第十三話:手に入った情報
「ふーん、三人とも学生なんだ」
「はい」
道すがら、ラウラたちと話しながら、廉たちは目的地に向かって歩いていた。
「勉強、大変でしょ」
「そうですね」
ラウラの言葉に、三人は苦笑いする。
「だが、学生なら、冒険者になる必要は無かったんじゃないのか?」
「俺たちも一応、目的がありますので」
シンディアの問いに、廉はそう答える。
「目的? 聞いてもいい?」
「おい」
「それは……」
興味を持ったのか、ラウラが尋ねる。
そんな彼女に対し、失礼だろうが、とシンディアが止め、廉は朱波たちを見る。
「あ、無理なら話さなくていいよ」
ハッ、と気づいたのか、ラウラが慌てて、言いたくないなら言うな、と言う。
「良いんじゃない? 手掛かりがあるかもしれないし」
「手掛かり……?」
だが、ラウラの言葉を気にした様子もなく言った朱波に、今度はシンディアがどういう意味だ、と怪訝する。
そんな二人に、廉たちは実は、と話す。
「俺たちと同年代ぐらいの、同じ黒髪と茶髪の三人組を捜してて。その情報を集めてるんです」
「黒髪と茶髪の三人組?」
「あいつらじゃないのか?」
「?」
シンディアの言葉に、ラウラは誰だっけ、と首を傾げるが、シンディアはほら、と容姿を説明する。
「ほら、これの一つ前の依頼の時に会ったじゃねーか。男二人に女一人の黒髪と茶髪の三人組に」
「……ああ! 一人は茶髪の」
思い出したと言わんばかりに頷くラウラに、三人は呆然としていた。
茶髪はともかく、黒髪は珍しいから覚えていたという。
「本当に……本当に会ったんですか!?」
やや迫りながら尋ねる廉に、顔を引きつらせたシンディアが答える。
「お前らが捜してる奴らかは知らないが、俺たちが知ってる黒髪と茶髪の三人組はお前ら以外だと、そいつらぐらいだ」
「そうですか」
それを聞き、廉は体を戻す。
再度興味を持ったのか、ラウラが尋ねる。
「なになに? 捜してる三人組って、実は離れ離れになった恋人とか?」
「違います! 捜してるのは……その、幼馴染と親友たちですから」
ラウラの言葉に、廉は反論するかのように言うが、語尾が少しずつ小さくなる。
「ふーん。訳ありっぽいけど、事情は聞かないことにするよ」
「ありがとうございます……」
そっか、と言うラウラに、廉は何故かこの時点で疲労感が増えたような気がした。
「着いたぞ」
廉たちが話している途中で、シンディアがそう言う。
目の前には大きな森。
廉たち三人は無意識に手を握り、拳を作っていた。
「何か、嫌な気……」
詩音の言葉に、ラウラとシンディアは、ああ、と同意するように頷くが、詩音の感じた嫌な気は、二人と違うものだった。
☆★☆
森に入り、ある程度進んだ後、周囲を見回す。
未だに嫌な気が消えないのか、詩音は顔を顰めたままだ。
「詩音、まだ消えないの?」
朱波がこっそり尋ねれば、詩音は小さく頷き、告げる。
「……いる」
「いる? って、何がーー」
廉が詩音に尋ねれば、先を歩いていたラウラとシンディアの足が止まる。
不思議に思った三人も足を止める。
「……まさか、囲まれた?」
それは誰の呟きだったのか。
「チッ、こうなったら応戦するしかねぇな」
シンディアが舌打ちしながら、得物を構える。
「まあ、そん中に依頼のもんがいてくれたら、ラッキーなんだけど」
ラウラが顔を引きつらせて言う。
「朱波、詩音」
「分かってる」
「いつでもいい」
さすがの三人も異変を感じ、廉が声を掛ければ、隣にシルフを待機させた朱波が頷き、詩音がすぐに動ける、と言う。
それを確認し、五人は互いに背を向け、円を描く。
「死ぬなよ、お前ら」
「シンさんたちこそ」
シンディアの言葉に、朱波が返す。
それに笑みを浮かべたシンディアは、ラウラを見る。
頷いたラウラを確認し、シンディアは神経を集中させる。
隙ができたと思ったのか、襲い掛かってきた魔物化した動物たちに、シンディアは一閃する。
それが合図になったかのように、他の魔物化した動物たちが五人に襲い掛かる。
それに対し、朱波、詩音、ラウラが魔法で応戦するがーー
「オラオラオラ! 邪魔なんだよ!」
一人、そう言いながら、魔物化した動物たちを捌く。
「ラウラさん、性格変わってる……」
「まあ、気にするな。魔物限定だ」
「魔物認定していいんですね、コレ」
ラウラの豹変に驚いていれば、シンディアは気にするな、と言い、朱波が呆れたように返す。
「ああ」
だが、シンディアは頷いた。
それを見て、朱波は周囲を見回す。
魔物化した動物として、この場にいるのは、熊や狼などの肉食獣と、ありえないぐらいに肥大化したウサギのような奴に、キツネのようなもの。
朱波は一度、深呼吸する。
「シルフ」
『うん』
声を掛けられた精霊は、人差し指を立て、腕を真上に伸ばす。
『今の空は快晴』
「雲一つない青空」
シルフと朱波が交互に告げる。
『ここで舞うは夏の風』
「吹きつけろ、“熱風”!!」
ぶわっ、と熱風が魔物化した動物たちに当たり、
「あっつう!」
廉たちにも当たった。
「“熱風”だからね」
平然と言い放つ朱波を恨むように見る四人。
「おっと」
余所見してる場合じゃねぇ、とシンディアは得物で魔物化した動物たちを捌いていく。
ラウラもラウラで、奇声を上げながら、魔物化した動物たちを捌いていく。
詩音は詩音で、土属性の魔法や植物たちを使い、対峙していた。
そして、廉はーー
「はーはー」
大量の汗を流しながら、魔物化した動物たちと対峙していた。
「このままだと……」
目の前の魔物化した動物たちを見て、歯を食いしばり、隣にいたラウラとシンディアを一瞥する。
「おいこら、シンてめぇ、人のもんに手を出すんじゃねーよ!」
「うっせぇ! 生死の瀬戸際に、んなこと言ってる場合か!!」
どうやら、ラウラが相手していた魔物化した動物を、シンディアが倒してしまったらしい。
今度は朱波と詩音に目を向ける。
「ヤバい。魔力切れそう……」
「朱波、大丈夫?」
見れば、息切れする朱波を詩音が心配していた。
先程から休みなしに魔法を放っているのだ。魔力が無くならない方がおかしい。
(足手まといにはなってないっぽいが……)
倒した数だけ見れば、他の四人と比べ、明らかにその数は少ない。
だが、それも限度がある。
飛びかかってきた魔物化した動物たちを一閃し、倒す。
(お前と再会するまでに、俺はどれだけ強くなってるんだろうな)
そう思いながら、廉は捌いていく。
「ーー……」
そんな彼らを、誰かが見ていた。




