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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第一章:異世界召喚、篠原廉編
6/87

第五話:学院へ

【前回のあらすじ】

ギルドに行きました




「学院?」


 (れん)は首を傾げる。


「うん。通ってもらおうと思って」

「何でまた」

「基本は教えたけど、やっぱり教育レベルは教えられないから、ってこと?」


 シルフィアが頷けば、廉は首を傾げ、朱波(あけは)は尋ねる。

 そんな三人にシルフィアは説明する。


「それもありますが……他の三人にも見つけ次第、学院に入ってもらうことになります」


 どういうこと、と首を傾げる三人だが、後の三人のことを思い出し、唸る。


「あの子たちの先輩って、違和感が……」

「確かにな。一人年上いるし」


 年上というのは、もちろん(なつめ)のことである。


「三人が後で入ってくるって事は、私たちの後輩になるって事だけど……」

「年上が後輩とか」


 思わず笑ってしまった。

 だが、六人は元々学生だ(うち一人は受験生だが)。


「それで、何でそんな話になったの」


 隣で紅茶や茶菓子を用意するメイドさんを見ながら、朱波が尋ねる。


「それがですね……」


 シルフィアは少しずつ話し始めた。

 廉たちがギルドに行った日、シルフィアは父親であり国王であるエフォートに呼ばれた。

 エフォート曰く、廉たちを学院に入れるから、そのサポートを頼みたいということだった。

 実力が付いてきたとはいえ、残りの三人の手がかりがない上に、見つかっていない。


「魔王復活がいつかは分からないが、どうせなら、彼らを同年代の者たちがいる学院に入れて、少しでもストレスなどを取り除いてやりたい、ということを陛下が決められたのです」

「学院、か……」


 廉は少し考える。

 自分たちは勇者であり、ギルドに所属する冒険者だ。

 別に今、旅をして、目覚めてもない魔王退治をすることもない。

 その横から、朱波が手を挙げる。


「はい、姫様」

「何ですか?」

「それ以外に、伝言みたいなものはありませんか?」


 シルフィアの返事を聞き、朱波は尋ねる。


「確かにありますが……聞きますか?」


 尋ねるシルフィアに朱波と詩音は頷く。

 廉は考え事をしているようで返事はなく、メイドさんはいつの間にかいなくなっていた。


「はい、それでは言わせてもらいますね」


 学院には七つの学科がある。

 廉たちを学院には入れるが、学科は好きな場所を選べ、ということだった。

 朱波と詩音(しおん)は互いの顔を見合わせる。


「それで、学院の特徴やらを纏めたものがあるので、目を通しておいてください」


 シルフィアに差し出され、三人はそれを受け取る。

 要するに学院に関するパンフレットだ。


「学科について、詳しいことも記載されていますので、そこにも目を通しておいてください」


 そう言われ、廉たちはシルフィアから渡されたパンフレットを開き、中を見た。


   ☆★☆   


 セントノース学院。


 ウェザリア王国、王都・クロニクルの一角にあり、貴族の子息令嬢から平民まで、知識さえあれば入学できるウェザリア王国が誇る学院。

 校舎は初等部、中等部、高等部、大学部、大学院と五つある。

 基本的には初等部からのエスカレーター式のため、内部生には外部生がすぐに分かるらしい。


 学部は全部で七つ。


 一般教養がメインの『普通科』。

 魔法も武術も一通り行う。

 王城などの勤務している文官はこの科出身が多い。

 全国的な大会の学生の部では、実力としては平均的であり、大穴扱いである。


 魔法がメインの『魔導科』。

 王城勤務の魔導師は大抵がこの科出身。

 騎士科所属の者と比べ、体力は少なめだが、頭脳派が多い。


 騎士育成を目的とした『騎士科』。

 騎士・兵士・傭兵・剣士など、騎士団所属の面々はこの科出身。

 なお、騎士科の選択科目で、戦術科目というのがあり、参謀などの作戦指揮官も、この科出身が多い。

 生徒間でのみ、作法科と仲が悪い。


 礼儀作法やマナーを学べる『作法科』。

 ほとんどの令嬢が所属。

 礼儀作法メインで、かなり厳しい。

 遅刻厳禁。

 生徒間でのみ、騎士科と仲が悪い。


 原材料から科学まで学べる『産業科』。

 農業、漁業、工業、林業など、産業メイン。

 教師はその道のプロたちばかりで、社会科見学のようなものをすることがある。

 最近は科学の発展もあり、ウェザリア王国などにある機械などは、この科所属の者による発明品。


 将来は商売人が目的の『商業科』。

 理数系が得意な面々が所属。

 商売のやり方から、ずる賢い方法まで、現役の様々な商売人たちが教師としてやってくる。


 医療専門の『医学科』。

 治療魔法の専門家たちが集う科。

 唯一、中等部から選択できる学科。

 騎士科の怪我した生徒が実験台……?


   ☆★☆   


 パンフレットを閉じる。

 一部の科の説明がアレだったが、言いたいことは理解できたので、無視しておく。

 所属している科の者たちのためにも。


「廉、どうする?」


 朱波が廉の方を見れば、詩音も目を向ける。


「ああ、そうだな……」


 だが、廉の反応は薄かった。

 朱波は溜め息を吐くが、詩音は廉の前に移動すると、手を軽く開く。

 何となく、やろうとしていることが分かった朱波は、パンフレットに目を向ける。

 静寂が場を制した頃。


 ぱちん。


 予想通り、詩音が廉の前で両手を叩いた。


「……」

「……」

「……」


 三人は無言になる。

 数秒して、詩音は立ち上がり、先程座っていた場所に戻る。


(え、何も無し?)


 朱波は二人を目で追う。

 廉も詩音も何も言わない。


(気まずっ……!)


 朱波は一人、内心でオロオロとしていた。


   ☆★☆   


「それで、逃げてきたわけですか」


 結論から言えば、朱波はシルフィアの部屋に避難した。

 あの場の空気に耐えられなかったのだ。

 現在、あの部屋には、考え事をしている廉と、元々口数の少ない詩音のみ。

 自室に招き入れたシルフィアは、朱波から話を聞いていた。

 パンフレットを渡した後、シルフィアは一度部屋に戻り、再度部屋を出た際、朱波と会ったのだ。


「フィアだって、あれは耐えられないよ」


 朱波は断言する。


「そう、ですか?」


 シルフィアは苦笑いする。

 朱波の断言する様子から、部屋の様子は思っていた以上に酷いらしい。


「あ、そうだ」


 シルフィアが何かに気づいたのか、立ち上がる。


「どうしたの?」


 朱波はシルフィアの行動に首を傾げる。


「アケハ様、入りたい科はお決まりになりましたか?」


 シルフィアの質問に、朱波は首を横に振る。


「まだ。でも、喚ばれる前も学生だったから、そんなに違和感は無いんだけどね」

「そうだったんですか?」


 朱波の言葉に、今度はシルフィアが首を傾げる。


「うん。その時は、みんな普通科だったし」


 朱波は思い出すかのように言う。

 召喚される前、面々は進級したばかりで、入学式や始業式を終えた後だった。

 そうだったんですか、とシルフィアが返そうとすれば、ドアがノックされる。

 シルフィアが立ち上がり、ドアの所に行く。


「どちら様ですか?」


 シルフィアが尋ね、相手は名乗ったのか、次第に戻ってきた彼女の苦笑いとともに、ドアをノックした来訪者の声が聞こえてくる。


「朱波、いるの?」


 どうやら、来たのは詩音らしい。


「詩音も来たんだ」

「まあね」


 うん、と頷く詩音に、シルフィアは笑顔を浮かべる。


「シオン様は、お決まりになりましたか?」


 シルフィアの問いに、詩音は首を傾げる。


「それより、聞きたいことがあるんだけど」

「……? 聞きたいこと、ですか?」


 詩音はこくり、と頷く。


「そう。フィアは学院の何科に所属しているのか」

「そうですね。私は普通科の所属です」


 シルフィアの答えに詩音は首を傾げる。


「所属です(・・)……?」


 朱波が首を傾げる。


「あ……」


 しまった、と言いたげにシルフィアは口を両手で覆う。


「在学生だったんだね」

「その……はい」


 シルフィアは俯くように頷いた。


「じゃあ、私たちの先輩かぁ」


 朱波がしみじみと言う。


「あ、いえ。私はアケハ様たちと同じクラスの予定……いえ、私の居るクラスにアケハ様たちが入ることになってます」

「普通科なら、だよね」


 シルフィアが身振り手振りで説明する。

 落ち着け、という意味も込めて、詩音が言えば、シルフィアの動きが止まる。


「あ、はい」

「なら、大丈夫」


 朱波は窓に近づき、空を見上げる。

 そして、窓を開ければ、風が入る。


「私たち三人とも、普通科所属になるから」

「え……」

「廉も多分、そのつもり」


 二人の言葉に、シルフィアは固まる。


「他の科に行って、フィアの仕事を増やすのは申し訳ないし」

「あ、あの、私は別に……」

「まあ、私たちも気にするんだけど……私たち六人の中でね、特にそういうのを気にするのがいるの」


 本当に申し訳無さそうに言う朱波に、シルフィアは気にするな、というが、再度出た朱波の言葉に、彼女の説得は止まり出す。


「え、まさか……」


 まだ見ぬ彼女たちの友人が無視しないのではないのか、と朱波たちは言う。

 廉たち三人は、結理たち三人を捜すために、『勇者』という仕事を引き受けた。

 そして、今も朱波たちはシルフィアの苦労を減らすために、普通科所属を選んだ。


「そのまさか。でもね、理由は違う」

「違う……?」

「そう。私たちが普通科を選んだのは、フィアと一緒に居るため」


 シルフィアは再度固まる。

 名前は当てた。

 でも、理由が違う。

 その理由を聞いて、シルフィアは驚いた。


「え……」

「それに、一緒にいれば、少しでもフィアの負担も減らせる」


 詩音が笑顔で言う。

 同じクラスでシルフィアの負担も減る。

 一石二鳥だ。


「これは、私たちの意思」

「せっかく、異世界(こっち)で出来た友達だもん。失いたくないじゃない」


 詩音と朱波はそう言えば、シルフィアの紺色の瞳が見開かれる。


「ほら、フィア立って」

「え? え?」


 座っていたシルフィアは、詩音に立たせられる。

 窓を閉めた朱波は、そんな二人を笑顔で見る。


「さ、廉に報告しないとね!」


 シルフィアの背を押し、朱波と詩音は廉の部屋に直行した。


   ☆★☆   


「ほー」

「……」


 廉の部屋に戻ってきた三人だが、反応の薄い廉に、朱波は無表情で彼を見る。


「チッ」

「ずっと思ってたけど、タイミング悪かったね。シリアスゾーンだ」


 朱波は舌打ちし、詩音が言う。


「シリアスゾーン……?」

「何か考えてるみたいで、何も考えていない。シリアスな空気を放つ。それが、シリアスゾーン」


 首を傾げるシルフィアに、詩音が説明する。


「トラブルメーカーのくせに、トラブルが起きてないからね。その反動で起きたのかな」

「トラブルの大本は結理だ。俺じゃない」


 考える詩音に、廉は関係ない、と言う。


「うわぁ、よく言うわよ。結理がいたら、ハリセン何発食らってると思ってるのよ」


 それを聞き、廉は朱波たちに目を向ける。

 それに対し、朱波も廉を見るが、詩音に声を掛けられる。


「朱波、少し手伝って」

「分かった」

「え、何するんですか?」


 詩音に言われ、朱波は頷く。

 訳が分からないシルフィアは一人、オロオロとする。


「元に戻すのよ」


 まあ、任せなさい、と朱波は言い、詩音は頷く。


   ☆★☆   


 数分後。


「申し訳ありませんでした」


 目の前には土下座をする廉。

 その真ん前で仁王立ちしてるのは朱波である。

 ちなみに、詩音は廉を元に戻したので、その後片付けで不在だ。


「それにしても、驚きでした。レン様もアケハ様もシオン様も、皆さん凄かったです」


 本当に凄かったのか、シルフィアは目を輝かせている。


「フィア、頼むから忘れてくれ。いや、忘れてください」


 頭を下げる廉に、シルフィアは苦笑いする。


「本当に残念だったわねぇ。結理がいなくて」

「だから、悪かったって!」


 嫌みっぽく言う朱波に、廉も叫ぶように言う。


「でも、まだ私たちで対処できたから良かった」


 部屋に戻ってきた詩音が言う。


「今まではどうしていたんですか?」

「今までは無理やりだったり、力業の時もあった。後は廉の両親にお願いしたりした時もあった」


 尋ねるシルフィアに、詩音が答える。


「そうだったんですか」

「あ、ちなみに、さっきのは前者。やや無理やりよりの力業」


 シルフィアが納得したかのように頷けば、詩音が人差し指を立てて説明する。


「フィア、あっさり納得しないでくれ。あー、それで、学科だったか。俺も普通科でいいぞ」

「ね」


 目を見開くシルフィアに、二人は言った通りでしょ、と彼女を見る。

 そんな二人に、シルフィアは


(全く、まだまだ適わないなぁ)


 と思いながら、笑みを浮かべる。


「それでは、私は陛下に報告しに行ってきますね」


 シルフィアは慌ただしく部屋を出て行き、慌てて戻ってきた。


「あ、もしかしたら、この後に学院を見学する事になるかもしれないので……それだけ先に伝えておきます」


 そう言うと、シルフィアは行ってしまった。


   ☆★☆   


 翌日。

 セントノース学院・応接室。


 あの後、シルフィアの言う通り、すぐさま学院を見学する事になった。

 そして、何故か入学試験を受けることが伝えられ、シルフィア曰く、この世界の常識が試験内容らしく、彼女を教師に、歴史や地理、金銭や職業など、念のため、一通り復習(という名の確認)はした。

 ただ出発前に、エフォートから勉強に集中しろと言われた。

 それに対し、三人が今日は見学と入学試験だけなんだけど、と内心ツッコんだのは秘密だが、エフォートにしてみれば、勉強=試験なのだろう。


 さて、セントノース学院の応接室にいる三人は、一人の少女と対面していた。


「セントノース学院高等部の生徒会長にして、今回の案内役であるミレーユ・リントです」


 ミレーユと名乗る青髪金眼の少女。


「レン・シノハラです」

「私はアケハ・シノノメです」

「私はシオン・カサガネ」


 廉たちもそれぞれ自己紹介する。


「よろしく。では、行きましょうか」


 ミレーユに先導され、三人は彼女について行く。


「すみません。わざわざ休日に」

「いえ、構いません。反対に私としては、ありがたかったぐらいです」


 廊下を歩きながら謝る廉に、ミレーユは気にするなという。


 セントノース学院。

 ウェザリア王城と同様、白亜の壁が特徴の学院で、基本的には、シルフィアの渡したパンフレット通りの内容である。

 七学科の各校舎を回る。

 各校舎を見れば、その科の特徴がよく分かる。

 騎士科なら演習場、産業科なら理科室のような専用の実験室、医学科なら、薬品倉庫や治療部屋がある。


「さ、着きましたよ」


 ミレーユは足を止め、三人は目を見開く。


「凄い……」


 ウェザリア王城を初めて見たときと同じ反応をする。


「普通科は学院で一番所属人数の多い学科です」


 そのため、普通科の校舎は他の科より大きく、唯一、初等部からぶっ通しで一つの校舎を使っていた。


「普通科校舎内での魔法の発動や、剣などの抜刀は禁止されています。魔法の発動が許可されているのは魔導科内、抜刀が許可されているのは騎士科内のみです」

「普通科校舎内で発動や抜刀が禁止なら、授業とかはどうなるんですか?」

「いい質問です。授業中は担当教師の許可が必要です」


 廉の問いに、ミレーユは答える。

 普通科校舎内には魔法の暴発対策はしてある。

 だが、あくまで対策であり、魔法を発動していいわけではない。

 そのため、魔法が必要となる授業の際、発動できないのでは支障が出るため、担当教師の指示で魔法が使用できる仕組みになっていた。


「時折、魔法の授業では魔導科と、剣なら騎士科と模擬戦が行われることもあります」


 そして、どちらも専門なのに、普通科に負けた者は補習が行われるらしい。


「ご愁傷様」


 朱波が呟く。

 廉だけでなく、結理たちが入ってきて、この六人と当たれば、明らかに補習者は出る。

 あくまで予想だが、絶対予想通りの結果を出すのが、自分たちの友人だ。

 隣で詩音が苦笑いしている。

 その後、面々は講堂や運動場、併設された各寮などに案内された。


「さて、案内はここまで」


 三人はある教室に通される。

 中には、女性が一人いた。


「ただいまより、入学試験を行います。不正行為が見つかれば、その者は失格となり、入学資格と試験を受ける資格が無くなりますから、注意してください」


 立ち上がり、そう告げた女性に、三人は互いの顔を見合わせる。

 どうやら、女性は試験官らしい。


「よろしくお願いします」


 三人で頭を下げれば、女性は頷き、席に着くように促す。


「それでは、これより『セントノース学院高等部・普通科入学試験』を始めます」


 女性の言葉に三人は息を整え、試験を開始した。


   ☆★☆   


 数分後、試験は終了した。


「どうだった?」


 三人を出迎えたミレーユが尋ねる。

 顔を見合わせた三人は言う。


「どうと言われましても……」


 説明が難しい。


「あ、無理に説明しなくてもいいですから」


 悩む三人に、ミレーユが慌てて言う。


「結果は来週中に出ます。それまでお待ちください」

「分かりました」


 女性の言葉に、三人は頷いた。


「さて、この後、どうしよっか」


 ミレーユが唸る。

 校舎も寮も見てしまったし、試験も終わった。運動場なども見てしまったから、やることがない。


「あ、あの」


 朱波が恐る恐る手を挙げる。


「何かしら?」

「屋上って、出られないんですか?」

「ああ……」


 そうねぇ、とミレーユは思案する。


「ダメじゃないけど、多分、風が強いわよ?」

「大丈夫です」


 心配そうなミレーユに、朱波はそう返す。


「そう言うなら、いいけど……危険だと判断したら、すぐに中に入ること」


 分かった? と、ミレーユが言う。


「もちろんです」

「じゃあ、行きましょうか」


 面々はそのまま、屋上に移動した。


   ☆★☆   


「わあっ」

「おお」

「……凄い」


 眼下に広がる景色に、三人は驚いた。

 そして、やはり大きいからだろうか。それなりに離れているはずの王城の白亜の壁が見える。


「どう? 凄いでしょ」


 元々、この人はここに連れてくるつもりだったのではないのか、と廉は思う。

 もし、違っていたとしても、朱波が言わなかったら、こんな景色は見られなかっただろう。


(王様たちにも、後でちゃんとお礼を言わないとな)


 そう思い、ミレーユに「そろそろ中に入るわよ」と言われ、三人が中に戻ろうとしたときだった。


「ミレーユさん。あれは何ですか?」

「え、どれ?」


 ふと気づいた廉がある一点を指す。

 そこには、温室のような、東屋のような建物があり、尋ねられたミレーユがそちらに目を向け、それを認めた彼女は頷き、説明する。


「ああ、あそこはサロンね。基本的に許可がないと出入りできないの」

「許可、ですか?」


 誰か貴族の令息令嬢の、ということだろうか。


「許可って言っても、先生たちの、だけどね。まあ、みんな屋上(こっち)よりも、近い方に行っちゃうし、そもそも来るまでが大変なこの場所まで来たがらないし」

「何か……勿体無い気もしますね」


 それでも、こうなるのは仕方ないのよ、とミレーユは言う。


「一応、清掃してくれている人も居るみたいなんだけど……こうして改めて見てみると、何だか申し訳なくなります」

「……このまま使われなかったら、取り壊されちゃうのかな」


 この学院に来たときと、もしかしたら来るかもしれない『壊される日』にしか日の目を見られないとは、何とも悲しいものである。

 今現在、この学院に通う者たちの中で、何人がこの場所について知っているのだろうかーーいや、そもそも知っている人が一人でも居るのだろうか?


「……入学でき次第、俺たちが使うか?」

「気持ちは分かるけど、許可が居るんだよ?」


 先程ミレーユが言っていたことを思い出し、廉は俯く。


「まあ、私たちが見ただけでも、さ」


 とにかく今は、と朱波が廉の肩に手を置く。

 だが、現在進行形で不在の三人なら何て言って、どう行動しただろうか。


 ーーそもそも、初めて見たはずの建物に、悲しみを覚えているのは何でなのだろうか?


 はっきりとはしなくとも、何となく故郷を感じたからだろうか。


「そう、だな」


 この温室のこともそうだが、何よりも、あの三人を見つけることと、この学院に入学することが先である。

 そう思っていれば、ミレーユに「じゃあ、今度こそ戻ろうか」と言われたため、三人は彼女とともに今度こそ校内へと戻ることとなる。

 その後、ミレーユにも、ありがとうございました、と頭を下げた三人は、特にトラブルに巻き込まれることもなく、城に帰ったのだった。


読了、ありがとうございます


誤字脱字報告、お願いします



というわけで、出てきたのは学院でした


試験結果はどう出るんでしょうか?



それでは、また次回



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