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むこうがわの礼節  作者: Kずき
第一話 逢魔が時の礼節
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日常のなかにある、ちょっとした不思議。

それを民俗学、民俗信仰、という立場でひもといていくプチホラーミステリーです。

ホラーといっても、かなりほのぼのしているので、苦手なかたも安心してみていただけると思います。

恐い、というよりは、不思議、という気持ちに答える物語です。


 別に、面白い話ってわけじゃないけど。


 ちょっと、変なことがあったのよね。


 先週の土曜日、山に行った帰りなんだけど――え? 山って、そりゃ、あの山よ。マウンテンの山。


 私、皆には言ってなかったけど、山ガールなの。夏山なら色々登ってる。穂高、木曽駒、剣、槍ヶ岳、日本アルプスはだいたい登ったわね。百名山も三十ぐらいは登ったのじゃないかしら? 小さい頃からお父さんに連れられて登ってたから、詳しい数は覚えてない。ここら辺の山はどれも千メートルに達しないけど、その分、日帰りの登山には丁度良いの。


 それで、頂上に登った帰りなんだけどね。


 来た道を折り返すのが嫌で、帰りは別の道を探したの。バリエーションルートってほどじゃないけど、旧道があるのを知っていたから。でもこの旧道がもの凄い悪路でね、枯れた沢の底を歩くのだけど、両側から木々が倒れていて、跨いだり、くぐったり、よじ登ったり。蜘蛛の巣もはっていて、顔中蜘蛛の巣だらけよ。

 

 失敗したなぁ、とは思ったわよ。でも、引き返すのって癪じゃない。だから無我夢中で突き進んだの。そしたらさ、いつのまにか道が無くなっちゃったのよね。標識も、道を示すリボンも、まったく出てこないし、振り返っても来た道がわかんない。さすがにぞっとしたわよ。


 いくら千メートル以下の夏山とは言っても、山は山。去年の冬には大学生三人が遭難しているしね。あれ? 知らない? 捜索隊がでて、大騒ぎしたじゃない。


 道に迷ったことなんて初めてだったし、日も暮れかけていたから、パニックになっちゃって。涙浮かべながら転がるように降ったの。そしたら、山間の集落に出たのね。


 民家もちらほらと見えたし、やっと生きた心地がしたものよ。


 でも、そこが何処だかはわからなかった。


 しばらく歩いていると、前に手押し車を押しているお婆さんがいた。日よけのほっかむりにモンペ、いかにも畑帰りって感じだったわね。


 私、よっぽど心細かったんでしょうね、お婆さんの後ろ姿を見たら居ても立ってもいられなくなって、駆けつけて「お婆さん」と声をかけたの。バス停までの道を聞くつもりだったんだけど、本当はそんなことどうでもよくて、とにかく人の顔が見たかったのね。


 でもね、そこで奇妙なことがおこったの。


 お婆さん、て私が呼ぶと、お婆さんは一度立ち止まった。でも、振り返ることなくまた歩き出したのよ。おかしいなって思って、「あの」ともう一度声をかけたら、お婆さん、ますます歩くのを速くして。


 あれは、明らかに私から逃げていたと思う。


 お婆さんは一度も振り返らないまま、橋を渡って、見えなくなった。


 私は何がおこったのかもわからず、一人で置いてけぼり。でも段々、恐ろしくなってね。顔を見せてくれなかったお婆さんは、本当にお婆さんだったのか……。もしかして、何か別のものだったりして。そんな風に考えはじめたら、もう周りの民家も信じられなくなって。


 ここは人間が住んでる場所じゃないのかもしれない、私、変な場所に迷い込んできちゃったのかも。


 一目散に逃げたわ。さっきのお婆さんの格好をした何かが、迷い込んできた私を捕まえるために、仲間を呼びに行ったのかもしれない。そんな風に思えたからね。


 その後どうなったのかって?


 ご覧の通り。私がここで皆に話をしているってことは、大丈夫だったのよ。


 しばらく走っていたら、携帯の電波が入ってね。すぐにタクシーを呼んで、町まで送ってもらったの。


 後々考えてみれば、馬鹿な話よね。バケモノが住む集落なんて、ゲームや漫画じゃあるまいし。地図で調べてみたら、ちゃーんと人間が住む集落としてのってたわ。


 でも、やっぱり、あのお婆さんはおかしかったと思う。


 どうして振り返ってくれなかったのかしら?


 私から逃げるように去って行ったのは、何故?


 一体あの時、何が起こったの?


 ずっと考えてるのよね。


 誰か、わかる人、いる?

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