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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第三章:夏休み後半・学院編
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第五十四話:後夜祭と体育祭当日


「明日、体育祭もあるのに後夜祭?」

「後夜祭とは言っているけど、一時的なものでしょ?」


 文化祭の後片付けをしながら、ふと出た疑問を結理が口にすれば、朱波がそう返す。


「ま、いいんだけどね」


 たとえ今いる場所が異世界でも、少しでも楽しく、思い出に残ればいいのだ。


   ☆★☆   


「後夜祭とはいえ、さすが良い所の学校よね。後夜祭用のドレスまであるなんて」


 それぞれドレスアップした朱波と詩音、同級生たちを見ながらそう言う結理に、廉が呆れたような目をしていた。


「つか、お前は着ないのか」


 未だに制服のまま、個々でデザインの違うドレスの友人たちを眺める結理に、相応に着飾った廉が尋ねる。

 そもそも、後夜祭用のドレスが個々でデザインが違うのは、一部の生徒たちの我が儘から始まったものであり、その対策として、女子生徒たちのドレスは個々で違うデザインのものとなったのだ。


「嫌よ。動きにくい」

「いや、動きにくいとかの問題じゃないだろ」


 面倒くさくても着飾っている者は着飾っているのだ。たった一人の我が儘など、認められるはずがない。


「情報収集には動きやすさが必要なのよ」

「まあ、そうかもしれないけどさ……」

「廉。納得しちゃダメでしょ」


 結理の言い分に思わず納得しそうになった廉だが、朱波が冷静に突っ込む。


「そうですよ。せっかく、皆さん用で新調したのに」


 しゅん、と落ち込んだ表情を見せるシルフィアに、結理はぎょっとした。


「え、そうだったの?」

「何のためにあちこち計ったと思っているのですか……」


 確かに、休日を利用して、王城勤務のメイドたちに身長やスリーサイズを計られたことはあった。

 ただ、結理も結理で服飾関係なのは予想していたのだが、その目的が、まさか後夜祭で着るためのドレスとは予想しなかったのだ。

 あー、とか唸りながらも、結理は気まずそうにシルフィアへと尋ねる。


「なら、着替えてくるわよ。多少の改造は許してくれるなら、ね」

「どう改造するのか不明ですが……ユーリ様なら大丈夫だと思いますので、構いませんよ」

「ありがとう、王女様」


 あっさり許可したシルフィアに礼を言えば、結理は着替えるためなのか、その場から離脱する。


「フィア。改造ってことは、絶対に戦闘服だぞ。あいつの場合」

「え」


 廉の補足に、シルフィアは思わず固まった。


「装飾品などを変える、とかではなく?」


 てっきりそのつもりで聞かれたと思ったから、シルフィアも許可したのだ。


「そのレベルならいいんだけどねぇ……あ、武器収納型ドレスに一票」

「戦闘型ドレスに一票」

「お前ら、何してんだよ……」


 それぞれ片手を上げて、意見を言い合う朱波と詩音に、分かっていながらも廉は尋ねてしまう。


「結理のドレス改造が、どのパターンになるか賭けてるの」

「俺たち的には両方に一票」

「大翔たちまでやるのかよ!」


 やはりというべきか、予想通りの答えを返してくれる朱波に対し、横からも似たような意見が聞こえ、廉は思わず声を上げた。


「意外とそのままだったりして」

「レイヤ、お前もか」


 こちらでの友人にまで言われ、廉は頭を抱えた。


「ん? 何が?」

「いや、何でもない……」


 話を聞いていたのかいなかったのか、何のことだ、と尋ねるレイヤに、気にするな、と廉は返す。

 しかも、自覚なしとか、一番面倒くさいパターンである。


「そういえば、結理のドレスの色って、何色なの?」


 実はドレスを決める際に、色をどうするのか、という問題も出ていた。

 この世界には黒髪の持ち主がいなくはないのだが、彼女たちに似合う色となると、どのような色だとその人を引き立てられるのか、と迷うことが多いらしく、同じ黒髪持ちである結理や朱波、詩音もそのことに例外ではなく、どの色が似合うのか。本人たちの意見も取り入れながら、試行錯誤したのだ。


「まさかとは思うけど、白にはしてないわよね?」


 白いドレスというと、ウェディングドレスが真っ先に思い浮かび、「してないわよね?」と、ややしつこいぐらいに朱波が尋ねる。


「え、はい。ユーリ様は、青とか緑とかそちらの方がいい気がしたので」


 これはシルフィアの直感である。

 結理は色のことを特には言わなかったが、シルフィアとしては、青や緑はともかく、白は何か違うと思ったのだ。


「つか、お前らでさえ似たような色なのに、鷹森が色を重ねてくるか?」


 大翔の疑問は確かであり、結理は特に朱波と被らない色を選ぶことが多かった。


「でも、結理の性格上、白を選ぶ確率は低いわよ?」


 買い物で服を選ぶ場合、白系の物を買うこともあるが、どちらかといえば、結理は黒系を好んで選んでいる。


「でもまあ、似合ってるのなら、いいんじゃねーの?」


 大翔の言葉に、面々が「何言ってるんだ」という顔をするが、彼が自身とは逆方向を示したことにより、納得せざるを得なくなった。


「うーん、驚かせるつもりだったのに、気づく方が早かったか」


 苦笑する結理に、一番に反応したのは朱波だった。


「フィア……、ナイス!」


 シルフィアに向かって親指を立てる朱波だが、向けられたシルフィアは笑顔で頷き返し、そのことに結理は遠い目をしながら見ていた。


「結理、大丈夫?」


 おーい、と詩音が結理の前で手を振ればーー


「ハッ!」

「朱波のは今更だから、遠い目をしないの」


 どこかわざとらしくも我に返った結理に、詩音が朱波たちを見ながらそう言えば、「ああ、そうだった……」と結理が返す。

 さて、ここで、三人のドレスについてだが、基本的なデザインは変わっていない。

 というのも、首から胸(というか(わき)というべきか)の部分まで開いているパターンか、首の後ろのリボンで止めるパターン、背中が大きく開いたパターンという三つのドレスパターンに分けられている(シルフィア含めた女性陣は最初のパターン)。

 胸下から腰に掛けて斜めに大きめの(ひだ)があり、裾は膝までで、足元はタイツやストッキング、靴などで色合いや全体を調節してある。

 他の部分ーー結理の場合は、長い白の手袋と上着を着用している(もちろん、竜二体との契約模様を隠すためのものである)。


「でも、やっぱりユーリ様は青や緑がお似合いですね」


 自分の見立てが当たったことに対し、シルフィアが嬉しそうにそう告げる。


「普段着だと確か、ジャケットを着てることが多かったよな」


 元の世界(むこう)で、とは言わない廉だったが、事情を知る者であれば、大体のことは察せられる。


「黒一色の時もあったわよね」

「闇夜のカラス」


 そういえば、と朱波が言えば、同意するように詩音が頷きながら言う。


「あのねぇ……」


 私の私服なんかどうでもいい、とばかりに結理が口を開けば、後夜祭用の出し物が始まる放送が会場全体へと響く。


『それでは、後夜祭名物のミスコン及び男装女装コンテスト、開始です!』


 男女それぞれの歓声が上がる。


「……ミスコンに、男装女装コンテスト?」


 廉が不思議そうにすれば、「そういえば」と言いたげにシルフィアとレイヤが説明を始める。


「ミスコンは、言葉通り、学院一の美少女や美人を決めるコンテストだ。出場者は事前申請で、投票権は生徒全員にある」

「男装女装コンテストも同様で、男装の方は女子生徒に、女装の方は男子生徒に参加資格があります。ミスコン同様、投票権は生徒全員にありますが、事前申請は必要なく、参加の常連以外は毎年飛び入りが多いんです」


 なるほど、と六人は納得した。したのだがーー……


「何で私を見るの」

「そして、同時に何で私も見るの」

「いや、お前ら。二人で行けんじゃね? と思って」


 というのも、向けられた視線の先は結理と朱波であり、大翔はそう言う。


「そう言う大翔も、女装コンテスト、行けるんじゃない?」

「化粧とかなら、やってあげるけど?」


 二人揃って笑顔でそう言えば、大翔は間を置くことなく謝罪した。


「いや、謝るから、それは止めてくれ。というか、止めてください。すみませんでした」

「本気で謝られてもなぁ……」


 そんな大翔に、二人は逆に困惑した。

 ほとんどがノリでのやり取りなのに、本気で謝られたりしては、一体どうしろというのだ。


「ま、出る出ないはいいとして、だ。俺たちは俺たちで食事も楽しめばいいだろ。……おい、結理。欲しければ、取ってくればいいだろ」

「行ってくる!」


 ちゃっかり料理を手にしていた廉は、自身の手元を注視していた結理に気づいたため、取りに行くことを勧めれば、結理はすぐさま料理の方へと飛んでいく。


「……あの子。料理を使えば、出場してくれそうよね」

「その場合は、もれなく付き添い及びパートナーになるのは決定だぞ?」

「止めときます」


 もしかして、と告げる朱波だが、棗の言葉にあっさりと却下する。

 そのことに、即答だな、と思いつつも、自分たちも料理を利用してまでパートナーになるのは(どちらかといえば)嫌なため、そこまでは口にしない。


(それに……)


 様々な料理を口にしては、どこか幸せそうにしている結理に、悪い気もするのだ。


「とりあえず、回収してくるわよ」


 すでに後夜祭も折り返し、ミスコンの発表が始まっている。

 朱波が溜め息混じりに言いながら、結理の方へと向かっていくのを、面々は苦笑いしながら見送るのだった。


   ☆★☆   


 翌朝。

 パンパン、と空砲などが鳴り響き、何かが行われることを示していた。

 全員、前日までの楽しげな雰囲気とは違い、どこか気合いのある、真面目な表情で一点を見つめている。

 そんな中、一つの声により、一斉に歓声が上がる。


『さあ、これよりセントノース学院高等部による体育祭の始まりです!』


 全員の目的はただ一つ。

 狙うは、優勝のみ、だ。



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