第五十一話:文化祭と体育祭準備
「文化祭ねぇ……」
対フィオナ戦から数日後。
二~三週間後に控えた文化祭と体育祭の準備のために、廉たちはクラスごとの出し物のアイディアを相談しつつ、予定の確認をしていた。
「仮にも準備期間とはいえ、その後に中間テストがあるからな」
「つまり、準備をしつつ、勉強もしないといけないのね」
はぁ、と思わず溜め息を吐く面々。
「この時期は変則的ですからね。文化祭が先になったり、試験が先になったり」
この学院では先輩にあたるシルフィアがそう説明する。
「ま、私は徹底的に裏方に回るよ」
「そんで、結局は表に代役か何かで出ることになるのよねー」
高らかに宣言する結理に、朱波が慣れたような口調で言う。
「今回は絶対に裏方! 目立つのだけは避けたい」
「はは、何を今更」
「……」
軽く笑った後に正論を言う廉に、結理は一々言わなくてもいいでしょ、と言いたげに無言で目を向ける。
「ところで、体育祭は何に出るの?」
「どんな種目があるのか知らないから、何も言えないけど……まあ、リレー系は補欠なら引き受けても良いかな」
うーんと唸る面々だが、結理の妥協点に、そうなってくるか、と思案する。
そもそも異世界転移の影響で、身体能力が上がっている面々である。仮に一緒に走る者たちに魔法を使われたとしても、魔法強化無しで走りきれる可能性もあるのだ。
とはいえ……
「私たちみんなインドア派だもんね」
「いんどあ?」
朱波の言葉に、シルフィアが首を傾げる。
そう、廉たち六人は運動をしないこともないのだが、どちらかといえばインドア派である。それでも六人をインドア派とアウトドア派で分けるのなら、廉、結理、大翔がアウトドア派であり、朱波、詩音、棗がインドア派となる(というかそれに近い)。
「つまり、外で遊ぶより、室内で遊ぶ方が多いってことだ」
「なるほど」
廉の説明に、シルフィアが納得したように頷く。
それを見ていた結理はふと思う。
(通じる言葉と通じない言葉がやっぱりあるんだ。全く、あいつらしい)
通貨など、似ている部分やものはあるが、それでも、今みたいに通じる言葉と通じない言葉がある。
だがそれが、どこからどこまでが通じ、どこからどこまでが通じないのか、どのようなルールで分けられているのかは不明だ。
それでも今は困らないし、いざ聞かれても今の廉がしたように説明すればいい。
「どうした?」
「いや、ちょっとね……」
「……?」
視線に気づいたのか、廉が尋ねるが、結理は何でもない、と返す。
そんな彼女に、廉は不思議そうにするも、特に気にすることもなかった。
「じゃあ、さっさと出し物案、決めますか」
その後に出た案は、喫茶店などの飲食店系、ダンスや劇などの発表系、休憩所などのその他系……など。
ただ、中でもーー
「ねぇ、お化け屋敷は?」
「却下! ぜぇったいに嫌!」
それなら、と告げる詩音に、断固拒否という反応を示す結理。
「つか、この世界に霊とかいるのか?」
「はい、いますよ。亡くなった人をちゃんと埋葬しないと、悪霊やゾンビ、アンデットに化すと言われていますから」
「いやぁぁぁ!」
廉の素朴な疑問に、シルフィアが答えるものの、結理の悲鳴で掻き消される。
そのことにイラッと来たのか、廉が朱波たちに対し、叫ぶようにして告げる。
「さっきからうっせぇ! 誰か結理を止めるか、耳を塞いでおけ!」
「あ、そうね」
とりあえず、朱波が風魔法を利用して、心霊関係の言葉が結理に届かないようにする。
といっても、結理には読心術と読唇術が使えるため、音や声だけを遮断しても意味ないのだが、朱波の風魔法で耳を塞がれて以降のやり取りに、結理は悲鳴を上げるのではなく、じーっ、と提案した主に目を向ける。
まあ、そのやり取りというのが、
「つか、笠鐘。お前、分かってて言っただろ」
「何のこと?」
「いや、提案自体は悪くないが、場合によっては質が悪いからな?」
というものなのだが。
「……結理、ごめん。悪かったから、じっと見るの止めて。怖いから」
顔を引きつらせながらも謝る詩音に、結理は目を逸らさない。
「珍しいこともあるもんだな、詩音が結理をからかいにいくとは」
「シオン様自らがからかうなんて、珍しいこともあるんですね」
棗が珍しそうにし、シルフィアも異世界に来てから見せた珍しい詩音の行動に、不思議そうに同意する。
「ごめんなさい」
謝る詩音だが、廉が気づく。
「結理の奴、聞こえてないんじゃないか?」
「……うん?」
詩音が朱波に目を向ければ、朱波はそっと目を逸らした。
「朱波……?」
「すみませんすみませんすみません! 完全に耳を塞いでました!」
にっこりと詩音が微笑めば、朱波は顔を引きつらせ、結理は冷や汗を流しながらも、朱波に目を向ける。
「ちゃんと、人の話は聞こうか」
「そうですね!」
本当にごめんなさい、と謝る朱波に、それを見ていた廉、大翔、棗がやれやれと肩を竦め、シルフィアは苦笑いした。
ーーということがあったのだが、こんな騒動などがありながらも、文化祭でのクラスの出し物と体育祭の出場種目を決めると、様々な場所で少しずつ準備を進めていく面々だった。




