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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第一章:異世界召喚、篠原廉編
12/87

第十一話:模擬戦

【前回のあらすじ】

決闘(?)しました



 ウェザリア王城・訓練場。


「せいやぁぁぁぁああああ!!!!」

「うぉぉぉぉおおおお!!!!」


 声を張り上げ、騎士たちは撃ち合いをする。


「模擬戦にも本気出すんだ」

「当たり前だろ。相手は騎士なんだから」


 ふーん、と言いたげに言う朱波に、(れん)は当たり前だ、と言う。

 休日になり、城に来た三人は、騎士団の訓練を見ていたのだが、騎士団長であるレガートから、久しぶりに手合わせしようと言われ、行ったのだ。


「俺たちとしても、勇者と本気で戦ってもらえてうれしいぞ」

「こっちは本気じゃないと俺が死ぬ」


 本当に嬉しそうに話すレガートに対し、廉は燃え尽きたかのように真面目な顔で言う。


「もう一戦、するか? 勇者よ」

「え、何? 二人も「あーあ」みたいな顔してないで、助けようとしろよ!」


 ニヤリと笑みを浮かべて言うレガートに、廉がありえないと言いたげな顔をする。

 朱波(あけは)詩音(しおん)は、廉の言う通り、あーあ、と言いたげな顔をしていた。

 そんな顔してないで助けろと言う廉に、


「いや、相手は騎士団長だし」

「せいぜい相手できるのは、廉かなかなか見つからないあの三人組ぐらいだよ」


 と、二人は返した。


「あ、先輩は除外ね」


 どちらかといえば、後衛っぽいし。

 付け加えるようにそう言った。


「もうやだ。何で俺の周りの女って、こんな奴ばっか……」


 廉は泣きたくなった。

 それでも、あの幼馴染がいないだけでもマシなのだろうが。


「ほらほら。もう一戦、頑張りなさいよ。魔王退治なんて夢のまた夢よ?」

「ぐっ……」


 廉は恨みがましく見るが、朱波たちは笑みを浮かべただけだった。


   ☆★☆   


 ぜーはー、と息切れしながら、地面に仰向けになり、廉は倒れていた。


「廉、大丈夫?」


 上から誰かがのぞき込む。

 言い方から、朱波か詩音だろう。

 上にある光のせいで、顔がよく見えない。


「…………朱波か?」


 何となくだが、相手は笑みを浮かべた気がした。


「正解」


 横に移動し、廉が起きるのを手伝った。


「でも、一瞬だけ結理(ゆうり)と間違えたでしょ」


 答えるまでに間があったよ。

 髪を結びながら言う朱波に、それは、と廉は視線だけ逸らす。


「この世界じゃ、私も詩音も、そして、結理も似たような容姿だもんね」


 髪を(ほど)いた朱波を、廉が間違えたぐらいだ。


()も、よく見ないと分からないしね」

「…………」


 廉は何も返さなかった。

 間違えたのは事実だし、朱波の言い分も間違ってはない。


「手掛かり、何かねーかなぁ」


 廉は呟く。

 もし、あの三人がギルドに登録しているのなら、ギルドに行って、受付で教えてもらえるかもしれない。

 だが、もし登録してなかったらーー


「情報は何にでも変化する。攻撃にも防御にも」


 二人がそちらを見れば、よ、と詩音が手を挙げる。


「詩音」

「何だ? 今の」

「結理が言ってたの。今の話からならーー」


 たとえ手掛かりが無かったとしても、別のヒントがあるかもしれない。

 詩音は、結理がそう言ったと告げる。


「本当に、あの子の影響力は凄いわね」

「本人はそのつもりは無いんだろうけどね」


 感嘆の溜め息を吐く朱波に、詩音は苦笑いする。


「つか、俺たち結理の心配しかしてねぇよな」

「まぁねぇ……」

「女の子を心配するのは当たり前」


 ふと思った廉が言えば、確かに、と言いたげな朱波と、気にするなと言いたげな詩音がそう言う。


「詩音。あからさまに、先輩たちを心配してない宣言しないの」


 そんな詩音に朱波が苦笑いした。

 それでも、結理を引き出してしまうのは、一種の癖なのだろう。

 何かある度に、彼女を頼っていた。

 そして、大翔(ひろと)(なつめ)も、いつの間にか結理を頼るようになっていた。


 ーー結理は、そんな俺らをどう思っていたんだろう?


 廉はそう思う。

 何でも結理頼みで、彼女が出来ないことがないと思い込んでいたんじゃないのか。







「休憩は終了だ。今から模擬戦するぞー!」


 レガートが大声で言う。


「うへ~」

「さっきやったじゃないですかー」

「対戦相手はどうするんすか?」


 やりたくなさそうな者もいれば、不満を言う者もおり、首を傾げ質問する者もいた。


「そんなもん、決まってる」


 ニヤリと笑みを浮かべるレガートに、廉は呟く。


「俺、嫌な予感がする」

「あら、珍しい。私もよ」

「私も」


 そんな三人の予想は当たることとなる。


「対戦相手はあの三人だ!」


 やっぱりか、と三人は思い、肩を落としたり、悲鳴を上げ掛けたり、聞かなかったことにしようと、両耳を塞いでいたり。

 幻聴だと三人は思いたかったが、思いの外、団員たちはやる気満々だった。

 先程は団員同士での模擬戦だったため、どちらかといえば、それが廉たちに回ってくるのは必然的だった。


 とりあえず、三組に分け、廉たちがそれぞれ相手をすることになり、朱波と詩音は魔法の使用が許可され、廉はなるべく剣だけで対処するように、とレガートから言われた。

 組み分けられた面々は自分の相手を知り、反応が様々だった。

 廉が対戦相手となったチームは、妙に殺気立っていた。


「ついにこの時が来た」


 や


「覚悟しろ」


 などなど。

 もちろん、理由を知らない廉は顔を引きつらせていた。

 反対に朱波や詩音が対戦相手となったチームは、色めき立っていた。


「もし勝ったら、デートしてください」


 や


「ファンでした」


 などなど。

 だが、レガートの一喝や、朱波の「私には、婚約者がいるの」という本当か嘘か分からないような言葉に、ビクリとしたり、肩を落としたり、期待の眼差しで詩音を見たりと、反応は様々だった。


「でも、やるからには容赦なし」

「手加減しない」

「とりあえず、吹き飛ばす!」


 三人もやるからには気合いを入れ直し、廉、詩音、朱波の順にそう言った。


「じゃあ始めるぞ。試合ーー開始!」


 レガートにより、スタートの合図が出される。

 一斉に掛かってくる団員たちに、廉は剣で薙ぎ払う。


「やるねぇ、廉。さすが勇者様」


 口笛を吹き、朱波は廉を誉める。


「言ってる場合じゃないよ。朱波」

「はいはい、分かってますよ」


 詩音に言われ、朱波はそう返しながら、風属性の魔法で団員たちを吹き飛ばす。


「“土の鞭(アース・ウィップ)”」


 一方で、詩音は土属性の魔法と植物たちを利用して、団員たちを捕まえては投げてを繰り返していた。


「シルフ!」

『はいはーい!』


 朱波に喚ばれ、緑髪の精霊ーーシルフが姿を現す。

 団員たちは「精霊!?」と慌てるが、その隙にシルフと朱波が風属性の魔法で一掃する。


「私は終了しましたー」


 ふぅ、と息を吐いて朱波がそう言えば、レガートは頷いた。

 後は廉と詩音である。


「やっぱり、魔法は便利だなーーっと!」


 バランスを崩しそうになり、立て直す。


「“フラッシュ”!」


 廉から放たれた光属性の魔法に、視力を一時的に奪われた団員たちは、やはりその隙に倒される。

 残るは詩音だけである。


「キリがないからこれで終わり」


 その言葉で、模擬戦は終了した。

 詩音により、一瞬で土の鞭や植物たちに吊り下げられた団員たちを見て、レガートは溜め息を吐いた。

 対廉の場合、魔法に適わないのは大目に見ても、“フラッシュ”で目眩(めくら)ましされて、その隙を突かれ、倒された。

 レガートは再度、溜め息を吐く。

 その度に、団員がビクリとする。


「明日から訓練メニューを変更する」


 レガートの溜め息を見れば、それは決定事項のようなものだった。

 その決定に項垂(うなだ)れた団員たちを見た三人は、苦笑いした。

 これで自分たちが負けていたら、どうなっていたことか。

 そして、気づく。

 模擬戦前の暗い空気が無くなっていた。


(ああ、そういうことか)


 何となく理解できた。

 あの場にレガートもいた。

 そして、廉たちも小声で話していたわけではないため、自然と彼の耳にも入るわけで。

 つまり、今の模擬戦は、彼なりの気遣いなのだと。


「団長、ありがとうございます」

「ん? 何がだ?」


 廉の言葉に、レガートは首を傾げる。


「いえ、何でもありません」


 そう言うと、廉は二人の所に戻り、三人で城内に入っていった。






 そんな三人を見て、レガートは笑みを浮かべていた。


(あの三人はああでないと困る)


 そう思いながらーー



読了、ありがとうございます


誤字脱字報告、お願いします



というわけで、出てきたのはレガート騎士団長でした



次回はリベンジ戦


次回もお久しぶりな人の登場ですよー



それでは、また次回



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