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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:異世界召喚、鷹森結理編
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第三十四話:合同依頼


「酷いじゃないですかぁ」


 青年が半泣きになりながら訴える。昨日の置いてきぼりが余程嫌だったらしい。


「ええい、泣きつくな。人の目が痛いじゃねーか!」


 棗はそう叫ぶ。

 周囲からは、何あれ、とこそこそと話し合う声がする。


「何か依頼が多くない?」

「まあ、二~三日も掲示板(リスト)ががら空きだったからな。そう見えるのも無理ないだろ」


 そんな棗たちから目を逸らし、依頼リストを見ながらそんな会話をする結理と大翔。

 後ろを振り向かないのは、いや、振り向けないのは、棗が二人へ恨めしそうな目を向けているからだ。


「んなこと、あるんだな」

「え……」

「ゼルさん!?」


 棗の声ではない背後からの声に、二人は振り向くと、よぉ、と声の主ーーゼルは軽く手を挙げる。


「依頼か何かですか?」

「ちょっとした遠出だ。そんで、お前ら三人を見つけたんだが……」

「そうだったんですか」


 結理の言葉にゼルが棗の状態に苦笑いしながら説明すれば、大翔が棗と青年を離しながら、納得したように頷く。


「で、相談なんだが、俺たちと『合同依頼』受けねぇか?」

「『合同依頼』ですか?」

「ああ。中でも『合同討伐』っていう部類の奴だがな」

「『合同討伐』……」


 ゼルの説明で思い出すのは、数日前に見た廉たちとラウラたちの共闘だった。


(つまり、廉たちがやっていたようなものか)


 おそらく似たようなものだろう、と結理が思っていると、棗がゼルに尋ねる。


「一応、聞きますが、何を討伐するんですか?」

「竜だ」

「竜?」


 三人は首を傾げる。

 元の世界には架空の存在だったので、いまいちピンと来ていないが、漫画や小説に出てくるようなイメージなのだろう。


「何でも、この近くに黒竜が居るらしくて、『討伐依頼』として出されたらしい」

「黒竜……」


 説明を聞いた結理の呟きに、ゼルは頷く。


「まあ、無理にとは言わないが、一応返事は欲しいから、ギルドのねーちゃんに言っておいてくれ」

「は、はぁ……」


 何とも言えない返事をすれば、棗が結理に呼びかける。


「結理、結理」

「何?」

「周囲を見てみろ」


 そう言われ、周囲を見てみればーー


「あの『壮大な(グランド・)創造者たち(クリエイターズ)』と話してたぞ」

「何者だ?」


 そう話し合う冒険者たちに、結理は「あ……」とやってしまった、と言いたそうな顔をする。


「とりあえず、一旦、場所を移して相談しろ。返事はいつでもいいから」


 苦笑いしながら、そう促すゼルに、四人は頷くのだった。


   ☆★☆   


 ゼルの話を検討するために、四人はギルドにあるカフェに来ていた。


「にしても、黒竜退治ね。どう思う?」

「どうって、お前はどうなんだよ。そういうのは、お前の方が早いだろ」


 結理の問いに、棗がそう返す。


「私、そんな噂聞かないわよ。本でも黒竜の住処は人里近くとは書いてなかったし」


 そう言いながら、上を向き、うーんと唸る。


「一回、ちゃんと調べた方が良いのかな?」

「調べるにしても、どうやって調べるんだよ。この町には図書館みたいな場所、無いだろ」


 大翔に言われ、そうなんだよねぇ、と結理は返す。


「あるとすれば、ギルドとその向かいの建物ぐらいだしな」


 棗の言葉に、本当にどうしようか、と考える。


「とりあえず、状況も状況だから、ゼルさんに返事しに行こうか」

「返事するのはいいが、何て言うんだよ。引き受けるつもりか?」

「それしかないだろ。この視線をどうにかしたいし」


 結理の言葉に何て言うのかを尋ねる大翔に、棗は周囲について告げる。

 ゼルと別れ、カフェに移動したとはいえ、同じギルド内のためか、視線が途絶えたわけではない。もちろん、気にせず話してはいたのだが、こうもずっと見られていては落ち着かないし、気になるものは気になる。

 一緒に移動したはずの青年も、視線のせいか先程から一言も喋っていない。


「それじゃあ、引き受ける、ということで」


 そう纏めれば、二人も頷く。

 とにもかくにも、この視線から逃げたいというのが、本音だった。


   ☆★☆   


「おお、引き受けてくれるか!」

「……お役に立てれば良いんですがね」


 逃げるようにしてゼルたち(・・)の元へたどり着く。

 引き受けると告げれば、嬉しそうな笑みを浮かべるゼルを余所に、やや()を空けて、結理は返す。


「いや、お前たちなら大丈夫だろ」

「そうよ~? 貴女たちの実力は誰が何と言おうと、私たちが認めてるんだから~」

「あ、ありがとうございます……」


 ゼルとその隣にいた女性に言われ、思わず礼を言う。

 女性の名前はアンネリーゼ・ヴィーヴァ(愛称はアンリ)といい、彼女も『壮大な(グランド・)創造者たち(クリエイターズ)』の一員で、やはりというべきかかなりの実力者でもある。間延びした話し方が特徴ではあるが、見た目が美女なので、それを利用することもある。


「なら早速、作戦会議だな」


 首を傾げる四人に、相手は「仮にも竜だからね~」とアンネリーゼは言う。

 移動を始めたゼルに慌てて付いて行く。


「それにしても~、ユーリちゃん」

「何ですか?」


 移動している最中に、アンネリーゼが声を掛ける。


「誰が本命~?」

「っ、げほっげほっ、何いきなり言い出してるんですか!?」


 アンネリーゼの質問に、飲み物を口にしていたため、質問内容に驚いた結理は盛大に噎せた。


「大丈夫~?」

「いや、大丈夫ですけど……」


 苦笑いしながら尋ねるアンネリーゼに、大丈夫、と返す結理だが、何やってんだ、と前から呆れたような視線を向けられた。


「で~?」

「で? って、何ですか」

「だから答えよ~」


 アンネリーゼは尋ねる。

 以前、似たようなことを聞いてきたラウラと何となく似ているな、と思いながら、いませんよ、と結理は返す。


「ユーリちゃん。いい人~、紹介してあげようか~?」

「いや、そこまでしてもらうわけには……」


 どこか悲しそうに言うアンネリーゼの厚意はありがたいが、今の所、結理としては必要ない。


 移動し終わり、席に着くと、作戦会議は始まった。


「さて、相手は仮にも竜だ。ただ攻撃するだけでは意味がないと、俺は思う」

「そうよね~。きちんとした装備じゃないと~、返り討ちに遭う危険性が高いもの~」


 ゼルの言葉に、アンネリーゼは同意するように頷いた。


「あの、いくつか質問、いいですか?」

「ああ。……だが、眼鏡なんかしてたか?」


 軽く手を挙げ、質問したい、と告げる結理に、ゼルは許可しながらも不思議そうに返す。アンネリーゼも首を傾げている。

 結理は今ーー棗たちも見慣れないーー、眼鏡を掛けていた。


「ああ、これは必要な情報を集めるときに使うんですよ」


 魔法が一般的なこの世界で、様々な物を作ってきた結理だが、中でも力作同然のものが、今使っているこの眼鏡である。人間の記憶力には限界があるため、覚えきれない分は別の何かに保管する必要があり、その別の何かの一つがこの眼鏡なのだ。

 もちろん、作ってから使ったのはテスト時の一度だけなので、棗たちが見慣れないのも無理はない。


「なるほどな」


 納得したらしいゼルとアンネリーゼに、質問しますね、と言いながら、結理は質問する。


 最初に尋ねたのは、黒竜の存在についてだった。


「私たち、約五日はこの町にいましたが、黒竜の噂なんて、聞かなかったんですが」

「悪いが、それについて、俺たちには何とも言えない」

「そうね~。私たちが見たときには~、すでに掲示板にあったし~」


 ゼルとアンネリーゼはそう返す。


「依頼主って、誰なんですか?」

「実はその記載がないんだよなぁ。受付のねーちゃんに聞いても、個人情報だから、って話してくれなかったんだよ。本当の所は匿名で来たらしいんだがな」


 四人が良いのか、そんなこと言って、と思っていれば、ゼルはいい笑顔を浮かべて言う。


「お前らはどちらかといえば、他人に話さないタイプだろ?」


 秘密を知れば、他人に話したくはなるが、結理たちとしては、異世界人という爆弾を抱えたまま生活しており、ゼルたちが知らないとはいえ、異世界人という事実を(自身について)話していない(話さない)という事から考えれば、他人には話さないタイプだと思われても仕方ない。


「それに、嬢ちゃんは特に警戒するだろ?」

「それについては否定しません」


 初対面相手に無駄に警戒するのもどうかと思うが、警戒しなさすぎるのもどうかと思う。


「それで~、他に質問はあるの~?」

「そうですね……」


 少し考える。


「相手が竜なら、一応、道具や攻撃方法は決めてあるんですよね?」

「無いことはないが?」


 棗が尋ねれば、何か気になったのか、と言いたげにゼルは返す。


「接近戦にするにしても、牙や爪で反撃されるだろうし、遠距離戦だとブレスで攻撃されることを想定するなら、やっぱり防御力は必要ですよね?」

「そうだな」

「俺たちはどちらかといえば、火力重視タイプだからなぁ」


 棗の確認にゼルが頷けば、大翔が防御が苦手だ、と『迷宮の砦(チーム)』の短所を言う。


「私は~出来ないこともないけど~、今回に関しては~ゼルが攻撃担当だからね~」

「『迷宮の砦(うち)』で防御担当となるなら……」


 アンネリーゼに言われ、棗と大翔は唸る。

 今は大翔が前衛で結理が補佐、棗が援護しているが、基本的に結理が自衛と棗の一部の防御を行っている。

 明らかに結理が防御担当のようにも思えるが、火力面で見れば、結理の方が明らかに高い。


「……黒竜って、黒い竜だから、黒竜なんですよね?」

「そうね~」


 思案する男共を余所に、少しの間黙っていた結理が尋ねれば、アンネリーゼは頷く。


「黒竜って、今はどこにいるんですか?」

「町の外に森があるんだけど~、その森に洞穴があって~、その中にいるみたいなのよ~」


 それを聞き、再び黙り込む結理。


「……森はともかく、洞穴から出てこないと話になりませんよね?」

「まあね~」


 アンネリーゼは苦笑した。

 結理の言う通り、洞穴に入られたままでは、こちらも思うようには動けない。それなら、外に出すしかないのだが、どうやって外に出すべきか。


「何か無いのか?」

「何かって……洞穴の規模も分からないし、対応のしようがないから無理よ」


 持っている道具を使うというのなら、なおさらだ。道具が持つ力が違えば、威力も違う。作ろうと思えば作れなくもないが、相手はあくまでも生き物であり、凶暴で危険だと判断すれば、黒竜には悪いが退治するしかない。


 ーーそもそも、その退治方法を考えているのだが。


「なら、見に行く~?」


 アンネリーゼの台詞に、え、と思わず彼女を見る。


「おい、もし行くなら、装備ぐらいちゃんとしておけよ? 装備ミスで遭遇なんて最悪だからな」

「ゼル、冗談でもそうじゃなくっても~今のは(たち)が悪いわよ~」


 ゼルの忠告に、アンネリーゼがそう返す。


「装備の件は分かってます。場所だけ教えてもらえればひとっ走りしてきますが」

「でも~、あの辺って~凶暴なモンスターもいるのよね~」

「アンリ、お前こそ(たち)(わり)ぃよ」


 結理の言葉に、アンネリーゼが冗談っぽく言うが、先程の仕返しっぽく、ゼルがそう告げる。


「……もしかして、高ランクレベル?」


 二人の会話からすれば、おそらくそうなのだろう。


「ランクは分からないけど~、一人で行くのは薦めたくはないわね~」

「…………」


 アンネリーゼの言葉に結理は思案する。


「あ、あの、いっそのこと、装備整えて、そのまま退治する、というのはダメなんですか?」


 今まで黙っていた青年に言われ、全員彼を見る。

 目を向けられた青年はおろおろとしているが、五人は思案しーー


「作戦無しでぶっつけ本番、ね」


 最終的に作戦なんて破綻するのだから、最初から有って無いようなものだ。


「……それも、ありかもね~」


 アンネリーゼも同意するように、そう告げる。


「よし、とっとと装備整えて向かうか」

「え、決定事項なんですか?」


 あっさりと黒竜のいる場所へ向かうことを決めたゼルに、そんなあっさりと、と言いたそうに言う大翔。

 今までの作戦会議が無駄になるのは分かったが、このままだらだらと続けていても時間の問題だ。


「そうと決まれば、行動だ! 五分後にギルド前に集合な」


 そう言うと、ゼルはイスから立ち上がり、行ってしまった。アンネリーゼも彼を見て、それじゃ、と立ち上がり、ゼルを追いかけるようにして去っていった。

 そして、置いてけぼりを食らった四人は、というとーー


「はぁぁああ……」


 盛大に溜め息を吐いていた。


「何つー“思い立ったが吉日”的行動……」

「そこは普通に行動力がありすぎ、でいいじゃない……」


 大翔の言葉に、顎を机に載せながら、結理はそう返す。


「そろそろ俺たちも移動しないと用意できない所か、遅刻するぞ」


 棗にそう言われ、ギルドの一角で発売していた薬草類を買う結理。


「何に使うんだ?」

「使い道は決めてないけど、無いよりはマシでしょ」


 結理の買ってきた薬草を見ながら、大翔がなるほど、と頷く。


「皆さんは竜と戦った経験は?」

「あるわけないじゃないですか」

「今回が初めてだからな」

「むしろ、ファンタジーの定番だから、わくわくしてる部分もあるけど」


 青年の問いに、結理、棗、大翔の順に返す。ファンタジー? と、青年は首を傾げていたが、三人は答えるつもりはない。


「あ、みんな~」


 四人に気づいたらしいアンネリーゼが声を掛けてくる。


「準備できた~?」

「あはは……」


 アンネリーゼの問いに、四人は苦笑する。


「出来てないなら今のうちにしてきなよ~? ゼルも鍛冶屋さんで剣打ってもらってるし~」


 それって、そうとう時間が掛かるような、と思っていれば、アンネリーゼは笑って説明した。


「この町にね~、私たちが贔屓にしている鍛冶職人がいるんだけど~、親方にゼルの剣がダメになってることを指摘されちゃって~」

「それで、打ってもらっている、と」


 アンネリーゼは頷いた。

 剣を打っているとなると(種類にもよるが)、確実に一~二時間くらいは待たされることが予想できる。


「先輩、二人を連れて装備を整えてきてください」

「お前はどうするんだ?」


 結理の言葉に棗は尋ねる。


「私はそれなりに使える武器もありますけど、先輩は短刀や短剣の持ち数が少ないじゃないですか」

「まあなぁ」

「剣やナイフの類なら大翔や騎士さんも一緒の方が、どんなものがいいのか分かるでしょうし」


 だから、このメンバーか、と棗は納得する。

 結理の場合、下手をすれば短剣かナイフで相手の攻撃も平気で防ぐ上に、最終手段として、切り札と『召喚札(サモンカード)』による召喚魔法がある。

 やはり、結理は敵に回したくない実力者、ではないのかと棗は思う。

 黒竜がどんな奴かは知らないが、せめて、彼女がまた一人で相手を引き受けようとする状況にならないことを祈るしかない。



読了、ありがとうございます


誤字脱字報告、お願いします



今回は『壮大な創造者たち』のゼルと女性メンバーであるアンネリーゼが登場しました


ファンタジーといえば竜です



次回は『結理と黒竜』


依頼内容にある黒竜と対峙する六人

何故、人里近くに来たのか

そして、黒竜はどうなるのか……



それでは、また次回



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