第十話:決闘と約束
【前回のあらすじ】
中間試験の結果出ました
「おい、お前!」
「ん? 誰だ?」
いきなり声を掛けられ、廉は首を傾げる。
「少しぐらい成績が良いからって、調子乗るなよ!」
「は?」
いきなりそんなこと言われ、廉は思わず変な声を出す。
「お前みたいな奴、可哀想だからシルフィア様が相手してるだけで、本来ならお前みたいな奴ーー」
相手は罵倒してきたが、それは途中までで、一度切れる。
「……?」
「邪魔。通り道で止まらないで」
「ああ、悪い」
不思議に思って振り返れば、背後から来ていた少女に気付いた。
道を譲り、謝れば、彼女は廉を一瞥する。
「?」
その視線が何なのか分からないが、分かっていることが一つある。
名前だった。
ユアナ・リンディ。
シルフィアから教えられた同級生の彼女は、この世界では珍しい黒髪を持っていた。
☆★☆
「遅かったわね」
「変な奴らに絡まれた」
遅くなった理由を廉が言えば、朱波が呆れたように言う。
「あんたに絡むって、勇気あるわね。そいつら」
「別に手は出してないぞ。口も出してないが」
廉は座りながらそう言う。
「そういう問題じゃないでしょ」
下手をすれば、暴力事件や殺傷沙汰になっていたかもしれない。
「けど、姫様と話してる時点で、廉がそうなるのは予想してたから、あんまり驚けない」
「驚けないって……」
詩音の言葉に、廉は顔を苦笑いした。
シルフィアと話している時点で、虐めじみたことがあるとは、ある程度予想していた。
だが、元々口数が少なく、表情が表に出にくい詩音に、ただ、苦笑いするしかない。
「姫様に加えて、美少女二人とも話していれば、妬まれるのは当然じゃない」
「いや、自分で美少女って言うなよ」
詩音の言葉を気にしていないのか否か、やや偉そうに言う朱波に、廉は冷静にツッコむ。
「でも、『一度は言ってみたいセリフ』って奴があるじゃない」
「気持ちは分からなくはないが……」
確かに、言ってみたい台詞はある。
「あ、あの、もし、私が原因なのでしたら、私はーー」
「あー、姫さんストップ」
だが、シルフィアは気にしていたのか、何か言おうとするが、朱波が止める。
「姫様は悪くないし、こっちだって、悪いことは何もしていない。勝手な言い掛かりを付けてきたのは向こうよ?」
「それに、廉は穏便に収めて、暴力事件にもさせずに戻ってきた」
「だから、気にする必要はない。俺も詩音の言う通り、この通り無事だしな」
朱波と詩音が宥め、廉が安心させるように言う。
「なら、いいのですが……」
それでも不安そうなシルフィアだが、その不安が的中することになる。
☆★☆
「で、何故こうなる」
明らかに不機嫌そうな廉を前に、後ろにいた女性陣は完全に面白がっていた。
「れーん、面白いから負けろー」
「そして、結理や先輩に稽古付けてもらえー」
もちろん、その筆頭は朱波と詩音である。
(あいつら……)
顔が引きつるのを理解しつつ、廉は叫ぶ。
「もっと普通に応援できんのか! お前らは!!」
そんな廉に、二人は真面目な顔して告げる。
「いや、結理よりはマシだと思うし」
「ねー」
詩音の言い分に、朱波が同意する。
「いや、そうだろうけどさ……本当に遠慮無いよな。お前ら」
「廉に遠慮いらないって、結理が言ってた」
思わず納得しかけ、遠慮の無さに呆れた廉だが、その後の言葉に怒りが湧く。
「あいつ……会ったら、一発殴ろうかな」
「いや、無理でしょ」
「なっ……」
即答され、絶句する廉。
そんな彼に、朱波は言う。
「だって、結理に勝ったこと、数えられる程度じゃん」
「うっ……」
事実、結理に勝てたのは、数えられる程度である。
口でも、力でも。
というか、怒気などで防がれるため、攻撃したこともなければ、結理自身がそれを避けるため、彼女に勝てたというより、まともに勝負すらしたことがなかった。
まあ、廉たち自身、そのことを分かっていて、しなかったということもあるが。
「まあ、あんたが負けるなんて思ってないから、安心しなさい」
「廉が負けるとすれば、驚天動地が起こる」
「お前ら、いい加減にしろよ!?」
勝つと分かってるから、と言う朱波と、やはり毒舌が混ざる詩音に、廉は再度叫ぶ。
「レン様、頑張ってください!」
「ああ、ありがとう……」
シルフィアの唯一、普通な応援に、廉自身、何故か嬉しくなった。
それを見ていた相手ーー廉たちに勝負を挑んできた面々は、歯を食いしばっていた。
「むむむ……何と羨ましい」
「こちらには、ほとんど味方が居ないというに……」
その様子は、ギリギリ、と音がなりそうなぐらい、歯を食いしばり、睨んでいたのだが。
(何か睨まれとるが、適当にあしらえばいいか)
とりあえず、面倒事は早く終わらせよう。
そう思った廉は軽く運動する。
そして、勝負は始まった。
☆★☆
「レン様、大丈夫でしょうか……」
不安そうなシルフィアを横目で見た朱波と詩音は言う。
「大丈夫よ」
「強運の持ち主ってわけじゃないけど、廉としては、これ以上、チームをバラバラにしたくないって思ってるだろうし」
「…………」
二人の言葉をシルフィアは黙って聞いていた。
「元々、私たちは最初、結理のためのチームの様なものだったからね」
「そうなんですか?」
目は廉の方を向いていたが、視線はどこか別のところに向いているような気がしたシルフィアは、話を聞きながら、首を傾げる。
「詳しいことは、本人が居るときにでも話すとしてーー今は、廉を応援しないとね」
「そ、そうですね」
そう言った朱波の表情が気になりつつも、後で話すと言った彼女に、シルフィアは同意するかのように頷いた。
その間、廉たちの方では剣と剣、魔法と魔法がぶつかり合う。
(朱波……?)
背後を一瞥した廉は、朱波の様子がおかしいのに気付いたが、それも一瞬で、すぐに隣にいたシルフィアと話していた。
(そろそろ終わらせるか)
何だかんだで、向こうにいた時も、突っかかっていた相手を適当にあしらっていた。
だから、今回も同じ手で対応する。
世界が違うなら、これは通じるかもしれない。
握り拳を振りかざす。
その際、グーは痛ぇよ、と声が聞こえたが、廉は無視した。
「暴力沙汰はマズいよね」
詩音は誰にも聞こえない声で呟き、目を閉じた。
『制止』
詩音の発した『声』により、変な感覚が廉や相手を襲う。
(詩音……?)
その感覚に呆然としていた廉は正気に戻ると、背後を見た。
そして、そっと目を見開いた詩音と目が合い、笑みを浮かべられる。
『腕を下ろして』
廉の意思に反すように、腕が下がる。
(詩音の奴……!)
理由も分かれば、今働いている力がどんなものなのか、そして、その対処方法も廉は知っていた。
だからこそ、こんな事に彼女の能力を使ってほしくなかった。
『殴るのがダメなら、転ばせればいいんだよ。人は重力に逆らえないから』
ふと、思い出した。
殴るのなら、重傷にもなりかねないが、転ぶのなら、軽傷で済む。
それに気付かせたいのなら、声で伝えろ、と言いたかったが、廉は腕を下ろし、攻撃しようとした相手の足を引っ掛ける。
そして、相手は見事に転んだ。
「応援について話してる所悪いけど、もう決着ついたよ」
「うん、相変わらずの早技ね」
詩音の言葉に頷く朱波だが、詩音たちの方に目を向けていた廉には、詩音が勝負が終わったことを、朱波たちに話しているように見えた。
その間に起こった出来事を除いて。
「いやー、ご苦労ご苦労」
「朱波。応援すらしてないくせに、わざとらしいぞ」
「あ、やっぱり?」
「…………」
三人の元へ戻った廉がよくやった、と言う朱波に呆れれば、開き直られる。
「けどまあ、これでチーム解散の危機は去ったわけだ」
「後は結理たちを待つだけだね」
ふぅ、と息を吐いて言う廉に、二人も頷く。
「それまでは、チーム解散しないようにしとかないとな」
伸びをし、腕を回す。
そんな廉に、朱波たちはシルフィアの背中を押す。
「ほら、姫様も」
「え、私も?」
驚くシルフィアに廉は言う。
「まあ、何だ。一番面倒な仕事を押し付けてるからな」
「面倒だなんて……あれはこちらのミスですから」
六人揃って召喚されなかったことを、シルフィアは気にしていたらしい。
「それなら、なおさらだよ。その分、姫様ーーフィアがフォローしてくれるからこそ、私たちは動けるんだから」
「…………」
詩音の言葉に、シルフィアは驚いたような表情のまま、廉と朱波を見る。
「学院に通えるのも、フィアのおかげだよ」
「だから、俺たちも少しずつ返していく」
「恩を仇で返したくはないから。結理たちと会えたら、今度は六人でフィアやウェザリア王国の人たちに恩返しをする」
三人の言葉に、シルフィアは泣きそうになった。
付き合いが短いとはいえ、ここまで言ってもらえるとは思わなかったからだ。
「「「だから、それまではーー俺(私)たちに、いろんな事を教えてください」」」
「…………はい!」
三人の言葉にシルフィアは涙を浮かべながらも、笑顔でそう返した。
一方、廉たちに放置された男子生徒たちはーー
「くっそー! 俺たちを放置しやがって。いつかリベンジしてやるー!」
と言っていたとか、いなかったとか。
読了、ありがとうございます
誤字脱字の報告、お願いします
さて、今回は薄っぺらいバトルと詩音の能力の一部が垣間見えた回でした
次回は王城側
久しぶりにあの人の登場です
誰でしょうか
それでは、また次回




