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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第三章:夏休み後半・学院編
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第六十話:朱波の誕生日


「もう期末試験か……」

「この前、中間をやったばっかなのにねぇ」


 冬へと近づくに連れて枯れつつある木々を見た廉が、しみじみと言えば、現実逃避するかのように、朱波が言う。


「そういえば、朱波の誕生日もそろそろだよね?」

「そうなのですか?」


 ふと思い出したように言う詩音に、シルフィアが面々に尋ねれば、廉が頷く。


「ああ。でも、順番的には結理が最後だよな」

「いろんな意味で私は嫌だけどね。いろんな意味で」


 いろんな意味で、を強調する結理に、事情を知る五人は苦笑する。


「詩音は過ぎちゃったし、先輩もこの前過ぎちゃったしね」

「レン様は?」

「俺? 俺は……いつだっけ?」


 面々の誕生日の日付を思い出しながら言う朱波に、シルフィアが廉に尋ねるのだが、肝心の廉は覚えているであろう女性陣に尋ねる。


「六月十一日。とっくに過ぎたじゃない」


 つか、自分の誕生日ぐらい覚えておけと、呆れた目を結理は向ける。


「ちなみに、皆さんは……」

「私は十月三十一日」

「私は七月七日」

「俺は五月二十五日」

「俺は九月三日」


 上から、朱波、詩音、大翔、棗である。


「ユーリ様はいつですか?」

「十二月二十四と二十五。正確には分からないけど、日を跨いだらしいから、二十五日」

「そうなんですか」


 聞かれたので結理が答えれば、なるほど、とシルフィアが返す。


「ちなみに、(うち)の家族のほとんどが日を跨ぐパターンらしい」


 というか、鷹森家で日を跨いでいないのは、弟である友愛(ゆあ)だけだったはず、と結理は家族の誕生日を思い出す。


「また面倒な」

「そうよ。しかも、今じゃ国民的行事とだだ被りだから、まとめて言われるのよ」


 素直に思ったことを告げる廉に同意しながらも、ふふふ、と黒い笑みを浮かべる結理。

 おそらく、結理の家ほど、誕生日が面倒くさいところは無いのではないのだろうか。


「国民的行事、ですか?」

「簡単に言えば、聖教祭みたいなものだよな。はっきりとは知らんが」

「十二月二十五日ーー私たちはクリスマスって呼んでるんだけど、その前日はクリスマス・イブとか聖夜とか言われてるのよ」


 シルフィアの疑問に、棗と朱波がそう説明する。


「朱波はハロウィンだもんね」

「しないわよ」


 結理が暗にハロウィンについて、示したことに気づいた朱波は拒否する。


「ハロウィンは魔女とかの様々な仮装をして、お菓子をねだるの。仮装はしないで、お菓子を貰ったことはあるけど、人や場所によってはそれもありで、基本的には夜が多い」

「そ、そうですか……」


 結理と朱波のやり取りを余所に、詩音がシルフィアにハロウィンについて説明する。


「詩音の誕生日である七月七日は七夕と言って、笹に願い事を書いた短冊やいろんな飾りをを飾ったりするの」

「まあ、星に願いを、って奴だな」


 ちなみに、織女星(織姫)と牽牛星(彦星)のことを話さないのは、たとえ変な知識を持つ結理といえど、元の世界のように星は見ても、名前があるかどうか分からないためだ。


「皆さんの故郷には、たくさんの行事があるんですね」


 シルフィアが『元の世界』ではなく、『故郷』と言ったのは、今いる場所が学院だからだろう。


「こっちにも、いろいろあるでしょ。生誕祭とか」

「確かにありますが、そちらほど無いとは思いますよ?」


 シルフィアはそう言うが、体育祭の競技も元の世界と似たようなものだったことから、この世界独特の行事はあれど、おそらく似たような行事がいくつかあるのではないのだろうか。


「ま、行事のことは横に置いておくとして、過ぎたメンバーの分も纏めてお祝いするから……朱波、リクエスト」


 何か要望や欲しいものとか言えという結理に、いきなり振られた朱波がぎょっとする。


「いきなりすぎるでしょ」

「でも、日にちや時間が少ないのも事実」


 朱波の言い分に、詩音が付け加える。


「とりあえず、朱波が主役である以上、料理に関してはお前に任せていいんだよな?」

「そうね。後は早めに料理を決めて、材料調達もしないと」


 確認を取る廉に、結理は引き受けながら、朱波の誕生日である三十一日までの計画を立てる。


「だから、部屋の確保と飾り付け、任せたからね」


 そして、プレゼントだけは各自で用意するように、と言う。


「そういうことだから、朱波はいつも通りでいいよ」

「思う存分目の前で話し合っておきながら、今更いつも通りでいいとか言われて、どうしろと?」


 基本的にいつもの面々と一緒にいるため、彼らが飾り付けなどで一緒にいられないとなれば、朱波自身、分かっているとはいえ、何もやることが無くなってしまうのだ。


「大丈夫。主に忙しいのは廉たちだし、何かあったら呼ぶし、そっちから呼んでくれても構わないから」

「おいこら、詩音。何勝手に決めてやがる」

「事実でしょ。料理以外は私たちの仕事」


 うぐ、と廉は黙り込む。


「というわけだから、当日まで楽しみにしといてちょうだいな」

「分かったわよ」


 息を吐いて、了承の意を示す朱波だが、でもね、と続ける。


「下手なもの、出してきたら許さないんだから」


 それに対し、面々が頷けば、その翌日から、それぞれ行動を始めた。


「こんな感じ、か?」

「そうですね……あ、あの辺をもう少し……」


 使用する部屋の確保から飾り付け。


「プレゼント、どうする?」

「あいつ、一応は精霊使いだからな」


 誕生日プレゼント探しに、


「よし、出来た」


 プレゼント製作。


「ん……とりあえず、こっちはOKとして……」


 誕生日パーティー用の料理作り。

 そんなこんなで日々は過ぎ、朱波の誕生日である十月三十一日となった。


「ハッピーバースデー、朱波」


 いつの間に用意していたのか、そう言いながらクラッカーの鳴らす面々に、朱波が驚きの表情を見せる。


「えっと、ありがとう?」


 確かに、目の前で話し合われていたからサプライズでもないし、下手なものを見せるなとは言ったがーー


「……また、いやに気合いの入ったバースデーケーキね」


 チョコレートプレートに書かれた字といい、その飾りといい、目に見えて気合いが入っているのが分かるぐらいである。


「いや、だって、チーム(うち)の料理担当に文句言われたくないじゃない」


 だからって、気合い入れ過ぎじゃない? と言いたげに、朱波が他の料理にも目を向ける。


「気持ちは分からなくはないけどさぁ……しかも、何でチョイスがホームシックを起こしてくれそうなものばかりなのよ」

「本当はハロウィン関係でかぼちゃ料理入れようかと思って、煮っ転がしにでもしようとしたけど、結局は止めたの。で、醤油や味噌があるじゃない? だから、思う存分活用させてもらいました」


 味付けとか大変だったんだよ、と言う結理を余所に、肉じゃがを口をする朱波。


「むぅ、美味しい……」

「そりゃあ、気合い入れましたから」


 どこか悔しそうな朱波に、ふふん、と結理は微笑む。


「朱波朱波」

「ん? 何?」


 詩音に呼ばれ、朱波が振り返る。


「はい、プレゼント」

「ありがとう。開けていい?」

「いいよ」


 詩音から許可を得て、手渡された長方形の箱を開けてみればーー


「これは……簪に短剣?」

「あと、これも」

「杖?」


 詩音が頷き、説明する。


「破邪の力を封じ込めてある。杖は精霊の力を底上げすることが出来るから」

「おおっ」


 説明を聞いた朱波が杖を掲げた後、軽く振ってみるのだが、それを見ながら、結理がこっそりと詩音に尋ねる。


「ねぇ、詩音。埋められた宝石が東雲(しののめ)色と緑色なのは、狙ってのこと?」

「あ、やっぱり気づいたんだ」


 朱波の名字である『東雲』と彼女の契約精霊であるシルフィードのイメージカラーとされている『緑』。

 簪はともかく、短剣と杖に()いては、持った際に邪魔にならない位置に埋められているのだが、色に関しては完全に狙ってのことである。


「何か、先に詩音が凄いものを渡しちゃったから、渡す前から私たちのプレゼントが薄れてる気がするんですけど」

「同意はしてやりたいが、お前が言っていい台詞ではない気がするんだが?」


 結理の言葉に、料理を手にしながら、廉が突っ込む。


「そっちには激しく同意だな」


 さて、本気で薄れる前に渡すか、と何気に失礼な言い方をしながら、棗と大翔が続けて朱波に渡しに行く。


「廉はいいの? 行かなくて」

「いや、行くけどさ。やっぱ、渡す順番考えた方が良かったんじゃねーの的なこと、思ってさ」

「今更よね、それ」


 でもまあ、と結理は言う。


「私の時にでも試してみる? 順番決めてのプレゼント渡し」

「一応は考えておくよ」


 了解、と言いながら、渡しに行こうとする結理の肩をすぐさま掴む廉。


「ちょっと、何のつもりの手なの。これは。離してよ」

「ふざけんな。お前が先に行ったら、俺のが無かったみたいに扱われかねないだろうが」


 ぎりぎりと、今にも言い合いをし始めそうな二人を余所に、シルフィアが朱波にプレゼントだと、長方形の箱を差し出す。


「もしかしたら、こういう場には不釣り合いなのかもしれないのですが……」


 どこか心配そうな、不安そうなシルフィアに、詩音の時と同じように許可を得て、箱を開けた朱波は目を見開いた。


「包丁セット一式です。料理をすると聞いていたので、その辺りのものが良いと判断しまして」

「うわぁ、こっちには無いと思ってた刺身包丁まである」


 感動。

 今の朱波の心情を表すのなら、この二文字だろう。


「え、何これ」

「思わぬ伏兵がいた上に、詩音の時よりも感動してない?」


 シルフィアからのプレゼントによる朱波の反応を見た二人が、一瞬固まる。


「もう、二人とも一緒に渡したら?」


 呆れた目で正論を告げる詩音に、うっ、と声を洩らす二人。


「とりあえず、渡すだけ渡すか」

「そうだね」


 とりあえず、さっさと渡すことにした二人は、朱波の方へと向かう。


「朱波さん、朱波さん。感動してるとこ悪いんだが、俺たちの分もあるから、先に受け取ってくれないか?」


 恐る恐ると声を掛ける廉に気づいたのか、朱波が振り向く。


「俺のがこれで……」

「私のがこっちね」


 それぞれプレゼントを渡すのだが、朱波が首を傾げる。


「廉は良いとして……結理。あんたのこの馬鹿デカさは何なの?」

「しょうがないよ。服だもん」


 顔を引きつらせながら朱波が尋ねれば、結理はそう返す。


「服って……」

「別に狙ったわけじゃないけど、多分、詩音の渡したプレゼントと組み合わせても大丈夫だと思うよ」


 どういうこと、と面々が目を向ける。


「詩音が渡したのは、精霊魔法の強化と破邪の力を付与した簪と短剣に杖。私が今渡したのは、服は服でも、同じように付与した服だから」


 付与したのは、対全属性。

 可能な範囲で付与したのだ。


「でも、何で服なんだ? お前なら他のものでもプレゼントに出来たはずだろ」


 確かに、結理なら服以外にも用意できたはずなのに、彼女が選んだのは服。


「まあね。元々、私と朱波、詩音の装備の新調と強化はするつもりだったし。で、朱波の誕生日が近いなぁ、ってなったから、朱波のだけ急ピッチで仕上げて、プレゼントとしたわけ」

「……なるほどね。で、新調したのが、これなのね」


 服を取り出して、そのデザインを見た朱波が言う。


「さっきも言ったけど、属性付与してあるから、詩音のプレゼントの妨げにもならないし、逆もまた然り」


 だが、他にもまだ疑問が残る。


「ですが、サイズはどうしたんですか? 測ったりしてませんでしたよね?」

「ん? そこは目測と今までの付き合いで判断」


 そう結理は言うが、実際は体育の授業などで着替えるときに、スタイルを覚えているため、実際に作ってみて、少しばかり大きすぎたとしても、意外とどうにかなったりしている。

 まあ、そんなことを本人たちに言うつもりはないし、そもそも三人とも背丈は似通っているので、胸の部分と丈などさえ気をつけてしまえば、問題は無くなる。


「つか、自分たちだけ新調とか」

「姫様の分ならともかく、何であんたたちの分までやらないといけないのよ」


 どこか微妙に羨ましそうな男性陣に、結理はそう返す。

 というか、やってもいいのだが、微妙に恥ずかしさもあるため、朱波たちのよりも完全に目測となる。


「ま、気が向いたら、やっておくから」


 もう準備がしてあるとは言わない。

 渡せるその時までのお楽しみだ。


「それじゃ、遅れたけど、ケーキ食べようか」

「その前に蝋燭(ろうそく)に火を付けて、吹き消さないと」

「年齢分、立てるか?」

「いや、穴だらけになるから、半分ぐらいでよくない?」


 ケーキを食べようと言った矢先に、蝋燭の火と本数をどうするのか、と話し合う面々。


「何本でもいいし、それを考慮してのデザインなんでしょ?」


 頭を抱えた朱波が、結理に目を向けながら言う。


「じゃあ、十八本で」

「おいこら、ふざけんな」


 年齢より一本多く差そうとする大翔に、朱波が止めるようにストップを掛ける。


「差すのなら、早くしなよ? 先輩が点火のスタンバイしてるんだから」

「いや、本数はちゃんとあるから大丈夫」

「お二人は危ないですから、離れましょうね」


 結理の台詞に、詩音とシルフィアが、蝋燭の本数の確認を終えたことと未だにじゃれあう二人を移動させる。


「それじゃ、点火するぞー」


 棗のその言葉とともに、蝋燭に火が付き、廉が部屋の明かりを消す。


「ったく」


 結局、十八本目の蝋燭を差さなかったことに、冗談だと気づいた朱波が火の付いた蝋燭に近づき、吹き消す。


「それでは、改めましてーー」


 ハッピーバースデー朱波、と明かりがついたのとほぼ同時に朱波に向かって、面々は告げた後、切り分けたケーキに口を付けるのだった。


「今日はありがとうね。でも次は、結理の番よ?」

「そうだね」


 話しかけてきた朱波に、苦笑する結理。


「大丈夫。きっと、向こうでも祝ってくれるから」

「…………うん」


 朱波の言葉に頷きながらも、結理は窓から空を見上げる。


「……そうだね。次は朱波に気合い入れて、料理を作ってもらわないとね」


 振り向いてそう言う結理に、少しばかり目を見開いた後に、呆れた目をする。


「それが目的?」

「誕生日パーティーでは、プレゼントだけじゃなく、料理も重要なんだけど?」

「否定はしないけどさぁ」


 他にもあったでしょ、と言いたげに言う朱波に、結理が微笑めば、そんな彼女たちを見ていた廉たちも笑みを浮かべるのだった。



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