第五十八話:誘い
「お断りします」
「すみません」
目の前にいる人物に向かって、廉と結理は頭を下げる。
「……」
「今ので何人目だ?」
「四人目。来るには来ると思ってたけど、休み時間になる度に来るとは思わなかったわよ」
「しかも、俺が駄目なら結理で、結理が駄目なら俺を誘うんだもんな。人を変えても、すぐに分かるから無理だって分かんないのかなぁ」
そんな廉たちと来訪者たちのやり取りを見ていた面々だが、大翔の問いに、結理と廉がそれぞれそう返す。
「こうなったら、こっちも意地を張るしかないか」
「それしかないかーーって、また来たし」
ある意味決意したかのような言い方をする結理に、廉が同意するのと同時に、来訪者たちの姿を目聡く気づく。
「とりあえず今は、追い払うのを優先にしようか」
やれやれと言いたげに、来訪者たちと対峙しに行く二人だった。
☆★☆
「嫌です」
「嫌です」
片や満面の笑みで、片や凄く嫌そうな顔でそう告げる。
「どう? どっちなら止めると思う?」
「私たちは二人をよく知ってるから、結理のパターンで引くけど、知らない相手だと、どっちも難しいんじゃない?」
結理と廉のどちらの言い方が効果的に見えるのか、という問いに、朱波がそう返す。
「というか、どうして生徒会や風紀に入りたくないんだ? みんな入りたくて、立候補するくらいなのに」
今までのやり取りから、疑問に思ったらしいレイヤが説明しながら尋ねる。
だが、二人の答えは、ほとんど即答だった。
「面倒」
「ストレスと過労で死にそうだから嫌だ」
「そ、そうか……」
二人の返答に、苦笑いするレイヤ。
「まあ、結理は中学の時の生徒会経験者だったしねぇ」
「そういえば、そうだったな」
思い出すように話す二人に対し、それを聞いた結理は廉へと目を向ける。
「基本的に誰かさんの代理だけどねぇ」
「うっ……」
恨めしそうに言う結理に、図星を付かれたかのように、廉が声を洩らす。
「おかげで睡眠不足で倒れたこともあったし」
「それは、お前の自己管理の責任だろーが。人のせいにすんじゃねーよ!」
「はいはい。ま、こんな感じだから、嫌なのよ」
自己管理の件まで自分の責任にするな、という廉に、適当にあしらいながら結理が簡単に纏めて返す。
だが、面々のほとんどの会話は、『異世界』や『元の世界の』というものが頭に付くのが前提のため、事情を知らないレイヤからすれば、微妙に噛み合っているようで噛み合ってない、分かるようで分からないという状態になっている。
「でも、結理の場合は生徒会や風紀というより、諜報部の方が向いてるよね?」
「諜報部? 何それ?」
「学院の暗部組織らしいよ。前に結理が入るならそこじゃないの? 的な話したこともあったし」
「ふーん。まあ、そうかもね」
諜報部ねぇ、と思いながら、学院内で諜報活動なんて必要ない……と思いかけたところで、貴族の子息令嬢だけではなく、王女であるシルフィアもいるんだった、と彼女を見て思う。
(ん? それってどうなの?)
共に通う護衛とかならまだしも、学院での諜報活動なんて、所属している部員たちは大丈夫なのだろうかーーなどなど、いろんな問題や疑問点が思い浮かぶ。
「けど、『筆頭』が来ないのは気になるな」
「え、何?」
レイヤが洩らした言葉に、結理がいち早く気づく。
「『筆頭』は、簡単に言えば部活の総まとめ役のような役職ですね。生徒会と風紀委員会、そして『筆頭』の三大勢力がこの学院にはあるんですよ」
まあ、生徒数が生徒数だけに、部活の数も運動部と文化部それぞれの総数が馬鹿にできないくらいの数があるんですよ、とシルフィアは説明する。
「そして、運動部全体を纏めるのが運動部長、文化部全体を纏めるのが文化部長と呼ばれる人たちで、その二人を更にまとめるのが、『筆頭』ということです」
なるほど、と納得しながらも、「うわぁ、また厄介そうなものがぞろぞろと……」と思ってしまう面々。
「ま、部活のことは一度横に置いておくとして、だ。こいつらが誘われることに関して、いくつかの疑問があるんだが」
「疑問?」
「俺たち、まだ一年生だぞ? 現在二年生でも来年までなら生徒会をやれる期間ぐらいあるのに、何で飛ばして一年生である俺たちの所にまで来て、お前らを引き入れようとする?」
棗の疑問は尤もだった。
成績が良いという理由なら、結理たちよりも好成績の生徒が他にもいるし、与えられる役職次第では、そのことを得意としている者の方がいいに決まってる。
「私も似たような疑問が出たから、一応聞いてみたんだけどさ。上から順に断られたみたい。で、私たちにまで断られ続けてるけど、もう上位者の中だと私たちだけだから役員になってくれって」
六人とも中間試験の順位は並んでいる上に、大抵は固まっての行動のため、それなら誰か一人でも誘えたらいいな、というのが現生徒会役員たちの考えであり、思いなのだが。
そもそも廉たちがこの学院にいるのは、魔王が復活するまでに戦うための知識や技術などを得るために来ているので、彼らが知らないとはいえ、生徒会役員などになってしまえば、その時間が削られる可能性もあるのだ。
特に、勇者として召喚された廉の場合は。
「……みんな一緒なんだろうが、断った奴らの理由を聞いてみたいな」
大体の予想は付くが、それでも聞いてみたいと思ってしまう好奇心。
「でも、結理やレイヤの話から行くと、声を掛けられた人たちが生徒会役員を引き受けそうなんだがな」
先程の二人の説明を思い出しながら、棗が言う。
「レイヤさんの言っていたことは、あながち間違ってはいませんよ。今の生徒会役員は、三人が立候補者で、残りの二人は前生徒会役員からの推薦によるものですから」
シルフィアが、今の生徒会役員の選出状況を思い出しながら告げる。
「とにもかくにも、生徒会役員が悪いってわけじゃないけど、いろいろと時間が限られるから、私は役員になるつもりは一切無い」
きっぱりと否定する結理に、面々は苦笑いする。
「いや、私たちに言うんじゃなくて、誘いに来てる本人たちに言いなよ」
「だが、結理の言い分も分かるだろ」
自分たちの立場を考えれば、と口にせずとも、暗にそう言う廉に、「そりゃあねぇ」と朱波が返す。
二人が断り続けている上に、今は他人事だと思って聞いていられるが、いつかは四人にも話は回ってくる可能性はあるのだ。
「でも、これだけ拒否してるんだから、逆に諦めてもいい気がするんだがな」
「こっちが折れるのを待ってるんでしょ。まあ、この程度で負けるつもりはないけど」
溜め息混じりに言う廉に、結理がそう返す。
「いっそのこと、相手の心を折りに行ってみようか?」
「悪目立ちしかねないから止めなさい」
「それに、あの先輩の時みたいになりかねないぞ」
朱波と大翔に言われ、結理は黙り込む。
「でも、このままというのもなぁ……」
「時間で解決しちゃう?」
「私は長期戦になってもいいけど、向こうにそんな時間無いでしょ」
唸る廉に、詩音が尋ねるが、結理が無理だと返す。
特に三年生で役員をやっていた面々にとっては、早く後任を決めたいところだろう。
「かなり悩んでるみたいね」
「ミレーユ生徒会長?」
「今は『元』生徒会長よ」
いつの間にそこにいたのか、困ったような表情で話しかけてきたミレーユに、「何故ここに?」と面々は不思議そうな顔をする。
「元役員のメンバーが迷惑掛けてるみたいでごめんなさいね」
「大丈夫ですから、気にしないでください」
謝罪するミレーユに、廉はそう返す。
「でも、何で先輩が謝るんですか?」
「決まってるの、私の後任だけなのよ。だから、みんな慌てて後任捜ししてる最中」
そう説明するミレーユに、結理が尋ねる。
「まさか、役員を引き受けてくれ、っていう話をしに来たわけじゃありませんよね?」
「ううん、その逆よ。勧誘に関しては、貴方たちはそのまま断ってくれればいいから」
少し手があるのよ、というミレーユに、面々は不思議そうな顔をする。
「とりあえず……期待していい、のかな?」
「貴方たちに言ったんだから、過度でなければ期待してもらっても、大丈夫だと思うよ」
不安そうな後輩を安心させるかのように、ミレーユは大丈夫だと微笑むのだが、廉と結理が顔を見合わせる。
「それでは、お言葉に甘えさせてもらいます」
彼女の策が何であれ、とりあえず今は彼女に任せてみよう、とそう返す。
(ま、さすがに無いとは思うけど……)
合法的な方法なら問題ないが、もしそれが問題のある方法なら、止める必要が出てくるのかもしれない。
たった数秒の、向けられた視線からその意図を理解した結理は、ミレーユに気づかれずに小さく頷き返すのだった。




