第二話:異世界・ウェザリア王国にてⅡ
【前回のあらすじ】
異世界に召喚された廉たちは、王様と面会することになりました
翌朝。
謁見の間。
「お前たちが、シルフィアの召喚した異世界の者か?」
目の前にいる壮年の男性に問われ、顔は彼に向けながらも、跪いたまま三人は小さく頷き、自己紹介をする。
「はい。異世界から召喚された、篠原廉です」
「同じく、東雲朱波です」
「同じく、笠鐘詩音」
三人の自己紹介を聞き、男性は頷いた。
そもそも、事の起こりは、シルフィアが昨日の昼食の前に告げた『国王との面会』だった。
彼女から聞いたその時は動揺したのだが、夕食後は諦めたかのように、国王との面会に備えたーーのだが、翌朝になり、謁見の間に来る前にも一騒動あった。
様子を見に来たシルフィアに、正装などについて尋ねれば、そのままでいいと返されたのだ。昨日の今日で三人分の正装など用意はできないし、何より、自分たちの事情だけで勝手に喚びだしたことによる申し訳なさもあったためだ。
「ですから、今回は仕方ありませんし、今後のことを思うなら、次回までにきちんと用意しておけばいいんですよ」
最終的にそう言われてしまえば、この世界に疎く、仮にも持て成される側である廉たちは、黙るしかない。
そして、朝食を摂り、謁見の間に向かう。
「あー、何か緊張してきた」
「私も」
「気持ちは分かるけど……ほら、深呼吸して」
朱波にそう促され、廉と詩音が深呼吸し、気持ちを整える。
そんな彼らに対するタイミングを見計らったかのように扉が開かれ、中に入ればーー両サイドには、重臣らしき者たちだけではなく、騎士や魔導師(のような者)たちがずらりと並んでいた。
正面には金髪碧眼の壮年の男性が居り、その左隣には同い年かそれよりやや若い銀髪紺眼の女性が微笑んでいる。
男性の隣には、自分たちと同い年または年上の男性が三人、女性の隣には、自分たちより年上の女性が並んでいた。
つまり、目の前に居るのは、この国ーーウェザリア王国の国王である。
……とまあ、ここまでが、自己紹介までの経緯。
「ふむ。では、私も名乗ろう。我が名はエフォート・ウェザリア。この国、ウェザリア王国の国王だ。そして、隣にいるのが王妃であるーー」
「ディアナです。この度はこちらの勝手な都合で召喚してしまい、申し訳ありませんでした」
国王陛下ーーエフォートの隣に居た女性ーー王妃のディアナは頭を下げる。
「い、いえ……」
さすがの三人も、これには驚いた。
「次に、こちらの三人だが……」
エフォートがディアナ王妃が居る、真逆の右隣に座っていた三人の男性に目を向ければ、頷いた銀髪碧眼の男性が立ち上がる。
「フィート・ウェザリアと言います。以後お見知り置きを」
頭を下げた彼に対し、三人も下げる。
「彼は第一王子にして、王位継承権第一位だ」
「ということは、次期国王陛下ですか」
なるほど、と廉が告げれば、フィートは苦笑いした。
「次は俺ですね」
フィートが座るのと同時に、金髪碧眼の男性が立ち上がる。
「俺はソーノ・ウェザリア。よろしく」
「彼は第二王子だ」
エフォートの説明中もニコニコと笑みを浮かべる彼に、三人もつられて笑みを浮かべる。
「それで、次なんだが……」
頭を悩まし始めるエフォートに、王子二人とまだ紹介されていない女性、ディアナ王妃とシルフィアは苦笑いする。
何か問題でもあるのかと思い、廉たちは身構える。
「ああ、身構える必要はないよ」
それを見たソーノが、三人を宥めるように言う。
そして、三人目ーー銀髪紺眼の男性が立ち上がるのだが、不機嫌なのが丸分かりなぐらい、表情に現れている。
「……クラウス・ウェザリアだ」
それだけ言うと、銀髪紺眼の男性ーークラウスは座ってしまった。
「彼は第三王子なんだが、見ての通り、性格に難有りでね」
苦笑いして言うエフォートだが、三人の気持ちは一緒だった。
(性格に難有りというレベルではない気がする)
そんな三人に対し、本人は気にしてないようで、反論する様子は無かった。
それを確認したのか、次は私ね、と今度はディアナ王妃の隣にいた銀髪碧眼の女性が立ち上がる。
「私はアルフィーナ・ウェザリア。気軽にアルとでも呼んで下さいな」
にっこり微笑むアルフィーナに、ディアナ王妃は頷き、彼女について説明をする。
「彼女は第一王女であり、そこに居るシルフィアは第二王女です」
そう言われ、シルフィアは廉たちを見て、にこりと笑みを浮かべる。
「さて、紹介が終わったところで、次に君たちを召喚した理由だが……単刀直入に言う。魔王を退治してほしい」
周囲を一度見回したエフォートはそう告げる。
(やっぱり、か……)
(定番通りね)
(……)
エフォートの言葉に、廉は改めてそう思い、朱波は定番ともいえる台詞に内心呆れ、詩音は無言で目を細める。
シルフィアは準備だと言ったが、最終的には魔王退治に辿り着くのだろう。
「なるほど。ではーー」
「ちょい待ち」
エフォートに返事をするべく、廉が口を開けば、朱波に止められる。
「何だよ」
不機嫌そうに言う廉に、朱波は小声で告げる。
「廉。あんた引き受けるつもりでしょ」
「そうだが、何か文句あるのか?」
廉の言葉に、朱波は溜め息を吐く。
「あるわよ。無償で魔王退治を引き受けたなんて知られたら、結理に何て言われるか……」
「なら、どうするんだよ!?」
何故、結理の名前が出るのか疑問だったが、手を当てながら頭を振る朱波に、廉は噛みつく。
その声が聞こえたのか、三人の前にいたシルフィアがビクリと肩を揺らし、二人に目を向ける。
「どうかされました?」
「いえ、すみません。いきなり叫んで」
シルフィアの問いに二人は大丈夫と返せば、そうですか、と返される。
何とか誤魔化せたことに安堵しながらも、朱波は廉をジト目で見る。
「私に怒らないでよ。向こうが願い出てきたなら、私たちも何か願い出てもいいでしょ」
「私もそう思う。結理たちも捜さないといけないし」
今まで黙っていた詩音が口を開く。
「それは分かってるが……」
今から捜しに行っても良いと許可されるなら、すぐにでも捜しに行きたいぐらいだった。
「あ、あの……」
三人に戸惑ったように、シルフィアが声を掛ける。
「ああ、すみません。魔王退治は引き受けます。ですが、条件が一つあります」
「条件?」
怪訝そうなエフォートに、廉は告げる。
「本来、俺たちと共に、ここへ召喚される予定だった友人三名を捜していただきたいのです」
「他にも居るのか?」
驚いたのか、王族以外の人々もざわつき始める。
だが、朱波と詩音も驚いていた。
廉が引き受けるついでに、条件を出したのだ。
朱波たちの指摘もあったとはいえーーまるで、最初からそのつもりで、用意していたかのように。
「静かに! 騒がしくして済まないな。そのまま話を続けてくれ」
「あ、はい」
エフォートが面々を静め、廉に続きを促す。
「その、何と説明しましょうか。どうやら、召喚される途中で、俺たちはその三人と逸れたみたいで……」
「そうだったのか。シルフィア、魔法陣に異常はあったのか?」
廉の話を聞き、頷くエフォートは、シルフィアに確認をする。
「いえ、そんなはずはありません。魔法陣に問題はありませんでした。ミスが無いように、事前に何度も確認しましたし」
シルフィアの言葉に思案し、エフォートは廉たちに告げた。
「そうか……。分かった。お前たちの友人三名を国内全土では捜すが、あまり期待しないでくれ。召喚途中で逸れたということは、こちらにすら辿り着けていない可能性もあるからな」
「ありがとうございます!」
ーーこちらにすら辿り着けていない。
それは三人とも予想済みだし、覚悟はしている。
それでも、捜してもらえるだけありがたい。
「後で容姿などの詳しいことを聞かせてもらうが良いか?」
「はい」
廉が頷けば、その場は解散となり、廉たち勇者組はシルフィアとともに別室へ移動することになった。
☆★☆
「いなくなったのは、男二人に女一人で合っているな?」
「はい」
別室に移った廉たちは、結理たちを捜すため、エフォートらに名前とその容姿を伝えていた。
現在、この部屋にいるのは、廉たち三人と案内役のシルフィア、国王であるエフォートと第二王子のソーノである。
第一王子であるフィートがいないのは、所用があり、抜け出せないため、ソーノに任せたのだ。
「名前はそれぞれ、ヒロト・アマミ、ナツメ・ヒトウ、ユウリ・タカモリで合っているか?」
「はい」
廉たちは頷いた。
ちなみに、捜索対象である三人の姓と名前が逆だが、廉たちも謁見の間を出た後にそのことに気づき、それぞれ訂正したのだった。例を挙げるなら、廉の場合はレン・シノハラという具合に。
「でも、その三人も驚いたでしょうね。友人たちが居ないんですから」
「確かにな」
苦笑いして言う第二王子ことソーノに同意したエフォートだが、廉たちは互いを見合わせ、言う。
「いや、多分そんなに驚いてないと思いますよ?」
「私もそう思います」
廉と朱波の言葉に、顔を引きつらせ、ソーノは尋ねる。
「……友人、なんだよね?」
「友人ですよ。けど、結理なら「廉が一緒なら大丈夫でしょ」的な事を言うと思いますよ?」
「まあ、俺たちも「結理が一緒なら大丈夫だろ」って思ってますから、大丈夫ですよ」
ーー向こうに結理が居るなら大丈夫。
ーーこちらに廉が居るなら大丈夫。
今まで一緒だった幼馴染だからこそ、理解でき、安心できる。その内、何も無かったような顔をして、ひょっこり顔を出してきそうだ。
「まあ、男二人も一緒だから多分、大丈夫」
詩音がそう付け加える。
そう、彼女一人ではないのだ。もしかしたら、一人と二人に分かれているかもしれないが、それでも大丈夫な気がするのは、長年の付き合いからだ。
「……」
「何というか、すごく信頼し合ってるんですね」
今まで黙っていた聞いていたのか、シルフィアが口を開く。
「まあ、俺や結理たちは長い付き合いですから」
「そうか」
「なら、早急に捜さないとね」
廉の言葉に、エフォートは笑みを浮かべ、ソーノは彼に同意した。
だが、廉はそれを否定した。
「いえ、最低でも彼女だけ捜していただければ、ありがたいのですが」
「他の二人は良いのか?」
訝るエフォートたちに、廉たちは説明する。
「良くは無いけど、結理は情報に強いから、結理さえ見つけられれば、他の二人もすぐに見つかると思う」
「いやまあ、そうだけど……ここは異世界だぞ?」
詩音の援護に、廉が顔を引きつらせる。
自分で言っておいてあれだが、結理にも出来る限度というものがある。さすがに、よく知りもしない世界で捜そうとはしないだろう。
「異世界だろうと元の世界だろうと関係無い。結理の情報収集能力を考えれば、私たちが今、城のどの辺りに居るのか、知っていると思う」
「そんなに凄いのか……」
そこまで聞けば、凄いと思うのは当たり前だが、はっきり言えば、少し言い過ぎである。
朱波は結理のことになると饒舌になる。
そこに廉や自分がつられて、喋り出したらキリがない。
現在、唯一のストッパーとなった詩音は、一人、溜め息を吐いた。
「凄いってレベルじゃないですよ。魔法が使えるとなればなおさら……むぐっ!?」
さすがに、そろそろ止めないとマズいと判断したのか、廉が朱波の口を塞ぐ。
「朱波。お前は少し、落ち着け」
未だにむがむが言う朱波だが、それも少しずつ収まる。
「廉、やり過ぎ。朱波、気を失っちゃったじゃん」
やれやれ、と言いたげに、詩音は廉から朱波を引き取る。
「あー……悪かった」
謝る廉に、話が逸れたから戻すぞ、とエフォートに声を掛けられる。
「それで、後は三人の容姿ですよね?」
詩音が尋ねれば、エフォートたちは頷く。
「ああ、そうだ」
「じゃあ、最初は大翔から」
エフォートが頷いたのを確認し、詩音が順に告げていく。
「大翔は茶髪に茶色の目」
ソーノが書き終わるのを待つ。
そして、彼が書き終わったのを確認した詩音は続ける。
「棗先輩と結理は、私と同じ黒髪に黒眼」
ソーノが再び紙に書く。
ちなみに、廉は茶髪に黒眼、朱波は黒髪のポニーテールに茶眼。そして、詩音は黒髪黒眼である。
「うん、書けたよ。ありがとうね」
「いえ、こちらこそ。捜してもらうので、協力するのは当たり前です」
礼を言うソーノに対し、詩音は横に首を振り、そう返す。
「そう言ってくれて助かるのだが……勇者殿はどうした」
詩音が廉の方を向き、溜め息を吐いた。
「廉、いつまで固まってるの」
そんなに自分が説明したのが珍しかったのか、と詩音は思う。
仕方ないな、と詩音は廉の近くへ行き、耳元で何かを呟けば、次の瞬間、びくりとし、慌てて周囲を見回す。
どうやら正気に戻ったらしい。
そして、ニヤリと笑みを浮かべた詩音に気づき、理解したようだ。
「おまっ、詩音っ……!?」
「いい加減、慣れなよ。私がちょっと説明しただけで固まるの、止めてくれない?」
「……ああ、そうだな」
妙に凹んだ廉に、エフォートたちは詩音に何を言ったんだ、と視線を向ける。
「あ、別に変なこと言ってませんよ?」
単なる声マネですから、と、詩音は付け加えた。
「結理の、でしょ?」
「あ、朱波。起きたね」
伸びをしながら横から言う朱波に、詩音は彼女が起きたのに気づく。
「うん、軽く死にかけたね」
あいにく幽体離脱しかけたよ、と言う朱波は凹んでいる廉に目を向ける。
「廉、諦めなさい。あんたは結理にも詩音にも勝てないんだから」
「言うな。分かっていたことだから」
朱波の言葉に、やや復活したようだが、それでもダメージはあったらしい。
「……」
「……」
二人して廉を見る。
「な、何だよ」
怪訝そうに尋ねる廉に、互いに顔を見合わせた朱波と詩音は、ぷっ、と噴き出す。
「いや、何でもないよ」
「そうそう、気にしない気にしない」
朱波と詩音がそう言う。
「……何か納得できねぇ」
見るだけ見ておいて、何にもなし。
二人はにこにこと笑みを浮かべているだけ。
「まあ、いいか」
溜め息を吐いて、廉がはそう言う。
結論から言えば、このチームがバラバラにならないのなら、理由なんて何でもよかった。
「仲が良いんだな。お前たちは」
エフォートの言葉に、三人は彼に目を向ける。
「まあ、幼い時からの付き合いですから」
そう、幼い時からの付き合い。
朱波や詩音はともかく、廉は小学校に入る前から結理と知り合いで、彼女を通じて朱波や詩音と知り合い、中学を卒業するころには、今の六人の関係が出来上がっていた。
「国王様たちも会えば分かります。もし、全員が揃ったとき、私たちの言っていた『凄い』という意味が」
「なら、それまでの楽しみにしておこう」
詩音の言葉に、エフォートが笑みを浮かべると、シルフィアに目を向ける。
「シルフィア」
「はい」
エフォートに話し掛けられ、シルフィアは返事をする。
「案内は任せる」
「分かっています。お任せ下さい」
そう伝えられ、シルフィアは頷いた。
それに対し、廉たちは内心、首を傾げた。
きっと、三人の知らない間に、何らかのやり取りがあったのだろう。
「では、こちらに」
シルフィアに連れられ、三人はエフォートらに頭を軽く下げてから部屋を出た。
☆★☆
「聖剣?」
部屋を出た三人は、シルフィアに連れられ、移動しながら、話を聞いていた。
「はい。歴代の勇者となった方々は聖剣と共に、魔王退治をしたと言われています」
「ふーん……」
やっぱり、存在するのか、と廉たちは思った。
「ところで、王女様」
「何でしょう?」
「私たちも同行してよかったんですか?」
朱波が尋ねる。
聖剣を取りに行くなら、自分たちはいない方がいいのではないのか。
そう思っての問い掛けだった。
「はい。勇者であるレン様のご友人である貴女方に、無礼な態度を取るわけにはいきませんし」
(レン様って……)
シルフィアの言い方に朱波は噴き出しそうになり、一方で、廉は顔を引きつらせた。
「無礼な態度って……俺たちは、こちらの言い方をすれば平民で、普通なら王族に会えるような立場では無い上に、敬語を使われるようなものじゃないのですが」
「ですが……」
そう言われ、シルフィアは困ったような顔をする。
そんな二人の様子を見ていた朱波と詩音は顔を見合わせる。
「なら、互いに敬語無しにして話せばいいじゃない」
「だがな……」
渋る廉に、朱波が溜め息混じりに呆れたような視線を向ける。
「私相手に普通に話してるくせに、今更渋るの?」
「うっ……」
朱波の家はいろんな意味で複雑だ。だから、朱波のこの言い方は別におかしいわけではない。普通なら、廉たちと朱波は会うことすら無かったのだろうし、性格も今とは違ったのかもしれない。
そんな朱波の様子を見ながら、詩音が援護する。
「それに、年齢が近いなら、遠慮無用」
「そうそう」
詩音に同意するかのように、朱波は頷く。
「お前ら……」
「ええい! 男ならグダグダするな!」
「どうするのか早く決めないと、結理代理のハリセンの刑」
他人事だと思って、と視線を送る廉に、朱波ははっきり言い放ち、詩音は圧力を掛ける。
「……分かったよ。ということで、敬語無しで話しましょうか」
「良いんですか?」
(どれだけハリセンが嫌なんだよ)
そう廉にツッコみたかった朱波だが、目を輝かせるシルフィアに、ツッコむのを止める。
「はい……じゃなくて、ああ」
「分かりま……分かったわ。私も普段の話し方にさせてもらいます」
敬語になりかけた言葉を訂正しながらも、二人は会話をする。
シルフィアの場合、あまり変わってないように聞こえるのは気のせいか。
「王女様。私たちにも、その対応でお願いね」
「分かったわ。では、行きましょうか。レン様」
朱波が言えば、シルフィアは頷く。
だが、名前を呼ばれた廉は、未だに微妙そうな顔をしていた。
「あ、あのさ、どうせなら『様』も外してくれない?」
「さすがにそれは同意できません。それは、私が決めたことですから」
廉の申し出をシルフィアは拒否する。
「なら、仕方ないけど……」
彼女が決めたことなら仕方ない。
廉はそう判断し、頼むのを諦めた。
(意外と頑固そうだしなぁ)
と思いつつ。
「お二人さん、公私混同だけはしないようにね?」
「だ、大丈夫よ。そんなこと無いようにしてるから」
さすがに、謁見の間などで、今の話し方はマズい。
朱波の忠告に、シルフィアはそれは無い、と返す。
「……いや、あっちゃあマズいだろ」
廉が呟く。
それでも、今だけは、こうやって話していたい。
「さ、王女様。聖剣ーー」
「あ、あの!」
廉が話し掛ければ、シルフィアが遮る。
「どうしたの?」
詩音が尋ねる。
「せ、せっかくなので、レン様たちも私のことは名前で呼んでもらえませんか?」
赤くなりながら言うシルフィアに、三人は顔を見合わせた。
何を言われるかと思ったら、名前で呼んでほしいということだった。
「何だ。そんなことか」
「いいよ」
「うん、友達なら当たり前」
安心して、それぞれが返せば、シルフィアは嬉しそうな顔をする。
「友達……」
感動したかのように、復唱するシルフィア。
そんな彼女を尻目に、朱波は廉に言う。
「ほら、廉。名前呼んであげなさいよ」
「何で俺? 同性であるお前たちの方がいいだろ」
朱波は固まり、詩音はあーあ、と言いたそうな顔をする。
(だが、分岐点は今だ。廉が王女様の名前を呼ぶか呼ばないかで、私たちの運命が掛かってるんだから!)
とは、言えない。
「朱波」
「ん、何?」
詩音が話し掛ける。
「私たちは何て呼ぶ?」
「そうね……」
朱波は思案する。
相手は王女様だ。
「……フィア?」
「はい、何ですか?」
呟きに返事が聞こえたので、朱波はシルフィアを見る。
「……」
廉を見れば、ニヤリと笑みを浮かべる。
(まさか、嵌められた!?)
一瞬、固まった朱波だが、慌てて弁解しようとする。
「いや、王女様。今のはーー」
「先程のように呼んでくれませんか?」
シルフィアはキラキラした目で朱波を見る。
「フラグ、立った?」
「私はノーマルだ!」
そんな二人を見た詩音の言葉に、朱波は反論する。
「あのさ、フィア?」
「はい」
朱波は顔を引きつらせながら、シルフィアに言う。
「廉には何て呼ばれたい?」
朱波の言葉に、え、と固まるシルフィア。
「そ、れは……」
シルフィアは赤くなりながら、廉をチラチラと見た後、朱波たちに目を移せば、にっこりと微笑まれる。
(私の味方がどこにもいない……)
シルフィアは内心泣きたくなったが、何とか耐えて答えた。
「す、好きなように、呼んで下さい」
それを聞き、朱波は廉を見る。
「だってさ、廉」
「そう言われてもなぁ」
廉は悩むように上を見上げる。
「そうだなぁ……」
暫し思案する。
「俺も『フィア』って呼ぶことにするよ」
そう言った廉に、シルフィアは笑顔で返す。
「これからよろしくお願いいたします。勇者様」
「ああ」
手を差し出したシルフィアに、廉はその手を受け取り、握手をする。
「さて、話を戻すけど、聖剣について続きを話せてもらえる?」
朱波に尋ねられ、シルフィアは頷いた。
☆★☆
「先程、歴代の勇者が居ると言ったけど、実はそんなに居るわけではないの」
シルフィアは再び歩きながら、説明をする。
「まあ、私が知らないだけかもしれないけどーーこの国には聖剣はありません」
三人は目を見開いた。
「え、それってどういうーー」
「順を追って説明します」
廉の問いに、シルフィアは話し始めた。
「先代の勇者、名前はアースレイ。彼が使ったとされるのは、一般的な剣だったそうです」
そして、旅の途中で手に入れた剣も使い、魔王を倒した。
「他国では、自分の国に聖剣があると言っている国があるそうですが、その大半は偽物だったり、正体不明の材料で作られていたり、曰く付きの物までありました」
シルフィアの話を、三人は黙って聞いていく。
「そもそも、聖剣は勇者の出身国が所有及び保管をすることになっています。そして、先代勇者のアースレイはこの国の出身なのです」
「つまり、本来なら、この国に聖剣があるはずだった、と」
廉の言葉に、シルフィアは頷いた。
「けれど、今はその聖剣がない」
「その通りです」
「そのことについて、先代勇者は何も言わなかったの?」
二人の会話を聞きながら、朱波は尋ねる。
だが、シルフィアは首を横に振る。
「いえ、特には」
「そう……」
そこで新たな疑問が湧いてくる湧いてくる。
「あれ? それじゃあ、私たちはどこに向かってるの?」
朱波の問いに、シルフィアは笑みを浮かべる。
「この国には、魔法があります」
「知ってる。俺たちを召喚したぐらいだし」
廉が頷く。
「となれば、最初にやるべきことは一つ。魔力測定と属性検査です!」
シルフィアは言い切った。
そしてーー
『ーーーー』
そんな四人を誰かが見ていた。
読了、ありがとうございます
誤字脱字の報告、お願いします
さて、今回は謁見と捜索願いと聖剣について
ちなみに、詩音の髪の長さは腰より上、巫女服が似合いそうな髪型のイメージ
シルフィアとも名前で呼びあえるようになりました
次回は今回出来なかった説明と、ギルドについての予定
それでは、また次回