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Silver Breaker  作者: イリアス
第五章 犠牲になった者
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第67話 度合の超越

一月以上開いてすみませんでした。

最早一月2回更新は諦めるしかない(-_-;)

 ポカン、顎でも外れそうな勢いで開かれた間抜けな口が酷く滑稽で、何だか腹の内がすっきりした気分になった。

 何せリーンがほくそ笑む目の前では様々なアホ面が勢ぞろいしているのだ。


「…………父上、そんなにも馬鹿だったのか」


 抜けた面で目をしばたたせたエンスは疲れた面持ちで手触りの良いソファーへと倒れこんだ。それに同感するようにリトスがコクコクと頷き、コウは乾いた笑いを浮かべ、アズルは無表情でフィリアの怪我を見ていた。


「ねー、びっくりでしょ?というわけ()で兄様、そうさく(捜索)たのめるよね?」


「いやー、フォーが言ってた事本当なんだねぇ。銀の王子をお兄さん扱いかー」


 悪戯が成功した子供のように(実際そうなのだが)ニヤニヤと笑うリーンの横ではケラケラとフィリアが笑う。先ほどから感じていたが成程、随分と肝が据わったお姫様らしい。身分が高い者が目の前に居ると普通かしづくものなのだが、寧ろ逆にこの雰囲気を楽しんでいるようだ。


「……ええと、フィリア姫?いいのですか?ローゼンフォールの侍女など―――」


「自分が言い出した事ですし、今まで一応はお嬢様暮らしみたいな事してたので逆に楽しみなんですよね。あと姫じゃないです。普通にフィリアで呼んで下さい」


「……じゃあ私にも敬語は無しで。あと呼び方はエンスで構わない」


 ほわほわとしたフィリアの雰囲気に呑まれてか、珍しくエンスが折れた。その様子を興味深そうに眺めていたリトスにアズルから声がかかる。


「リトスさん、小鳥遊家の資料何かありますか?多分レアスキルそのものは無くてもここまで歴史の古い家です。何かしらが代々伝わっていると思うんですが、それなのに国が貴族扱いしなくなった理由が分かりません」


「アー、確か先代国王が当時の小鳥遊家当主と口論になったとかいう記録が残ってますヨ。血を薄めすぎたのなら身内で結婚させるべきだっていうのが国王の意見、一方自由婚を認めるのが当主の意見だったらしいデス。まぁ当主としてハ、今更血を濃くしようとしても遅いって事もあったらしいデスガ」


 遠くを見つめながら昔読んだと思われる記録を述べるリトスに注目するが、何ともアホらしい記録がきちんと残っている事に全員が呆れた。フィリアでさえも冷たい目で溜息をつく。


「お爺様何やってるの……」


「寧ろよく生活してこれましたヨネ」


 国からの金が途絶えたというのに、と感心した様子で呟いたリトスにフィリアは苦笑で答えた。


「うちの一家代々水属性ばっかり生まれるんですよ。しかも魔力の多い。だから私が生まれてちょっと位までは医者の代わりに色々治療してまして、お金はその関係で大丈夫だったんですけど……」


「水属性一家とはまた珍しいな」


 コウが目を丸くするのも無理はない。水・風属性は生まれる確率がダントツで低い。統計では水が25%、風が5%と出ている。しかも魔力属性は血液型並みに遺伝が面倒臭い。風属性などAB型Rh-レベルの希少種だ。


「そう考えるとここは属性の比率と合わない空間だな」


 エンスがボソッと呟いた事でリーンは周りを見回す。エンス・フィリア・アズルが水でコウが火、リトスは土でリーンは風なので、確かに水属性が随分と多い。治療には持って来いだな、などとズレた考えを持ってしまう程におかしな配分だ。


「と言うか、まず魔力量がおかしいかと……フィリア君、魔力量は?」


「えーと、測った事無いです」


 アズルの質問に首を振ったフィリアに、無理もないと皆納得する。ここ暫くは魔術そのものが毛嫌いされている。それなのにわざわざ測ろうとする奇特な人など少なく、ましてや機材が今では殆ど無い。


「じゃあ丁度良いし今はかる?」


 リーンが提案したそれに、一も二も無く速攻で頷くフィリア。妙に必死さが漂っているのに皆一同首を傾げるが、まぁ何かしら理由があるのだろうと問い詰める事はせずに準備に取り掛かった。


「アズル、機材持ってきてくれ」


「了解しました。あー……エネルギーかなり使うんですけど、一応Sオーバー用持ってきても良いですか?」


「ああ、構わない」


 エンスが許可を出した事で、ちょっとした提案が大規模な調査へと変わった。一般的に使われる魔力測定装置は基本A程度までしか測れず、それ以上はオーバーヒートしてしまうのだ。魔力が多い家の出身だと申告されてしまえば安全面を考慮して(前にリーンが普通ので測ろうとしたら全力で止められた事からも推測出来るように、オーバーヒートは非常に危険である)テレビ大もある機材を引っ張って来るのは仕方がない。

 アズルが部屋から一旦退室したのをきっかけに、フィリアは身を縮込めた。


「うわー、オーバーS用とか何かすみません……そこまで大事にしちゃって」


「いやいや、寧ろ魔力が多い方がこちらについてくれるノハ嬉しい事ですカラ。少なくても味方になってくれるだけで有り難くはあるんデスガ、矢張り魔力が多いと作戦が増えますからネ」


 実質上この革命の参謀を担っているリトスが穏やかに笑って縮こまったフィリアの緊張を解く。事実、魔力量が多い方が作戦に投入するに辺り何かと便利なのだ。勿論、それは危険が伴う物でもあるのだが、このご時世、危険もへったくれも関係ない。危険が無い所等果たしてあるのだろうか。


「そう言ってもらえると有り難いんですが……」


 肩の力をほんの少し抜いたようだ。しかし何処かバツの悪そうなというか、居心地が悪そうにもぞりと動いたのにリーンが気付く。


「どしたの?魔力、何かあるの?」


「あー……うん。まぁ何と言いますか―――少なくともAは越えてるんだよね」


 暈して言っているが、端的に言ってしまえばAAはあるという意味だ。それに対し、この場に居る全員が驚きに目を見張る。AAは最早人外扱いされる領域の量だ。成程確かにそれなら気が引けても仕方がない。この年でそんな事早々無いのだから。


「そういう事か。何、そこまで気を張る必要はないさ。誰もここに居る奴は君を化け物扱いなんて出来ないさ。何せ、自分が自分を否定するような物だからな」


 戸惑う意思を汲み取ったエンスがニヤリと笑って全員に同意を求める。勿論笑顔で頷いたが、それが意外だったのだろう。フィリアは一瞬ポカンと呆けたような顔をした。


「……え?」


「あのねー、ここにいるみんな、オーバーAAなの。エンスとアズルがAAで、それ以外みんなAAA。あれ?リトってもうSなったんだっけ?」


「ギリでアウトでしたヨ。まぁ、革命までには上がれると思いますガネ。あと113程度届かなかっただけナンデ」


 その言葉についにフィリアは固まった。オーバーS寸前。しかも113という数値をほんの少し扱いとは、中々に理解できない世界だ。この数値、平均的な魔力量が2000強という時点でどれだけ100単位が重要か良く分かるだろう。尤も、リトスなど1万を軽く超えているのだからその程度些細な物なのだろうが。


「チッ、俺も早くSに上がんねぇのか」


「コウはあと1万近く足りないからなぁ……私もせめてAAAにはなりたいんだが」


「11の餓鬼が言うセリフじゃないんですけどネ、ソレ。まぁ素質はあると思いますヨ?あと3千程度デスシ」


 そんなカミングアウトされていくここに居る面子のレベルの高さに、遂にフィリアは話を聞くのを止めた。世界って広いんだな。そんな呟きは誰に聞かれる事も無く掻き消えた。

 尚、常識としては平均的な人々が一年で成長する量が大体100前後だ。ここは最早人外魔京と言っても過言では無い。


「……世界が違う」


「ちなみに革命派の10分の1がAランクオーバーだからな。安心しろ、S越えてなきゃ奇異の目で見られる事なんてねぇぞ」


「コウ、奇異の目なんて言葉知ってたんデスネ。感心しまシタ」


 フィリアの呆れとも放心ともつかない言葉はスルーされ、代わりにリトスが余りにも酷い頭のコウがこんな言葉を知っていた事に驚いた。灰色がしっかり見える程見開かれたそれが彼の驚愕具合を物語る。


「兄さん……成長したね……!」


「ああ、本当に……!昔はあんなに馬鹿だったのになぁ……!」


 いつの間にか帰ってきていたのか、仕舞には弟からも感動される始末。それ以前にエンスからの扱いの酷さに殺意が湧くのは致し方ない。


「て・め・え・らぁ……!!」


「きゃー、コウが怒ったー」


 それに対しリーンの何という棒読み具合か。にも関わらずその言葉に悪乗りしたエンスまでもがこの訳の分からなくなった茶番に精を出し始めた。フィリアの横に座っていたリーンをひょいと抱え上げ、そしてフィリアがついてきていないのを知っていながら放置し、空気に便乗する。


「よしよし、怖がらなくてもいいぞリーン。ただコウはちょっと頭が悪いだけだからな」


「このノリでまだ馬鹿にすんのか!?」


「えー、兄様。コウは頭が悪いんじゃないよ。顔と口とてくせ(手癖)と頭が悪いんだよー」


「ゴルァリーンッ!さり気なく人を更に貶めんな!!」


 ぶーたれるように、しかし余りにも人を馬鹿にした(と言うか見下した)対応に遂に怒鳴る。が、それに物ともしない面子しかこの場には居ないのだ。唯一フィリアを例外として。


「こら兄さん。殿下の前でそんな言葉遣い駄目でしょ」


「え、コレ俺が悪いのか?アズル、ちげぇよな!?」


「はいじゃあフィリアちゃん、ちょっとこの石に触ってくれる?」


「あ、はい」


「無視かよ!!」


 哀れコウ。戸惑った様子の少女を最優先にされたが故に主張は放置された。そして巻き込まれたフィリアは目をコウの方へと彷徨わせながらも言われた通り手をひんやりとした石の方へと向ける。そして触れると熱を持ちだす機械。全員の注目を浴びるソレは、メーターをグラグラと揺らした後にピタリと沈黙した。


「…………ええと、結果は?」


「……………………AAだね。エンスと同レベル量」


 アズルの一言で、わっと空気が明るくなった。全員喜びに肩を叩き合い、リーンはピョンピョンと跳び跳ねた。


「すごい!フィリアすごいよ!」


 頬を赤くして興奮した様子を見せるリーンに笑って見せれば更に高く跳ぶ。仕舞には飛ぶんじゃないかという勢いだ。元々妹と同い年のリーンの行動には酷く癒された。


「そういえばフィリアもエンスと同い年位でしタネ。そう考えれば納得デス」


 そんなほのぼの空間に和みながらリトスは何度も頷く。その言葉にハッと気づいた兄弟はえ!?と疑うような顔で二人を見回した。おかしい、精神年齢が違いすぎる。


「フィリア何才ー?」


「んー?12才だよ。フォーより6才上」


「え゛?私より年上だったのか?」


 のほほんとした雰囲気を壊す様にエンスが引き攣った声で呟いた。身長差からてっきりせいぜいが同い年、もしくは1、2才下かと思っていたのだ。


「あー、学年で言ったらエンスの一つ上だね。私3月生まれだし」


「マジでか……」


 がっくりと項垂れたエンスにリーンは首を傾げた。何故そこまで落ち込むのだろう?


「どしたの兄様?今時よっぽどお金持ちな貴族じゃないとごはん食べれないから大きくなんてなれないんだよ?」


 グサリ。リーンの疑問に何かが突き刺さる音が聞こえた気がする。しかも2つ。


「リーン……私が悪かったから現実を直視させないでくれ」


「チビでごめんね……」


「え!?ごめんフィリア!」


 どうやら気にしていた所に突き刺したらしい。いや、今時発育がちゃんとしている子供の方が少ないのだが、身長というのは男女関係なく鬼門らしい。


「まぁ女の子だからあんまり大きくなってもアレだし、リーン君の所で生活するならすぐ伸びるよ」


「あそこは貧困と一番遠い所だからなぁ……」


「この間なんて某ローゼンフォール家の方が平民の子供たちに色んな飴配ってたらしいデスヨ……」


 この食糧難で何をやっているのか、と叱れない程あそこは様々な物が徹底している。平民でも3食食べれる場所など、今では三大貴族領のみだろう。しかもローゼンフォールは奇人変人の集まりのため色々やらかしている。


「あ、それシュウおじさんが配ってたの?あのアメ面白いよねー」


 ネギトロ味とかプリン味とかバーベキュー味とかあったんだよー。とほわほわ笑うリーンだが言われた味のゲテモノさに全員顔を引き攣らせる。それを配っても喜ばれないだろうに……とエンスが呟いたのにフィリアがこくこくと頷いて相槌を打つ。


「他に何味があったんだ?」


「こんぶだし味でしょー?トンカツ味にー、玉子やき味ー、ポテトサラダ味ホイコーロー味ミネストローネ味キムチ味ごま味ちくぜんに味オムライス味「ああもういいわ、俺が悪かった」


 興味に負けて聞いたコウは更に負けた気分になった。どれ一つとして飴の味で無い。寧ろどうやって飴にしたのか全く分からない。


「……あの、もしかしてローゼンフォールって変な人居るの?」


「変な人が居るんじゃない、変な人しか居ないんだ……」


 おっかなびっくりで訊ねたフィリアに頭を押さえながらエンスが答える。最早ランクについて話していたのなどすっかり忘れられる程の脱線っぷりだ。しかしよくよく考えればこれからローゼンフォールに住むというフィリアにはしっかりと常識と、彼らの非常識具合を教えなければならない。


「フィリア、君に早速任務を与えマス。君は常識をキッチリと理解した上でリーン君が間違った常識を覚えないようサポートして下サイ」


「は、はい……」


 ガシっと肩を掴んで切実な表情で迫ったリトスにフィリアは不安そうな目で頷いた。


 しかし残念ながらローゼンフォールの非常識具合はその程度で修正できるものでは無かった。

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