第四十一話:登城
第三章:夏休み後半・学院編
第三章、スタートです
一行は場所を移り、王城内を歩いていく。
というのもーー
「というか感動の再会は後回し。事情説明もしたいし、話も聞きたいから、場所を移動しようか」
結理にそう言われ、一時的に結理たちが泊まる宿に廉たちは移動した。
「一応、宿は取ってたんだね」
「いくら合流目的でも、いつになるか分からないからね。拠点は必要よ」
朱波の言葉に、頷きながら忘れ物がないか確認する結理ら三人。
「よし、忘れ物は無いな」
という棗に大翔と結理も無いと示す。
そのまま廉たちに連れられ、結理たち『迷宮の砦』の三人は王城に来た、というわけである。
「やっぱり、すっげぇな。城って」
王城の白亜の壁を見上げたあと、中に移動すれば、そう告げる大翔。
外観に街並み、グランドライトの貴族街からある程度の想像はしていたが、やはり想像は想像だった。本物は想像を遙かに越える圧倒的なものを見せつけてきた。
「何か迷いそうだな」
廉たちに案内されながらも、周囲をきょろきょろと見ていた棗も大翔に同意しながら、道を覚える必要がありそうだ、と思う。
一方で、朱波が何気なく結理がいるであろう自身の隣を見て、
「あ、そうだ。結理、聞きたかったことが……」
と言いながら固まった。
「朱波、どうしたの?」
いきなり立ち止まり、固まったままの朱波に気づいた詩音が首を傾げながら尋ねるが、振り向いた彼女もすぐに理解した。
「あれ? 結理はどうしたの?」
「え?」
「あれ?」
詩音の問いが聞こえたのか、廉たち男性陣も振り向き、理解した。
「まさか……」
廉は顔を引きつらせた。
「完全に迷った」
五人と離れてしまった結理は一人、呆然としていた。
「う~ん……廉たちを待つのも手だけど、その前に不審者扱いされそうだしなぁ……」
巡回中の騎士に見つかるのだけは何としても避けたい。廉たちの名前を出してもいいのだが、今一人でいる結理の場合、職務質問的なものをされるに決まってる。
念のために周囲を確認するも、隠れられそうな場所はない。
そのことに舌打ちしたくなるも、代わりに出てきたのは、溜め息だった。
「……はぁ、捜すか」
結局、その結論に行き着くのである。
☆★☆
「結理ー、どこだー?」
迷っているであろう彼女の名前を呼びながら探し回る五人。
いくら三人が城内に慣れているとはいえ、迷子を増やすわけにはいかないと、手分けして捜すのは避けたのである。
そんな彼らに救世主が現れる。
「レン様? どうかなさったのですか?」
「フィア」
シルフィアである。
「実は、結理たちを見つけて連れてきたんだけど、結理だけが城内で迷子になったみたいで」
「大変じゃないですか! 急いでメイドたちにも知らせないとーー」
事情を話せば、急いで伝え、自身も捜し出しそうとするシルフィアに、廉はストップを掛ける。
「あ、フィア」
「何ですか?」
捜さないと、という空気を発しながらも、廉が止めた理由に耳を傾ける。
「多分、普通に捜しても見つからないと思う」
結理のことだから、正攻法で行動するとは思えない。
「じゃあ、どうするんだよ」
棗の言葉で、それぞれ思案する。
そして、出た案はーー
「鷹森の事だから……そのうちに来るに一票」
「結理の事だから、特に騎士団の人たちと鉢合わせしないようにしているに一票」
「朱波の意見に、不審者扱いを避けるために、天井を移動するを付け足して一票」
上から、大翔、朱波、詩音である。
「忍者じゃあるまいし、さすがにそれは無理だろ」
詩音の意見に棗はそうツッコむが、結理のことだから、本当にやりそうで怖い。
シルフィアはどうしましょう、と廉に目を向けている。
「……なあ、二人とも」
「ん?」
「何だ?」
廉に声を掛けられた棗と大翔が考えるのを止めて、廉に目を向ける。
「半年一緒にいたなら、結理がどういう行動するか分からないか?」
二人は互いの顔を見合わせ、廉たちは二人に目を向ける。
「いや、そんな事言われても困る。お前たちほど一緒にいるわけじゃないし」
「それに、俺たちに鷹森の思考を推理しろって方が無理だ」
それは確かに言えている。
他人が何を考え、何を思い、何でそのような行動したのかなんて、分かるはずがない。いくら幼馴染である廉と結理とはいえ、分からないことぐらいいくらでもある。
「まあなぁ」
「正論言われて諦めないでよ」
感嘆したように返す廉に、朱波がジト目で見ながら言う。
「では、一度レガートに言って、捜索部隊を作らせます」
「いや、だからダメだって」
シルフィアの言葉に、朱波が慌てて止める。
「でもっ……」
「騎士を動員すれば、確実にあの子は警戒する。警戒心だけは私たちの中でも人一倍強いからね」
「下手をすれば、捕まえるために捜してるって、勘違いするかも」
朱波と詩音の言葉に、シルフィアはしゅん、と落ち込む。
「あれもダメ、これもダメ。いっそのこと、誘導でもしてみるか?」
「策としてはいいが、どこに誘導するんだ?」
というか、途中で誘導されていると気づきそうだ。
「ちょっと質問は変わるけど、異世界に来たとき、結理が気にしていたことは何かある?」
「気にしていたこと?」
「うん。もしかしたら誘き出せるかも」
詩音の言葉に、五人は不思議そうな顔をするしかなかった。
☆★☆
「おわっ……危なっ!」
足を踏み外し、落ち掛けるも、何とか踏み止まる。
そのことにヒヤリとしながらも、落ちなかったことに対して安堵の息を吐く反面、城内を歩き回る騎士たちが増えたことに溜め息を吐く結理。
「これは廉たちの仕業なのかな?」
最初に疑う点としては間違えてないだろう。
現在、結理は城の外壁に背を預け、騎士たちをやり過ごしていた。ただ問題は、足の踏み場が少ない上に、体力を使うということだ。
「……」
そこで少しだけ思案する。
騎士たちの目を掻い潜り、廉たちの元へ向かうのは難しいだろう。危なくない限り、相手の策に乗ってもいいのだが、相手が誰なのかにもよる。
少しだけ歩いて分かったのは、現在廊下側にいるであろう者を捜すのなら、外から見て回った方が早いということだ。
だが、その場合のデメリットとしては、完全に不審者扱いが避けられなくなるのと、再び王城内に入ることが困難になることだ。
不審者扱い覚悟でこのまま外から見て回り、合流するか。
時間が掛かりながらも、地道に王城内を移動しながら合流するか。
(二つに一つ、か)
何とか開いていた窓から中へ戻り、再び気配などを確認しながら、足を進めていると……
「そっちにはいたか?」
「いや、そっちは?」
「いなかった」
巡回中の騎士らしい二人がそう話す。
どうやら誰かを捜しているらしい。
(いや、間違いなく私だろうけど)
言わなくても分かる。捜しているのは結理だ。
そして、気づかれないうちに回れ右をするのだった。
どれくらい歩いたのだろうか。騎士たちの声が遠くに聞こえる。
ふと足を止めて、結理は現在地を確認するために周囲を見回す。
そして、目を見開いた。
そこには暖かい光が射し、花が咲き乱れ、葉は青く輝き、ちょうど良い風が吹く庭園のような中庭があった。季節は夏にもかかわらず、この空間だけは、夏の暑さが感じられず、不思議な空間を作り上げていた。
「凄い……」
そのまま正面に続く廊下に目を向ければ、壁に掛けられ、いくつか並んだ絵が目に入る。
そして、ある絵を見た結理は目を見開く。
「これってーー」
そこにあった絵は、二人の女性ーー光に包まれた女性と闇に包まれた女性が手を繋いでいる絵。
その隣の絵には、五人の若者が描かれている。
「いや、まさかーーそれでも、ありえなくはないか。でもーー」
ぶつぶつと呟きながら、ある程度の予想をする。
この国の名前はウェザリア王国。隣国の名前はそれぞれリヴェルト国、セレスティ帝国、サリエル国。
国名と五人の若者の絵から、結理の中で何かが繋がりそうになる。
「っ、これは本格的に調べろ、ってことなの?」
結理は振り返り、空を睨みつける。
自分だけ足元の召喚陣の違いといい、何だか喧嘩を売られたような気がした結理はニヤリと笑みを浮かべる。
「ならまずは、王城内の図書館からだ」
そのまま移動しようとすればーー
「いたーーーー!!!!」
背後から叫ばれたので振り向けば、こちらに指を差しながら叫んだ体勢のままの、親友の姿が目に入る。
「……朱波」
彼女の名前を呼べば、ハッとした朱波が我先にと駆け寄ってくるが、その後ろから苦笑しながら、廉たちも朱波が見つけた結理の方へ歩いてくる。
「やっぱり正攻法じゃダメだったか」
そう言う廉に、何のこと、と首を傾げる結理。
「いや、気にするな。それにしてもーー」
廉たちも庭園のような中庭に目を向ける。
「綺麗でしょう? ここは、私のお気に入りの場所でもあるんですよ?」
微笑みながら姿を現したシルフィアに、廉は納得した。
「確かに気持ちは分からなくはない」
「でしょう?」
そんな会話をする二人に、彼女が誰なのかを結理は理解した。
(彼女が、末姫のシルフィア王女殿下)
おそらく間違ってはないだろう。
(というか、姫様が金髪なせいで、この絵みたいなんだけど)
手を繋いでしまえば、絵を再現しているように見えるのではないのか。
二人の女性の絵に目を向けていれば、それに気づいたシルフィアが絵の説明をする。
「あ、その絵は、この国やリヴェルトなどの他国までもが信仰している女神様ですよ」
「……は?」
女神様? と結理が絵を見ていれば、くすくすと笑うシルフィアがその隣の絵についても説明する。
「その隣が、レン様たちの前ーー先代勇者の若かりしころの姿の絵らしいですよ」
「先代勇者一行は、五人だったのね」
結理の一番近くにいた朱波がそう言う。
「でも、どこかで見たような気がする」
「え?」
詩音の言葉にシルフィアは不思議そうな顔をするが、棗や大翔も詩音と同じなのか、思いだそうとしている。
「俺もそんな気がするが……結理、何か覚えてないか?」
「何で私に聞くのよ」
廉に尋ねられ、不機嫌そうに結理は返す。
「お前、俺たちの中じゃ、一番記憶力良いだろ。基本的に見ていたものも一緒な時が多かったし」
廉の言い分は間違ってはいない。
結理は人より少しだけ記憶力は良いが、完全に何でも記憶しているわけではない。この国についてだって、メモを取っていたぐらいだ。
例をいくつか挙げてみるとしよう。
結理がユーナリアから聞いたのは国名とその国民性など、その他にも隣国とこの国の王族の名前。
だが、王族の名前はフルネームでは覚えていられないので、共通する『ウェザリア』の部分を外し、本当に名前しか覚えていない。
見ていたものが一緒という点では、廉、朱波、詩音と幼いときから固まって行動していたため、嫌でも一緒に見ることが増えてただけである。
「私は完璧超人じゃないからね。全部が全部、覚えているわけがないじゃない」
だから、いくら一緒にいたからって、覚えてないことぐらい結理にだってある。
だが、今の件については別である。
(嘘。本当はこの絵に関わっているであろうことは大体覚えてる)
嘘を吐いた理由としては、これがこうだ、とはっきり言えないためだ。
「まあ、この話は後回しにするとして、私たち、この後どうすればいいの?」
結理が言ったこの場合の私たちというのは、『迷宮の砦』の三人のことである。
問われたシルフィアは笑みを浮かべて、ではこちらへ、と案内を始めると、
「皆さんには、今後使用されるお部屋の確認後、国王陛下に謁見してもらいますので、用意や準備の方、よろしくお願いしますね」
そう告げた。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
この話から第三章です
ある意味では、これからが本番です
それでは、また次回




