第六十二話:冬休みの予定
期末試験も終わり、もう少し頑張れば冬休みということで、その予定を話し合うクラスメイトたちがいる中で、もちろん廉たちも話し合っていた。
「なあ、冬休みの予定って、決まってるのか?」
「予定? まだだが……お前らは決まってるのか?」
予定を聞いてきたレイヤに、まだだと答えながらも、面々に確認を取る廉。
「あー……久しぶりに依頼でも受けようかとは、思っていたけどね」
「そういや、俺たちも最近は行ってもなければ、受けてもないな」
「そうね」
結理の言葉で、そういえば、という廉に朱波が同意する。
「依頼って、もしかして、冒険者なのか?」
「ああ」
不思議そうなレイヤに六人は頷く。
「実際、廉たちに会うまでは、依頼をやりながら王都に来たわけだしね」
「その分、いろいろあったがな」
何があったのかを話せるぐらい、いろいろあったわけだが、それを思い出し、意識してなのか否か、結理は右手で左腕に触れる。
「そういえば、聞かなかったけど、結理たちのチーム名って何なの?」
ふと思ったらしい朱波が尋ねる。
「『迷宮の砦』。特に意味はないよ。朱波たちは?」
「私たちは『幽玄の理』よ。まあ、付けたのは詩音だけど」
「うわぁ……何となく、込められた意味に私たちまで関わってそうな名前」
「実際、そうだし」
朱波たちのチーム名を聞き、名付けたという詩音を思わず見てしまうのだが、そう返されてしまう。
「ま、今度の休みにギルドに行ってみるわよ」
「そうだね。時期も時期だし、何かあるかも」
冬が近いとなれば、人の手を借りないと出来ないこともいくつかあるのだろう。
「じゃあ、皆さんが依頼を行い、ユーリ様の誕生日を祝うことも含めて、予定を立てないといけませんね」
「え、いや、誕生日の件は無しでもいいよ。依頼で潰れるかもしれないし」
準備する気満々のシルフィアに、依頼が長引いて中止になっては勿体ないから、と結理がする必要はないと訴えるのだがーー
「知った以上は、お祝いぐらいさせてください」
「諦めなさい。結理」
「そうだぞ。祝ってもらえよ」
「何か納得できない気が……」
両肩に手を置いた廉と朱波に、どこか諦めろと言われているような気がして、微妙に納得してないような表情をする結理。
「ということで、フィア。よろしくね」
「はい。お任せください」
朱波に言われ、シルフィアが力強く頷くのだが、それを見た結理が注文をつける。
「やるなら、大げさにしないでよ」
「大丈夫。やるのは結理の部屋の予定だし」
「そこは、せめて教室辺りにしといてよ。結局、片付けは私がする事になるんだから」
「それもそうね」
あっさり肯定する朱波に、主役に片付けさせるつもりなのか、と結理は疑いの眼差しを向けてしまう。
「なら、場所は王城の一部屋を使いましょう。私の招待客だと言えば、レイヤさんも来ることができるはずですし」
「そ、そうですね……」
戸惑うレイヤを気にせず、シルフィアはどんな飾り付けにしましょう、と思案しているのだが、それを見ていた面々は話す。
「よっぽど、朱波の時のが楽しかったみたいだね」
「結理。あんた他人事みたいな言い方してるけど、あのままだと私の時以上の規模になりかねないわよ?」
「ちょっ、姫様ー!」
朱波の言葉で焦ったのか、結理が慌ててシルフィアをこちらに戻そうとするのだが、そんな二人を見て苦笑いする面々。
「姫様ぁ!」
「はいはい、落ち着きなさーい」
「少し冷静になって」
とりあえず、このままぞんざいにシルフィアを扱い続けるのは駄目だと判断したのか、朱波と詩音が結理とシルフィアを離しに掛かる。
そんな四人を見て、危ないから、と注意する棗たちに対し、廉はそっと目を逸らした。
「廉? どうした?」
「いや、結理の誕生日って、年末が近いだろ?」
「まあ、そうだな」
「だから、あいつの誕生日が過ぎて、新年の用意をしていても、来年の年明けは家族で過ごせないんだな、と思ってな」
廉の様子に気づいた大翔が話を聞いてみれば、そう返される。
確かに、今の廉たちに元の世界へ帰還する方法はないし、もしあったとしても、元の世界の時間軸に届く保証はない。
「それは……」
大翔は思わずじゃれあう女性陣とどうすれば、と困惑したままの表情の棗とレイヤへと目を向ける。
彼女たちは、元の世界へと帰ることなく、この世界で新年を迎えることについて、どう思っているのだろうか。
特に、弟妹(たち)を心配していた結理の心情は。
「今、気にしても仕方ないんじゃないのか?」
今の大翔には、そう返すことしか出来なかった。
科学が魔法に変わっただけで、食事などは基本的に元の世界とは変わらないし、気になるほどの違いもそんなに無い。
「そうだな」
廉も一応は納得したかのように頷く。
家族の代わりに、仲間と過ごせると思えば十分なぐらいで、料理についても、結理や朱波がいるから、懐かしい味を口にしたくなったら、彼女たちに相談すれば、どうにかしてくれるはずだ。
まあ、頼りすぎなのもどうかと思うが。
(それでも……)
彼女たちに目を向ければ、視線に気づいたのか、結理が不思議そうな顔をして振り返る。
「何?」
「いや、何でもない」
廉の言葉に、少しばかり納得できなさそうな顔をしたかと思えば、「あっそう」と結理は返す。
「それで、結局どうなったんだ?」
「何でもないんじゃ無かったの?」
「質問を質問で答えてる上に揚げ足を取るな、って言いたいところだけど、さっきのとこれとは関係ないからな」
「ま、いいけどね。あと、姫様のことは諦めた」
何という、簡単な結論だろうか。
「というか、フィアが結理の扱いを心得たのか、理解し始めたのかは分からないけど、見事に弱点付いただけのことだけどね」
「朱波?」
「……」
二人の話を聞いていたのか、朱波があっさりと何があったのかを話せば、結理は不服そうな顔をし、廉は廉で思わず無言になる。
「……まあ、何だ。冬休みの予定の一部は、鷹森の誕生日パーティーでいいんだな?」
「間違ってないからいいよ。姫様がやる気満々だし」
大翔の確認に、結理は頷く。
「でも何で、あそこまでノリノリなんだろ?」
詩音の疑問は尤もだったのだが、それを聞いた面々は、シルフィアへと目を向ける。
(行ってみた方がいいのかな?)
シルフィアがノリノリな理由を知っていそうな面々を思い浮かべた結理は、一度そう思案するのだが。
(いや、止めておこう)
何となく、余計な情報まで与えそうな気がしたため、彼女たちに会うという案は無かったことにする。
「いいんじゃないのか? 楽しそうだし」
「だね」
彼女が楽しそうにしているのを見ていても、悪い気はしない。
「何だか、『姉のために頑張ろうとしている妹』を見てるみたい」
「私は誕生日がまだだから、姫様よりは下だとは思うけど、私たちの実年齢からすれば、誕生月の離れた兄姉妹だって言っても納得できそうだよね」
そうは言いながらも、結理の目には、シルフィアが実妹である結と少しばかり重なって見えてしまう。
「それでも、兄弟姉妹で行けば、結理の方が姉に見えるわよね」
「まあ、これでも長女だからね。でも、朱波は妹であり、姉でしょ?」
私も似たようなものだけど、と結理が付け加える。
前にも言ったと思うが、朱波は三人兄姉弟であり、ちょうど真ん中に位置しているのだが、結理と同じ『長女』という点は間違ってはいない。
さらに、兄もおり、弟もいるからこそ、どこかしっかりした性格になったのだろう。
「お前らの所は本当に仲良いよな」
「それは認める。下も幼馴染同士だし」
例えるなら、今の廉と結理のような関係だと言うべきだろうか。
「で、話は逸れまくったけど、私の誕生日パーティー以外の予定は?」
「ギルドに行くのと新年の用意。これでいいんじゃね?」
結理が改めて確認すれば、廉がそう纏める。
「となれば、残る問題はおせち料理とかの正月用品と料理かぁ」
「料理に関しては、王都で全部の材料が揃えばいいけど、海沿いのものは難しいかな?」
「もし無ければ……狩る?」
「そうなるかも」
必要となるであろう材料を思い浮かべながら、無い場合のことも頭に入れる。
「はいはい、材料とかの心配も後回し」
延々と続きそうなやり取りに、詩音がストップを掛ける。
「とりあえず、冬休みの予定についての話は、これで一旦終了。細かい所は後で調整。いいな?」
詩音が作った隙を見逃さずに、廉が強制終了するための確認をすれば、頷く面々。
どうやら全員、話が長引きそうな雰囲気であることは、理解していたらしい。
「じゃあ、解散」
廉がそう言えば、次の授業の用意をするために、すぐに自分の席に戻る面々だった。




