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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:異世界召喚、鷹森結理編
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第三十七話:白竜の真偽


「ねぇ、竜ってさ、暗いところ好きなの?」


 依頼が受理され、白竜討伐に一行は白竜が住処にしている洞窟のような場所に来ていた。

 そんな洞窟のような場所を見た結理がそう言えば、面々は苦笑いした。

 別に暗いところが好きなわけではないのだろうが、洞窟のような場所を住処にしているのは、雨風が防げるからだろう。


「で、どうやって(おび)き出します?」


 確認を取る大翔に、棗は思案する。


「何ならダーク使います? 同じ竜で属性が属性ですし、危なくなれば引っ込めますから」


 結理の言葉に、人間形態の黒竜ーーノワールは難しい顔をしていた。

 なお、ダークというのは、竜形態の黒竜ことだ。


「だそうだが、お前はどうなんだ?」


 棗の確認に、


(マスター)のお役に立てるのは嬉しいですが……」


 と、ノワールは返す。

 やはり相手が白竜という点が気になるらしい。

 黒竜が闇属性であることから、白竜の属性は光属性だと予想できるが、『迷宮の砦』の一部の火力を担う結理もメインは闇属性だ。

 結理はともかく、タイミングをミスしてノワール(黒竜)を出せば、負ける可能性は高くなるが、下手をすれば二人とも失いかねない。


「…………」


 まだ情報が少なすぎるというのもあるが、それ以前にいろんな面での経験値が少なかった。

 異世界であるこの地に来てから半年。王都に着くまであとわずか。


(どうする?)


 棗が思案するその時だった。

 ズドン、と音がし、地面が軽く揺れる。


「じ、地震!?」

「いや、違うようだぞ」


 バランスを保とうとする結理に、ただ一点を見ながら、焦りを浮かべた大翔が告げる。


「ーーあちらさんからのご登場だ」


 まさかの白竜登場に、いつの間に竜形態になったのか、ダークが白竜を威嚇していた。


   ☆★☆   


 さて、『迷宮の砦』の面々は現在、森の中を移動中である。

 とはいえ、竜形態の黒竜ーーダークも一緒のため、白竜に居場所は丸分かりなのだが。


「ダーク! 何で人間形態に戻らないのよ!」


 頭を抱える結理に、白竜と互いにブレスを吐き、牽制しあっていたため、ダークは答えられなかった。


『今度はお前たちか。懲りないな、人間も』


 迷惑と言いたげな白竜の言葉に、ダークの時も似たようなこと言ってたよな~、とややデジャヴを感じつつ、戦闘態勢に入る。

 ちなみに話すのはダークで慣れたため、四人は驚いたりはしない。


『では望み通り、きちんと相手をしてやろう!』


 白竜がそう告げると、四人に向けてブレスを吐く。


「ダーク!」

『分かってます!』


 結理の声に頷き、ダークもブレスを吐き、白竜のブレスの軌道をそらす。


『はぁ……先程から思っていたのだが、何故、黒竜がこの場にいて、人間を庇う?』


 納得できないのか、ダークに目を向けて白竜は尋ねる。


『そんなの、君には関係ないよね?』

『ああ、ないな。でも、だからといって、他竜の縄張りに無断で入ってくるのは、認められることじゃない』

『こっちも好きで来たわけじゃない。君が人間たちに手傷を負わせていると聞いたから、来てみたまでだ』


 ダークの「関係ない」から始まり、空中で舌戦を繰り広げる二匹の竜。


「…………」


 そんな二匹の竜を、四人は何ともいえない表情で下から見ていた。

 物理的なものでもなければ、魔法の放ち合いでもない。


『大体、奴らの場合は自業自得だ。私は自分の住処を守るために反抗したまでだしな』


 それについて、ダークは否定しなかった。つい先日まで似たような状況だったのだから。

 結理たちも、似たようなことをしてきたため、否定できる立場ではない。


「ーー……」


 そんな二匹の竜を、結理は目を細めて見ていた。

 今はダークに任せるとしても、最終的には自分たちがやらなくてはいけない。

 ダークの場合は、本人からの申し出で契約と旅の同行を受け入れた。

 だが、今回は意地っ張りにも見える白竜である。ダークの時みたいにスムーズに行けばいいのだが、時間の問題だろう。


(先輩はどうするのかな?)


 結理はそっと棗に目を向ける。

 相手が光属性であろう白竜なので、自身が得意とする闇属性を使わずにサポートするつもりでいたのだが、どこまであの白竜に通じるか。

 もちろん、危なくなれば最終手段として、切り札を使うつもりでいる。


(まあ、使うような状況にならないことが一番なんだけど)


 何事も切り札出さずに抑えられるのなら、それがいい。

 結理はそっと息を吐くのだった。






『このままでは埒が明かないな。こうなったらーー』

『っ、させません!』


 下を見た白竜に気づいたダークはブレスを放つ。

 本当は魔法も使って動きを封じたいのだが、契約者になって日が浅い上に、結理の状態がどうなるか分からないため、使おうにも使えない。

 そして、契約者を得て分かったのは、契約者の許容魔力と使用できる属性、その効果及び状態である。

 ダーク自身、結理の許容魔力や使用属性には驚かされたのだが、それよりもダークが気になったのは、闇属性が結理を傷つけるという事実についてだった。

 結理や棗、大翔は話していないが、契約者となったダークが『闇属性の影響を知っている』ということを三人は知らない。


(だから、僕はーー)


 彼女ーー結理に、どんな影響を与えるのか分からないため、闇属性の魔法を無闇に使うわけにはいかない。


(でも、白竜相手に負ける僕じゃない)


『“ダークブレス”!』

『む!』


 黒い竜の息が白竜に襲いかかるが、白竜は間一髪で避ける。

 その(かん)に、ダークはちらりと結理に目を向ける。


「結理、今のは……」

「うん、ダークの魔法だね」

「大丈夫なのか……?」

「あれはダークの魔法であって、私の魔法じゃないからね。私自身が直接使わない限り、私にダメージは無いよ」


 それを聞き、ならいいが、と棗は返す。

 結理のことだから、隠している可能性もあるが、見る限り、普通に立っている上に、表情もいつも通りで棗たちと普通に話している。どうやら本当に大丈夫らしい。

 ダークの視線に気づいた結理はダークに笑みを浮かべ、ダークはそれを確認すると、白竜に目を戻した。


『なるほどな。あの小娘がそうか』


 白竜の言葉に、ダークがぴくりと反応する。


『まさか人間の契約者とは……』

『僕が誰と契約しようと、君に指図される覚えはないけど』

『確かに』


 ダークの言葉を白竜は肯定する。


『だが、光属性である私ならまだしも、お前の闇に耐えられるとは思えんのだが』

『……』


 その点を契約後に気づいたとは言えないが、ダークの闇で結理が苦しんだことはないし、恐怖を抱いたような素振りも無かった。


『まさか、お前の影響じゃあるまいな?』

『その逆だね。僕の闇が影響を受け出しているから』


 理由はまだ分からないが、ダークの闇属性の魔法の威力は上がっている。

 もし理由を上げるとすれば、ダークの闇よりも結理の闇が強いという可能性だが、あくまでも予想だ。確証はない。


『それはつまり、力が奪われている、とは考えないのか?』


 それに対し、ダークは驚いたように目を見開いた。


『まさか……』

『無いとは言いきれないだろ?』


 確かに、無いとは言いきれない。

 ダークは戸惑うように、結理に目を向ける。


「ヘルプみたいだな」

「んー……」


 大翔の言葉に、違う気がする結理だが、何となくダークが訴えようとしているのは理解していた。


(さっきは契約者関係、今度は能力面で攻めてきたか)


 さて、ダークにどう返してやるべきか、と結理は思案する。


(否定しきれないのが、何とも言えないけど……)


 少なくとも、それは結理としても否定したい。

 意識してなのか無意識なのかは分からないが、ダークの力を奪っていたとして、何故弱くなると思われる竜と契約しないといけない。そんなデメリットがあると分かれば、契約はしなかったし、これから先ダークのことを考えれば、今すぐにでも契約解除するつもりだがーー結理は答えた。


「無いから」


 と。

 棗たちは笑みを浮かべ、ダークは固まった。


「もし、力を奪い奪われていたのなら、私かダークが気づく。それにーー」


 白竜が言ったのは、影響でしょ? とニヤリと笑みを浮かべて付け加える。


「あとさ、私が奪ったとしても、結局はダークに返るのよ?」


 ダークら『召喚札(サモンカード)』の召喚獣たちを喚ぶには、結理の魔力を使う。出現後も召喚者である結理から魔力供給はされ、出現時間分の魔力は随時供給される。

 今回は『召喚札』で喚びだしたわけではないのだが、今現在も結理からダークに魔力供給はされている。


「それでも信じられないのなら、そこの黒竜から相手代わるけど」

「なっ……!?」

『正気!?』


 結理の言葉に、棗たちとダークが驚いたように目を向ける。


『まさか、人間が竜に勝てるとでも思っているのか?』

「それはやり方次第ね。それに、プライド高い奴のプライドをへし折るのって、楽しみじゃない」

『それには同意だな』


 ふふふ、はははと互いに笑みを浮かべる結理と白竜。

 それを見た二人と一匹は思った。


 同類がいた、と。


「く、黒い……」


 そんな棗たちから少し離れた場所で、青年がそう呟いていた。


   ☆★☆   


『さて、お前たちは少しはまともに話せそうだからな。互いの勘違いを解くことから始めるか』


 地に降り立ちそう告げた白竜に対し、ダークも警戒しながら結理の後ろに降り立つ。


「勘違い、って言われてもねぇ」


 ゼルたちと一緒でどんなものが白竜の言う『勘違い』なのかを指摘してもらえるのならまだいいが、ここには『迷宮の砦』と竜二匹だけだ。

 しかも、この世界の常識が中途半端な『迷宮の砦』の面々である。唯一まともな人物といえば、騎士の青年ぐらいだろうが、一緒にいるのが常識を疑いたくなるような面々のため、彼の性格から推測するとあまり期待はできないだろう。


『なら聞くが、お前たちにとって、竜とは何だ』


 白竜の問いに、三人は顔を見合わせ、


「ファンタジーの象徴」


 と結理と大翔が同時に答え、棗は頭を抱えた。


『……悪とは思わんのか』

「何で?」

『何で、って……』


 今度は白竜が頭を抱える番だった。

 ちなみに、青年も頭を抱えているのだが、面々は気づいていない。


「全部が全部、悪い竜じゃないだろ?」

『……まあ、そうなんだが……』


 以前、自分を討伐しにきた冒険者たちよりも別のやりにくさを感じる白竜。


(こんな奴らだから黒竜と契約し、一緒にいられるのか?)


 白竜はそう思うと、はぁ、と溜め息を吐く。


「あれ? 何かバカにされた気分……」


 白竜が溜め息を吐くの見て、結理はそう言う。


「いや、どっちかっていうと呆れられたんだろ」

「鷹森って、唐突にバカになることあるよな」


 棗の言葉に乗じるように言われた言葉に、結理は大翔を睨みつける。

 実際、結理は頭良いくせに、バカっぽい(変な)ことを言い出す時がある。まあ、それは結理だけではなく、廉たちにも言えるのだが。


「悪いけど、否定も肯定もしないから」


 とにもかくにも、結理に自覚があるだけでもマシな方だろう。


『まあ何だ。お前たちがまともな常識を持ち合わせていないことは理解した』

「ちょっ、言っとくが、俺は常識を持ち合わせているつもりだぞ!?」


 どこか納得した様子の白竜に、棗が声を上げる。

 それを聞いた後輩二人は寂しそうな目を向ける。


「え……」

「先輩、俺たちの仲間かと思っていたのに……」

「お前らな……俺を何だと思っていやがる……!」


 そんな二人の言葉に、わなわなと震えながら尋ねる棗。

 それを見て、やりすぎたか? と視線でやりとりする結理と大翔。


「頼りになる先輩です」

「結理、そう言う問題じゃねーからな?」


 結理の言葉に、首を横に振りながら、違う、という棗。


「分かってますよ」


 微笑みながら頷く結理に、疑いの眼差しを向ける棗。大翔は大翔で分かっているのか、口を挟まない。


「少しからかいすぎました」


 ごめんなさい、と二人は頭を下げる。

 それを見て、溜め息を吐き、頭をがしがしと掻く棗。


「次は気をつけろよ?」


 そう言いながらも、後輩たちからからかわれて、結局は許してしまう棗も何だかんだで甘い。

 そんな三人を、微笑ましそうに青年とダークが見ていたのだがーー


『お前たち、幸せオーラを放つのはかまわんが、話が進まん。そろそろ現実を見てくれ』

「しっ……あ、はい」


 白竜の言葉にあっさり切り替える三人。


『で、だ。……どこまで話したっけな?』

「竜が悪いか云々」


 微妙な所だが、間違ってはいない。


『ああ、そうだったか。で、お前たちは本当に竜を悪く思ってないのだな?』

「だから、無いって」


 結理は苦笑いでそう返す。


「逆に聞くが、お前は町で暴れたりしたのか?」

『いや、それは無いが……』


 大翔の問いに、白竜は否定する。


「なら良いじゃねーか。お前のやったことは正当防衛なんだし」

『……』

「白竜は理不尽な攻撃から身を守るために、仕方なく反撃するしかなかったんだからさ、気にしなくていいんじゃない? 今回も返り討ちにしてくれるわ! 的な感じでさ」


 その説明に、何とも言えなさそうな視線を向ける棗と大翔。


「結理。一応、突っ込んでやるが、お前が今言った大半は正当防衛の意味のようなものだからな?」


 棗の言葉に、結理はそう? と首を傾げた。

 なお、彼女のために一言言うとすれば、別に突っ込みを期待して言ったわけではない。棗としても、分かっていながら『一応』と告げて、突っ込んだだけである。


「後はまあ……別に白竜が良い竜だったとしても、私たちには関係ないんだけどね」


 そこは同意しているらしい棗たちも頷く。


『……そうか』


 白竜は何度目になるのか、そっと息を吐く。


(それにしても、この人間の娘……)


 白竜は目を細めた。

 三人の話を聞けば聞くほど、結理について分からなくなった。頭が切れるかと思えば、そうでもなさそうな言動をする。


(何か隠しているようにも見えるが、一緒にいる二人や契約した黒竜は気づいているのか?)


 気づいていながら触れてないのか、気づかない振りをしているのか。はたまたただ単に気づいていないのか。

 その点については、今日知り合った白竜が知るはずもない。

 なお余談だが、可哀想なことに白竜は青年のことを視野に入れていない。

 それよりも白竜には気になることがあった。


(見るからに闇属性っぽいがーー)


 何かが違う気がする。

 『何か』の何か(・・)がなんなのかは分からないが、白竜は違うと感じていた。


(頼むから、結理(鷹森)の逆鱗に触れてくれるなよ)


 そんな黙り込んだ白竜を見て、大翔と棗はそう思う。

 結理は怒らせると怖い。

 そして、彼女は自分たちーーというよりは、廉たちを含めた面々に一線を引いている。

 初めて会ったときならまだしも、今でも時折距離感を感じていた。

 以前、廉にそのことで相談してみたのだが、それは仕方がないんだ、と困ったような悲しそうな顔で返された。


『あいつは他人を巻き込みたくないんだよ。俺たちが傷つくぐらいなら、自分が傷ついた方がマシだってな』

『……』

『前に朱波たちが、自分たちをもっと頼れ、って言ったんだが……分かっているのかいないのか、そんな気配が無いんだよ』


 長い付き合いだから、よく見ていたから分かるのか、本人は結理が近くにいない間は、何とも言えなさそうな顔で三人を見ていた。


「大翔」

「何ですか?」

「そろそろダークたちを帰らせるか?」

「そうですね……」


 白竜が黙り、自分たちが話す傍らで結理はダークと何か話している。


「先輩が何を心配しているのか分からなくはありませんが、白竜が変なことを言い出してダークが怒る、なんて状況、簡単に想像できますからね」


 棗が心配しているのは、おそらく今大翔が言ったこと。

 竜同士の争いに巻き込まれるつもりはないが、もし、巻き込まれそうになれば、そこは黒竜(ダーク)の契約者であり、主である結理に期待するしかないだろう。


『……契約だ』

「は?」


 白竜の言葉に結理は首を傾げ、棗たちは「今こいつ、何言った?」と空耳でも聞いたかのように、白竜に目を向ける。


『契約だ。そこの黒竜もしているんだろ?』

「……」


 白竜の問いに、結理は無言になり、ダークは不機嫌そうな顔をする。

 一方で、棗と大翔は「言っちゃったよ、この竜」と頭を抱えたり、呆れたような目を向ける。


「えっと、確かに私には黒竜がいるけど、何故、その結論に至ったの?」


 いきなりのことで戸惑っているらしい結理の言葉にダークが頷き、そこは棗たちも聞きたいことなので黙って聞くことを態度で示す。


『いろいろ気になった結果だ』

「……えー……」


 どういう結論の出し方だ。簡潔すぎるというか、雑である。


『ちゃんと説明して。最低でも彼女が分かるように』


 ダークも思ったことは同じだったらしい。

 自分が分からなくても良いから、契約者になりたいのなら、最低でも結理には理解させるべきだと思ったのだろう。


『……魔力が』

「魔力?」

『だだ漏れだ』

「えっと……?」


 言っていることは分からないでもないのだが、それは表向きで他に何か隠してないか? と棗は感じた。

 そして、それは結理も同じで納得できないらしく、表情には出てないものの雰囲気からは不満そうなのが理解できる。

 棗が大翔に目を移せば、頷かれる。


「ダーク。とりあえず戻れ」

「鷹森。お前もな」


 白竜を前にしながら、結理とダークに対し、棗と大翔は町に戻るように言う。


「は!? 私も?」


 言外に理由を教えてほしい、と告げる結理に棗は説明する。


「お前たちがいると、白竜が話しにくそうだし、第一、ダークだけ帰すわけにもいかないだろ」


 棗の言う通り、ダークだけ帰しては、何をするか分かったもんじゃない。


「でも……」


 困った顔で一度ダークを見上げた結理だが、溜め息を吐いて、首を左右に振る。


「任せてもいいんだよね?」

「ああ」

「だから安心しろ」


 結理としては相手が相手だけにあまり安心できないのだが、二人を信じて、その場から何度も振り返りながら去ろうとする。


「大丈夫だから、早く行け」


 しっしっ、と追い出すような仕草をしながら言う大翔にイラッと来たのか、結理は大翔に向けて、何かを投げる。


 その行方といえばーー


「痛ってぇ……」


 それはもう見事に大翔の頭にぶつかったーーというか、ぶつかる直前に気づき、上手くキャッチしたのだが、いくら身体強化されているとはいえ、痛いものは痛い。

 そんな大翔に苦笑いしながら、棗は尋ねる。


「何投げてきたんだ? 結理のやつ」

「さあ? でも、ビンみたいです」


 ビン? と首を傾げる棗に、大翔が投げられたものを拾って、小さな布に包まれていたいくつかを取り出し、ビンの中身を確認する。


「何か、緑色の液体だな」

「他にも赤や青いのもあるぞ」


 白竜そっちのけで二人が話していれば、それを見ていた白竜が呟く。


『……分かってないのか』

「は?」


 呟きが聞こえたらしい大翔が白竜の方を見る。


『あの人間の娘、お前たちが心配でそれを渡したのだろう』


 渡した、というより、投げつけられた、の方が正しいのだが、それよりも何故白竜が『結理が心配している』というのが分かったのかが、二人には疑問だった。


『体力回復薬に魔力回復薬、相手を状態異常にするものや逆に状態異常を治すものもある。それを見て察するなという方が無理だ』


 しかも私は竜だしな、と白竜は付け加えて説明する。


『それに、仮にも話をしたとはいえ、まだ敵である私の前で、そんな会話をしていられるとは随分余裕にも見えるがな』

「まさか。これでも用心はしている方だ。俺たちとしては、あんた相手に()り合いたくない。こういうのも何だが、こっちは一番の火力が不在になったからな」


 白竜の言葉に、薬類を大翔がやや慌てながら、バッグにしまい、棗も棗で、不安だ、と言いながら、大翔がバッグへ入れ終えるのを確認しつつ、いつ攻撃をされても良いように銃を手にする。


『……』

「……」


 少しの間、互いに睨み合うが、先に睨みつけるのを()めたのは白竜だった。

 警戒されているのを理解しつつ、そんな二人をつまらなそうに見ていた白竜だが、見ている方と見られている方では、やはり違うらしい。


(嘗められてる? いや、結理がいなくなる前後でも、それは変わらないように見えるが……)


 しかも、ご丁寧に薬の種類まで教えてきたぐらいだ。

 何か裏があると思ってもいいはずだ、と棗は判断したのだが、実際のところ白竜にやる気がないだけである。

 そもそも光属性を持つ白竜は、闇属性を持つ黒竜とは相容れないのだが、それは対立する別の白竜と別の黒竜の問題であり、全部が全部、対立関係にあるわけではない。その例がこの白竜とダークなのだが、白竜と黒竜は対立関係にあると、思い込んだ人間たち同様、そう判断した棗たちも最初はダークとその契約者である結理が危ないと思い、遠ざけようとしていたのだ。

 では何故、やる気がない白竜の討伐が依頼として出されていたのか。

 これも簡単なことで、やる気がないくせに、それなりに強いためだ。

 いや、いつもやる気がないわけではなく、やるときはやるのだが、基本的に寝食以外は暇なので、やる気がないように見えているのだ(そのため、戦闘では張り切っている方なのだが、そう見えないのは気のせいではない)。

 もし仮に契約者が現れれば、白竜のこのだらしなさはどうにかなるのだろうが、果たしてそう上手く行くかは疑問である。


「さて、微妙に話が逸れたわけだが……お前の契約したいという理由が本当の理由だとは思えなくってな」

「しかも、鷹森に嘘をついた。あいつがこの場から離れれば、話してもらえるとこっちは踏んだんだが」

『……なるほど。言いたいことは理解した』


 棗と大翔の言葉に、白竜はそう返す。


「で、本当の理由は?」

『その前に確認したい。彼女の属性は闇か?』


 黒竜の時も言ったが、人間で闇属性は珍しい。


「メインはな」

『メイン……?』


 怪訝そうな白竜に、棗は答える。


「あいつ、というか俺たちはやろうと思えば、全属性を使用することができるからな」

『だとしても、闇属性というのは……』


 納得できないらしい白竜に、棗と大翔は顔を見合わせる。


(全属性使えるというのなら、納得はできるが、それでも……)


 やはり、腑に落ちない。

 白竜は自分の目で見たものは信じる方だ。

 だから、白竜は疑問でしかなかった。


『いや、闇ならいいんだ。全て使えるのなら、問題ない』


 そして、そう思うことにした。


「何だ、属性を気にしていたのか」

「なら、鷹森の前で答えても良かったんじゃねーの?」

『いや、お前たちがあの娘を遠ざけてくれて助かった。あの娘に聞かせると、変なことまで詮索しそうだからな』


 ああ~、と思わず納得する二人。

 確かに結理なら白竜の言う通り、詮索するだろう。


「さて、後はあいつにどう説明するかだな」

「普通に説明すればいいんじゃないですか? バカと天才は紙一重ですし」


 思わず無言になる一人と一匹。


(本人がいたらぶっ飛ばされるか無言のプレッシャーをかけられるぞ)


 と思いつつ、軽く頭を振り、結理たちを連れてくる旨を白竜に伝えれば、


「とりあえず、あいつらをもう一度連れてくるから、その時に契約してくれ」

『分かった。それにしても、苦労人なんだな』

「竜にまでそう見られるのか……」


 がっくりと項垂(うなだ)れる棗だった。



~同時刻、とある傍観者


騎士の青年「あれ? まさかまた忘れられてる……?」


   ☆★☆   


読了、ありがとうございます


誤字脱字報告、お願いします



今回は白竜との対峙、というか、話し合い



次回、『白と黒』


旅を再開させた一行だが、その空気は明るくない

それを払拭しようとする結理だが……



それでは、また次回



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