バスケ
「あのさっ歩花」
「何?」
「…今どこに向かってる感じ?」
「…ぁ」
そういえばそうだ。勢いで勝手に走り出してしまったけど行き先なんて決めてない。
あれ、瞬は何の部活に入りたいんだろう。
「瞬、確か決まってるって言ってたよね?何部?」
私がそう問うと瞬はふっと笑い、「来て」と私の手を引いた。
瞬に引かれるまま辿り着いたのは、体育館。
ボールのバウンドする音、人が駆け回る音、歓声が聞こえる。
「バスケ部…」
「そう、中学からちょこちょこやってたから高校でもね」
二人で練習風景を覗いていると、それに気づいた先輩らしき人が駆け寄ってきた。
「なに、もしかして二人とも体験!?」
「はい」
「じゃあね、体験の子にはこっちのコートで遊んでもらってるからおいで」
(どうしよう)
なにを隠そう、私は重度の運動オンチなのだ。一番嫌いな教科が体育。
そんな私が…。
焦りの表情をあらわにすると、瞬は私の頭を軽く撫でた。
「大丈夫だよ。遊ぶだけだし」
「うん…」
先輩からボールを渡されて、シュートをすることになった。
「えいっ」
…
ボールは見事にゴールを外れ、虚しくバウンドして跳んでいく。
「…」
嫌だ!!
先輩が慰めの言葉を言ってくれた気がしたけど、恥ずかしくて聞いてられなかった。
そのとき、ダダンっとリズミカルな足音が聞こえた。
その方向を見ると、瞬がスカートを翻してドリブルシュートを決めていた。
(ヤバい…かっこよすぎる…)
それからというもの、私は瞬から目が離せなくなった。
ボールは友達、と言わんばかりのボールさばき。見てる方が何倍も楽しい。
その才能に圧倒されたのか、今まで別なコートで試合をしていた先輩達がやってくる。瞬が加わっての試合になった。ジャージに着替える瞬。
私も誘われたけど、もちろん「いえ、私は…」と断った。
瞬が走る。飛ぶ。投げる。ひとつひとつの動作に目がハートになりそうだった。こんなにときめいたのはいつぶりだろう。
時々私に目を向けてくれるのも嬉しかった。
試合が終わると、一目散にに私のところに来てくれた。
「ごめん歩花!飽きたよね!熱くなっちゃってつい試合まで…」
「全然!」
沸き上がってた気持ちを正直に打ち明けた。
「瞬、すっごく、すっごくかっこよかった!もう私見てるだけでお腹いっぱい!さすが私の…」
「私の…?」
勢いで「彼氏」と続けそうになった。恥ずかしくて言えない。
「歩花…可愛いなぁ、もう」
瞬は照れ臭そうに頬をポリポリ掻いた。
もしかして瞬、私にカッコイイとこ見せたかったのかも。
(…瞬の方が可愛いじゃん)顔が自然と綻んだ。