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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第一章:異世界召喚、篠原廉編
21/87

第二十話:すれ違い

【前回のあらすじ】

グランドライトに来ました




 ミーンミンミンミーン。


「暑い……」


 空を見上げて、そう呟く。


 ミーンミンミンミーン。


「うっさいわ! 虫ども!!」


 朱波(あけは)が怒鳴るが、もちろん、そんなことで鳴き止むわけもなく……


 ミーンミンミンミーン。


「あーもう! ここはどこなのよ!」


 朱波が叫ぶが、答えられる者はここにはいない。

 滝のような汗が流れ続ける。

 詩音(しおん)も拭いても拭いてもキリがないからと、すでに拭くのを諦めていた。

 唯一の救いは、微風(びふう)ながら、少しでも涼しくしようとする朱波がいることだろうか。


 どうしてこうなったのか。

 (れん)は少し思い出してみることにした。


   ☆★☆   


 情報収集のついでに、とグランドライトの冒険者ギルドで依頼を受けた三人は、受付のお姉さんに場所を聞き、そこに向かった。


 そこまではまだいい。


 問題はそこからだった。依頼を遂行し、帰ろうとした矢先だった。


『グルルルル』


 こっちを見て目を光らせるいつぞやの熊と似たような生物(くま)がこちらを見ていた。


「おい、何かこっち見てるぞ」


 目を合わせないように気をつけながら、廉は朱波と詩音に尋ねる。


「見てるわね」

「……」


 そしてーー


『グルァァァァア!!!!』


 叫ぶ熊ーー魔物に、ハッとした廉が叫ぶ。


「逃げろーーー!!!!」


 廉の言葉に、朱波と詩音が走り出し、廉自身も走り出す。


 で、適当に走り回り、逃げていたので、案の定迷子となりーーそして、冒頭に繋がるのだった。


 そこまで思い出し、なおさら肩を落とす。


「夜なら、北極星探せば帰れるのに」


 というのは詩音の言葉だが、今は真っ昼間。

 結理(ゆうり)たちも捜さないといけないためか、若干焦りが出始めており、朱波は朱波で木で鳴いている(セミもどき)に八つ当たりする始末。

 おそらく、一番冷静なのは詩音だろう。

 今も周囲を確認している。

 本格的に夏になったせいか、嫌味のように太陽が三人に照りつける。


「廉、日陰に行こう。熱中症になる」


 それに頷き、朱波に声を掛ける。


「朱波ー、日陰に行くぞー」

「あ、うん」


 朱波が来たので、三人で場所を移動する。


   ☆★☆   


「……」


 日陰に移動し、休んでた三人だが、ふと見つけた看板に胡散臭い目を向けていた。

 看板には、


『出口→

 町はこちら』


 と印されていた。


「これ、信じてみる?」


 朱波が指で指しながら尋ねるが、でも、と廉が続ける。


「罠っぽさがなぁ……」


 こちらに来てからの経験上、何もないわけがない。

 グランドライトに来る前だって、トラブルが起きたのだ(前話参照)。出来るだけトラブルを避けたいと思うのも仕方がない。


「朱波、風による感知はできないの?」


 詩音が尋ねれば、うーん、と唸る朱波。


「出来なくはないんだけど……」

『暑いよー』


 朱波の肩で暑いー、とシルフがぐったりしていた。


「熱風の余波を浴びても良いなら、やるけど?」


 暑いー、というシルフを一瞥した二人は親指を立て、頼む、という。

 分かった、と頷いた朱波は、風による感知を始める。


『ふえ? 何するの?』


 話を聞いてなかったのか、不思議そうな顔をしてシルフが尋ねるがーー


『……』


 むわーんとした熱気を浴び、シルフは黙り込んだ。

 その隣で朱波は風を視覚代わりに、どんどん進んでいく。

 そして、見えたのはーー


「ん」


 目を閉じ、意識を現在の居場所に戻して、目を開いて廉たちに告げる。


「町には繋がってるみたい」


 それを聞いて、どうするかを考える廉。


「……行ってみるか」


 町に続いているのなら良い。

 換金も早く済ませたい。

 それじゃあ、ということで歩き出す三人。

 シルフに至っては、喋る気力すら無くなったらしい。


   ☆★☆   


「やっと、戻れたな」


 不在時間が短かったためか(反対に長くても冒険者だから、と思われているからか)、特に騒ぎもなく、廉たちは換金を終え、町を歩いていた。

 ちなみに、宿については、一日ぐらいならレイヤが泊めてくれるらしいので、三人は素直に従うことにしたのだ。


 そのため、三人が(グランドライト)を歩いているのは、レイヤ宅に向かっているというのもある。


「お、ここだな」


 聞いていた場所に着いたのか、確認しながら廉はその建物を見上げる。


「デカっ……」


 王城や学院を見た時と同様に、そう呟く。

 学院に通っているのだから、それなりの家に住んでいるとは思っていたが、思ってた以上に、かなり大きかった。


「何かご用ですかな?」


 ずっと門前に立っていたからか、中から執事のような優しそうな老人が出て来て、そう尋ねる。


「ここに、レイヤ・ミリヤードっていますか?」


 それを聞いて、ああ、と頷く老人。


「確かにいらっしゃいます。失礼ですが、あなた方は?」

「学院の友人です」


 老人の言葉にそう答える。

 つい最近、話し始めたとはいえ、これは嘘ではない。


「分かりました。お呼びしてきます」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 そうやって、老人を見送る三人。


「廉、この屋敷……」

「ああ。嫌な気が満ちてるな」


 自分たちが良く知る気と似たようなものが、目の前の建物から感じ取れた。

 それがどんな種類のものか分からないが、嫌な気というのは断言できる。


「おーい」


 こそこそとそんな話をしていると、屋敷から出てきたレイヤが声を掛けながら、近づいてきた。


「開けるからちょっと待ってろ」


 そう言って、ギギギ、と扉を開けるレイヤ。


「じゃあ、中に入ってくれ」

「あ、ああ……」


 レイヤに促され、戸惑いながらも廉たちは中に入った。


   ☆★☆   


「教えてください。お願いします」


 目の前で土下座するレイヤに苦笑いする廉たち三人。

 レイヤの自室に案内されて、すぐの事だった。

 廉たちが来るまでの間、宿題をしようと出して始めていたらしいのだが、分かる部分はほとんどやってしまい、分からない部分の大半が残ってしまった、というのが本人談。


 どうする? と顔を見合わせる三人に、試験結果三十番以内なんだからさー、と、レイヤが泣き付く。


「あのなぁ、俺たちだって全部が全部、分かっているわけじゃないんだぞ?」


 廉の言葉に、そうなのか? と首を傾げるレイヤ。

 中間と期末の試験でシルフィアを交えて、苦手対策をしたのは良い思い出だ。


(恐怖を感じることも無かったしな)


 高校受験の際、先に受験を終えていた棗に傾向や対策などを教えてもらいつつ、六人(・・)で入試の勉強をした。

 それでも、苦手なところはあり、その対策もしていたのだがーー廉としては、その時のことはあまり思い出したくない上に、朱波や詩音としても、あまり触れてもらいたくない部分でもあった。

 結果としては、合格したから良かったものの、不合格だったらどうなっていたことか。


「何でも分かるのは、天才だけだ」


 そして、努力した者だけ。

 そうか、と肩を落とした様子のレイヤに、けどまあ、と朱波が続ける。


「教えられる範囲内なら、教えてあげる」

「本当か!?」


 さっきの落ち込み様から一転、キラキラした眼差しを向けるレイヤ。

 その表情(かお)を眩しく思いながら、自分たちの宿題を取り出し、少しでも減らしておこうと、廉たちも宿題の片付けを開始した。


   ☆★☆   


「皆さん、少し休憩なされてはいかがですか?」


 ドアをノックし、入ってきたのは、廉たち三人を最初に出迎えた執事らしい老人だった。


(じい)


 レイヤがそう声を掛ければ、ほっほっほ、と好々爺(こうこうや)らしく笑みを浮かべる執事らしい老人。


「あ、手伝います」


 紅茶の用意を始めた老人に気づいた朱波が立ち上がり、手伝いを申し出るが、老人は手を前に出し、必要ありません、と言う。


「坊ちゃんのご友人に、そんなことをさせられません。どうかこの老人めにお任せくださいませんか?」


 そう言われ、困ったように笑みを浮かべながら、朱波は分かりました、と席に戻る。


「坊ちゃん……?」


 一方で、廉と詩音はレイヤを見ながらそう呟いていた。


「じ、爺! 坊ちゃんと呼ぶなって言っただろ!?」

「確かに言われましたが、私にとって、坊ちゃんは坊ちゃんですから」


 叫ぶように言うレイヤに老人は微笑みながら、そう返す。

 その光景を見ながら、廉たちも微笑む。

 休憩を終え、四人が再び宿題を再開させたのは、その数十分後だった。


   ☆★☆   


「ん、ん~」


 そう唸りながら、ベッドの端に座っていた朱波が軽く伸びをする。


「今日は疲れたわねー」


 そう言いながら、ベッドに倒れる。

 今朱波がいるのは、レイヤ宅の客室である。

 廉はレイヤと同室で、彼曰く、「寮では同室じゃないんだから、今日ぐらい良いだろ?」とのこと。

 最初は遠慮していた廉も、レイヤにそう言われ、同室を許可して、共に休んでいる。

 ちなみに、朱波は詩音と同室であり、彼女(詩音)はソファーに座って、本を読んでいた。


「うん。明日はどこを捜すのかな」


 詩音の問いに、うーん、と返す朱波。


「ギルドには今日行ったからね~」


 行き先はほとんど廉が決めているため、二人は悩まないのだが、せっかく三人いるのなら、手分けして捜してもいいのかもしれない。


「ギルド方面と市場方面と住宅街方面?」


 詩音が場所の例を上げる。


「後は……郊外?」

「うーん……」


 朱波が首を傾げれば、詩音も天井を見上げて唸る。


「まだ一日目だけど、本当、どこにいるんだろう?」


 そう尋ねたのはどっちだったのか。


「大丈夫だとは分かってるんだけど……」

「不安になるのよねぇ」


 詩音の言葉に、朱波が溜め息混じりに返す。


「今頃何しているんやら」


 詩音はそう言いながら、視線を窓の外に向けた。


   ☆★☆   


「なー」

「何だ?」


 レイヤが声を掛けてきたので、廉は彼を見る。


「本当に明日から宿に泊まるのか?」


 確かにレイヤの家に泊まるのはこの一日だけで、残りは宿に止まる予定だったのだがーー


「前にも言ったと思うが、さすがにずっと世話になりっぱなしはマズい気がするからな」


 宿代が浮くというメリットはありがたいが、レイヤたちへの迷惑というデメリットもついてくる。

 もし、この二つを選べと言うのならーー


(俺は後者を選んで、宿に泊まり、レイヤたちの負担を減らす)


 どう考えても、天秤は最終的にデメリットに傾く。

 どうやら節約|(?)より、迷惑云々に傾くらしい。

 たとえレイヤたちが迷惑じゃないと言っても、人というのは、本心ではどう思っているのか分からない。

 ここに住んでいるのは、レイヤや執事のような老人だけではないのだから、もし、誰か一人でも不愉快な思いをするのなら、廉としてはさっさと退散して、落ち着いてもらいたい。

 そこで廉はふと思う。

 朱波と詩音(同行者二人)が、この事をどう思っているのか、ということを。

 廉が最終決定権を持っているとはいえ、今回の件については彼女たちの意見を聞いていない気がする。


(それとも、周囲に気が回らないほど、三人を捜すのに集中していた、ってことか?)


 そう考えて、廉は頭をガーッと掻く。

 というか、何故あの二人も言わなかったんだ? と思う廉だが、実は言おうとしてたのに、自分が気づかなかったから、言えなかったのではないのか、とネガティブな思考にどんどん沈んでいく。


「マズい。いろんな考えがネガティブになってきてるな……」


 廉は溜め息を吐いた。


「あー、何だ。そこまで悩むのは予想外だったんだが……」


 今まで様子を見ていたのか、レイヤがそう呟く。


「無理に泊まってけとは言わないから、そんなに気にするな」

「ああ、そうだな」


 悩んでいても仕方ないので、廉は割り切ることにした。

 ただ、レイヤが微妙に落ち込んでいたのは、気のせいではないのだろうが。


 結局、朱波・詩音組も廉・レイヤ組も、その日は疲れていたのか、そのまま眠ってしまった。


   ☆★☆   


「今日はどこに行く?」


 グランドライト二日目。

 開口一番とばかりに、朱波がそう尋ねてきた。


「そうだなぁ……」


 そう返しながら、思案する。

 昨日は宿に泊まるかここにいるか云々を考えただけで、捜しに行く場所を考えていなかった。


「ギルド方面に市場方面、住宅街方面に後は……郊外」


 詩音が昨日部屋で言っていた場所を上げる。


「後、貴族街と貧民街」

「は?」


 横からの声に、思わず変な声を出す。

 目を向ければ、声の主はレイヤだった。


「ですが、どちらも行くのはお勧めしません」


 老人(執事)が言う。


「理由は……って、何となく予想は付きますが」


 それに苦笑いする老人。


「貧民街はスリとかに遭うから。貴族街は私たちが良い思いをしないから……だよね」


 違う? と言いたげに、朱波がレイヤと老人を見る。


「いや、正解だ。俺としては、そういう目に遭ってもらいたくない」


 特に、そこの二人には、とレイヤが朱波と詩音に目を向ける。


「あら、心配してくれてありがとう」

「でも、大丈夫」


 礼を言いながらも、気持ちだけは受け取っておく、と言った二人に、本人たちが言うなら、と引くレイヤ。


「で、妥当なのは、市場方面か住宅街方面?」

「だな。貴族街は入れてもらえない可能性もあるから、その後のことも考慮しておくとして……」


 問題は、貧民街である。

 三人にしてみれば、ショルダーバッグやポーチを奪われるわけにはいかない。

 もちろん、剣などを取られた暁には、反乱すら起こりかねないため、それだけは防がなくてはいけない。


「でも、今回は市場方面に行くんだよね?」

「ああ」


 詩音の確認に頷けば、なら、と詩音は言う。


「行かない場所の心配は今は必要ない」


 そう言った。


「元々、グランドライト(こちら)にいる期間は短いんだから、貴族街とかまで回れるかも怪しいよね」


 その上、朱波のこの言葉である。


「お前ら……素直に行きたくないなら行きたくないって言えよ」


 呆れ混じりに廉がそう言えば、二人は笑って誤魔化した。


   ☆★☆   


 グランドライト・市場方面。


 毎朝早朝から多くの野菜や果物、花などが並び、町を彩る。


「すっごーい!」


 もちろん、料理大好きな朱波が反応しなかったわけじゃない。

 その()をキラキラと輝かせ、市場に並ぶ食材を見ていた。


「部屋でも冷静に捜す場所を考えていたから、てっきり分かってて反応してないのかと思ってた」


 同室だった詩音だからこそ分かることなのだが、よくよく思い出してみれば、市場と言った時点で、目を輝かせていたような気もしなくはない。


「まあ、今日は依頼を早めに終わらせて、宿も取ったからな」


 ゆっくり捜せると廉は言う。

 午前中に採取系の依頼を受け、完遂した三人は宿を取り、現在、目的地である市場方面に来ていた。

 だが、朱波の反応から分かるように、市場にはたくさんの野菜や果物が並んでおり、彼女が頬を赤く染め、満足そうにほくほくした顔で買い物を終えてきたのを見て、廉と詩音は溜め息を吐いた。


 目的が違う、と。


 次に市場に来るときは、今回の二の舞になりかねないので、朱波がいないときに来ようと思う二人だった。


 さて、三人の捜索だが、中々上手く進まなかった。

 時には依頼内容で長引き、時には大雨で外に出ることすら出来なかったため、その日は宿題で時間を潰した。


 結局、午前にはギルドで依頼を受けてこなしながら結理たちを捜し、午後(二時~三時の間)にはレイヤ宅で、分かる範囲の宿題を片付けて、宿に戻るというローテーションがしばらくの間、続いた。


 そして、グランドライト滞在最終日。


 レイヤたちに礼を言い、王都行きの馬車乗り場に三人は向かっていた。

 来たときより人が多いのは、夏が本格的になってきたからだろう。


「今頃、結理たちは何してるのかな?」

「案外、近くにいたりして」

「まさか。グランドライト中を捜したのに居なかったんだぞ?」


 そう話す廉たちの横を、黒髪の少女が通り過ぎて行く。

 人混みもあってか、お互いがすれ違ったことには気づかなかったのだがーー


「ん?」

「どうしたの?」

「いや、今ーー」


 振り返った廉に、首を傾げる朱波。

 振り返った先には、人混みだけ。


「いや、気のせいらしい」


 だが、気のせいだと思い、廉は再び歩き出した。


 そしてーー










「気のせいか」


 足を止め、後ろを振り返った少女の呟きは、廉たちに届くことは無かった。



読了、ありがとうございます


誤字脱字報告、お願いします



学院の寮についてですが、寮生が所属する科により、二人部屋の所もありますが、基本的には一人部屋です(二人部屋の寮生は、産業科の生徒と商業科の生徒の組み合わせが大半を占めています)


そのための(回想(?)ですが)レイヤの台詞でした



さて、今回で第一章は終わり、次回から第二章に入ります


誰編なのかは、次回までのお楽しみ



それでは、また次回



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