第十一話:模擬戦
【前回のあらすじ】
決闘(?)しました
ウェザリア王城・訓練場。
「せいやぁぁぁぁああああ!!!!」
「うぉぉぉぉおおおお!!!!」
声を張り上げ、騎士たちは撃ち合いをする。
「模擬戦にも本気出すんだ」
「当たり前だろ。相手は騎士なんだから」
ふーん、と言いたげに言う朱波に、廉は当たり前だ、と言う。
休日になり、城に来た三人は、騎士団の訓練を見ていたのだが、騎士団長であるレガートから、久しぶりに手合わせしようと言われ、行ったのだ。
「俺たちとしても、勇者と本気で戦ってもらえてうれしいぞ」
「こっちは本気じゃないと俺が死ぬ」
本当に嬉しそうに話すレガートに対し、廉は燃え尽きたかのように真面目な顔で言う。
「もう一戦、するか? 勇者よ」
「え、何? 二人も「あーあ」みたいな顔してないで、助けようとしろよ!」
ニヤリと笑みを浮かべて言うレガートに、廉がありえないと言いたげな顔をする。
朱波と詩音は、廉の言う通り、あーあ、と言いたげな顔をしていた。
そんな顔してないで助けろと言う廉に、
「いや、相手は騎士団長だし」
「せいぜい相手できるのは、廉かなかなか見つからないあの三人組ぐらいだよ」
と、二人は返した。
「あ、先輩は除外ね」
どちらかといえば、後衛っぽいし。
付け加えるようにそう言った。
「もうやだ。何で俺の周りの女って、こんな奴ばっか……」
廉は泣きたくなった。
それでも、あの幼馴染がいないだけでもマシなのだろうが。
「ほらほら。もう一戦、頑張りなさいよ。魔王退治なんて夢のまた夢よ?」
「ぐっ……」
廉は恨みがましく見るが、朱波たちは笑みを浮かべただけだった。
☆★☆
ぜーはー、と息切れしながら、地面に仰向けになり、廉は倒れていた。
「廉、大丈夫?」
上から誰かがのぞき込む。
言い方から、朱波か詩音だろう。
上にある光のせいで、顔がよく見えない。
「…………朱波か?」
何となくだが、相手は笑みを浮かべた気がした。
「正解」
横に移動し、廉が起きるのを手伝った。
「でも、一瞬だけ結理と間違えたでしょ」
答えるまでに間があったよ。
髪を結びながら言う朱波に、それは、と廉は視線だけ逸らす。
「この世界じゃ、私も詩音も、そして、結理も似たような容姿だもんね」
髪を解いた朱波を、廉が間違えたぐらいだ。
「瞳も、よく見ないと分からないしね」
「…………」
廉は何も返さなかった。
間違えたのは事実だし、朱波の言い分も間違ってはない。
「手掛かり、何かねーかなぁ」
廉は呟く。
もし、あの三人がギルドに登録しているのなら、ギルドに行って、受付で教えてもらえるかもしれない。
だが、もし登録してなかったらーー
「情報は何にでも変化する。攻撃にも防御にも」
二人がそちらを見れば、よ、と詩音が手を挙げる。
「詩音」
「何だ? 今の」
「結理が言ってたの。今の話からならーー」
たとえ手掛かりが無かったとしても、別のヒントがあるかもしれない。
詩音は、結理がそう言ったと告げる。
「本当に、あの子の影響力は凄いわね」
「本人はそのつもりは無いんだろうけどね」
感嘆の溜め息を吐く朱波に、詩音は苦笑いする。
「つか、俺たち結理の心配しかしてねぇよな」
「まぁねぇ……」
「女の子を心配するのは当たり前」
ふと思った廉が言えば、確かに、と言いたげな朱波と、気にするなと言いたげな詩音がそう言う。
「詩音。あからさまに、先輩たちを心配してない宣言しないの」
そんな詩音に朱波が苦笑いした。
それでも、結理を引き出してしまうのは、一種の癖なのだろう。
何かある度に、彼女を頼っていた。
そして、大翔や棗も、いつの間にか結理を頼るようになっていた。
ーー結理は、そんな俺らをどう思っていたんだろう?
廉はそう思う。
何でも結理頼みで、彼女が出来ないことがないと思い込んでいたんじゃないのか。
「休憩は終了だ。今から模擬戦するぞー!」
レガートが大声で言う。
「うへ~」
「さっきやったじゃないですかー」
「対戦相手はどうするんすか?」
やりたくなさそうな者もいれば、不満を言う者もおり、首を傾げ質問する者もいた。
「そんなもん、決まってる」
ニヤリと笑みを浮かべるレガートに、廉は呟く。
「俺、嫌な予感がする」
「あら、珍しい。私もよ」
「私も」
そんな三人の予想は当たることとなる。
「対戦相手はあの三人だ!」
やっぱりか、と三人は思い、肩を落としたり、悲鳴を上げ掛けたり、聞かなかったことにしようと、両耳を塞いでいたり。
幻聴だと三人は思いたかったが、思いの外、団員たちはやる気満々だった。
先程は団員同士での模擬戦だったため、どちらかといえば、それが廉たちに回ってくるのは必然的だった。
とりあえず、三組に分け、廉たちがそれぞれ相手をすることになり、朱波と詩音は魔法の使用が許可され、廉はなるべく剣だけで対処するように、とレガートから言われた。
組み分けられた面々は自分の相手を知り、反応が様々だった。
廉が対戦相手となったチームは、妙に殺気立っていた。
「ついにこの時が来た」
や
「覚悟しろ」
などなど。
もちろん、理由を知らない廉は顔を引きつらせていた。
反対に朱波や詩音が対戦相手となったチームは、色めき立っていた。
「もし勝ったら、デートしてください」
や
「ファンでした」
などなど。
だが、レガートの一喝や、朱波の「私には、婚約者がいるの」という本当か嘘か分からないような言葉に、ビクリとしたり、肩を落としたり、期待の眼差しで詩音を見たりと、反応は様々だった。
「でも、やるからには容赦なし」
「手加減しない」
「とりあえず、吹き飛ばす!」
三人もやるからには気合いを入れ直し、廉、詩音、朱波の順にそう言った。
「じゃあ始めるぞ。試合ーー開始!」
レガートにより、スタートの合図が出される。
一斉に掛かってくる団員たちに、廉は剣で薙ぎ払う。
「やるねぇ、廉。さすが勇者様」
口笛を吹き、朱波は廉を誉める。
「言ってる場合じゃないよ。朱波」
「はいはい、分かってますよ」
詩音に言われ、朱波はそう返しながら、風属性の魔法で団員たちを吹き飛ばす。
「“土の鞭”」
一方で、詩音は土属性の魔法と植物たちを利用して、団員たちを捕まえては投げてを繰り返していた。
「シルフ!」
『はいはーい!』
朱波に喚ばれ、緑髪の精霊ーーシルフが姿を現す。
団員たちは「精霊!?」と慌てるが、その隙にシルフと朱波が風属性の魔法で一掃する。
「私は終了しましたー」
ふぅ、と息を吐いて朱波がそう言えば、レガートは頷いた。
後は廉と詩音である。
「やっぱり、魔法は便利だなーーっと!」
バランスを崩しそうになり、立て直す。
「“フラッシュ”!」
廉から放たれた光属性の魔法に、視力を一時的に奪われた団員たちは、やはりその隙に倒される。
残るは詩音だけである。
「キリがないからこれで終わり」
その言葉で、模擬戦は終了した。
詩音により、一瞬で土の鞭や植物たちに吊り下げられた団員たちを見て、レガートは溜め息を吐いた。
対廉の場合、魔法に適わないのは大目に見ても、“フラッシュ”で目眩ましされて、その隙を突かれ、倒された。
レガートは再度、溜め息を吐く。
その度に、団員がビクリとする。
「明日から訓練メニューを変更する」
レガートの溜め息を見れば、それは決定事項のようなものだった。
その決定に項垂れた団員たちを見た三人は、苦笑いした。
これで自分たちが負けていたら、どうなっていたことか。
そして、気づく。
模擬戦前の暗い空気が無くなっていた。
(ああ、そういうことか)
何となく理解できた。
あの場にレガートもいた。
そして、廉たちも小声で話していたわけではないため、自然と彼の耳にも入るわけで。
つまり、今の模擬戦は、彼なりの気遣いなのだと。
「団長、ありがとうございます」
「ん? 何がだ?」
廉の言葉に、レガートは首を傾げる。
「いえ、何でもありません」
そう言うと、廉は二人の所に戻り、三人で城内に入っていった。
そんな三人を見て、レガートは笑みを浮かべていた。
(あの三人はああでないと困る)
そう思いながらーー
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
というわけで、出てきたのはレガート騎士団長でした
次回はリベンジ戦
次回もお久しぶりな人の登場ですよー
それでは、また次回




