第三十九話:王都到着
「はい、上がり」
「えー、お姉ちゃん早いー」
「インチキしたんじゃねーの?」
両手を上げて、もうありませんと表すが、疑いの眼差しを子どもたちから向けられる。
「残念、インチキはしてません」
ひらひらと手を振っても、子どもたちから疑いの眼差しは消えない。
「本当、お前ってゲーム系強いよなぁ」
「負けるわけには行かない状況があったからね。まあ、その時は、インチキでも何でもやってたけど、遊ぶときは本気で遊んでいたよ」
大翔の言葉に棗と位置を代わりつつ、結理はどこか懐かしそうにそう返す。
「でも、王都まで乗せてもらえたのはラッキーだったよな」
「まあ、誤算だったけどね」
そうなのか? と大翔は結理を見る。
魔物のボスを倒した後、魔物たちは退いていった。不利だと判断したらしい。
その後、商隊の人たちや護衛の人たちに礼を言われた。
「ところで、君たちも王都に行くのかい?」
「はい、知り合いがいるかもしれないので」
その言葉にそうか、と商隊の主のような人は何やら思案すると、
「何なら、乗っていきませんか?」
そんなことを言ってきた。
「あー……」
どうする? と面々は顔を見合わせる。
本当に、乗せてもらうつもりで助けたのではなく、このままでは自分たちが通れないため、助けただけだ。本当に自己中心的な考えからのアイデアだったので、申し訳程度に、結理がいくつかカード系の遊びを教えたのだが、商隊の主の子どもらしい男の子と女の子が良い反応したので、そのまま大翔や棗と交代しながら遊び相手をしていた、というわけだ。
「つか、トランプを持ってたことと、こっちにもあるってことにびっくりだ」
「まあ、私の場合はいつも持ち歩いていたし、こっちでの存在については……まあね」
そっと目を逸らした結理に疑うような目を向ける大翔。
(こいつの隠し癖、どうにかならんか)
隠すことが悪いとは言わないが、重要なことまで隠してそうな気がするのは気のせいか。
「よし、じゃあこっちもやりますか」
「は?」
ちゃっかり別のトランプ取り出した結理に、大翔は冗談だろ? と問いたくなった。
「王都まであとわずかだし、ちょっと本気を出してみようか」
笑みを浮かべてそう告げる結理に、大翔は今すぐ逃げ出したくなった。
☆★☆
「やっと、王都に到着ね」
商隊の荷台から降りて、伸びをする。
「鷹森、テメェ……」
背後から恨めしそうな声が聞こえてくるが、結理は無視をした。
王都、クロニクル。
様々な者たちが行き交い、人間だけではなく獣人やエルフ、ドワーフなどの亜人たちも道を歩いている。
道も整備されており、店だけではなく、屋台もあり、市場もある、王国が誇る最大の街にして、お膝元である。
「すっごいなー、さっすが王都」
「ああ、凄いよなー」
ファンタジーらしく、亜人たちを見て、テンションが上がっているらしい結理に対し、適当に返す大翔。
先程の件さえなければ、大翔だって素直に褒めたところだ。
「ここまでありがとうございました」
「いやいや、こちらも助けてもらったからね」
「俺たちも助かったのは事実だしな」
礼を言う棗に、こちらこそと返してくる商隊の主と護衛していた冒険者のリーダーらしき男。
それに苦笑すれば、話している三人に気づいたらしい結理と大翔が近づいてきて、ありがとうございました、と礼をする。
しつこいかもしれないが、これは本心だ。
その後、そろそろ行くと告げるとーー
「えー、お姉ちゃんたち行っちゃうのー?」
「ごめんね。でも、お姉ちゃんたちにも用事があるから」
寂しそうな女の子に目線を合わせながら、そう説明する。
この短時間でよくここまで仲良くなれたものだ。
「それに、お姉ちゃんたち、基本的に王都にいるからね。王都に来れば、また会えるよ」
ぽんぽん、と頭を撫でれば、女の子は「約束だよ」と言って、商隊の主の方へ走っていく。男の子は男の子で、「今度は負けないからな!」と指で指してきた後、女の子と同じように、主の方に走っていった。
そんな二人を見て、面々は話し合う。
「さて、今からどうする?」
「あ、僕は報告があるので、王城に向かいますが、一緒に行きますか?」
青年の言葉に唸る三人。
合流が目的なので、一緒に行ってもいいのだが、どちらかといえば今はいろいろと見て回りたい。
「いや、後で行くよ」
そう告げれば、分かりました、と頷かれた。
「とりあえず、手に入る食材の確認とギルドの位置の確認は必要そうね」
「あとは宿だな。今日明日で合流できるとは思えないから、拠点も必要だ」
結理と棗の言葉に、大翔も頷く。
「ん? お前たち、ギルドに行くのか?」
話を聞いたらしい商隊の護衛をしていた冒険者のリーダーが尋ねてくる。
「はい」
「なら、気をつけろよ? ここを拠点にしてる奴や常連、二つ名持ちやその知り合いならまだしも、新人や新米、特にE~Fランクの奴だと、からかわれたり虐められたりするのがオチだからな」
ギルドに行くということに頷けば、リーダーは俺もあったからな、とそう忠告してきた。
「俺たちも用があるからな。別に一緒に行ってやってもいいが、どうする?」
ふむ、と棗は思案する。
「一応、参考までに聞きますが、無視したらマズいですよね」
「ああ」
「反撃したら?」
「それは、別の意味でマズいな。先輩相手に喧嘩売ってるのだと思われるぞ」
「むー……」
結理も一緒になって唸る。
明らかにトラブルの原因になるのは自分だと理解しているため、その対処法を考えているのだ。
「一緒に行っても変わらないと思いますよ?」
「どういうことだ?」
横からの声に、リーダーが目を向けると、声の主は説明する。
「俺の時も同行者がいましたが、その後一人で行ったら、突っかかられましたからね」
その時、彼を助けたのは、冒険者たちにも恐れられるような受付嬢だったらしいが。
余談だが、廉たちがからかわれたり虐められなかったのは、主に二つの理由がある。一つ目はからかい出す筆頭の面々が不在だったため、二つ目はその場に二つ名持ちや実力者がいたからである。
「……ん、まあ、その時はその時ということで。多分、何とかなると思うし」
この話はおしまい、という結理に、珍しそうにする棗と大翔。
「珍しく根拠のない自信だな」
「だってそうでしょ? 今の私たちだと、ゼルさんたちみたいな知り合いを探して、助けてもらうしかないよ」
まあ、こんな広い場所だとすぐには見つからないだろうけど、と結理は付け加える。
それに対し、だよなぁ、と返す二人。
「それかギルドに行かずに王都を歩き回って、情報収集する?」
「……情報収集はお前の得意分野だろうが」
本当にどうするの、と結理は目を向けるが、向けられた張本人である棗はそう返しながらも溜め息を吐く。
「で?」
「行くに決まってんだろ。こっちは生活掛かってんだ」
「じゃあ、さっさと行きますか」
「おっと、なら少し待ってろ。主に挨拶して、ギルドまで道案内してやる」
行くことにしたらしい三人を見て、護衛をしていた冒険者のリーダーは自ら道案内を買って出た。
「ありがとうございます」
そう礼を言いながら、頭を下げる三人だった。
☆★☆
騎士の青年とは別れ、今は護衛していた冒険者一行とともに王都にある冒険者ギルドに向かっている最中である。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はアレックスだ。アレックス・チェスター」
「あ、俺はリーオね」
護衛していた冒険者たちのリーダー、アレックスと、彼に乗っかるように自己紹介する、先程情報をくれたリーオ。
それに頷き、結理たちも自己紹介で返す。
「俺はナツメ・ヒトウって言います」
「俺はヒロト・アマミ」
「私はユウリ・タカモリって言います。ユーリって呼んでくければいいです」
それを聞いたアレックスとリーオが変わった名前だな、と言いながら復唱し、名前を覚えていく。
相変わらず、目の前で名前が復唱されることには慣れないが、それに苦笑いしながらも、自分たちも心の中で復唱する。
「よし、覚えた」
小さくガッツポーズを作るリーオ。
「ところで、三人はどこから来たんだ?」
「あー……」
何と答えるべきか。
素直にグランドライトと答えてもいいのだが、果たして、本当に大丈夫だろうか。とはいえ、異世界から来たなどとは言えない。
そこで結理は師であるユーナリアから見せてもらった地図を思い出すと、
「に、西の方です」
苦し紛れにそう言ってしまう。
棗と大翔の責めるような視線に堪えられず、顔を引きつらせながらも笑みを必死に浮かべる結理。
「西って、グランドライト辺り?」
「え? いや、もっと遠くと言いますか……」
結理の記憶が正しければ、見せてもらった地図ではグランドライトが一番西ではなく、他にも小さい村や町があったはずだ。
(何で東の方から来たって言わない)
(グランドライトは王都から見れば西に位置してます。東は逆方向ですよ。よく日本をごまかすために東を指すシーンがありますが、今の私たちでは意味がありません)
視線と念話でそう話す。
西もずっと進めば東になるだろうが、自分たちが来たのは、西の街であるグランドライトだ。
「ふーん。あ、着いたぜ、ここが王都の冒険者ギルドだ」
目的地に着いたのか、立ち止まるアレックスにつられて、三人も足を止める。
「ここが、王都の冒険者ギルド……」
目の前に立つ建物を見上げ、そう呟く。
「やっぱりというか、今まで見てきた中で一番デカいな」
棗の言葉に、見上げたまま頷く結理と大翔。
日本で見慣れたはずの高層ビルもそうだが、何と説明していいのか、別の意味で凄いとしか言いようがなかった。
アレックスたちに促されて中に入れば、三人はこれまた驚くことになった。
冒険者ギルドの内部は見慣れていたはずなのだが、内部も内部で違うらしい。三人が見てきたギルドよりも広く、受付窓口の数や換金受付にいる受付嬢の人数も違う。
(ああ、やっぱり……)
王都に来たんだ。
結理はそう実感すると、小さく笑みを浮かべた。
「棗先輩、大翔」
名前を呼ばれた二人は視線だけ向ける。
「私たち、王都に来たんですね」
「だな。ここで実感するのもあれだが」
棗が肯定する。
残る目的はただ一つ。廉たちとの合流だけだ。
「いろいろ見て回りたいのなら、付き合うぞ」
棗の言葉に、大翔も頷く。どうやらこの二人は分かっているらしい。
「案内、ありがとうございました」
アレックスたちに礼をすると、そのまま三人は依頼リストの方へと向かっていった。
そんな三人を見て、やれやれと言いたそうな顔をしながらも、「行くぞ」とリーオを連れて換金受付に向かうアレックスだった。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
というわけで、結理たちは王都に到着しました
次回は『再会』
案の定トラブルに巻き込まれる三人
だが、そこで現れたのは……
次で第二章は終わりです
それでは、また次回




