第十九話:夏休み突入、グランドライトへ
【前回のあらすじ】
夏休みに入りました
夏休み突入し、レイヤがグランドライト出身ということで、彼と共にグランドライトに向かっていた三人。
今はグランドライト行きの馬車の中である。
「へー、それで人捜しか」
「そうなんだよ」
レイヤには、夏休み前に異世界人ということを除き、話していたのだが、ずっと気になっていたのか、彼が尋ねてきたため、結理たちを捜してることを話した。
なお、レイヤには、王都で合流するはずだったのに、中々来ないから捜しているうちにグランドライトにいると分かった、と説明した。
(間違ってはないはず)
少なくともグランドライトにいるという情報を得たのは事実なので、丸々と嘘ではない。
「見かけたら、教えるよ」
「ああ、よろしくな」
彼女たちの特徴を教え、そう約束したところで。
「で、誰狙い?」
「は?」
いきなりそんなこと聞かれても、意味が分からない。
「今一緒にいる二人に王女様、そして、俺は知らんがまだ見ぬ幼馴染」
と、正面に座る朱波と詩音、今はこの場にいないシルフィアに、会ったことはないが、と付け加えて、幼馴染ーー結理の中で誰が好きなのか、レイヤが尋ねる。
なお、レイヤが結理を幼馴染だと知っているのは、廉が教えたためである。
「誰って……」
とりあえず、一人づつ一緒に居るところを想像してみる。
まずは朱波。
彼女の実家が実家だけに、すでにアウトだ。
次に詩音。
会話が続きそうにない。
次にシルフィアだが、彼女は王女だ。
性格的には一番良いのかもしれない。
最後に結理なのだがーー
「あれ? なんか想像できん」
嫌な感じもしなければ、良い感じもしない。
そんな廉の様子に気づいた朱波と詩音が話すのを止めて、二人を見る。
「いや、廉に誰狙いとか無理でしょ」
え、と二人に顔を向ける廉とレイヤ。
「私としては、バランスを考えたら結理だけど、明らかに二人とも互いがストッパーだもんね」
「だから、廉にはフィアがいい」
二人の言い分に、いろいろと言いたかったが、それが言えないのは、当たっているからだろうか。
「つか、ストッパーって……」
「暴走したときの制止役。この場合の暴走は行き過ぎたからかいなどの意味」
レイヤの言葉に、詩音が説明する。
「でもまあ、とりあえず、廉は死亡フラグ回避に専念しなさい」
「俺、死ぬ前提かよ!?」
朱波の言葉に廉が叫ぶ。
「当たり前じゃない。合流後にはトラブルメーカーが加わるんだから」
(うわぁ、すげぇ言われよう)
そう思いながらも、事実なので否定はしない。
そんな時だった。
「う、わっ!」
「きゃっ!」
「な、何だ!?」
馬が嘶き、馬車が急停止する。
廉が窓から顔を出し、状況を確認すればーー
「……っ!?」
「どうした?」
廉の様子に怪訝な顔をするレイヤ。
「……が、魔物が道を塞ぎ、馬車を囲んでいる」
「魔物……!?」
廉の言葉に、レイヤが廉と入れ替わる形で窓から外を見る。
「マジかよ……」
望んでない展開に、レイヤは頭を抱えた。
「朱波、詩音。どうするべきだと思う?」
もう一つの窓から外に目をやりながら、廉が二人に尋ねる。
「やるしかないでしょ」
「このまま野宿や餌になるのは嫌」
仕方ない、と腰を上げる朱波と詩音。
「お、おい……」
やるって、何をするつもりなんだ。
だが、レイヤは分かっていた。
廉たちが魔物たちを倒そうとしていることに。
(俺は……)
足手まといになるかもしれないが、自分だけ何もしないわけにもいかない。
レイヤは手を握りしめ、拳を作る。
そして、告げた。
「俺も手伝う。何もしないよりはマシだ」
それに笑みを浮かべる廉たち。
「よし、じゃあ邪魔者にはさっさと退散してもらおうか」
それぞれが自分の得意とする得物を手に、魔物たちを片づけるために、馬車から降りた。
☆★☆
「次から次へと……」
小さな風の渦を発生させる。
「鬱陶しいのよ!」
大きくなった風の渦が魔物たちを吹き飛ばす。
「苛立ってるなぁ、朱波の奴」
「仕方ないよ。すぐ側なのに足止め食らったんだから」
苦笑いしながら廉がそう言えば、ノームに援護してもらいながら、魔物を攻撃していた詩音がそう返す。
「まあなあ」
気持ちは分からなくはない。
「こら、そこの二人! 喋ってないで、とっとと倒せ!」
「…………」
魔物を捌きつつ、怒る朱波に無言になる二人。
レイヤに至っては、槍で必死に捌いている。
「俺さ、時々思うんだよ」
“土の鞭”で魔物たちを縛り上げていた詩音がどういう意味、と視線を向ける。
「よくお前らと付き合えるな、って」
それを聞き、詩音は溜め息を吐いた。
「最近、廉が今更なこと言うからアレだけど、あえて言うよ」
“土の鞭”で魔物たちを遠くへ放り投げ、詩音は廉に向き合う。
「それこそ、今更」
私だけじゃなく、朱波や結理との付き合いについて言うのは、今更ではないのか。
詩音はそう言った。
「だな」
言われればそうである。
付き合い始めた当初ではなく、長い付き合いなのだ。
もし、彼女たちの性格がこうなるのを知っていたら、関わっていなかっただろう。
(いや、結理は違うか)
家が近所同士だから、違う学校に通っていたとしても、何らかの接触はあっただろう。
『未来は予測できないから、現在が楽しいんだよ』
そんな結理の呟きを、廉は思い出した。
予測できたら、悪い状況は回避できたのか。
いや、必ずしも回避できるわけではない。
遠くの方で何かが爆発したような音が聞こえた。
何度も礼を言う御者を宥め、馬車が再び出発したのは、魔物が全滅してから、数分後のことだった。
☆★☆
さて、結理は『未来が予測できないから、現在が楽しい』と言ったが、廉としては、目の前の状況が予想通りだったので、何とも言えなかった。
「何でだろう。間違ってないはずなのにな」
「忘れてたけど、廉も立派なトラブルメーカーだったよね」
同級生の絡みといい、この前の毒草(もどき)騒動といい、そして、先程の魔物といい、何らかのトラブルが起きている。
だが、廉の場合は、結理がいない時に発生する。
結理が居る時は大体彼女がトラブルを持ってくるが、廉のトラブルは分かりにくいだけで、ただ彼女が引き起こすトラブルの陰に隠れているのだろう。
今現在、四人がいるのは、グランドライトに行く途中で立ち寄った町である。
そして、今起こったトラブルというのがーー
「いいじゃない、もう少し安くしてよ」
「いや、もうこれ以上は無理ですって」
朱波が野菜を売っていた男性相手に値切りまくっていた。
最初は良い。だが、もっと安くしろという朱波に圧され、男性は困ったように、他の人に目を移しては助けを求めていた。
別に廉が引き起こしたトラブルではないが、少しばかり様子を見ていた二人は、さすがに可哀想になってきたので、助け舟を出す。
「朱波、いい加減にしてやれ。涙目だぞ」
廉の言うとおり、男性は涙目だった。
「葉物が高いとか! 葉物が高いとか!!」
同じことを二回言う朱波に、はいはい、と返しながら詩音に朱波を引き渡し、ギリギリ最低ラインだという金額を朱波の代わりに払う廉。
「すみません。ご迷惑お掛けしました」
最後に頭を下げ、廉はその場から立ち去った。
(でも、視線に感謝と同情が入り交じっていたのは気のせいか?)
多分、気のせいではない。
「廉、ヘルプ」
詩音がもう無理、と言いたそうな顔で廉に助けを求める。
朱波に目を向ければ、葉物がぁ、と一人唸っていた。
東雲朱波。
チーム内での役割は料理担当。
食材よりもその金額を気にするズレっぷりは、彼女の扱い等に慣れた廉たちに注意させようにもほとんど不可能である(それが当たり前だと思っているため)。
「ああいうところは残念なんだよなぁ」
料理関係以外なら彼女は普通なのだ。
「けどまあ、朱波ならどうにかするだろ」
良くも悪くも料理のバリエーションがある朱波だ。
野菜の量を見て、詩音も頷く。
「さて、グランドライトに向けて出発しますか」
そう言っておきながら、結局その日は、この町に泊まったのだった。
☆★☆
「おお……」
今、四人はグランドライトにいた。
理由は簡単。朝早くから馬車に乗って、この町まで来たのだ。
目的地であるグランドライトに到着した一行は、その光景を見て、思っていたより広そうだ、という印象を抱いたのだった。
「で、どうする?」
「そうだなぁ」
無闇に捜しても無駄だろうし、と廉は思案する。
「とりあえず、ギルドに行ってみるか」
冒険者として動き回っているのなら、何らかの手掛かりぐらいは掴めるだろう。
☆★☆
グランドライト・冒険者ギルド。
情報を得るため、廉、朱波、詩音の三人はそこに来ていた。
「黒髪と茶髪の三人組、ですか?」
ギルドの受付嬢に、結理たちの容姿などを説明すれば、彼女は首を傾げた。
「それって、『迷宮の砦』の三人のことじゃない?」
尋ねた受付嬢の隣に居た受付嬢が口を挟む。
「『迷宮の砦』?」
今度は廉たちが首を傾げた。
隣にいた受付嬢は頷き、告げる。
「ちょうど貴方たちのような三人組でね。見た目や年齢も貴方たちぐらいだったはずよ」
思い出しながら言う受付嬢に、互いの顔を見合わせる三人。
「俺たちぐらいの三人組で」
「見た目も年齢も同じぐらい」
「もしかしなくても、当たり」
そこまで言われれば、予想は出来る。
「もしかして、男二人と女一人のチームじゃないですか?」
「え? ええ、そうだけど……」
知り合いなの? と首を傾げる受付嬢たちに、思案する三人。
黒髪と茶髪の三人組。
男二人と女一人のチーム。
「多分、結理たちだな」
廉は溜め息を吐いた。
情報は得られた。
なら、後は捜すのみだ。
「廉、依頼」
「ん? ああ、そうだな……」
せっかくギルドに来たのだから、依頼を受けよう、という詩音に頷き、ありがとうございました、と受付嬢二人に頭を下げた一行は、依頼掲示板がある場所へ向かった。
そんな三人を見送り、受付嬢二人は話し出す。
「何勝手に教えてるのよ!」
「いいじゃない。あの子たちなら大丈夫よ。それにーー」
『自分たちと同年代で、似たような容姿の三人組が来たら、私たちのことは教えてもかまいません。』
あの三人のリーダーらしい少女がそう告げていた。
「合流目的なら、早く会ってほしいじゃない」
あの二組はおそらく知り合いだというのは、長年受付嬢をしてきた勘だ。
廉たちが来る前に、少女たちが同じことを言っていたのは、もし、同じことを聞かれた場合、受付嬢から向こうから尋ねてきた、という情報を得るためだ。
意味的には合い言葉のようなものだろう。
「私たちはグランドライトにいた」
というように。
「まあねぇ」
それはそうなんだけど、という受付嬢だが、グランドライト中から捜すのはきっと大変だろうと思う。
町というより街に近いグランドライトは、それなりに人がいる。
そして、彼らが捜しているであろう少女たちが拠点としている場所も、意外と見つかりにくい場所にある。
ただの受付嬢である彼女たちが、それを知っているのは、少女たちの拠点の家主が受付嬢たちと知り合いで、家主が少女たちをギルド登録するために来た際、(少女たちと)互いに知り合い、家主から同居人だと説明されたためだ。
ちなみに、拠点の場所は緊急時の連絡先としてギルドに伝えてあるため、冒険者たちの拠点がグランドライト内にあるのなら、受付嬢含めギルド職員たちはその場所を把握していた。
そんな話とともに、数分前のことを思い出す。
実は廉たちが来る前に、少女が一人だけで飛び込んできて、
「師匠、ここへ来ませんでしたか!?」
と尋ねられたので、私たちは見てないと受付嬢たちが返せば、ありがとうございます、とすぐにギルドを出て行ってしまったのだ。
(全く、大変ね)
それを思い出し、くすくす笑う受付嬢。
それにやれやれと言いたそうな顔で息を吐いた隣の受付嬢は、自分の業務に戻るのだった。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
というわけで、グランドライトに到着です
次回はいよいよ……?
あと、次回で第一章は終わりです
それでは、また次回




