第五話:学院へ
【前回のあらすじ】
ギルドに行きました
「学院?」
廉は首を傾げる。
「うん。通ってもらおうと思って」
「何でまた」
「基本は教えたけど、やっぱり教育レベルは教えられないから、ってこと?」
シルフィアが頷けば、廉は首を傾げ、朱波は尋ねる。
そんな三人にシルフィアは説明する。
「それもありますが……他の三人にも見つけ次第、学院に入ってもらうことになります」
どういうこと、と首を傾げる三人だが、後の三人のことを思い出し、唸る。
「あの子たちの先輩って、違和感が……」
「確かにな。一人年上いるし」
年上というのは、もちろん棗のことである。
「三人が後で入ってくるって事は、私たちの後輩になるって事だけど……」
「年上が後輩とか」
思わず笑ってしまった。
だが、六人は元々学生だ(うち一人は受験生だが)。
「それで、何でそんな話になったの」
隣で紅茶や茶菓子を用意するメイドさんを見ながら、朱波が尋ねる。
「それがですね……」
シルフィアは少しずつ話し始めた。
廉たちがギルドに行った日、シルフィアは父親であり国王であるエフォートに呼ばれた。
エフォート曰く、廉たちを学院に入れるから、そのサポートを頼みたいということだった。
実力が付いてきたとはいえ、残りの三人の手がかりがない上に、見つかっていない。
「魔王復活がいつかは分からないが、どうせなら、彼らを同年代の者たちがいる学院に入れて、少しでもストレスなどを取り除いてやりたい、ということを陛下が決められたのです」
「学院、か……」
廉は少し考える。
自分たちは勇者であり、ギルドに所属する冒険者だ。
別に今、旅をして、目覚めてもない魔王退治をすることもない。
その横から、朱波が手を挙げる。
「はい、姫様」
「何ですか?」
「それ以外に、伝言みたいなものはありませんか?」
シルフィアの返事を聞き、朱波は尋ねる。
「確かにありますが……聞きますか?」
尋ねるシルフィアに朱波と詩音は頷く。
廉は考え事をしているようで返事はなく、メイドさんはいつの間にかいなくなっていた。
「はい、それでは言わせてもらいますね」
学院には七つの学科がある。
廉たちを学院には入れるが、学科は好きな場所を選べ、ということだった。
朱波と詩音は互いの顔を見合わせる。
「それで、学院の特徴やらを纏めたものがあるので、目を通しておいてください」
シルフィアに差し出され、三人はそれを受け取る。
要するに学院に関するパンフレットだ。
「学科について、詳しいことも記載されていますので、そこにも目を通しておいてください」
そう言われ、廉たちはシルフィアから渡されたパンフレットを開き、中を見た。
☆★☆
セントノース学院。
ウェザリア王国、王都・クロニクルの一角にあり、貴族の子息令嬢から平民まで、知識さえあれば入学できるウェザリア王国が誇る学院。
校舎は初等部、中等部、高等部、大学部、大学院と五つある。
基本的には初等部からのエスカレーター式のため、内部生には外部生がすぐに分かるらしい。
学部は全部で七つ。
一般教養がメインの『普通科』。
魔法も武術も一通り行う。
王城などの勤務している文官はこの科出身が多い。
全国的な大会の学生の部では、実力としては平均的であり、大穴扱いである。
魔法がメインの『魔導科』。
王城勤務の魔導師は大抵がこの科出身。
騎士科所属の者と比べ、体力は少なめだが、頭脳派が多い。
騎士育成を目的とした『騎士科』。
騎士・兵士・傭兵・剣士など、騎士団所属の面々はこの科出身。
なお、騎士科の選択科目で、戦術科目というのがあり、参謀などの作戦指揮官も、この科出身が多い。
生徒間でのみ、作法科と仲が悪い。
礼儀作法やマナーを学べる『作法科』。
ほとんどの令嬢が所属。
礼儀作法メインで、かなり厳しい。
遅刻厳禁。
生徒間でのみ、騎士科と仲が悪い。
原材料から科学まで学べる『産業科』。
農業、漁業、工業、林業など、産業メイン。
教師はその道のプロたちばかりで、社会科見学のようなものをすることがある。
最近は科学の発展もあり、ウェザリア王国などにある機械などは、この科所属の者による発明品。
将来は商売人が目的の『商業科』。
理数系が得意な面々が所属。
商売のやり方から、ずる賢い方法まで、現役の様々な商売人たちが教師としてやってくる。
医療専門の『医学科』。
治療魔法の専門家たちが集う科。
唯一、中等部から選択できる学科。
騎士科の怪我した生徒が実験台……?
☆★☆
パンフレットを閉じる。
一部の科の説明がアレだったが、言いたいことは理解できたので、無視しておく。
所属している科の者たちのためにも。
「廉、どうする?」
朱波が廉の方を見れば、詩音も目を向ける。
「ああ、そうだな……」
だが、廉の反応は薄かった。
朱波は溜め息を吐くが、詩音は廉の前に移動すると、手を軽く開く。
何となく、やろうとしていることが分かった朱波は、パンフレットに目を向ける。
静寂が場を制した頃。
ぱちん。
予想通り、詩音が廉の前で両手を叩いた。
「……」
「……」
「……」
三人は無言になる。
数秒して、詩音は立ち上がり、先程座っていた場所に戻る。
(え、何も無し?)
朱波は二人を目で追う。
廉も詩音も何も言わない。
(気まずっ……!)
朱波は一人、内心でオロオロとしていた。
☆★☆
「それで、逃げてきたわけですか」
結論から言えば、朱波はシルフィアの部屋に避難した。
あの場の空気に耐えられなかったのだ。
現在、あの部屋には、考え事をしている廉と、元々口数の少ない詩音のみ。
自室に招き入れたシルフィアは、朱波から話を聞いていた。
パンフレットを渡した後、シルフィアは一度部屋に戻り、再度部屋を出た際、朱波と会ったのだ。
「フィアだって、あれは耐えられないよ」
朱波は断言する。
「そう、ですか?」
シルフィアは苦笑いする。
朱波の断言する様子から、部屋の様子は思っていた以上に酷いらしい。
「あ、そうだ」
シルフィアが何かに気づいたのか、立ち上がる。
「どうしたの?」
朱波はシルフィアの行動に首を傾げる。
「アケハ様、入りたい科はお決まりになりましたか?」
シルフィアの質問に、朱波は首を横に振る。
「まだ。でも、喚ばれる前も学生だったから、そんなに違和感は無いんだけどね」
「そうだったんですか?」
朱波の言葉に、今度はシルフィアが首を傾げる。
「うん。その時は、みんな普通科だったし」
朱波は思い出すかのように言う。
召喚される前、面々は進級したばかりで、入学式や始業式を終えた後だった。
そうだったんですか、とシルフィアが返そうとすれば、ドアがノックされる。
シルフィアが立ち上がり、ドアの所に行く。
「どちら様ですか?」
シルフィアが尋ね、相手は名乗ったのか、次第に戻ってきた彼女の苦笑いとともに、ドアをノックした来訪者の声が聞こえてくる。
「朱波、いるの?」
どうやら、来たのは詩音らしい。
「詩音も来たんだ」
「まあね」
うん、と頷く詩音に、シルフィアは笑顔を浮かべる。
「シオン様は、お決まりになりましたか?」
シルフィアの問いに、詩音は首を傾げる。
「それより、聞きたいことがあるんだけど」
「……? 聞きたいこと、ですか?」
詩音はこくり、と頷く。
「そう。フィアは学院の何科に所属しているのか」
「そうですね。私は普通科の所属です」
シルフィアの答えに詩音は首を傾げる。
「所属です……?」
朱波が首を傾げる。
「あ……」
しまった、と言いたげにシルフィアは口を両手で覆う。
「在学生だったんだね」
「その……はい」
シルフィアは俯くように頷いた。
「じゃあ、私たちの先輩かぁ」
朱波がしみじみと言う。
「あ、いえ。私はアケハ様たちと同じクラスの予定……いえ、私の居るクラスにアケハ様たちが入ることになってます」
「普通科なら、だよね」
シルフィアが身振り手振りで説明する。
落ち着け、という意味も込めて、詩音が言えば、シルフィアの動きが止まる。
「あ、はい」
「なら、大丈夫」
朱波は窓に近づき、空を見上げる。
そして、窓を開ければ、風が入る。
「私たち三人とも、普通科所属になるから」
「え……」
「廉も多分、そのつもり」
二人の言葉に、シルフィアは固まる。
「他の科に行って、フィアの仕事を増やすのは申し訳ないし」
「あ、あの、私は別に……」
「まあ、私たちも気にするんだけど……私たち六人の中でね、特にそういうのを気にするのがいるの」
本当に申し訳無さそうに言う朱波に、シルフィアは気にするな、というが、再度出た朱波の言葉に、彼女の説得は止まり出す。
「え、まさか……」
まだ見ぬ彼女たちの友人が無視しないのではないのか、と朱波たちは言う。
廉たち三人は、結理たち三人を捜すために、『勇者』という仕事を引き受けた。
そして、今も朱波たちはシルフィアの苦労を減らすために、普通科所属を選んだ。
「そのまさか。でもね、理由は違う」
「違う……?」
「そう。私たちが普通科を選んだのは、フィアと一緒に居るため」
シルフィアは再度固まる。
名前は当てた。
でも、理由が違う。
その理由を聞いて、シルフィアは驚いた。
「え……」
「それに、一緒にいれば、少しでもフィアの負担も減らせる」
詩音が笑顔で言う。
同じクラスでシルフィアの負担も減る。
一石二鳥だ。
「これは、私たちの意思」
「せっかく、異世界で出来た友達だもん。失いたくないじゃない」
詩音と朱波はそう言えば、シルフィアの紺色の瞳が見開かれる。
「ほら、フィア立って」
「え? え?」
座っていたシルフィアは、詩音に立たせられる。
窓を閉めた朱波は、そんな二人を笑顔で見る。
「さ、廉に報告しないとね!」
シルフィアの背を押し、朱波と詩音は廉の部屋に直行した。
☆★☆
「ほー」
「……」
廉の部屋に戻ってきた三人だが、反応の薄い廉に、朱波は無表情で彼を見る。
「チッ」
「ずっと思ってたけど、タイミング悪かったね。シリアスゾーンだ」
朱波は舌打ちし、詩音が言う。
「シリアスゾーン……?」
「何か考えてるみたいで、何も考えていない。シリアスな空気を放つ。それが、シリアスゾーン」
首を傾げるシルフィアに、詩音が説明する。
「トラブルメーカーのくせに、トラブルが起きてないからね。その反動で起きたのかな」
「トラブルの大本は結理だ。俺じゃない」
考える詩音に、廉は関係ない、と言う。
「うわぁ、よく言うわよ。結理がいたら、ハリセン何発食らってると思ってるのよ」
それを聞き、廉は朱波たちに目を向ける。
それに対し、朱波も廉を見るが、詩音に声を掛けられる。
「朱波、少し手伝って」
「分かった」
「え、何するんですか?」
詩音に言われ、朱波は頷く。
訳が分からないシルフィアは一人、オロオロとする。
「元に戻すのよ」
まあ、任せなさい、と朱波は言い、詩音は頷く。
☆★☆
数分後。
「申し訳ありませんでした」
目の前には土下座をする廉。
その真ん前で仁王立ちしてるのは朱波である。
ちなみに、詩音は廉を元に戻したので、その後片付けで不在だ。
「それにしても、驚きでした。レン様もアケハ様もシオン様も、皆さん凄かったです」
本当に凄かったのか、シルフィアは目を輝かせている。
「フィア、頼むから忘れてくれ。いや、忘れてください」
頭を下げる廉に、シルフィアは苦笑いする。
「本当に残念だったわねぇ。結理がいなくて」
「だから、悪かったって!」
嫌みっぽく言う朱波に、廉も叫ぶように言う。
「でも、まだ私たちで対処できたから良かった」
部屋に戻ってきた詩音が言う。
「今まではどうしていたんですか?」
「今までは無理やりだったり、力業の時もあった。後は廉の両親にお願いしたりした時もあった」
尋ねるシルフィアに、詩音が答える。
「そうだったんですか」
「あ、ちなみに、さっきのは前者。やや無理やりよりの力業」
シルフィアが納得したかのように頷けば、詩音が人差し指を立てて説明する。
「フィア、あっさり納得しないでくれ。あー、それで、学科だったか。俺も普通科でいいぞ」
「ね」
目を見開くシルフィアに、二人は言った通りでしょ、と彼女を見る。
そんな二人に、シルフィアは
(全く、まだまだ適わないなぁ)
と思いながら、笑みを浮かべる。
「それでは、私は陛下に報告しに行ってきますね」
シルフィアは慌ただしく部屋を出て行き、慌てて戻ってきた。
「あ、もしかしたら、この後に学院を見学する事になるかもしれないので……それだけ先に伝えておきます」
そう言うと、シルフィアは行ってしまった。
☆★☆
翌日。
セントノース学院・応接室。
あの後、シルフィアの言う通り、すぐさま学院を見学する事になった。
そして、何故か入学試験を受けることが伝えられ、シルフィア曰く、この世界の常識が試験内容らしく、彼女を教師に、歴史や地理、金銭や職業など、念のため、一通り復習(という名の確認)はした。
ただ出発前に、エフォートから勉強に集中しろと言われた。
それに対し、三人が今日は見学と入学試験だけなんだけど、と内心ツッコんだのは秘密だが、エフォートにしてみれば、勉強=試験なのだろう。
さて、セントノース学院の応接室にいる三人は、一人の少女と対面していた。
「セントノース学院高等部の生徒会長にして、今回の案内役であるミレーユ・リントです」
ミレーユと名乗る青髪金眼の少女。
「レン・シノハラです」
「私はアケハ・シノノメです」
「私はシオン・カサガネ」
廉たちもそれぞれ自己紹介する。
「よろしく。では、行きましょうか」
ミレーユに先導され、三人は彼女について行く。
「すみません。わざわざ休日に」
「いえ、構いません。反対に私としては、ありがたかったぐらいです」
廊下を歩きながら謝る廉に、ミレーユは気にするなという。
セントノース学院。
ウェザリア王城と同様、白亜の壁が特徴の学院で、基本的には、シルフィアの渡したパンフレット通りの内容である。
七学科の各校舎を回る。
各校舎を見れば、その科の特徴がよく分かる。
騎士科なら演習場、産業科なら理科室のような専用の実験室、医学科なら、薬品倉庫や治療部屋がある。
「さ、着きましたよ」
ミレーユは足を止め、三人は目を見開く。
「凄い……」
ウェザリア王城を初めて見たときと同じ反応をする。
「普通科は学院で一番所属人数の多い学科です」
そのため、普通科の校舎は他の科より大きく、唯一、初等部からぶっ通しで一つの校舎を使っていた。
「普通科校舎内での魔法の発動や、剣などの抜刀は禁止されています。魔法の発動が許可されているのは魔導科内、抜刀が許可されているのは騎士科内のみです」
「普通科校舎内で発動や抜刀が禁止なら、授業とかはどうなるんですか?」
「いい質問です。授業中は担当教師の許可が必要です」
廉の問いに、ミレーユは答える。
普通科校舎内には魔法の暴発対策はしてある。
だが、あくまで対策であり、魔法を発動していいわけではない。
そのため、魔法が必要となる授業の際、発動できないのでは支障が出るため、担当教師の指示で魔法が使用できる仕組みになっていた。
「時折、魔法の授業では魔導科と、剣なら騎士科と模擬戦が行われることもあります」
そして、どちらも専門なのに、普通科に負けた者は補習が行われるらしい。
「ご愁傷様」
朱波が呟く。
廉だけでなく、結理たちが入ってきて、この六人と当たれば、明らかに補習者は出る。
あくまで予想だが、絶対予想通りの結果を出すのが、自分たちの友人だ。
隣で詩音が苦笑いしている。
その後、面々は講堂や運動場、併設された各寮などに案内された。
「さて、案内はここまで」
三人はある教室に通される。
中には、女性が一人いた。
「ただいまより、入学試験を行います。不正行為が見つかれば、その者は失格となり、入学資格と試験を受ける資格が無くなりますから、注意してください」
立ち上がり、そう告げた女性に、三人は互いの顔を見合わせる。
どうやら、女性は試験官らしい。
「よろしくお願いします」
三人で頭を下げれば、女性は頷き、席に着くように促す。
「それでは、これより『セントノース学院高等部・普通科入学試験』を始めます」
女性の言葉に三人は息を整え、試験を開始した。
☆★☆
数分後、試験は終了した。
「どうだった?」
三人を出迎えたミレーユが尋ねる。
顔を見合わせた三人は言う。
「どうと言われましても……」
説明が難しい。
「あ、無理に説明しなくてもいいですから」
悩む三人に、ミレーユが慌てて言う。
「結果は来週中に出ます。それまでお待ちください」
「分かりました」
女性の言葉に、三人は頷いた。
「さて、この後、どうしよっか」
ミレーユが唸る。
校舎も寮も見てしまったし、試験も終わった。運動場なども見てしまったから、やることがない。
「あ、あの」
朱波が恐る恐る手を挙げる。
「何かしら?」
「屋上って、出られないんですか?」
「ああ……」
そうねぇ、とミレーユは思案する。
「ダメじゃないけど、多分、風が強いわよ?」
「大丈夫です」
心配そうなミレーユに、朱波はそう返す。
「そう言うなら、いいけど……危険だと判断したら、すぐに中に入ること」
分かった? と、ミレーユが言う。
「もちろんです」
「じゃあ、行きましょうか」
面々はそのまま、屋上に移動した。
☆★☆
「わあっ」
「おお」
「……凄い」
眼下に広がる景色に、三人は驚いた。
そして、やはり大きいからだろうか。それなりに離れているはずの王城の白亜の壁が見える。
「どう? 凄いでしょ」
元々、この人はここに連れてくるつもりだったのではないのか、と廉は思う。
もし、違っていたとしても、朱波が言わなかったら、こんな景色は見られなかっただろう。
(王様たちにも、後でちゃんとお礼を言わないとな)
そう思い、ミレーユに「そろそろ中に入るわよ」と言われ、三人が中に戻ろうとしたときだった。
「ミレーユさん。あれは何ですか?」
「え、どれ?」
ふと気づいた廉がある一点を指す。
そこには、温室のような、東屋のような建物があり、尋ねられたミレーユがそちらに目を向け、それを認めた彼女は頷き、説明する。
「ああ、あそこはサロンね。基本的に許可がないと出入りできないの」
「許可、ですか?」
誰か貴族の令息令嬢の、ということだろうか。
「許可って言っても、先生たちの、だけどね。まあ、みんな屋上よりも、近い方に行っちゃうし、そもそも来るまでが大変なこの場所まで来たがらないし」
「何か……勿体無い気もしますね」
それでも、こうなるのは仕方ないのよ、とミレーユは言う。
「一応、清掃してくれている人も居るみたいなんだけど……こうして改めて見てみると、何だか申し訳なくなります」
「……このまま使われなかったら、取り壊されちゃうのかな」
この学院に来たときと、もしかしたら来るかもしれない『壊される日』にしか日の目を見られないとは、何とも悲しいものである。
今現在、この学院に通う者たちの中で、何人がこの場所について知っているのだろうかーーいや、そもそも知っている人が一人でも居るのだろうか?
「……入学でき次第、俺たちが使うか?」
「気持ちは分かるけど、許可が居るんだよ?」
先程ミレーユが言っていたことを思い出し、廉は俯く。
「まあ、私たちが見ただけでも、さ」
とにかく今は、と朱波が廉の肩に手を置く。
だが、現在進行形で不在の三人なら何て言って、どう行動しただろうか。
ーーそもそも、初めて見たはずの建物に、悲しみを覚えているのは何でなのだろうか?
はっきりとはしなくとも、何となく故郷を感じたからだろうか。
「そう、だな」
この温室のこともそうだが、何よりも、あの三人を見つけることと、この学院に入学することが先である。
そう思っていれば、ミレーユに「じゃあ、今度こそ戻ろうか」と言われたため、三人は彼女とともに今度こそ校内へと戻ることとなる。
その後、ミレーユにも、ありがとうございました、と頭を下げた三人は、特にトラブルに巻き込まれることもなく、城に帰ったのだった。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
というわけで、出てきたのは学院でした
試験結果はどう出るんでしょうか?
それでは、また次回




