第四十二話:それでは改めまして
「はぁーっ、それにしても王様と謁見ねぇ……」
シルフィアからは部屋の確認後に謁見するのだと聞いていたのだが、結理たち三人が来たばかりであるのと、国王であるエフォートの仕事が一段落するまでに時間が掛かりそうなので、全員部屋で待機するように言われたのだ。
だが、自室でバラバラに休むのも呼びに来る人のこともあれば、再会後なのに各々の部屋で一人になるといえば微妙な空気になったので、誰か一人の部屋に固まり、各々くつろいでいた(なお、全員が集まった部屋というのは、今後結理が使用することになる部屋である)。
「一応、勇者の仲間ってことになってるからな。お前らが見つかったから、会った方が良いと思って……」
「そうね。ところでーーお姫様はそこで何してるの?」
廉の言葉に納得しながらも、何故か突っ立っていたシルフィアに首を傾げる結理。
「あの、えっと、その……」
「?」
戸惑うシルフィアに理由が分からず首を傾げたままの結理に、朱波が助け舟を出す。
「ゆ、結理」
「何?」
「フィアーーあ、フィアってのは王女様の名前、シルフィアからの呼び名みたいなものなんだけど、私たちが散々、結理たちの話をしたから、いろいろとこんがらがっているみたいで」
「ああ、そういうこと……」
朱波の説明で納得したのはいいが、結理としては、廉たちが一体どんな話をしたのか聞いてみたい。
とにもかくにも、この純粋そうなお姫様に、自分(たち)が危険人物でないことと、廉たちが自分たちについて言ったであろうことについて、結理自身からも一言だけ言うことにした。
「王女様。廉たちが何言ったかは知らないけど、気にしちゃダメよ」
「特に結理のことではな」
フッと笑みを浮かべ、そう告げた廉に、結理は無表情でどこからか取り出したハリセンを放つ。
「痛ってーな!」
叩かれて痛みから叫ぶ廉に、結理も反論する。
「自業自得でしょうが。事実だけど、今言うことじゃないでしょ!?」
「はぁっ!? いつ言っても変わんねーだろうが!」
そのままギャーギャーと騒ぎ始める廉と結理に、朱波と棗が止めに入る。
「……」
シルフィアはそんな面々を無言で見つめる。
ただ、見ていて分かるのは、召喚されてから今日に至るまで、廉が今までよりも楽しそうだということだ。おそらく、再会したばかりでテンションがおかしくなっているのかもしれないが、少なくとも、シルフィアには自分といるときより、廉が楽しそうに見えるのだ。
(やっぱり、隣にいる歳月の差、なのかな?)
幼馴染である彼女は、召喚される前後も彼の隣にいる。
対する自分は、召喚された後の彼しか知らない。
「……やっぱりレン様、楽しそうだなぁ」
楽しそうな面々を見れば、そう思ってしまう。
だが、その呟きが聞こえたのか、女性陣がシルフィアを一瞥する。
ちょうどそこへタイミング良く、ドアがノックされ、失礼します、という声が聞こえるとーー
「皆様。謁見の準備が終了いたしましたので、謁見の間へお越しください」
メイドの言葉に、一行は謁見の間に向かうべく、部屋を出るのだった。
☆★☆
「あ、そういえば、謁見なのにこんな格好で大丈夫?」
「大丈夫よ。私たちもそうだったし」
結理のふとした疑問に、朱波が答える。
ちなみに、廉たちは学院の制服ではなく、正装として渡された服である。色を言うのなら、廉が白、朱波が薄い緑、詩音が薄い黄色である。
結理たちの場合、今回、正装は無いので、この姿のまま謁見することになったのだ(途中、学校の制服でも良いのでは、と話が出たのだが、何かあった場合や帰った際のことを考え、今回はこのままで、ということになった)。
「でも、さすがにこれは……」
結理の場合は全身真っ黒な黒装束である。
「そ、それに、私たち、血とかいろいろ付いてるよ……?」
本当に大丈夫か、と聞く結理に、さすがに困ったのかうーんと唸る朱波。
「フィア」
「何ですか?」
「謁見の間行く前に、三人とも着替えさせていい?」
「え、でも、問題ないのでは……?」
シルフィアに声を掛け、朱波が尋ねれば、シルフィアも何か問題が? と返してきた。
「さすがに血の付いた服で謁見はダメじゃない?」
「血、ですか……」
朱波の言葉に、シルフィアの頬が引きつる。
「一応、着替えましょうか」
やはり、着替えることになった。
「いや、すみません。遅くなる原因作って」
「謝るのは後だ。陛下を待たせるわけには行かない」
全く同じ装束で違いが分からないが、着替えたらしい三人の謝罪に、それよりも急ごう、と言う廉。
「だな」
大翔が同意して、足を再び動かし始める一行。
(さて、どうするべきかね)
結理は微妙に困っていた。
とはいっても、装束のことではなく、謁見についてだ。
着替える最中(といっても、結理は着替えたというより切り替えたが正しい)に、大翔たちから謁見時に属性について聞かれたらどうするのか、と尋ねられたためだ。
もちろん、闇属性なんて言ってしまえば、魔族側からのスパイだと疑われるので、誤魔化すつもりではいるが、どのように誤魔化すべきか。
(こういうとき、全属性扱えるのは得よね)
問題は何を選ぶかだが、結理はすでに決めてある。
(あとは属性検査の誤魔化しだけど……)
まあ、何とかなるだろう。
「皆様、この扉から向こう側が謁見の間となります」
シルフィアの言葉に、一度思考を浮上させる結理。
廉たちが扉の前に着いたことで、謁見の間に続く扉が開かれた。
☆★☆
ここは、ウェザリア王国王城内・謁見の間。
目の前には、国王陛下と王妃、三人の王子と二人の王女という以前と変わらない並びで、廉たちを見ていた。
両サイドには相も変わらず、大臣や騎士たち、貴族がいた。
「すみません、陛下。遅れてしまいました」
「いや、気にするな。ところで勇者よ。仲間が見つかったと聞いたが?」
「はい。城下に出てみれば、偶然、再会しました」
廉は跪き、報告していく。朱波と詩音は慣れたように跪き、結理たち三人は見よう見真似で跪く。
廉の言葉に頷き、エフォートは続ける。
「そうか。それで、その三人とは、後ろにいる三人で良いのか?」
「はい」
廉の返事にエフォートは、三人に目を向けるが、そんな視線を向けられた三人は、妙なプレッシャーを感じていた。
両サイドからは、品定めするかのような視線と生意気なという視線、その他の視線が向けられている。
「悪いが、それぞれ顔を上げて、名を名乗ってもらえるか」
確認も兼ねているのだろう。
「え、あ、はい」
「二人から先にして良いよ」
エフォートに言われ、変な声で返事をする棗に、結理が小声でそう告げる。
「では、一番最初に自己紹介させていただきます。俺は日燈棗といいます。他の五人とは一歳年上の先輩になります」
「そうか」
容姿なども確認しながら頷くエフォートに、さすが先輩、と小さく分かりにくく笑みを浮かべる廉たち。
「俺は天海大翔といいます。まあ、廉ーー勇者様とは同い年で親友と言ったところです」
「なるほど」
頷くエフォートが目を向けてきたのを確認した結理も自己紹介をする。
「では、最後に私ですね。私は鷹森結理と言います。このメンバーとは幼馴染の様なもので、もう十年近く一緒にいることになります」
嘘をつく必要も無いので、素直に答える。
それに、と結理は思う。
(本物か偽物か、魔道具でも確認してるみたいだし)
少し様子を見ていれば、魔道具を一瞥するエフォート。
「うむ。どうやら本人の様で間違いないらしいな」
「納得してもらえたのなら良かったです」
エフォートの言葉に頷く廉。
「そういえば、こちらに来てからの半年間はどうしてたんだ?」
エフォートの問いに、三人は一度顔を見合わせると、順に答えていく。
「この世界に召喚されたあと、親切な人に助けてもらい、この国について教えてもらいました」
「その後は、主にその人の得意とする魔法や剣術とかを教えてもらい、冒険者として依頼をしつつ、王都まで来ました」
「そこで、勇者様たちと再会した、ということになります。大雑把ですが、これでよろしいですか?」
「ああ、こちらとしてもお前たちを捜させていたのだが、王都までわざわざ来たとは……苦労をかけたな」
申し訳無さそうに謝るエフォートに、
「あのっ、王都に来たのは私たちの勝手ですから、陛下の責任ではありませんからっ……」
あわわ、とパニックになりながら、自分では何を言っているのか分かっていない結理。
「まあ、気持ちだけは受け取っておこう」
どうやらエフォートには言いたいことが伝わったらしい。
そこで廉たち三人が姿勢を正し、それに気づいた結理たちも姿勢を正すと、それを視線だけで確認した廉が口を開く。
「それでは改めまして、俺たち全員の自己紹介をさせてもらいます。俺は篠原廉です。役職はウェザリア王国の勇者と学生。属性は光です」
それを聞き、次に朱波と詩音が口を開く。
「私は東雲朱波。役職はウェザリア王国の勇者の仲間兼学生。属性は風。他のことに関してはいくつか省略させてもらいます」
「笠鐘詩音。役職はウェザリア王国の勇者の仲間と学生。属性は光と地。朱波同様いくつか省略します」
二人の自己紹介が終わったのを確認し、次は棗が口を開く。
「次は俺だな。俺は日燈棗といいます。先程も言いましたが、廉たちとは一歳違いの十八歳で、属性は火がメインです。役職はウェザリア王国の勇者の仲間……でいいのか」
確認するみたいな自己紹介になったが、大翔と結理が小声で話し合う。
「じゃあ次は……」
「お先にどうぞ」
結理にそう言われ、小さく頷くと、大翔は口を開く。
「ああ。俺は天海大翔といいます。廉の親友で、主に使う属性は水です。役職はウェザリア王国の勇者の仲間……」
やはり、役職の部分は自信がないというか、違和感が感じるせいで小声になる。
「最後は私ね。私は鷹森結理といいます。基本的にチームの情報収集担当。戦闘時の立ち位置はおそらく中衛。以上」
「え、結理。属性と役職は?」
結理の自己紹介を聞いた朱波が小声で尋ねながら、首を傾げる。
「もしかして、言わないとダメだった?」
「ダメじゃないが……二人は知ってるのか?」
結理の問いに、廉が棗と大翔に目を向ける。
「そういえば、知らないな」
「鷹森も話そうとしなかったしな」
「でしょうね……」
顔を見合わせ、そう答える二人に、結理も頷く。
棗も大翔も本当は知っているが、謁見前にも言った通り、結理が魔族に通じているのでは、と疑われるのを避けるため、結理も自身がメインで扱う属性が闇であることについて口にしなかった。
「属性なら、後で調べることが可能だが?」
「そうなんですか?」
エフォートの言葉に、結理はそう返す。
どうやら、自分の属性が分かってないと判断されたらしい。
「私たちも、それで属性が分かったわけだしね」
朱波の悪意が全く無さそうな言葉に、結理は微妙に顔を引きつらせる。
(嫌な予感が……)
それはもう、結理はひしひしと感じた。
「まあ、後にでも属性検査に行ってくればいい」
エフォートの、その言葉が止めになった。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
今回は六人で国王陛下へ謁見しました
次回は『迷宮の砦』の三人の属性検査と、大翔とレガート騎士団長による模擬戦です
それでは、また次回




