第三十二話:消失した依頼たち
「何これ……」
「依頼が、一つもない……?」
「どういうことだ……?」
翌朝、ギルドに来た一行は、呆然としていた。
いや、三人だけではなく、他の冒険者たちも、目の前の状況に困惑していた。
依頼リストに依頼が一つもなく、ギルドへ抗議している者もいたが、それでも、一つもないのは有り得なかった。
「申し訳ありません。私たちギルドの方でも、訳が分からない状態で、調査をしている最中なのです」
そう告げる受付嬢に、冒険者たちは残っている依頼が何か無いのか、と依頼リストの方へ行くが、やはり何も無いらしく、諦めて帰る者もいた。
「…………」
「何か知らないのか?」
「知らないわよ」
そんな状況を見ながら、大翔が結理に尋ねるが、結理は首を横に振る。
「情報収集はお前の専売特許だろ?」
「ずっと一緒に居たのに、調べる時間があると思う? さすがの私でも無理よ」
確かに、結理はグランドライトを出てから大翔、棗、青年の三人と一緒だった。しかも、昨日は足が痛くて動けなかったのだ。その上、このことを今知ったので、調べられるはずもない。
「じゃあ、今回ばかりはお手上げか」
「そうでもないよ」
「は?」
仕方ない、と言いたそうな棗に、結理はそれを否定すると、不思議そうな三人に、結理は指を一本ずつ立てて、説明する。
「選択肢は二つ。他の街に行って、依頼を受けるか、この件を調べるか。どうする?」
「普通は前者だよな」
ふむ、と考えながら、大翔がそう言う。
「後者は私が引き受けても良いけど、推理はお願いしますよ。先輩」
「お前が情報を収集し、俺たちが推理。良いよ。引き受けてやる」
決定事項かよ、と思いながら、棗は了解の意を示す。
「ありがとうございます。では早速、情報収集に行ってきます」
「ああ、行ってこい」
三人に見送られ、結理は情報を集めるために歩き出した。
「さて、俺たちも情報収集するか」
「どこから行きますか?」
大翔に尋ねられ、そうだな、と棗は思案する。
「とりあえず、事件現場からだな」
☆★☆
「え、まさか調べているんですか?」
今朝から今までの状況を尋ねれば、受付嬢に驚かれた。
「ちょっと気になったことがあったので」
「そうですか……」
棗の言葉に、考える素振りを見せながら受付嬢は言う。
「朝担当のギルド職員たちは、基本的に冒険者の方たちよりも早起きなんです。今日はたまたま私が朝担当で一番最初に来たのですが、すでに依頼リストには依頼が一つもありませんでした」
「朝担当、ということは、昼や夜の担当もいる、と?」
「丸一日やってると寝不足になりますから」
そりゃそうだ、と三人は思う。
「夜担当の人に話は?」
「もちろん、聞きました。でも、誰も依頼リストにある依頼全て持ち去るなど、面倒なことしませんよ」
確かに、と思う。中には高ランクーーAランクの依頼もある。持ち去ったと仮定しても、実力が無ければ、対処など出来るわけがない。
「そうですよね。お仕事中邪魔して済みませんでした」
「いえ、何か気付いたら教えてください。情報はあった方がいいですから」
「分かりました」
そう返して、ギルドを出る。
「良いんですか? このまま出てきてしまいましたが」
「いいんだよ。どうせ得られたとしても、鷹森が無駄にたくさん拾ってくるしな」
「大翔……」
青年へ大翔が返す言葉に、棗は苦笑いした。
☆★☆
タッタッタッ、と町の地面を走る。
「ハァッ、ハァッ……」
壁を曲がり、気配を消す。
「チッ、どこへ行きやがった。あのアマ!」
感じの悪そうな男が舌打ちしながら周囲を見回す。
だが、いないと判断したのか、男は引き返していった。
念のため、気配を追えば、近くに男の気配は無く、本当に去ったらしい。
「…………はぁ」
安堵の息を吐く。
今手元にある情報をギルドに持って行くか否か。
「それよりも、姿戻さないとね」
金髪碧眼だった容姿を、元の黒髪黒眼に戻す。
こうなることを予想し、念のため姿を変えて調べてみれば、予想通り、自分の後を追ってくる者がいるではないか。
「というか、潜入とか苦手なんだよなぁ」
そう言いながら、大通りへ出る。
「さて、合流しますか」
三人が待っているだろうから、と結理は駆け出した。
☆★☆
「今までの情報から行くと、ギルドの依頼は全てこの町にある別の、ギルドのような建物にあり、ギルドの方では依頼が全く無い状態になった、と」
合流した結理から聞いた情報をそう纏めた棗に、結理は頷く。
「しかも、ギルドとそのギルドらしき建物の関係者が対立していたらしいから、多分、それも関わってると思う」
「うーん……」
「すげぇ、とばっちり」
結理の言葉に青年が唸り、大翔の感情の籠もった言い分に、三人で苦笑いする。
「とりあえず、自警団に連絡は行ってるみたいだけど、自警団の一部が騎士の人らしくて、ギルド関係者や冒険者たちが訴えても、聞く耳を持たなかったらしいよ」
そこで思い出すのは、グランドライトを出る際に門番をしていた男のことだ。今はどうしているのかは分からないが、今回の件には関係ない。
「騎士って、みんなそうなのか?」
「いや、この騎士さんみたいな人も居るから、そうとは限らないでしょ」
訝る大翔に、結理は否定しながら青年を例にあげる。
確かに、と青年に目を向けながら、納得したらしい大翔を確認しつつ、結理は続ける。
「で、その話を無視した騎士だけど、エリート志向で左遷されたと思っている上に、生まれが貴族だからか、平民や冒険者たちを見下しているらしく、同僚からも嫌われてるみたい」
それを聞けば、ますます門番をしていた男に似ている。
「どうすれば、そこまで調べられるんだよ……」
「企業秘密」
「企業でも何でもないだろうが」
情報を聞き終えた棗の問いに、結理は答えるも、答える気はないと判断したらしい棗は溜め息を吐く。
「それで、話を戻すけど、ここからが重要」
「何だ?」
結理の言葉に、面々が目を向ける。
「聖騎士たちが調査に来るかもしれない」
「は? 聖騎士?」
「聖騎士は僕のような普通の騎士ではなく、王族を護衛することもある騎士で、各騎士団団長や副団長が当てはまります」
「また、お偉いさんが出てくるもんだな……」
怪訝する大翔に、青年が説明するが、その説明に頭を抱えた。
「それで、その率いてくるリーダーが、また問題なの」
「誰なんだ?」
「王国騎士団副団長」
「…………え?」
「副団長?」
結理の上げた名前に、青年はポカンとし、棗が訝る。
この問題は騎士団の副団長が出てくるような大きな問題ではない。もし、何かの事情で立ち寄ったならまだしも、調査に副団長が来るというのはただ事ではない。
(もしかして、この件の裏には、騎士団の副団長が動かないといけないことでもあったのか?)
それなら納得できなくもないがーー……
「でもまあ、王宮近衛騎士団じゃなくて良かったじゃない。ありえないけど」
「そうなのか?」
結理の言葉に、大翔が尋ねる。
「王宮近衛騎士団は王族の護衛担当のようなものですし、王国騎士団より腕が立つ者も多くいます。基本的に護衛のため、王族から離れることは無いので、城下に来ることは滅多に無いですよ」
「とにかく、その件は後回しだな。今は依頼の方だ」
聖騎士や副団長云々はともかく、依頼の件をどうにかしなければ、自分たちーーいや、冒険者たちの生活が危うくなり、大勢の者が路頭に迷うことになる。特に、この町を拠点としている冒険者たちにとっては緊急事態なのだ。
「ですね。その前に昼食にしません? 頭を使ったせいか、お腹空きました」
結理の言葉にそうだな、と同意しながらも、遅い昼食を摂る四人だった。
そして、王国騎士団副団長ことスタッカート・ナルフェルが町に来たのは、翌日だった。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
さて、今回はギルドから依頼が消えるという事件が発生しました
そして、名前のみ登場した王国騎士団副団長さん
この件に彼がどう関わるのかは次で分かります
次回は『真実を』
事件について調べる一行
そして、副団長と接触するが……
それでは、また次回




