表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Silver Breaker  作者: イリアス
第五章 犠牲になった者
71/84

第69話 虚ろと変化

随分放置して済みませんでした。

しかし現在テスト一週間前でまた消えます(笑)

 ヴィレット中央部の夏は割と過ごしやすい気候にある。特に森林や湖などが多いローゼンフォールはその気が強く、落ち着いた情勢の頃は避暑地として使われていたらしい。現在では逆に他の領の貴族は入るんじゃねぇぞ受け入れるのは一部だけだゴルァ、という姿勢を保っているが。

 そして、その日は珍しく外出したリーンですらも耐えられる程に適温だった。


「フィリア!急がないと間に合わなくなるよ!?」


「ちょ、待ってよフォー!?」


 子供とはいえ最近はAAAオーバーという人外達から軍事訓練の一部を受けているリーンの足は下手をすると大人よりも早い。時間が迫っているとはいえ余りにも早いダッシュにギョッとした顔でフィリアは茶と白で統一された町を駆け抜ける。人々がその速さに目を剥くのもお構いなしだ。


「もー、早く!早くしないと、席無くなっちゃうよ!」


 しかし一般人のフィリアがリーンのスピードに追いつける筈も無く、息を切らしながらどうにかついて来ている有様だった。それを知っていながらリーンは表面上子供らしく取り繕う為に声を上げる。すると、フィリアがリーンを睨み、怒ったフリをして頬を膨らました。その様子が面白くくすくす笑いながら手を振れば、彼女も笑ってこちらへ向かってくる。


「フォーみたいに訓練受けてないんだから、早くって言われても無理だよー!」


 そう叫んで必死に走って来るフィリアの格好も、リーンの姿も普段とは違いお忍び用に調達してきた平民が着ているそれだ。が、リーンとフィリアの顔立ちがそれを無意味にしている。フィリアの着ている平民用のスカート(材質が余り良く無い)も微妙に似合っていない。いや、デザイン的には合うのだが安っぽさが彼女と釣り合わず、違うインパクトを植え付けてしまっていた。

 走った時の風圧で踊るように乱れる薄茶の髪に付けられている、天然石製の赤い髪止めが最も似合っているものなのだから、彼女の風格は押して測らざるべしである。


「ハァッ、ようやく、捕まえた!」


 後ろ向きで走っていたが故に速度が落ちたリーンを、ついにフィリアは捕まえた。そこで一旦息を整える為に足を止めてしまったので、時間を気にしながらもリーンもそこに止まる。そうしているうちに少し落ち着いたフィリアは恨みがましい目で睨んで来た。


「まったく、ホントに6歳?なんで12の筈の私が捕まえらんない速さで走れるのよ」


 荒い息をつきながらも呆れたような声で笑うので、リーンは皮肉気に笑ってみせた。子供がするような表情ではなく、いつもフィリアに見せている大人びた、しかし悪戯っ子のソレだ。


「そりゃまぁ、きたえてるからねぇ」


「……はぁ、絶対そんな言葉じゃ片付かないでしょ。速すぎ」


「んー、しいて言うなら聖痕(スティグマ)じゃない?たいがいこの力持ってる人ってハイスペックらしーし」


「……私もそうなんだけど、この差はどーいう事なんでしょう?」


 一応は王家の血が流れている以上、レアスキル持ちとまでは行かなくても全体的な能力は高い。が、あくまでも普通よりは(・・・・・)のレベルだ。決してリーンと比べてはいけない。

 剥れて拗ねたフィリアにリーンが笑うと、ムッとした顔で頭をパシンと叩かれた。


「リーンの意地悪。あと待たせちゃってごめん。そろそろ行かないとまずいよね」


「うん、芝居、始まっちゃうかな」


 彼等の走る目的はこの時代珍しく巡って来た旅芸人だったりする。元々はフィリアの買い物が目的だったが、普段娯楽と触れる事が少ない(少なくともリーンは余程の事が無い限り遊べない。フィリア自身はお茶やらお菓子やらで一息ついているので微妙な域)ので急遽予定を僅かに変更。芝居の後に買い物という流れにしたのだ。

 お陰で二人とも珍しく高いテンションで町を走っていた訳である。特にリーンが何だかんだで子供っぽい仕草を出している所でそれが現れる。


 ―――そうしてまた走り始めた彼等の後ろに、怪しげな集団が居たとは知らずに。


   ◆   ◆   ◆


「……お芝居って、なんか微妙だったね。初めて見たけどなんか幻滅物……」


「魔術使わずに演出しようとするからだよ……別にローゼンフォールじゃそんなにこわがる必要ないっつの」


 芝居も終わり、大勢の人が散り散りになる中に紛れ、2人は芝居の演出の低さについて語り合いながら露店を見て回っていた。正直最もヴィレットが栄えていた時期を知らない身としては商品棚が埋まっていない光景が当たり前に感じられるのだが、様々な資料によってこれが異常な事だと(一応)知っている二人は僅かに苦い顔だ。


「逆にお芝居やってる人がこの町でまだ魔法使われてる事に腰抜かしそうになってたよねー。まぁボクも来てすぐは驚いたけどさ。領の様子と言い……ローゼンフォールの人達と言い」


「非常識はウチの面子にはほめ言葉になるのがおそろしいよねぇ……変人の極みが勢ぞろいし過ぎ」


 義叔父は病弱で床から頭が離れる方が珍しいのに超アウトドア派(一年に数度だけある体調のいい日に庭駆けずり回って次の日寝込む)だし、義従姉は男にしか見えない。中身も外見も行動も。義父は天然ボケを極めていたし、偶にやって来る親戚達は挙ってどこか、いやどこもズレている。

 「山が私を呼んでいるのよ!」と叫んで身一つでどこぞの山へ駆けて行った見た目淑女、「やっべ、実験やり過ぎて小指吹っ飛んじゃった」とヘラヘラしていたダンディなオジサン、「遊園地作りたいんだ遊園地、時速150kmのジェットコースターとか面白くね?」と設計図を書いていたお爺ちゃん。最早病院が来いの域である。実際他の領の人からは精神病なのではと割と本気で思われている。

 因みに実際王室直々に精神科医を寄越してきた事もある。『残念ながら正常です』と診断されて当時の国王が気絶したというのはローゼンフォール内では有名な話だ。笑い話の方面で。


「ああ……フォーも微妙に変人入ってるけど、あの人達よりはマシだよね……」


「血のつながり無くて良かったと本気で思うよね……僕拾われて良かったの?悪かったの?」


「うーん……下手な領主に拾われるよりはマシじゃない、かな……?」


 一瞬躊躇った時点で慰めにもならない。命が大事か、常識が大事か、普通に考えたら前者なのだがあの一族を前にすると本気で熟考したくなる。


「マジであの遺伝子なんなんだろう……類は友を呼ぶって言うけど、ローゼンフォールの人の友人は至って真面な人が多いよね……」


「あー、フォロート侯爵とか?あの人はヴィレットの数少ない良識人でしょ。ボク一回しか会った事無いけど」


「うん……何度救われた事か……父さん、王子だろうと振り切ってぼうそうしてたから……」


 非常に重たい溜息をついて二人は店の角へ曲がる。表通りより更に人が居なくなった裏道で唐突に立ち止まり、リーンは馬鹿にしたような声で呟いた。


「で、ストーカーさん達はこそこそしっぱなし?」


 空気が固まる。重たくなったそれにニヤリと笑った瞬間、後ろから小刀が飛んできた。しかしそれはリーンの結界によって防がれ、弾き返される。


「いつから気付いていた……」


 ぞろぞろと僅かに武装した男が現れるのはお約束の光景なのか。まるで物語で狙われる姫みたいだ、と妙にズレた考えを一瞬抱いたが、場違いだと気を取り尚し目の前の男達へと体を向ける。さり気なく一歩前へ出てフィリアを庇うような姿勢になり、ほんの数人の敵を見上げた。


「劇場入る前からだよ。アホだねぇ、全然気配消えて無いもん。ねぇ、フィリア」


「流石にあそこまで殺気が出てたらねー……ボクでも気付く位って、逆に殺す気があるのか分かんないんだけど」


 明らかに侮蔑を含んだ子供の視線と呆れ返った小娘の眼差し。それらに更に怒気を露わにする敵にリーンは内心で嘲笑った。挑発で頭に血が上っている時点で小物だという事は分かりきっている。こんな事を考えている子供とは末恐ろしい事この上無いが、これが彼のスタンスなのだから仕方が無い。


「貴様ら……言わせておけば……」


「文句あるの?まぁ今は正当防衛すらとなえられない状態だし、見逃しても一応問題ないよ?」


「貴族のガキ風情が……ッ!」


 その言葉で貴族に恨みがある者だとは何とはなしに予測がついた。憎悪に染まった彼等の顔に、リーンはやれやれ、と子供らしからぬ疲れたような顔で空を仰いだ。


「あー、貴族ってこういう時めんどうなんだねー」


「貴族が言う台詞じゃないと思うけど……」


「これでも2年前までは平民らしくカツカツの生活をおうかしてた身なんで。ストーカーさん達、一つ言っとくけど三大貴族に恨み辛みをぶつけるのは筋ちがいだと思うよ。僕等平民イジメとかやらないし。てかまず僕が元平民だし」


 ポカン、と一瞬空気が緩む。この人達ろくに調べて無かったんだな、と今度は本気で呆れ果てて見上げた。しかしその間抜け面も一人が持ち直してしまった事で、全員がまた張り詰めた空気へと戻してしまう。


「戯言を……ッ!」


「俺等がロクに飯も食えない状態なのにお前らは飢えもせずに食ってるんだろ!」


「町でどれだけの患者が薬を待ってると思ってるんだ!?昔平民暮らしだったなんて知らねぇんだ!今はテメェも貴族なんだろうが!」


 他の領の住民が何かしらの方法でウチに流れて来てしまったのか。警備の強化と他領の現状を考え、僅かに警戒心を下げてしまうのは、ローゼンフォールの教育を受けているからか。三大貴族領は平民を第一に考えた政治を執り行っている(もっともこれは領の収入が税収以外でも十分安定するから出来るのだが)為、こうした市民の意見はどんな相手であろうと聞き入れようと条件反射レベルで動いてしまう。

 しかし、それが命取りだった。


「貴族のガキに女の供……」


 ヒヤリ、嫌な予感がして構えるも、狂気に満ちた顔で男が叫んだ瞬間、ソレは起こった。


「全く、いい人質だよなぁッ!」


 バーーーーンッ!!

 暴風と共に轟音が鳴り響いた。僅かに小石が掠ったようで所々が痛む。それだけでなく、何かが焦げたような臭いとにハッとして振り返ろうとすると同時に、引き攣ったフィリアの悲鳴が聞こえた。


「いっ!?」


「フィリア!?」


 カクリ、と崩れ落ちて足を押さえ蹲ってしまったフィリアに驚いて思わずしゃがみ込もうとするが、追い打ちをかけるように飛んでくるナイフを咄嗟に張った結界で弾き飛ばす。


「アンタ等、何を……ッ!」


「チッ、魔力の強いガキめ……この程度の火薬じゃ娘一人傷つけて終わりかよ」


「火薬!?」


 結界で守りながら痛みを堪えているフィリアの足を診ると、決して浅いとは言えない傷とそこそこの出血があった。サア、と顔を青くして治療に取り掛かろうとすれば効きはしないが幾つもの爆弾―――恐らく手榴弾に近いのだろう―――が投げつけられる。


「このっ、しぶといなこの結界!」


「うっさいアンタ等少しだまってて!」


 鋭い風が吹き荒れた。暴風という表現が正しい程のソレは、纏めて男達を吹っ飛ばす。方向性を指定していない一種の魔力暴走に巻き込まれた彼等は体を打ち付け、気絶し、蹲った。


「アンタ等の救済策は後でちゃんと考えるから!今はウチのお姫さま優先なの!」


 へ?と痛そうに、だがポカンとリーンを見上げたフィリアに気付く事無くリーンは治療の呪文を唱え始めた。細かい制御の効かない、その代わりに力技なので恐るべき速度で治っていく怪我を唖然とフィリアが眺めている内に、あっという間に血の滲んだ靴と靴下以外は元に戻る。


「痛みは?」


「無い、けど……」


 戸惑いながらも呟かれた言葉に本気で安堵した顔になった。冷めた子供ではなく、誰かの為に表情を心の底から変える姿など今まで見た事も無い。しかもそれが怒りで無く、人を慮るモノだなんて、尚更。


「良かった、とりあえずすぐに家に転送するからちょっとだけ待っててね」


「う、うん……?」


 が、あっという間にその表情はニヤリとした笑みに変わった。嫌な予感しかしない。


「さーて、この件どうしようねー。これでもオレ、いや僕以上にこの方は高貴な血筋の方でね?オレという警護が居るにも関わらず怪我をさせてしまった失態のバツは、勿論こっちに来るんだー」


 オレ、という一人称に違和感を覚える。今までどんなに激怒しても―――いや、そもそも彼は基本そこまでの激怒をした事が無い。基本は諦める。だがこんな一人称を使った例は無い。本日は異例ばかりだ、と現実逃避気味に考えているフィリアをよそ目に話は進む。


「そして同時にローゼンフォールの家訓のうち一つは、‘民を守れ’でもあってね?この怒りを民に向ける訳にはいかないんだ。ローゼンフォールに拾われたオレは何があってもこの規則は破れない。君らへ理不尽な事を出来ない。バツはばっせない。だって元をただすと原因はオレ等権力者だから」


 そういう割には纏う空気が物騒だ。ついでに原因がどうであれ、普通は貴族・王族に傷を付けた時点で罰しても良い筈だ。


「でもね?これから先兄様に怒られて、リトスにおしおきされる事考えると、どーしてもこの感情は抑えられなくてねー?」


 轟音に人が集まり始めた。危ないと分かっているのだから逃げればいいのに、野次馬根性でやってくるとは危機管理能力はどうなっているのか、と脱線した考えは続く。だが、彼が言った言葉でそんな時間も終わりを告げた。


「だから、どうせなら王様殺しに参加しないかい?ほうしゅうは時期王の確実な治世と、最低限の飢えからの解放!それでオレはこの事許すよ!」


「「「「……はい?」」」」


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ