第6話 至高の排除
なんとか今月中に出せた……この次から本格的にストーリーが始まります。
……頑張って書き上げないと……
2012/03/27改訂終了
「っ流石に、放出魔力の調整はキツイね~」
ブレた世界が普段通りに変わった所で苦痛を紛らわせる為に呟く。が、隣に立つアルからは少なからず呆れた表情で此方を一瞥された。
「何言ってんですか。そもそも今の術、〈反転結界〉ですよね?普通の隔絶する方法じゃなくある種の別世界を創るっていう……Sランクの無属性魔法でしたっけ?」
流石は優等生。すらすらとあまり関わりが無い筈の超上級呪文について説明できるところは非常に高い評価が出来る。
「よく知ってるじゃん。僕の魔力はちょっと理由があって放出魔力量が保持魔力量より少なくてね、元はその位の魔力ならあるんだけど。ただ一気に流れ込むのを調節しながらじゃないと問題が起きるんだけどさ……」
イメージとしては満タンのペットボトルを逆さにしながら出す量は口の部分より少なくする感じ。しかも道具や手を使わずに。ぶっちゃけふつー無理だと思う。
因みに僕がそれを止められるのは、中身の水を氷にして出す量を減らすっていう荒業に近い事。それ故逆さにしたときに容器には多少のダメージが来るのだが、水が注ぎこまれ続ける水風船状態とどちらがいいかといえば前者なので、このことについてはとっくのとうに諦めていたりする。
「何か凄い気になる発言があったような気がするんですが……」
冷や汗を流すアルに苦笑を返そうとした所で、突然竜が叫ぶ。
「グルルルルァアアアアアア!」
そして次の瞬間校舎(複製品なので現実には問題無し)の一部が吹っ飛んだ。
「ウソォ!?ここ鉄筋コンクリート製だよ!?」
まさか咆哮だけで半壊するとは思わなかった。一瞬此処の学校の耐震強度を考えるが、震度7でも耐える位には頑丈だった……筈。
「あー、ヤバいですねーアレ」
どこか遠くを見ながら呟いたアルの言葉に、即座に僕は反応した。
「あの竜が何だかわかるの!?」
「ええまあ、‘全てを見透かす’のが僕の能力ですし」
僕の記憶が正しければ……いや、間違ってる可能性は絶対ないけど、それは光視土眼だろう。数少ない眼に宿る能力で、心だろーが物質の構造だろーが容赦無しに分かる力だった筈。敵にしたくない力ナンバー1の能力だ。……アルが真っ当な性格で良かった。
「で、アレ何?」
吹っ飛んだ瓦礫が降りかかって来るのを〈風守難〉で弾き飛ばしつつ、剣で鉄を難なく斬ったメイを思い出す気持ちでアルに訊くと、死んだ魚のような目で返事が返ってくる。
「レクロースドラゴンですよ。知らないとは言わせませんよ?」
「………………はい?」
「だからレクロースですって。あの有名な」
頭の中に癌でも出来ていたらしい。まさかあのレクロースな訳がない。が。
「一応訊いとく。それって竜種でも『至高の存在』とか『破壊の魔王』とか『弱点無しの最凶』とか『稀有の神獣』とか言われてる、魔術師殺しと弱点ゼロで有名で、魔獣認定に指定されそうなここ数百年目撃情報の皆無なあの純魔力耐性型竜、正式名称レクロース・ハルヴィニオン・ドラゴン?」
縋るような思いで長々と台詞を言うと、簡潔な一言が返ってきてしまった。
「はい」
………………Really?
「……。うん、軍人さんたち来るまで待とうか?」
「そんな時間あると思いますか?」
的確に僕に現実を突きつけるアルにただ首を振る。そんな時間は無いかな。ってことは―――
「やっぱり封印具外しといて良かったと言うべきなのか?ここでアレを使ってもアルなら問題無いし……」
「……あのリーン君?今封印具って言いました?って、さっきのアレやっぱそうだったんですか?」
そこで竜の目がギョロリと此方を捉える。つまりはアレか。食事の時間。
「っな!?ちょ、逃げ!」
「さっき封印具って確かに言ったよ?今の僕はAAラン―――」
グワッと竜の咢が開き、此方に迫る。アルが切羽詰まった声で此方に叫ぶのを無視し、返事をすると、目の前には巨大な口。が、
「っ!?リーンく―――」
僕等を喰らおうとした口は、そこで止まった。
「へ……?」
ポカンとするアルの目は、僕の背へと焦点を合わせている。それに軽く苦笑しながら彼が望むであろう解説をする。
「これが僕の聖痕、永遠風護だよ。能力は解放時における、守りと浄化、それと対魔力障壁を含む一切の異能の無力化」
そんな絶対の防御を誇るこの力の発現場所は、何故か人類という形を軽く無視した、純白の少女漫画的なモノだった。
「翼……なんか僕のと違って随分と物々しいですね」
「ほっとけ!」
いやもうね、何度この見た目を変えようとしたことかって位悩んでるんだよ?何処の厨二って感じの見た目といい、リアルにチートなこの能力。ただ欠点といえば、この上なく恥ずかしいことと、目立つからあんまり乱用出来無いこと。本音使いどころに困る力だったりする。
「グオオオオオ!」
「あれ、なんか怒ってない?」
叫ぶ強敵の目の色が変わる。あー、アレだ。本気で怒りだすと目が金から紅に変わるって本に書いてあった。確か本のタイトルは『クズでも分かる竜雑学』だったと思うな。知り合いが進めてきて読んだけど、タイトルとは裏腹にかなり理論的で難しかったヤツ。
「そりゃ竜も怒りたくなりますよ……折角のエサが目前にあるのに食べれないんですから……」
成る程。僕等は自然界で最も重要なことを邪魔してるんだから、当然と言えば当然か。
「じゃあアル、魔力障壁が無いと仮定した場合の弱点は?」
「ええと……少々待って下さい」
意識を防御に集中させつつ、更に今展開させているこの『世界』の持続も考えるとなると、封印具が完全に解けていない現状ではかなり制限がある。その為にも本体に出来るだけダメージをくらわせられつつ、此方に負荷がそこまで掛からない物があると良いんだけど……
「ありました。特に水風混合型呪文に弱いようです。代わりに生息地の関係から火や土等には強いですが、純粋な雷なら、一発で昇天させられます。威力はAランクオーバーのものをお勧めします」
おお……凄いなこの能力……もしかしてこれ、解析の仕事全部アルに任せても問題ないんじゃ……って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
「了解。ドデカい花火一発上げるよ。アルは衝撃に備えといて」
アルをある程度下がらせてから、言われた通りにAAの雷系攻撃魔術の展開を始める。
『憑代は我に備わりし魔障の力 望みは天空の果てより堕ちた雷』
抑えつつも湧き上がる魔力の影響で、僕の周りには風が吹き始める。それは渦を巻き、やがて僕を覆い隠すように光を纏う。その状態にアルが飛ばされないように踏ん張っているのを確認してから、続きの文を唱えていく。
『我が力は全てに繋がり されど何にも囚われる事の無い絶対の領域』
空が曇り始める。麗らかな陽気から一転し、暗く重くなってきた世界には、春雷が鳴り響く(……いや、寒冷前線関係ないから唯の雷なのだが、春なので良しとしよう。この意味が解らない人はコウジエンを引いてみよう!)。
『さあ 欲望を肯定する貪欲な霊達よ 我が望みを糧と共に受け取れ』
紡ぐ呪文は凶悪な文だが、この術は実は数千年前の英雄が創ったものだったりする。勿論悪魔との契約などではなく、精霊たちへのお願いの文だというから分からない。特にそんな文で受け入れてしまう精霊とやらは。
そして呪文の詠唱は終わり、頭上に轟く雷が早く落とせと言わんばかりの様子なので、怒るが何も出来ない竜目掛けて一言術名を呟く。
『雷光苦』
その瞬間、視界が真っ白になると同時に、『世界』も形を変えた。
「っ!?」
「あー、流石に封印具がはたらいちゃったみたいだね……強制的に結界が解かれたみたい。で、アレ生きてる?」
目の前に広がるいつも通りの光景と、目の前に倒れてピクリとも動かないドラゴンに絶句するアルにそう解説すると、冷や汗をたらしながらも納得した。ただ、多少は驚愕が残っている為か、反応が悪い。
「ええと……生命反応無し。本当に倒せました、ね……」
僕の方を向いて報告を締めようとした瞬間、今度はまるで人形のように固まってしまった。珍しくも先ほどから開いたままの目は僕の方を凝視している。
「アル?」
「リーン君……なんですか?その髪……」
かみ?と首を傾げつつ触れた金髪は、いつものそこそこ短い長さではなく、膝裏まで伸びたものとなっていた。その状態に、自分でも一瞬驚く。長さではなく、術式が解けていたことに。
「げ、なんで解けてんのさ術……」
やれやれと嘆息し、アルに面倒な説明をしなければ……と考え付いた所で、どたどたと何処からともなく聞こえてくる大人数が駆けてくる音に、さらに顔面を引き攣らせることとなった。
「うげ!?逃げるよアル!説明なんか後々!!」
「へ!?行き成りなんです!?」
アルの腕を引っ張って音とは逆の方向へ走り出す。すっかり思考の外にあったため、ある意味忘れていたが、元々アレの討伐は教師陣の仕事だった筈。つまりは―――
「どうやってアレ倒したかの質問攻めにあってもいーの!?」
「げ」
カエルの潰れたような声とどんどん大きくなる音に焦りを覚えると、すぐさま走りでの逃亡を終了。詠唱する時間すら惜しかったので、破棄して逃亡用の術を叫んだ。
「ええい、魔力量なんか知るか!!〈瞬間移動〉!」
「って、それもSランクオーバーの術ぅぅぅぅぅぅぅ!?」
その後学園中で、ドラゴン退治にSランクオーバーが出たのではという憶測が飛び交い、僕とアルが肩身の狭い思いでそれを聞いていたのは余談だろう。それと、教師の中から「金髪の少女を見た」という証言も。
……どうせ僕は女顔ですよ……ふん。