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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:異世界召喚、鷹森結理編
30/87

第二十九話:王都へ


※後半注意




 ガチャリと鍵が開く音がする。

 鍵を開けた人物は、真っ暗な中の様子を窺いながら、そっと中に入る。

 鍵を開けた人物がそっと扉を閉めたのと同時に、その場で明かりが点く。

 そっと、首を後ろに向けた鍵を開けた人物は、


「師匠」


 そう呼ばれ、顔を引きつらせた。


 ーーこの家の家主であるユーナリアは、完全に忘れていた。


 ユーナリア本人にとっても、自宅を二週間近く不在にするなど予想外だったのだが、一応三人の様子を確認できる範囲にはいたのだが。


(それよりも……それよりも、目の前の弟子だ)


 そっと弟子に目を向ける。

 そこには、満面の笑みを浮かべるーー目は笑っていないがーー弟子の一人である結理がいたのだから。


   ☆★☆   


 さて、居間ではユーナリアが今まで何をやっていたのか、そして、結理たちも何をやっていたのかを話し合っていた。

 といっても、ユーナリアがしてきたのは、冒険者ギルドへ弟子たちが通らせてもらえなかったという説明をし、どのタイミングで三人を送り出そうか、と思案し、その考えを実行したまでである。






 前話でも言ったが、ギルドには住民以上に冒険者たちに嫌われているあの門番の男への苦情を纏めている場所が冒険者ギルドにある(何故あるのかを聞かれても、あるのだから仕方がない)。

 ある程度の苦情が溜まると、騎士団のグランドライト支部へ提出する(自警団ではないのは、一部の調査範囲が違うためである)。それに基づき、本人への事情聴取と事実確認をし(事実確認は本人に知られない様、見つかりにくい位置から映像記録などを使い、確認する)、事実なら減給などの処分をされるのが普通だが、厄介なことに、奴は貴族に媚びを売っていたためか、貴族たちの手により、いつの間にか門番へと戻っていた。

 それでも、中には彼を嫌っている貴族もおり、彼を追い出すためなら、とギルドと騎士団の支部へ協力態勢を見せている。


 曰く、戻れないと分かったあいつの顔が見てみたい、とのことだった。


 さて、ユーナリアはユーナリアで、門と兵士(門番のほとんどは兵士)を管理する役所ーー自警団と騎士団支部の中間地点にあるーーへ男のシフトを確認するために訪れ、シフトの確認後、男がいない時をギルドに教え、男に追い払われた冒険者たちには護衛など、外への長期依頼に出された(ユーナリアが男のシフトをあっさり教えたのは、役所も役所で困っていたからである)。


 季節は夏。観光にグランドライトへ来る者もいる。

 男に関する問題というのは、中だけではなく、外でも同じ扱いであり、中からが中からなら、外から来た冒険者たちには「お前らのような者が易々と入れる場所じゃない」と言い、護衛でグランドライトへ入ってきた冒険者たちには、小声で悪口を言う。


 彼のおかげで、グランドライトの評判はどんどん下がっていく。


 それでも、彼がいない間を見計らい、冒険者たちや住民たちは協力し続けた。

 途中でユーナリアは新人の冒険者が魔族と交戦したと聞いたのだがーー


(あ、それ、完全に私たちのことだ)


 やはりというか、何というか。

 三~四日前のことなので、結理たちも覚えてはいたのだが、この場で言うべきか否か。


「で、だ。男はまだ復帰に掛かりそうだが、明日はなるべく早く出て行けよ?」

「はい」


 ユーナリアの言葉に頷く。

 結果から言えば、門番という地位から追い出すことには成功したらしい。


 そして、二週間近くユーナリアを捜していたということ以外ーーもちろん、魔族関連ーーの話を三人から聞いたユーナリアは、というと頭を抱えていた。


「うん、うん、何となくは、途中までは違うんじゃないかな、って思っていたけどさ、でもやっぱり、そうなのかな、とは思ったんだけど……」


 ひたすら唸るユーナリア。

 端から見れば、心配したくなるレベルだ。

 少し怖い。


「師匠も悪いんですよ? せめて一回ぐらい連絡をしてくれれば、捜し回らずに済んだのに」

「お前、人のこと責められんだろうが」

「うっ……」


 開き直っていた結理だが、棗に言われ、黙り込む。

 ユーナリアを捜すのは仕方なかったとしても、血溜まりを見つけ、魔族(ラファンたち)との戦闘を一人で引き受けるという無茶をした結理の自業自得だ。


「で、でも、無事だったから良かったじゃないですか」

「死んでたらどうしてたんだよ」

「先輩。もうその話はやめようって言ったのに、言った本人が蒸し返してどうするんですか」


 結理を責める棗を珍しく思いながらも、三人のやり取りを見ていたユーナリアだが、大翔が慌てて止めに入る。


「師匠も見てないで止めてください」

「あ、ああ……」


 大翔に言われ、ユーナリアは棗と結理の距離を離す。

 それでも、責める様な視線を送る棗に、本当にどうしたんですか、と大翔は尋ねる。


「…………」

「…………」


 目に見えて落ち込む結理に、棗は溜め息を吐いた。


「悪い、少し言い過ぎた」

「いえ……」


 それっきり、会話は続かなくなった。


   ☆★☆   


 居間の床に座り込む影がある。


「…………」


 異世界らしく、星々は輝き、月が照らしている。


「まだ寝ないのか?」


 背後からの声に、影は振り向く。


「師匠」


 ユーナリアは肩を竦める。

 一度は部屋に戻ったが、念のために居間に戻ってきたのだ。


「先輩たちが心配してることも、心配させてることも分かってたんですが……やっぱり、無茶しすぎましたかね?」

「話を聞く限りなら、一人で大勢を相手にするのは、師としては認められない。ましてや相手が魔族となればな」

「…………」


 ユーナリアの言葉に、影ーー結理は黙る。


「でも、俺は過ぎたことをいつまでも言うつもりはない。だから、早く寝て明日に備えろ」

「……はい」


 溜め息混じりに言うユーナリアに、結理は頷く。


「それが無理なら、次から気をつける点を頭に浮かべるぐらいしとけ」

「師匠……」


 それでも、と続けたユーナリアに、結理は顔を上げる。


「友人との再会前に落ち込んでる暇なんて無いだろ?」

「そう、ですね」


 王都にいるだろう幼馴染たちを思い浮かべる。


『俺たちが側にいてやるから』


 以前言われた台詞を思い出し、結理は軽く笑みを浮かべる。


「師匠、ありがとうございました」


 立ち上がり、笑みを浮かべて礼を言えば、結理は居間から去っていった。


「俺も戻るか」


 一方で、月を見上げ、そう呟くと、ユーナリアも自室に戻った。


   ☆★☆   


 翌朝。

 本当に最後の最後となった朝食を終えーー


「師匠、今度こそさよならです」

「ああ」

「ちゃんとご飯は食べてくださいね?」

「ああ」

「……本当に分かってますか?」

「ああ、分かってる。というか、それはこっちの台詞だ」


 注意しても反応が同じなため、疑いの眼差しを向ける結理に、女モードのユーナリアはそう返す。


「私は師匠が心配です。すぐに食事を抜きますから」

「それは否定しない」


 結理の言葉を肯定するユーナリアに、そこは否定しろよ、と言いたげな目を向ける三人だが、背筋を伸ばす。


「今まで、本当にありがとうございました」

「師匠のおかげで、俺たちは強くなれました」

「私たちを助けてくれたのが、師匠で良かったです」


 棗、大翔、結理の順で礼を述べる。


「それじゃあ……行ってきます」

「ああ、行ってこい」


 こうして、三人は無事にグランドライトを出ると王都へ向かって歩き出したのだった。






 が、グランドライトを出てからのことだった。


「ねえ」

「何だ」

「私、気付いていたけど、言わないようにしてたんだけどさ」

「だから、何だ」


 少し苛立ったように大翔が尋ねる。


「ストーカーがいる」

「…………は?」


 結理の言葉に、二人は変な声を出す。


「しかも、騎士っぽい」


 視線を横にずらし、慌てて隠れる影に目を向ける。


「俺たちを捜しているのかもな」

「だからって、あれは分かりやすすぎだって」


 思い当たる理由を上げるが、結理の言葉に二人も視線を後ろに向ける。


「ああ……」

「確かに」


 未だにこちらを陰から見る影。


「ここまで尾行が下手な騎士が居るとはな」

「多分、腕は良いんだよ。騎士だし。尾行は下手だけど」


 フォローしてるように見えて、全然フォローになってない。


「しかも、騎士と断言するか」

「いやいや、装備見れば、私たちの場合はそう思うと思うよ?」


 兵士にしては身につけている鎧や剣が普通とは微妙に違う。

 少なくとも、結理たち異世界人から見れば、第一印象では騎士に見えてしまうだろうし、現地の人たちが兵士だと言わなければ、その場での状況か会った本人が気づくぐらいでしか兵士なのか騎士なのか分からなかっただろう。

 つまり、見た目で誤解しても仕方がない。


「それに、王国騎士団の紋章を付けた装備を持ってるなんて、騎士団所属でもない限り、そんなにいないでしょ?」

「はぁっ!?」


 思わず叫ぶと、結理の言葉を確認するかのように、二人はそっと影へ目を向ける。

 確かにそれらしい紋章(もの)はあるがーー


「よく分かったな」

「私は無駄に人間観察してたわけじゃないからね。その人の表情で状況とかもそれなりに読み取れるし。それに、国の紋章とかも一応調べておいたから、覚えてただけし」

「いや、それだけでも、十分(じゅうぶん)凄いから」


 つか、人間観察なんかしてたのか、と思った上に、表情でそこまで分かるのか、と聞きたくなった二人だが、結理の事だから、あっさり肯定されそうだ。

 ちなみに、表情に関しては、結理が暇で暇でしょうがなかったときにアテレコのようなものをやってたのがきっかけで、目の前で話していた二人の女の子がいたのだが、そのうちの一人が怒りそうだな、と結理が思ったら、本当に目の前で話していた一人の女の子が怒ったため、何となくで読めるようになってしまっただけである。結理としても、ずっと表情を読むのは嫌なので(面白半分で読んでいたら痛い目を見たことがあるし、疲れる)、現在では表情が読みにくい相手のみに限定している。


「あ、町が見えてきたな」


 そうこうしながら話していれば、町の入り口が見えてきた。

 朝早く出た甲斐がある(とはいっても、朝早く出たのはユーナリア宅であり、三人がグランドライトを出たのは、大抵の人が朝食を食べ始める頃をやや過ぎた時間帯である)。


「宿はどうする?」

「理想は食事付き。最低でも寝られる場所だけは確保したい」


 棗の問いに、大翔が返す。結理も同意するように頷く。

 野宿でも構わないように準備だけは出来てるが、グランドライトを出ていきなり野宿だけはしたくない、というのが本音だ。


「とりあえず、探すか。食事付きの宿」


 そう言いながら、三人は町へと足を踏み入れた。


   ☆★☆   


 さて、食事付きの宿を見つけ、一日分の滞在費を支払った後ーー


「どうするよ」

「全くだ」


 そう言って、部屋の隅に目を向ける。


「ムリムリムリムリ……」


 一貫して無理と言うのは、部屋の隅で体育座りしながら、恐怖を感じたような表情で顔を横に振る結理である。

 元々は、男女と言うこともあり、二部屋取ったのだが、数分もしないうちに結理が隣にいた二人の元へ行き、物が揺れ、変な音ーーそれも、昼間にしないような音がすると訴えたのだ。

 宿屋の主人に尋ねれば、ほぉ、と返されただけだった。


 その後、ギルドに行き、そのことを話せば、受付嬢からは「あの宿に泊まるんですかぁ!?」と驚かれ、それを聞いていたのか、似たようなことを経験した者たちがいたらしく、話を聞いてみればーー


 曰く、雨が降ったり、風が吹いたりしているわけでもないのに、窓ガラスがガタガタと震える。

 曰く、白い女の霊が現れた。

 曰く、部屋の中に置いてあった物が揺れ始め、奇妙な音が部屋の主を襲った。


 などなど、それはもう心霊現象のようなものが、どんどん出てきた。


「写真撮ったら写るんじゃないんですかね?」

「心霊写真、ってか?」


 そんなことを話す大翔と棗だが、すっかり忘れていた。話を聞き、ガタガタと小刻みに震え、顔も真っ白に染まるのが一人。


「おい、大丈夫か?」

「だだだだだいじょうぶ」


 顔を青白くしておいて、それは大丈夫とは言わない。

 それに溜め息を吐き、


「大翔、適当に依頼を持ってこい。気分転換させるぞ」


 そう言った棗に無言で頷いた大翔は、依頼を取りに行く。

 とにかく今は、結理を心霊系から離さないといけない。そのためには、依頼で気を逸らすのが一番だ、と棗は思ったのだ。

 その後戻ってきた大翔と共に、依頼を行うために町を出た。






 その後は早かった。

 あっさりと復活した結理は、さっきまでの状態が嘘のように、依頼に励んでいた。


「先輩」

「何だ?」

「俺たちこれから帰るんですよね? あの宿に」

「……ああ」


 これからが本番だ。

 心霊系嫌いの結理が部屋に来る(おそれ)がある。

 依頼については結理に任せておいても大丈夫だとして、二人は対策を練る。


「……()り足りない」


 結理に目を向ければ、何やら物騒なことを口にしていた。

 視線に気づいていたのか否か、くるり、と二人の方へ目を向ける。


「もう少し、奥に行きません」

「行かないからな?」

「つか、依頼は完了したし、帰るのを遅らせたいの丸分かりだから」


 大翔が受理したのは討伐依頼だったが、それなりに実力がある結理が終わらせたため、依頼の討伐部位を取ると、棗と大翔は結理を引っ張りながら町へ戻ったのだった。


   ☆★☆   


 夕食を終え、その日の夜。


「来たな」

「寝ます?」

「寝てても問題ないだろ。あいつなら闇化して入ってきそうだし、無理なら部屋に戻るだろ」


 有り得そうなことを言う棗に苦笑いしながら、大翔は軽くドアを開け、隣の部屋を確認する。

 出てくる気配はないので、ドアを閉める。


「嫌に静かだな」

「そうですね」


 隣から一切の物音がしないせいで、不気味さが際立っている。


「……寝るか」

「……寝ますか」


 こういう場合、何も出ないうちに寝た方が遭遇率も減るということで、二人は眠ることにした。


 そして、結理の方では、二人の心配などつゆ知らず、彼女本人はベッドの上で丸くなりながらも、すでに夢の中だった。

 ちなみに、女の霊などは出たらしく、三人以外に泊まっていた客の誰かが被害に遭ったらしい。


 真実が何なのかは知らないが、長いようで短い夏の夜の話だった。


 なお、朝食中に霊の話を聞いた結理は顔を青ざめていたが、慣れてしまったのか、大翔たちはスルーし、結理を連れて宿を後にしたのだった。



読了、ありがとうございます


誤字脱字報告、お願いします



さて、今回は内容のほとんどが説明になってました


ちなみに、廉たちは門番の男に遭遇することはありませんでした


後半、ややホラーっぽくなってしまいましたが、結理の心霊系が苦手な理由はそのうちに



次回は『騎士と旅を』


町を出て、王都を目指す三人

そんな道の途中で遭遇したのは……



それでは、また次回



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