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Silver Breaker  作者: イリアス
第五章 犠牲になった者
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第61話 憂いの行先

久しぶりに過去編がありません。

……過去編書くのが大変なのでとても楽でした。

 パラっと微かな音を立てて机の上から一枚紙が舞い落ちた。地面へとゆらゆらしながらも到達したそれは、一瞬にしてぐしゃりと誰かの足に潰される。


「っだー!!分かるか!灯火島の歴史とか知るか!!」


「メイ、足元。資料踏んでるよ。あと知らなくても調べなきゃいけないの。それが僕たちの義務なの。そこんとこ分かってる?」


 椅子の後ろに体重をかけ、ぶらぶらと足を揺り動かして抵抗するメイに僕らは今日何度目になるか分からない溜息をついた。


「メイ君~、この中で一番宿題共同作業にしなきゃいけないの君だよ~?」


「僕らは別に自室で調べていても良いんですがね。君、資料に目を通してそれを纏め上げるの壊滅的なんですから少しくらい大人しくしていて下さい。あとついでにこの間の侵入者の件、君の始末書まだ出てませんよ」


 が、それに対して酷く冷たい反応を見せるのが多数。頭良い人達はただ単に頼まれて出てきているのみなので割と淡白だ。……ネリアさんは今回頭悪い組に属していたりする。お陰でみんな僕の部屋に押しかけてるんだけど。


「うう……なんでこんなどうでもいい島調べなきゃいけないのよ」


「どうでも良くないよーネリアさん。本職の中に宮廷魔導士が入ってる僕からすれば実に興味深い所だもん。突如として人が死んでしまった魔の空間。固有の動植物には何故か一切影響がないものの人が住めない程の高濃度魔力が千年観測され続けた島だなんて、色々と気になるじゃないか」


「でもそれが全く解明されてないから人が住むのまだ許されてねーんだろ?勿体無いよな。ヴィレットより広い島―――てかありゃ最早大陸だな、なのに」


 そう、現在僕らが調べまわっているのはヴィレットの東に位置するそんな良く分からない島だ。一応現存してる資料から推測すると、一夜にして人が突然死したとしか言いようがない所。当時の医術じゃたかが知れてるけど、それでも毒でもなく推定一億人は居た国民が全員犠牲になるとか普通じゃない。そんな魔術、今でもないし。


「本気で、興味深いけど迷惑な島ですよね。そのうち僕が解析に回されるような気がしなくもないんですが……」


「あ、アル君本当に解析行ってたんだ~。いつだったかお城で働くなら解析って言ってたもんね~」


「いえ、あの頃にはもう働いてましたけどね……」


 呑気な二人の会話だが、こうして呑気に話せるようになるまで数日かかっていたりする。……正座地獄にあった二人の後、僕も質問攻め(という名の拷問)にあったからなぁ……


「まぁ、それを言ったらリーンなんて信じたくもないような役職だけどな。陛下初めて拝見できるとかいう興奮全部抜き取られたぞ、俺」


「危うく陛下の御前で流血沙汰にする所だったしね……」


「そんな事言ったらオレなんか元軍上層部のおっさんに殺されそうになってる所突然助けられたんだぞ。しかもコイツキレて口調変わってたから色々別人だったし……」


 ああ、そう言われれば皆結構なタイミングだよな。特にメイに限っては、そんな理由でバラす事になるとは微塵も思って無かったし。つか貴族だからって襲って来てもメイなら大半の敵倒せる実力があるから、尚更考えない。


「ふふふ……皆さん。初めて知らされたのがドラゴン襲撃と同時で、目の前でアレを瞬殺された僕には負けてますね……」


『うっ……』


 あ、あれは……

 うん、確かにあれ程のタイミングは無いよね……一応アレはアルの能力あってこその退治だったんだけど、そんな事言える訳もないし。


「ホント、出鱈目よねリーン君。レクロース倒してたなんて、普通考えられないわよ」


「僕だって倒せると思って無かったよ。ただ軍事機密レベルのヒントがあっただけ。普通に戦ったらレクロースドラゴン一人でとか無理だって」


 至高の存在という異名はそう易々と破られるほど軽い名前ではないのだ。かの有名な魔術師、リオウ・ヒューズリーの死因もレクロースと戦った結果の傷だと言われている。まぁ、彼の死因は諸説あるから本当かは分からないけれど、それ程アレは強い、という事の表れだろう。全く、アル様々だよ。


「そりゃそーだよな。あんなん実力で倒せるヤツ居たら見てみたい」


「…………ソラなら、いけるかも?」


 え?と固まった雰囲気を感じつつもふと思った事を口に出していく。なんだろう、別に言っちゃいけない事じゃないんだけど、秘密を教えていくみたいな気分だ。


「ソラならやり方次第では倒せるかもしれない。ちょっと小細工入ってるけど、本気になったら、多分……」


「え、何?ソラ先輩ってそんなに強いの?AAじゃなかった?」


 AAは一応世間一般には十分な強者に値する強さだ。が、ドラゴン相手を考えると少し弱い。手を伸ばしても届かないのがAランクオーバー、手を伸ばすのもおこがましいと思われるのがSランクオーバー。たった3ランクだけど数値で表せば桁が全然違くて、それ故微妙な位置に立ってるような強さとも言えるだろう。

 で、そんなレベルのソラは、本来ならここで挙げられるような名前じゃない。普通ならリトスを筆頭に、コウやソフィアさんなど超有名人が並べられる筈だ。

 しかし。


「んー、強いの定義によってはソラがドラゴン退治には一番強いかなぁ。負けない事が強さならソラ、勝つ事が強さならコウとか?」


「なんか今一分からない説明ですね。ソラ先輩、この間模擬戦でリーン君にぼろ負けしてたじゃないですか」


 それにギョッと目を剥いた一般人3人をスルーして僕は思わず唸る。いや、確かに魔法戦なら僕のが遥かに有利で、それ故魔法込みの模擬戦で僕が勝ったのも当たり前だ。けれどアレは少し違うのだ。


「それは負けるの定義がまた違うから、かな?……ソラは‘生き残る’事が何よりの強みだから」


「生き残る……?」


「普通強い程生存率って上がるもんじゃねぇの?」


 頭上にはてなを浮かべまくる皆に苦笑してそれ以上は濁す。ああ、これ以上は駄目だ。無駄に頭のいい彼等ではあっという間にその疑問に辿りついてしまった。僕が笑って困った顔をしたのに気付いたのだろう。皆何も言わず顔を見合わせて終わらせる。その気遣いがありがたい。


 と、思った瞬間ジャストタイミングで違和感を覚えた。


「アレ?リーン君、今なんか魔力が揺れませんでした?」


 それに目聡く気付いたのがアル。僕が細かい制御を教え始めたお陰で、あまり感じて欲しくない物も感知出来るようになってしまったようだ。それに内心で舌打ちを打ち、しかし表ではごめん、と言って答える前に通信画面を立ち上げる。目前に映ったディスプレイが示す連絡先は、ソラ。


『……もしもし、どうしたリーン』


 丁度過ぎるタイミングに皆が驚いている中僕はとっとと本題へと入る。多少声が剣呑になってしまった感は否めない。


「どうした、じゃない。言われなきゃ分かんない?」


『……悪ぃ。ちょっと調査で寝てなかった。そっちにも伝わっちまったか?』


 バツの悪そうな返答にやっぱり、と溜息をつく。興味津々な周りを意識して最低限の会話で済ます。そのうちアルとメイには話す事になるだろうが、他の面子にあまり情報を与える訳にもいかないだろう。


「アルが揺れを感知する程度には。随分吸い取ってったね」


『げ、まじで悪ぃ。大丈夫か?リンクオレ以外にも増えて辛いだろ……』


「そこは問題ないから。ぶっちゃけ隊長とのは供給とかそういう問題含まれないからある事すら忘れそうになるリンクだし。第一、逆にそっちが辛いでしょーに。もうちょっと奪われても全然平気だから。ああでもちゃんと寝てね?昔みたいに僕も君も共倒れとか嫌だよ?」


 音声通話のため顔色は見えないが多分この調子じゃ良くはないだろう。声が眠そうだ。

 僕とソラの通話に皆が何事かとじろじろ見るのを一端止め、宿題へと視線を戻した所で僕は更に追い打ちをかける。ソラ、僕と同じでワーカホリックになりつつあるからなぁ……


『……ああ、コレ片付いたら寝る。少し休まないと体がついていかなくなりそうだしな』


「それ重傷。じゃ、僕からの用はそれだけ。寝てね」


 その言葉を最後に通話を切って溜息をつく。終わったのを確認してまた宿題へと伸びた手を止めた目の前の面子には思わず失笑が漏れる。こいつ等勉強したくないんだな。


「で、あの揺れは何ですか?」


「あー……ソラとちょっとリンクしてて、向こうがそれに引っ掛かるような事やらかしてたらしい」


 溜息をついて目の前のカップに手を伸ばし、一口水を口に含む。ソラ、もうちょい持ってても大丈夫って言った途端かなりの量掻っ攫ってたな……余程休んで無かったんだろう。


「リンクって……おいおい、そうホイホイ繋げられるもんじゃねぇよな、アレ」


「確か相性とかの問題もあったよね~?」


「相性に関しては偶々としか言い様が無いなぁ。後はそれこそ灯火島関連もあるんだけど……」


 それを言った瞬間ガタリと皆が机を揺らす。揺れた水面にギョッとする間もなく口を揃えて僕に命令した。


『詳しい事教えろ』


 おおっと、スゥさんもアルもいつもと口調違うぞ?まぁそう言う理由もわかるけどさ。目の前に終わらない宿題があって、それに関連するネタがあるんだもん。


「詳しい事、ねぇ……緘口令掛かるとこまでは言えないよ?」


「それでも構わないわ。ネタを頂戴」


 まるで締切に追われた作家のようなセリフだ。さり気なく頭が宜しくないネリアさんにとっては死活問題なんだろう。メイもかなり必死に食いついてる。


「まずは予備知識から。灯火島から人が消える前に偶々ヴィレットに王族が訪ねてたんだ。けどその間に国民全員が死亡した事でその王族―――正確には王家から輩出される(カンナギ)、とかいう神事担当の人物だったかな?が、ヴィレットで暮らす事になったんだ」


「え、何その超悲劇のストーリー」


 確かにここまでだと悲劇のストーリーだ。帰る国は無く、数人連れて来た供以外に知ってる人も無し。王族として扱われていた人間が、急に格を下げられたようなものだ。


「ヴィレットで生きる事を決めた彼等はこの国の貴族として受け入れられた。ただし領地は持たない、城で神事を行う時に出てきてもらう為にね。まぁこれは本人も喜んだらしいし、悲劇には入らないかな?」


 それにホッと息を吐き出した女子達とは引き換えに、貴族出身のメイと城を見ているアル、そして何故かソルトは渋い顔をしたままだった。そう、世の中そんなに甘くないのだ。


「けど、逆にそれはその一族を利用するのにいい材料にされてしまった。領地を持たない王族、対応は公爵レベルだったのが段々と下げられ、3代前の王の時代にはただの平民より少しマシ、程度の扱いをされてたらしいよ。血が薄まってたっていうのもその理由ではあるだろうけど」


 ヴィレットの国王はエンスになるまで十代程暴君や昏君が続いていたから、多分その時に急速に弱められたのだろう。


「血が弱まると神事に耐えうる―――まぁ要は、一子相伝のレアスキルを持つ子供が産まれなくなっていった。代わりにそのレアスキルの一部を魔術的に再現する方法も出て来たし、蔑ろにされる材料がどんどん出揃ってっちゃったんだってさ」


「……その再現が、ソラ先輩とのリンクに?」


「まぁ、ある意味そうとも言えるかな。仲介人に灯火島の王族の末裔が関わったけど」


 今日何度目になるか分からない驚愕を表した目の前の顔触れに思わず笑ってしまう。一々驚いてたらキリがないだろうに、ちゃんと反応してくれてこっちは実に楽しい。


「末裔!?残ってんのか!?」


「あー…………残ってる、と、いいなぁ」


 僕の回答に何かを感じたのだろう。張り詰めた空気が漂い始める。フラグが乱立してる僕の語りに皆完全に宿題の存在を忘れてしまっているようだ。


「って言うと、ここ数年で何か?」


「まあ、ね。一応行方不明だけど一人死んでなければ僕らと同い年の子が一人。それ以外は7年前で全滅」


 はあ、と今日一番の溜息で僕の困惑を吐き出す。皆も同い年という発言に戸惑いを隠せていない。


「同い年……って」


「今でも探してるんだけどねー……中々見つかんなくてさ。別に隠してる所か陛下が直々に捜索隊出してる位だからこの辺の情報は機密に関わんないんだけど、広めるにはちょっと微妙な所だから捜索が進まなくて」


「それは……そうだ、名前何て言う人なんだ?もしかしたら俺等みたいな外部組が知ってるかもしれんぞ」


 こっちの悩みを汲み取ってソルトが一応といった具合に訊いてくれる。それに有り難く、知っていて伝えられる情報を流してみようかなと思った。


「名前は‘アヤメ’。フィリアと同じ色だって言ってたから茶色の髪と目かな?」


「え、何でここにフィリアさんが関わってんですか?」


 フィリアと僕の関係を薄っすらと知っているアルから疑問の声が上がる。紫の目が珍しく全開になっているその様が驚きようを示しているようだ。


「フィリアさん?」


「えーと、フィリアは……あー、アヤメのお姉さん、なんだよね……」


「はあ!?」


 ガタンっと大きな音が響く。その様子に皆が一斉にアルの方を向いたが本人は気にせずこっちに質問を投げかけて、もとい、投げつけてくる。


「ちょっと待って下さい!?フィリアさんって……その、亡くなってたんですか?」


「うん、7年前に。ほら、言ってたでしょ?行方不明の妹さん探してるって」


「いやいやいや、確かに言ってましたけど……え?ええ?」


 あ、駄目だ。アルが壊れた。本気で狼狽してる様子は多分僕が初恋がどーのって伝えちゃったからだろう。と言っても、たかが6歳児の一方的な恋愛なんだからさらっと流せば良いのに。


「仕事上見逃せない……ああ、確かに見逃せないですね……」


「あれ、案外早く落ち着いたね。アルが言った通り。ヤバいでしょ?王族の末裔が売られて行方不明とか」


『売られて!?』


 絶叫した皆に苦笑して頷く。そう、売られてだ。フィリアとあったのだって、必死に妹を探している所を見つけたからだし。


「で、ソルト、知り合いにそんな名前の人は?」


「……悪い。いねぇな。あ、でも明日城下に買い物に行くからそん時にでも同級生に訊いてみる」


「あ、いーなー買い物~」


 真面目な雰囲気から一転しスゥさんがポツリと呟く。それにネリアさんも同感した瞬間、やっぱり女の子はそういう事好きだなぁと再認識してしまった。


「ついでに僕も久しぶりに町出てみようかなぁ……2年振り位だけど」


「お前……それでよく生活出来てるな……」


 寮の周りにある購買で殆ど揃うと思うんだけどな?と考えた所で購買には服までは売ってない事を思い出した。ああそうか、その辺の事情か。


「屋敷から服とかは送られてくるし、身長もあんま伸びないし……」


「お前こそ寝ろ。背伸びる時間以内に寝付け」


 メイの鋭い一言が痛い。けど寝たってあんまり意味が無いという事をコイツは果たして覚えているのだろうか?

 僕の身長、数年経たないと変わんないと思うぞ?

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