「いや、脱いでたこと思い出して」

「あのなぁ……」


 思わず呆れたように言うクラウスだが、当の本人である結理は特に気にした様子もなく、そのまま靴下と靴を履いていく。

 だがそこで、ふと思ったのか、結理はクラウスに尋ねる。


「もしかして、気を使ってくれたんですか?」

「何で俺が、お前に気を使う必要がある」

「確かにそうですね」


 そもそも、二人の接点など、数えられる程度であり、クラウスが結理を気にするほど接してきたわけでもない。


「……」

「え、何!? ちょっと!?」

「静かにしろ。夜中だぞ」


 そこで何を思ったのか、近づいてきて自身を抱き上げてきたクラウスに、結理がぎょっとしていれば、そう指摘される。


「っ、大声出させるような事してるのそっちでしょ!?」


 クラウスの指摘が間違ってないのは結理も分かっているのだが、嫌なものは嫌であり、それでも下ろせ、と彼に訴える。

 けれど、そんなのを気にすることもなく、クラウスは腕の中で暴れる結理を抱えたまま歩き出す。


「良いから、大人しくしておけ」


 下ろせと言っているのに、宥めるようにそう言われて、結理が大人しくなるはずもない。


「嫌だ。下ろして」

「断る」

「お願いだから、下ろして」

「断る」

「いいから、下ろして!」


 二人の睨み合いと言い合いに、ぞんざいさが加わるのだが、結理が叫ぶように言う。


「断る。靴を履いたとはいえ、そんな足でまともに歩けるとは思えんからな」

「そうかもしれないけど……下ろして」


 結理だって自分の足なのだから状態は分かっているし、クラウスの言い分も分かる。

 だが、それでもやっぱり、この抱え方ーーお姫様だっこは嫌なのだ。


「諦めの悪い奴だな」


 そんな結理に、クラウスが溜め息を吐く。


(諦めの悪い奴?)


 結理が気になったのはそこだった。

 でもーー


「……よりはマシよ」

「何か言ったか?」


 いきなり大人しくなり、小さく呟いた結理に、クラウスが尋ねるが、返事はない。

 だが、結理が大人しくなったため、ようやく大人しくなったか、とクラウスが息を吐けば、そのまま彼女の部屋へと向かって再度歩き出す。


「……」


 そして、そんな二人を見ていた人物がいたのだが、二人が気づくこともなく、小さな光の粒子を残しながら、その人物はその場から姿を消した。



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