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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第一章:異世界召喚、篠原廉編
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第十六話:シルフィアの懸念

【前回のあらすじ】

期末試験をしました



※後半はシルフィア視点




 シルフィアは一人、とある場所に来ていた。


「騎士団長、居る?」


 軽く扉を叩き、返事が聞こえれば、扉を開き、シルフィアはそう尋ねた。


「姫様!? どうなさったのですか!?」


 相手はそんなシルフィアを見て、慌てて立ち上がる。


「いや、だから……団長居る?」


 シルフィアが苦笑いしながら、再度尋ねれば、相手は謝り、騎士団長であるレガートの居場所を告げる。


「ああ、すみません。団長は今、訓練場にーー」

「そう。ありがとうね」


 最後まで聞かずに、シルフィアは礼を言い、部屋から出ていった。


   ☆★☆   


 騎士団訓練場。


「団長!」

「どうした?」


 急に呼び掛けられたレガートは、怪訝そうな顔をする。


「その、姫様が……」


 あちらに、と示された方へレガートは目を向ける。


「シルフィア様、何かご用ですか?」

「用が無くては、来てはダメなんですか?」


 シルフィアは首を傾げ、そう尋ねれば、レガートは慌てて言い繕う。


「い、いえ。ですが、ここは危ないですから」

「確かにね。けどまあ、用があるのは事実ですから」

「はぁ……」


 シルフィアがレガートの言葉に頷けば、レガートは頭を抱えたくなった。


「ここでは何ですから、場所を移動しましょう?」


 シルフィアにそう言われ、レガートは彼女と共に移動するために、部下たちに声を掛ける。


「少し抜けてくる」


 分かりました、という部下たちの声を背後に聞きながら、レガートとシルフィアは場所を移動した。


   ☆★☆   


「それで、ご用件は……?」


 レガートが尋ねれば、シルフィアは話し始める。


「レン様たち……勇者の仲間探しは以前、お父様から頼まれましたよね」

「はい」


 確認を取るように聞かれ、レガートは頷いた。


「私たちが、あと少しで夏休みに入ることも知っていますよね?」

「はい」


 これまたレガートは頷いた。

 夏本番より少し前に、シルフィアたち学生は一ヶ月ぐらい長期休暇が与えられる。

 それだけの期間とはいえ、仮にも王族であるシルフィアが城に戻るのだ。王族を守るという騎士たちの忙しさは増えるため、自然にこの季節は仕事が増えると、騎士たちも理解していた(夏休みに限らず、冬休みや春休みの場合も同じ)。


「そこで、一つお願いがあります」


 真面目な雰囲気で言うシルフィアに、レガートも真剣に聞く。


「私たちの夏休みが終わるまでに、何としても、残りの三人を見つけてください」

「また、急な話ですね」


 レガートの言う通り、急な話である。

 三人の捜索は無期限のはずだ。

 だが、シルフィアは今、夏休みが終わるまでに捜すように言った。


「それは理解してます。ですが、レン様たちの話では、王都に向かっている可能性もあると言っていました。ですが、正直にいえば、それも時間の問題です」


 確かに、とレガートは内心で頷いた。

 今現在、捜索対象の三人がどこにいるのか不明である。

 もし、王都に向かっているのなら、すれ違う可能性もある。

 しかも(今更だが)、王国内にいるのかどうかも不明だとなれば、レガートとしては対処しきれない。

 そんな眉間に皺を寄せた彼を見て、シルフィアは言う。


「それで、一人騎士を向かわせてほしいところがあります」

「向かわせてほしい所……?」


 怪訝そうなレガートに頷き、シルフィアは言う。


「レン様たちが冒険者として、城下に降りた際、三人らしき者たちを見たという冒険者が居たそうです」


 それを聞き、レガートはある予測を立てる。


「つまり、その冒険者たちが、例の三人組を見たという場所に、確認も兼ねて行ってほしいと」

「その通りです」


 頷いたシルフィアを見て、ふむ、と思案するレガート。


「一応、お聞きしますが、その場所はどこなんですか?」

「それはーー」

「西にあるグランドライトという町だよ」


 レガートの問いに答えようとしたシルフィアの横から、声がし、驚く二人。


「ーーっつ!!」

「し、シオン様!?」


 そんな二人を気にした様子もなく、詩音(しおん)は言う。


「私が教えたって事、内緒にしておいて。(れん)たちに知られたら、何言われるか」


 つまり、詩音が『私たちに今言うことを、あの二人は知らない』というのを、二人はそう理解した。


「はぁ、それは構いませんがーー大丈夫ですか?」

「何が?」


 シルフィアは何となく気になっていたことを尋ねるが、詩音は何のこと、と首を傾げる。


「二人を止めると言ってたから……」


 その説明を聞き、ああ、と納得する詩音。

 そのままレガートに告げる。


「ああ、大丈夫。それと、団長さん」

「何だ」

結理(ゆうり)たちに襲い掛かろうとするのだけは止めてくださいね。反対にやられると思いますから」

「……分かった」


 まさか、と思う反面、相手は勇者の仲間なのだ。レガート自身、否定しきれないので、頷いておいた。


「しおーん」

朱波(あけは)が来たから、私は行くね」


 朱波の声がし、詩音は二人にさっきはごめんね、と付け加えて、去ろうとする。


「あ……」


 せっかく本人がいたのだから、話を聞こうかと思っていたのに、とシルフィアは、さっさと去り始めた人を止めようとするかのような体勢になったのだが、途中で立ち止まった詩音に不思議に思いながらも、体勢だけは戻す。


「では、お願いします」


 その一言だけ告げると、本当に詩音はその場から去っていった。


「姫様。彼女……」


 何かに気づいたらしいレガートだが、それを言わせることなく、シルフィアはレガートに頼んだ。


「お願いしますね、レガート騎士団長。彼らのためにも、一刻も早く三人を見つけてあげてください」

「はい」


 シルフィアの言葉に、レガートは頷いた。


   ☆★☆   


 どんな人が召喚されるのか。


 若干わくわくしながら、自身の務めを果たすべく、あの塔に行き、召喚魔法を使用しました。


 どんな人でもいい。


 こちらの事情を理解し、解決するために手を貸してくれるのなら。


 最初はそう思っていました。


 そして、始まった召喚魔法。

 その陣から現れたのが今代の勇者、篠原廉(しのはら れん)ーーレン・シノハラとその友人たちでした。


 彼らを連れ、城内に入り、翌日には国王陛下へと謁見しました。


 だが、そこで問題が起きました。


 今代勇者(レン様)の仲間が、召喚途中で行方不明になったことが発覚したのです。


 その後、バラバラになった三人の容姿を聞き、騎士団にも協力してもらい、各街や町、村に至るまで、三人を捜しました。


 その間、レン様たちは魔法や剣の練習をしました。

 途中でアケハ様が精霊と契約するということもありましたが。


 日が過ぎる度に、冒険者ギルドで受けた依頼や何があったのか、三人は楽しそうに話し、それを聞いていた私も楽しくなりましたが、それでも、内心では寂しいのではないだろうか、と思いつつも、何度も笑って誤魔化していました。


 三人が学生だったと知り、学院への入学(というより編入)をすることになりました。

 学院へ無事に編入は出来たものの、荷物の移動やその他の買い出しなどで、二つの寮内は慌ただしく、それも次第にしなくなりました。


 いつも通りの日常。


 ギルドで行ったことを聞いて、学院での宿題をやってーー


 そこで、奴が現れたんです。そう定期試験というものが。


 机でぐったりするレン様を見て、やはりどの世界でも試験はあるのか、というアケハ様の言葉を聞き、それに同意しつつも、レン様について尋ねれば、いつも通りとのことです。


 嫌ですよね、試験。


 さて、そもそもこちらの都合で喚びだしたのです。

 彼らに何かあっては一大事。


 城の騎士団の訓練場で勇者一行と騎士団の模擬戦です。


 結果はレン様たち勇者一行の勝利。反対に負けた騎士団の面々は、レガートから特訓メニューを増やされるのでした。


 レガートもやりすぎなければいいんですが。


 合同討伐の話を聞いた際には驚きました。

 魔物についてもそうでしたが、三人の手がかりが得られるとは。


 それでも、これで一歩前進です。


 と、そんな心情を砕くかのように、今度は期末試験が来ました。

 何とか不合格にならずに済みました。


 さて、今現在。レン様たちの状態は良いとは言えなくなっています。


 何と言ったらいいんでしょうか。


 それでも、言うのならーー


「チームの崩壊寸前」


 これが近いのかもしれません。


 全員が再会してから言うのならまだしも、今いる三人だけを見ていた私としては何とも言えません。

 シオン様は、レン様やアケハ様が危ないと言っていましたが、私としては、彼女も十分危ない気がするのです。


「私は、皆さんの仲を裂きたいわけではないのに……」


 もし、この王都に向かっているのなら、私個人を勝手な我が儘で悪いのですが、早く来てください。


「レン様たちのためにも」


 今はそう、願うしかない。



読了、ありがとうございます


誤字脱字報告、お願いします



今回はシルフィア視点


召喚者だからこそ、気を使う彼女が一番よく見ていました



次回はギルド側です



それでは、また次回



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