部活体験
「部活体験いかない?」
休み時間、瞬に誘われた。
有無を言わせる前に瞬は自分の席に戻ってしまう。
「じゃ、考えといて!」
(考えといて…って)
私、部活入るつもりないって言ったのになぁ。
放課後になった今、掃除を終わらせた私は暇をもて余していた。瞬とは別の掃除区域。
帰っても良いんだろうけど…。
(瞬に誘われたし…)
昨日も別なクラスメイトに誘われたのに断ってしまった私。ちょっと罪悪感的なものを感じる。
(か、彼氏に誘われたんだし…?)
自分で思って恥ずかしくなった。意味分かんない。
「歩花!」
瞬が走ってきた。
「瞬!掃除終わったの?」
「うん、たった今……ていうか、待っててくれたんだ」
私が訝しげな顔をすると、瞬は慌てて言う。
「や、歩花が帰っちゃうとか思ってたんじゃなくて。…あの、昨日からうち、付き合おうだとか一緒に行こうだとかしつこかったんじゃないかな…なんて、ほんと…歩花にしつこいって思われてんじゃ…みたいな…」
すらりと背の高い瞬の整った顔を覗くと、瞳が揺らいでいるのが分かった。
「…」
瞬もいろいろと考えてたんだ。私が昨日の夜瞬のことで頭をいっぱいだったように、瞬も私のことでいっぱいだったんだ。自分の言ったことが良かったのだろうか悩んでたんじゃないだろうか。多分。
そう考えるとなんだか嬉しくて。瞬がとても愛しく感じた。
「瞬」
瞬の手を自分の手のひらで包む。
「あゆ…」
瞬が口を開くと同時に私は瞬の手を握って走りだした。
「ちょ、歩花!」
「瞬らしくない顔しないでよ!」
「らしくないって」
「私、昨日も今日も嬉しかったの!全然しつこいとか思ってないの!それどころかもっと誘って欲しいですー!」
走りながら言う。私達のやりとりは特別目立つわけでもなく、普通の女子高の放課後の日常に普通に同化してるだろう。
私達は恋人なんだし、という言葉はあえてしまっておいた。