第九話:学院の三大勢力
【前回のあらすじ】
中間試験です
「皆さん、お疲れ様です」
「ああ……」
試験は終わり、シルフィアがご苦労様、と三人に言うが、廉はぐったりとしていた。
「後は、張り出しを待つのみです」
「張り出し?」
朱波が首を傾げ、廉が顔を上げる。
「各科三十位以内の者は、校内の掲示板に張り出されるんです」
「へぇー」
シルフィアの説明に、さほど興味がなさそうな声で廉は返す。
「いくら何でも、レン様たちがいきなり十位以内に入ることはないと思いますが……もし、入った場合は、学院の三大勢力からの勧誘があると思いますから、油断しないでください」
「三大勢力?」
廉は怪訝そうな顔をする。
何やら変なキーワードが出てきた。
「はい。『生徒会』と『風紀委員会』、そして、監査役員兼部活動の総まとめ役である『筆頭』。それが、この学院の三大勢力です」
シルフィアの説明に納得する。
「あ、やっぱり、生徒会と風紀はあるんだ」
「というか、学院に部活あったんだな」
頷く朱波と、今回初めて学院に部活があったのか、と言う廉に、シルフィアは頷く。
「はい。小さいものから大きいものまで、貴族の人たちがあれこれと作ったものですから、数だけは無駄にあります」
故に、幽霊部員ならぬ幽霊部が存在しているのだが、一応は部活動として登録されたため、そこに部員が居ようが居なかろうが、『筆頭』は数ある部活動全てを纏めなければならない。
だからこそ、『筆頭』としての権力を得るか、面倒な役目から逃げるかの二択を、次期『筆頭』となる権利を持つそれぞれの部長たちは判断を迫られ、それを見ている後輩たちは部長になるのを拒む者までいるのだとか。必ず『筆頭』になると決まったわけでもないのに。
「あと、それとは別に、学院の裏側で暗躍する暗部組織があり、王宮の諜報部的な事をしている生徒も居ます」
それを聞き、三人は互いに顔を見合わせる。
「うわー、明らかに結理が勧誘されそうな組織ねー」
「だな」
朱波の言葉に同意するように、廉は頷く。
それを聞いたシルフィアは、首を傾げて言う。
「前から聞こうと思っていたのですが、その、ユウリ……様とどういう関係なんですか?」
「ん? 話してなかったっけ?」
シルフィアに聞かれ、あれ? と、三人は首を傾げる。
「聞いてません」
廉たちの口からは、だが。
シルフィアはそう言った。
それを聞き、試験も終わったことだし、と三人は話し始める。
「俺からすれば、結理は幼馴染。おそらく、一緒に居るであろう二人のうちの一人は年上で、もう一人は俺の親友」
「幼馴染に親友……」
廉の説明に、シルフィアは呟くように言う。
「あ、私たちと結理も親友で廉の親友とは友人ね」
「えっと……」
人差し指を立て、脳内で整理していたシルフィアだが、こんがらがったらしい。
「つまり、結理は廉の幼馴染であり、私たちの親友。他二人は、一人が年上、一人は廉の親友であり、私たちの友人。これで分かる?」
「は、はい……」
朱波が苦笑いしながら、紙に書いて説明をすれば、シルフィアは何となくだが理解した。
「まあ、親同士が仲が良かったからな。俺や結理、朱波は親同士で知り合ったもんだよな?」
「言われてみれば、そうね」
廉の言葉に、ああ、確かに、と朱波は頷く。
「というか、廉と結理の場合は親同士が元から親同士が仲が良かったんじゃなくて、結理たちが引っ越してきたときに、知り合ったんじゃなかったっけ?」
「ああ。その件だが、後で聞いたら、互いに知り合いだったらしいぞ。『あの二人って、貴方たちのような関係だったのよ』って、母さんが言っていた」
あれ、と首を傾げ、思い出すように言う朱波に、頷きながらも付け加える感じで廉は言う。
「貴方たちのような関係って、幼馴染ってこと?」
「さあな、そこまでは知らないが」
どういう意味、という詩音に、廉はそう返す。
「何か、凄いですね」
「確かにね」
呆然状態のシルフィアの言葉に、朱波は頷いた。
☆★☆
翌日・張り出し。
「おお……」
「まあ、出だしとしては良いんじゃない?」
「平均が一番良い」
「これを見て、そう言えるのはレン様たちぐらいですよ?」
結果を見て、平然としていた三人に、シルフィアは頭を抱えた。
これで平均とは、三人の頭はどうなっているのだ。
シルフィアはそう思った。
「そうか?」
「姫さん。これで後の三人を見たら、私たちが平均という事がよく分かるよ」
「そうなのですか?」
そんなに驚くことか? という廉に、これぐらいで驚いている場合ではない、という朱波。
怪訝そうな顔をするシルフィアだが、その後に続けられた言葉に苦笑いした。
「少なからず、私と詩音は平均的に見えるはず」
「俺は?」
朱波の言葉に、廉は尋ねるがーー
「チーム内トップの成績保持者が聞くことか」
「いや、確かに事実だが……」
答えになってない。
基本的に試験の内容は高校一年生で習うような内容だったため、どちらかというと記憶力の良い三人にとっては、簡単な問題だった(※忘れている人のために言っておきますが、彼らは高校二年生です)。
そのため、張り出しされた試験結果に、名前が三人揃って並んでいた。
ちなみに、個々の成績はというと、
二十六位 レン・シノハラ 350点
二十七位 アケハ・シノノメ 342点
二十八位 シオン・カサガネ 338点
である。
シルフィアはあと十点あれば、三十位に入れたのだが、今回は少しばかり届かなかった。
「本当に皆さんは凄いんですね」
心底から凄いと思っているのか、シルフィアの言葉から、彼女の気持ちが感じ取れる。
魔力等もそうだが、学力も規格外だ。
「でも、去年やった内容」
「そうだよ。本来なら二年である私たちが出来て当たり前なんだから」
「まあ、だから、その、一学期の中間で気にする必要はない……と思う」
それぞれ、シルフィアの言葉に対する返事なのだろうが、
「皆さん、返事になってません」
クスリ、と笑みを浮かべ、シルフィアはそう返す。
コツン、と音がし、ふわりと舞った黒を、視界に捉えた廉がそちらに視線を向ける。
まるで時間が止まったような感覚に陥ったかのように、廉には周囲が止まって見えた。
そして、廉は驚いたように、目を見開く。
紫色の瞳がこちらを見ていた。
「……様、レン様」
ハッとし、三人の方を向く。
どうかしたのか、という三人の目に、いや、何でもない、と廉は返す。
振り返れば、黒髪の少女の姿は、そこには無かった。
だが、生徒同士の間から、彼女の黒が見え隠れする。
「なあ、フィア」
「何ですか?」
「この学院に黒髪の女子っているのか?」
シルフィアに尋ねれば、彼女について何か分かるかもしれない、と思っての言葉だったのだがーー
「廉、何を考えてるの?」
「セクハラなら、結理に報告確定」
と、疑いの眼差しを向けられる。
詩音に至っては、物騒なことを言っているようにしか、廉には聞こえなかった。
「違ぇよ。ただ……」
「ただ、何?」
今度は、視線に軽蔑が混じったのは気のせいだと、廉は思いたかった。
「教室に戻る」
「あ、逃げた」
教室へ足を進めれば、逃げたと言いつつも、三人が追ってきた。
☆★☆
教室に戻る途中で、廉は再度シルフィアに尋ねる。
「黒髪に紫色の瞳の女生徒……」
シルフィアは思いだそうとするかのように思案し、あ、と声を上げる。
「思い出したのか?」
「知り合いで一人いますが……」
廉に頷くも、シルフィアはですが、と言う。
「ですが……先程、レン様が目を向けられていた彼女の名前はユアナ・リンディといい、同級生なのですが、気付きませんでしたか?」
首を傾げるシルフィアに、廉はうわぁ、と頭を掻く。
「黒髪だったから、間違えるところだった」
溜め息混じりに言う廉に、朱波たちも何か思うところがあったのか言う。
「けど、彼女。何というか、睨みつけるようにして、私たちを見てたわよね」
「私たちに何かあったのかな?」
「…………」
そう、彼女は睨むようにこちらを見ていた。
怒り、憎しみ、悲しみ。
それらが、彼女の目から感じ取れた。
「それにしても、間違えるところだった、って、それは結理と間違えそうになった、ってこと?」
朱波の問いに、ああ、と廉は頷く。
「まあ、すぐに別人だって分かったから良かったんだが……」
そんな廉を見て、朱波と詩音は溜め息を吐いた。
「まあねぇ。長さも同じくらいだったから、間違っても仕方ないよ」
気にするな、と朱波は廉の肩にポン、と手を置く。
シルフィアもそういえば、まだ見ぬ三人の容姿を思い出す。
結理の髪色も黒で、長さも詩音と同じくらいだということをーー
「私も頑張らないといけませんね」
シルフィアも気合いを入れるために、手を握りしめる。
気がつけば、もう教室だ。
「さて、残りの授業も頑張るか」
教室を見て、廉はそう言った。
そしてーー
風が吹く。
黒髪を風に靡かせ、少女は遙か遠くを眺めていた。
読了、ありがとうございます
誤字脱字の報告、お願いします
というわけで、試験終了後と廉たちの関係性に少し触れました
全然サブタイトル関係ないですね
さて、次回も学院側
そして、バトル回
それでは、また次回




