第十七話:いざこざ
【前回のあらすじ】
騎士団長に頼みました
「今日は久しぶりに採取系で行こうと思う」
採取系の依頼を見せながら、廉は言う。
「賛成」
「この前の『合同討伐』、大変だったもんね」
朱波と詩音が同意する。
「ああ。だから、反省もふまえての採取系だ」
☆★☆
「ーーで、何故こうなる!?」
廉が言えば、そりゃあ、と朱波が言う。
「そりゃあ、何もないはず無いでしょ」
「換金までは何も無かったのにね」
そう、換金までは。
せっかく上手くいっていたのに、何故、最後の最後でこうなるのだ。
現在、廉たち三人はとある人だかりの中心にいた。
「あれ?」
「あ」
「おお、誰かと思ったら、お前たちか」
人の山を掻き分けてそう話しかけてきたのは、先日の『合同討伐』で一緒になった冒険者ーーラウラとシンディアの二人だった。
そんな周囲を見回したラウラが尋ねる。
「で、これは何の騒動なの?」
「あー、それは……」
何と説明をするべきか。
やや視線を逸らし、説明しようとすればーー
「『グラジオラス』だ」
「『グラジオラス』だぜ」
二人を見て、周囲の人々がざわついた。
「いきなり何なんだ? 先に話していたのは俺たちなんだが」
「何だ? お前ら」
廉たちの前にいた男たちの訝る声に、ん? とラウラとシンディアはそちらを向く。
「あれ、知らない? この辺じゃ、かなり有名なんだけど」
そう自慢気に男が言う。
「で、何でまた、こいつらに突っかかっていたんだ?」
男は気にした様子もないシンディアの態度に、眉間に皺を寄せながらも、彼の問いに答える。
「そいつらが毒草を換金してたんだ。俺は、それを指摘しただけだ」
そんな男の言葉に、二人は不思議そうな顔をして、互いの顔を見合わせ、三人に確認を取る。
「そうなの?」
「そんなわけありません。珍しい薬草を新人に横取りされたから、気に入らないだけですよ。あー、大人気ない大人気ない」
「何だと!?」
ラウラに答えつつ、視線を相手の男たちに向けて、朱波は答える。
それを聞き、相手はやはり怒ったらしい。
「朱波……」
「俺たちが出したのは、毒草でもないし、珍しい薬草でもない。依頼通りの薬草です」
苦笑いしつつ、詩音が朱波を宥め、廉も反論する。
「はっ、どうだか……」
「どうして、彼らを目の敵にするのか知らないけど、彼らはそんなことするようなチームじゃないわよ?」
鼻で笑った男に、ラウラはそう言う。
「有名チームが犯罪者の味方かよ」
はっ、と男は再び鼻で笑うが、そんな男に、シンディアは言う。
「もし、お前等の言う通り、そいつらが毒草とかを出してれば、犯罪者になるかも知れないが、出したものが毒草とかじゃなかったら、お前らは今見てる奴らに嘘つき呼ばわりされるかもしれねぇよなぁ」
「……なんだと!」
噛みついてきた男に、シンディアはさらに言う。
「もし、やるってなら、受けて立ってやるぜ?」
「面白い」
二人とも喧嘩する気満々である。
というか、今騒動を起こせば、明らかに騎士団たちが来る。
「もう。何勝手に引き受けてるのよ! 私、許可した覚えはないわよ?」
「いいんだよ。どうせ相手すんのは俺だしな」
そういう問題ではない。
ラウラの言葉に、自分が相手をするというシンディア。
これは早く止めた方がいいと、廉が恐る恐る声を掛ける。
「あの~……」
「ん?」
「あ?」
「…………はは」
声を掛けられ、睨み合っていたシンディアと男が同時に廉を見る。
声を掛けた張本人は引きつった笑みで二人を見ていた。
「……」
「……」
「あ、ごめん。君たちの問題だったね」
廉を見ていた二人に、ラウラが気づき、慌てて気を逸らそうとする。
「別に良いですよ。絡まれるのは慣れてますから」
そう言って思い出すのは、中間試験の後のこと。期末試験の後には、そんなことはなかったが、元の世界でも無かったわけではない。
(原因の大半は、不在の三人と朱波だがな)
朱波に絡んできたのを結理が相手し、また別の誰かが棗や大翔に絡んでは、返り討ちにされていた。
「何よ?」
思い出していたら、いつの間にか朱波の方を見ていたらしい。
「いや、さ。俺じゃなくて、不在の三人組の方がよく絡まれてたな、って思い出したんだよ」
それを聞いた朱波と詩音がああ、と納得したような声を出す。
「結理が相手なのは悪かったわよね」
「あいつ、何やってたっけ?」
「えっと、確か……柔道、剣道、弓道、空手、合気道だったかな」
廉に聞かれ、詩音が結理がやっていたことを順にあげる。
ちなみに、やっていた本人である結理は技名を知らなかったりする。
結理自身、朱波や詩音とともに護身術として身に付けていたため、技名とかを一致させてなかったのが原因である(相手の動きを封じる技も分からないために、『封じ技』と間違ってはないのだが、違う技なのに一括りにしてそう呼んでいた)。
勉強に関しては凄い記憶力を発揮するくせに、剣道などの技名については適当にひとまとめ。
一体、この差は何なのか。
だから、すっかり忘れていた。
自分たちが起こした騒動をーー
「お前ら……」
「君たちね。自分たちの問題なのに、無視して身内の話をしないの」
シンディアの呆れたような目と、ラウラの全く、と言いたげな視線に、苦笑いを浮かべる三人。
「すみません」
「すっかり忘れてました」
「ごめんなさい」
謝る三人に、困ったような顔をしながらも、ラウラとシンディアの二人は言い掛かりをつけてきた男たちを見る。
「で? 本当に俺たちとやり合うつもりか?」
「だから、ダメだって」
諦めた様子のない、というより、今からでも始めそうなシンディアに、ラウラが待てい、と服の端を引っ張り、止める。
「これは彼らの問題なんだから、私たちが介入していいはずがないでしょ」
「今更だな」
「今更よ。悪かったわね」
ラウラの言葉に今更、と返すシンディアだが、ラウラ本人も分かっているため、今更だと返す。
「それで、お前たちはどうするんだ?」
シンディアが廉たちに尋ねる。
それに対し、三人は顔を見合わせる。
「こっちに非がないわけじゃないけど、誤解させたのなら、私たちは謝るべきよね」
「でも、勝手に勘違いしたのは向こう」
朱波の言い分に頷きつつ、詩音はそう言う。
「間違った、という点では、お前らも謝らないといかんよな」
シンディアが男たちに言えば、男たちは不機嫌そうな顔をする。
「ふん。俺たちは間違ってない」
「そうだ。俺たちは指摘しただけなんだからな」
あくまでも、自分たちは原因では無いと言い張る男たち。
確かに薬草を取ってきたのは廉たちだが、この騒動を引き起こしたのは彼らが原因だ。
「……ん? あれ?」
話を聞いていて、脳内で状況を整理していたラウラが首を傾げる。
「どうした?」
シンディアも不思議そうに尋ねる。
「確か換金したのを見たんだよね?」
「ああ、そうだ」
ラウラの確認に、俺たちは頷く。
「もし、換金したんなら、換金する時に職員が依頼表と照らし合わせて、確認するんじゃない? もし見たのが換金する前ならまだしも、換金した時なら、職員が薬草か毒草かなんて気が付かないはずがないでしょ」
「あ」
ラウラの推理|(?)に、朱波が確かに、と声を上げる。
「だったら、とっとと確認に行くぞ。毒草なのか嘘なのかが分かれば、この騒動は解決するしな」
シンディアの言葉に頷き、一行は換金場に向かった。
☆★☆
「あのですね」
フィリア・ローゼ。
冒険者ギルド本部の受付嬢にして、換金窓口の受付嬢でもある。
彼女は今、頭を抱えていた。
原因は彼女の前にいる冒険者たち。
話を聞けば、先程換金した冒険者たち(つまり、廉たち)が採取した薬草を毒草扱いされたらしい。
違うと反論したらしいが、悶着が起こり、確認しようということで来たとのこと。
ちなみに、ラウラとシンディアはまた喧嘩されても迷惑なので、仲裁役としてここにいる。
「そもそも、彼らが薬草を取りに行き、換金する際、それが毒草なら、受け取る側である私たちも気づきます」
伊達に受付嬢はやっていない。
それに、冒険者たち以上に多くの薬草や魔物の部位を見てきている。文句を言われる筋合いはない。
「だってよ」
「くっ……だが、まだ例のものは見てないからな」
シンディアに言われ、悔しそうにしながらも、まだ薬草とは認めてないらしい。
ここまで来ても認めないとは、随分頑固だな、と頭を悩ませる一同。
フィリアまで悩んでいるのを見ると、相当らしい。
「まあ、気にするな。それより、問題の品はどうした?」
シンディアが問い掛ければ、フィリアはああ、と言って取り出す。
「はい、これがさっき持ってきてくれたものね」
フィリアが依頼表とともに出した薬草を見る面々。
「ラウラ……」
「うん……」
何とも言えない。
というか、よくこんなのを新人に受理したな、と二人は思う。
依頼ランクはEランク。廉たちの冒険者としてのランクと同じだが、内容的には本当にEランクで良いのか? と判断に困るものだからだ。
薬草、デビルハーブの採取。
見た目が毒草と似ていることから、その名が付けられ、よく間違って採取される薬草である。
名前に反して毒は一切無い。
そのため、ギルドの職員たちは、本物と毒草を見分けるために、何度も何度も分別作業をやらされたのだ。
一日目が終わったかと思ったら、また分けた分を混ぜ合わされ、それをまた分ける。
フィリアがそれを知ったのは、働き始めて三年経ったある日のことだった。
辛いのも分かっているし、後輩のためだと思い、一日目の分を混ぜ合わせ、再び分けさせる。
それに、もし一度でも間違ったりすれば、またあの辛い日々が訪れるのだ。
それだけは勘弁してほしい。
なお、フィリアもそうだが、後輩たちには、仕事の際に一度でも間違えたら、再びこの作業が待っているからと脅してある。
そのためか、後輩たちは練習を真面目にやり、仕事時ではミスは無い。
それぐらい、ギルド職員にこの作業は嫌われていた。
それに、こういう薬草や毒草もあるのだと、冒険者たちは知る必要があるのだ。ただ、ギルド職員と違い、身をもって知る者が多いのはアレだが。
「それとも、私たちが信頼できないんですか?」
ギルド職員たちは、冒険者たちを信頼しない限り、依頼は受理しないし、冒険者たちだって、職員たちを信頼しているからこそ、依頼云々だけではなく、噂話だったり、他の街についての話をするのだ。
「私たちに、貴方がたの仕事を妨げる理由なんてありません」
「確かにそうですね」
フィリアの言葉に納得する面々。
妨害は出来るが、メリットはない。それなら、する必要もない。
下手をしたら、給料を下げられるかもしれないのだ。そんなデメリットは負いたくない。
「じゃあ聞くが、そいつは本物で間違いないんだな?」
「はい、間違いありません」
確認を取るシンディアに頷くフィリア。
「見間違えってことはないのか?」
そう言う男に、その仲間たちがニヤニヤと笑みを浮かべる。
それに対し、文句を言おうとするラウラたちを制し、フィリアは満面の営業スマイルで告げた。
「冒険者同士の問題に口出ししたくはありませんが、今のはギルドに喧嘩を売ったと解釈してもよろしいんですね?」
「なっ……」
フィリアの言葉に絶句したのは、男の仲間だった。
だが、リーダー格らしい男(ほとんど受け答えしていた奴)は分かってないようだった。
「どうやら、分かってないようですから言いますが、私たちギルド職員だって、貴方がたのように命がけの時だってあるんです。薬草と毒草を見間違えるはずがありません」
「だ、だが……」
諦めの悪い男である。
「それ以上何か言うのなら、ギルドへの侮辱ともなります。薬草だと認めたのなら、お出口はあちらですので、お帰りを」
そう言って、出口を示すフィリア。
最終的に男たちは、覚えてろ! と言って、去っていった。
「覚えてろ、ですか」
溜め息を吐きながら、フィリアは言う。
「格好良かったぞ、フィリア」
「言われても嬉しくありません」
シンディアに言われ、疲れたと言いたげにフィリアは返す。
「あ、あの……」
廉が恐る恐る声を掛ける。
「どうしたの?」
ラウラが尋ねる。
「その、迷惑を掛けたので」
それを聞き、ああ、と頷くラウラとシンディアは気にするな、と言う。
「勝手に首を突っ込んだのはこっちだしな」
そして、フィリアを見る。
「私も、とやかく言うつもりはありません」
フィリアにまでそう言われ、困ったような顔をする廉だが、騒動が起きたときから、こんなことを引き起こしたという責任は取るつもりでいた。
だから、何らかの罰が下されるのなら、受け入れるつもりではいたのだが。
「まあ、罰が無いのならいいんですが、一緒にいたのに防げなかったのは、私たちにも責任がありましたから」
「もし、廉を罰するなら、私たちも同罪」
そういう朱波と詩音に驚く廉に、ラウラとシンディアが噴き出す。
「え、何ですか?」
「いや、本当に君たち仲が良いな、と思ってね」
噴き出した二人に尋ねれば、ラウラがそう答えた。
「まあ、そうですね」
「君たちの年齢だと、何らかの事情が無い限り、異性と一緒にいることがないもんね」
そう言われ、確かに、と納得する三人。
向こうでも六人で居たとはいえ、どちらかといえば仲が良い方なのだろう。
だが、朱波や詩音が先程廉を庇ったのは、同郷者が自分たちしかいないからで、廉に罰を受けさせて、自分たちは受けないという、友人を見捨てるような人間でもないからだ。
「私たち、幼馴染みたいなものですから」
朱波の言葉に意外そうな顔をする三人。
「え、そんなに意外でした?」
逆に驚く朱波たち。
「いや、そうじゃなくて、それらしいっていうのは、雰囲気で感じていたんだけど……」
三人の出すそれぞれの雰囲気が各々違ったため、こっちで再会したパターンかと思えば、幼馴染パターンだった、というだけだ。
廉たちの捜す三人組のことを思い浮かべ、向こうも幼馴染関係なのかな、と考えるラウラ。
以前、廉たちから捜している三人は幼馴染と親友だと聞いていた。
「あの、皆さん。他の方が来られないので、話すなら隅の方でお願いします」
話し込んでいると、申し訳なさそうにフィリアが言う。
それに対し、横に移動しつつ、ラウラたちに礼を言い、そのまま分かれ、三人は学院の学生寮に帰宅したのだった。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
さて今回、他の冒険者から言いがかりをつけれた三人ですが、何とか解決しました
結理は確かに武道系をやっていたし、技名云々もそうですが、三人には、彼女に対する『何でも出来る』というフィルターが掛かっていたという……
次回は学院側です
新キャラ登場と夏休みの予定についての予定です
それでは、また次回




