第三十話:騎士と旅を
「……卵?」
「卵だな」
「卵だ」
宿を出て、王都に向かう三人が見たのは、いかにも手作り感溢れる巨大な卵の形をした物体だった。
「…………」
「…………」
「…………」
思わず遠い目をして卵(仮)を見つめる三人。
というか、何となく理由は思い当たるので、放置するか否か。
「あと少しで、町に到着出来るけど」
「…………」
「…………」
どうする? と尋ねる結理に、無言で卵(仮)を見る二人。
「燃やして卵焼きにでもする?」
「お前って、時々残酷だよな」
卵焼きじゃなくて、他のものでも良いけど、という結理に、分かって言っているだろう、と棗がツッコむ。
「おい、鷹森。卵焼きは燃やすんじゃなくて、焼くんだろうが」
「あ、そっか」
「そっか、じゃねーよ。そもそも大翔もツッコみ所が違うし、燃やす・焼くの違いなんざ、今は心底どうでもいい」
大翔の指摘に、納得したかのような返事をする結理に、棗はとにかくツッコんだ。
(そろそろ頭痛薬と胃薬が欲しい……)
ボケまくる二人に、ツッコみ続ける棗の気力は減り続けていた。
そして、早く合流して、同じツッコみ役である朱波に共感してもらいたかった。ここまで来ると切実である。
「という訳で、出てきてください。出てこないと斬りますよ?」
「いや、意味は合ってるけど違うから!」
卵(仮)に出てこい、と脅迫じみた言い方をする結理に、字が絶対に違う! と、棗は再度ツッコむ。
「……十……九……」
「何か勝手にカウント始めたな」
大翔が冷静にそう告げる。
「……はーち……なーな……ろーく……」
「…………」
「……さーん……いーち」
「飛ばした!?」
無言で見守っていたら、数を飛ばし、ゼロにした。
「はい、ゼロ。ということで、斬らせてもらいまーす」
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて卵(仮)の中から飛び出してきた人物は、上を見上げたまま固まる。
一方で、腕を振り上げたまま、結理は悪い顔をしていた。
「鷹森。お前、すっげー顔してるぞ?」
「悪い顔でしょ? 大丈夫。拷問なんてしないから」
何ともいえない表情で言う大翔に、分かってるから、と笑顔で返す。
それでも、何か企んでいるように見えるのは気のせいか。
「いや、笑顔で言われても、俺たちに説得力も無いからな!?」
「知ってるわよ。んで、騎士さん?」
「は、はい!」
何度目かになる棗のツッコミを適当にあしらいながら、結理が卵(仮)から出てきたーーグランドライトから三人を追ってきた人物、騎士の青年に話しかければ、青年は慌てて返事をする。
「様子からすれば、私たちを捜しに来たんでしょ。ご苦労様ね」
「えっと……?」
苦笑いして言えば、首を傾げられる。
捜し主はおそらく廉たちだ。しかも、騎士であろう青年が動いているのを見ると、騎士団自体が三人を捜しているのだと分かる。
「あと、尾行はもう少し上手くなってね。グランドライト出た時からバレバレだったから」
「気付いていたんですか……」
肩を落とす青年に、どうしたものか、と結理は大翔と棗に尋ねる。
「どうせ目的地一緒だし、この人連れて行きたいけど……どう?」
「別に良いんじゃね? 見られるなら近くからの方が良いし」
「下手な尾行で、依頼の時に足手まといになられても困るしな」
二人の返答を聞き、結理は苦笑いする。
「先輩……」
「それは……」
(その状況になりかけてる今のことですよね?)
大翔も棗に目を向けながら、そう思う。
「何だ?」
「何でもありません」
そんな結理と大翔に疑問を持ったのか、尋ねる棗だが、結理は何でもない、と返すのだった。
☆★☆
止めていた足を動かし、歩くのを再開した一行だが、ふと気になった結理は尋ねる。
「ところで騎士さん」
「何ですか?」
「ここから王都まではどれくらいですか?」
その問いに、青年はそうですね、と思案する。
「僕の場合だと、三日って所ですね」
「三日? ってことは……」
「三日なら良い方じゃない。それで、依頼を受けながら進むとなると……一週間後ぐらいには王都に着いてる計算になるかな?」
今のペースで向かえば、それくらいにはなるだろう。
「途中で廉たちと遭遇したりしてな」
笑みを浮かべ、からかうかのように大翔がそう言う。
「会ったとしても、私が変化させるわよ?」
「けど、騎士はごまかせんだろ」
「だよねー。今は服装までは変えれないし」
青年を示す棗に、結理は服を見ながらそう返す。
後々には服装を変えられるようにはなりたいが、今の状態では無理だ。今の状態で出来るのはせいぜい髪色と目の色を変えるぐらいだ。
(というか、目の色が変えられるのに、服は無理って……)
魔力か実力が原因なのかは分からないが、生成魔法で服は作れたのだから、可能ではないのだろう。今三人が着ている服も布から生成魔法で作ったものだ。
(目指せ、“魔装”)
魔装とは、読んで時のごとく、魔法で装備することであり、使いこなせれば、服装も自由に変化させられる。さらに、着替え時間を短くし、戦闘時にはパターンも広げることが可能となる。
「でも、出来ないわけじゃないだろ?」
「まあね。それでも、練習は必要だろうけど」
結理は頷く。
たとえ“魔装”が出来るようになっても、切り替えが出来なくては意味がない。少なくとも、結理の場合は三パターンぐらい必要なため、修得するなら早い方が良いかな、と結理は思う。
「そろそろ昼食にするか」
時間を見た棗がそう言う。
「もうそんな時間?」
「何食べる?」
もう昼か、という大翔に、何にするか尋ねる結理。町を出る前に、材料と回復系の道具だけは大量に買い込んでおいたのだ。
「簡単なものでいい」
「サンドイッチ系?」
「任せる」
最終的にそれかよ、とツッコみながらも、考える。
夜までには町に着いておきたいため、やはり軽食の方がいいだろう、と思いながら、結理は昼食の用意をする。
「ほい」
「結局サンドイッチかよ」
「文句言わない。食器使ってないんだからいいでしょ」
手渡されたサンドイッチを見て、文句を言う大翔に、洗うものが少ないからいいだろう、と結理は返す。
サンドイッチを作るのに使ったのは、ナイフと小さいまな板のみなので、汚れた部分は拭いておく。町か川があれば、そこに立ち寄り、洗えば、また使うことが出来る。
実際、水属性をメインとする大翔が洗い物担当と化してるが、その大半は家事担当の結理が行っている(なお、棗は火起こし担当)。
「騎士さん、食べないんですか?」
サンドイッチを手にし、見つめていた青年に結理が尋ねる。
「……! い、いえ、食べます!」
慌てて食べる青年に苦笑しながら、結理も自分の分を食べる。
その後、五分くらい休憩し、一行は町に向け、歩き出したのだった。
☆★☆
「グランドライトといい、この町といい、いい加減に『街』に変えるべきだと、私は思うんだ」
「何を言ってるんだ、お前は」
何気なく言った結理に、棗がツッコむ。
あの後、町についた一行は、その大きさに目を大きく見開いた。
グランドライトよりは狭いだろうが、ギルドや市場もあり、住宅もある。
そんな町全体を見た感想が、結理の言葉だった。
青年は苦笑するも、この後はどうしますか? と三人に尋ねる。
「いや、それはこっちの質問だから」
もちろん、三人がするのは宿探しだが、問題は青年だった。宿によっては泊まる人数で値段が変わる所もある。現時点で、人数は四人だが、男女比は三:一だ。仮に二部屋取ったとしても、誰かが結理と同室になる。
「三人部屋と一人部屋でいいじゃない」
「お前、それ本気か?」
「それなら絶対、四人部屋の方が安いぞ?」
結理の言葉に、大翔と棗が反論する。
「こうなったら、もう宿次第ね」
「だな」
「さすがに一人一部屋はキツそうだからな」
良さそうな宿の前に立ち、そう結論づける三人。
「あ、あの、僕は別の場所に泊まるので……って、あれ?」
青年の言葉に、三人が目を向けていたので、青年は何かマズかったか? と不思議そうな顔をする。
「つか、前の町の時はどうしてたんだよ」
「この前も同じようにして、別の場所に泊まりましたよ?」
ダメでしたか? と首を傾げる青年に、三人は溜め息を吐く。
ダメではないし、そもそも前の町では青年が勝手に三人をストーキングしてたため、別々だっただけで、現在行動を共にしている今、別々に泊まる意味も無いわけで。
「なるほどな。いや、別に責めているわけではないんだがーー」
「じゃ、三人分でいいよね?」
「ああ」
「ーーって、ちょっと待て」
棗が青年へ話している側で、勝手に話を進める二人に、棗はストップを掛ける。
「何ですか?」
「何ですか、じゃねーよ。何で三人分だって決まってるんだよ」
「だって、騎士さん。別の所に泊まるんですよね? なら、支払う分は私たち三人分じゃないですか」
結理の説明に、棗は頭を抱えながらも、青年を見れば、うんうん、と頷き、棗は溜め息を吐いた。
「あー、分かった。宿は三人分。集合場所はこの宿の前。いいな?」
「はーい」
「了解」
「分かりました」
棗がさっさと纏めれば、三人は了解の意を示すのだった。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします(ちなみに、『斬ります』は誤字ではありません)
さて、今回は王都までの旅に騎士が加わりましたが、三人にしてみれば、ちょうどいい道案内役って所です
棗は王都に着くまで、ずっとこんな感じの予定です
それでは、また次回




