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Silver Breaker  作者: イリアス
第四章 鐘の音が響く
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第50話 騒乱と食事

50話ですって!まだ半分も行ってないのにね!(笑)

そしてアクセス総数も10万行きました!ありがとうございます。

出来るだけ更新していきたいと思っているのですが何分忙しくて―――

まぁ、正月には何もしないがな!


……なのに前半リーンの出番がひっじょーに薄い。

 さて、ご存知だろうか。立食パーティーとは、大変豪華なモノで、それ故に見栄張りすぎなバカ共がバカな事にバカバカしい程の金を一食で使ってしまう事を。その為歴史上では一回のパーティーでの金額制限なんて法律があったこともある。

 が、現在の立食パーティーの脅威なんてそんなモノでは無い。寧ろタチが悪い程だ。なぜなら……


「この度は新部隊結成おめでとうございます陛下……」


「これでヴィレットも一安心というもので……」


 昔ながらのオーケストラとダンス、それに酒の混じった貴族や金持ちの談笑(と言う名の策略)で笑い声が絶えない中、現在の主役であるエンスの周りには人だかりが出来ていた。


「ええ、彼らには頑張ってもらうつもりです。ロレーヌ子爵」


 外見上和やかに、しかし裏では腹黒く虎視眈々と自分に取り入ろうとする貴族に辟易してきたエンスの下に、一人の少年がやってくる。それに僕が道を開けさせて彼が中央に入って来れるようにすれば、皿に料理を乗せて持ってきた彼が紫の瞳をエンスへと向けた。非常にかしこまった態度で恭しく頭を下げる。


「陛下、少量ですがお食事をお持ちしました」


 勿論着ている服は礼服―――と、部隊の所属と階級を示すコート。黒の生地だから落ち着いた雰囲気になっているが、普通あの重ね着は無いだろ。いや、見た感じ変とは思わないけど、無駄に物々しいというか……煌びやかなホールに軍人って、ねぇ?


「お、ありがとうアル君」


 しかしそれを気にせず料理を礼を言うエンス。おい、上の者が下の者に礼を言うなよ。一応ここはそういうプライド持ったバカも居んだぞ?

 それを横目で見ていた僕は(現在は‘陛下の護衛’という名目でエンスの横に居るから話しかけられても最低限しか返さないよ)それに「あ」と呟いた。皿に乗った城にいる一流シェフたちの芸術達。それらを片手に載せたアルがそれでは、と貴族たちの言葉を続けさせない為に前置きしてからトンデモナイ事を言ってくれた。


「本日のディナー状況ですが、現在この皿に乗せられた料理以外の殆どに毒は検出されませんでした。一応僕が視た限りで害が出るほどの物はその場で燃やさせましたが混入ルートが未だ不明。現在隊長・副隊長格を除いた第一、第二科の計96人と解析班で割り込みを急いでいます」


「ど、毒!?」


 素っ頓狂な声をあげた子爵や伯爵達に少々毒づいてやりながら、漸くお仕事だー、と一歩前に出てエンスの横に並ぶ。周りも毒物が出た、と広がって水を打ったように静まり返った。しかしそれも一瞬で、あっという間に広いホールにざわめきが響く。


「ん、報告ありがとうアル君。じゃあその料理以外は今現在毒は無いんだな?」


「はい、新しい料理の補充もさせてませんので。ベルム中将が結界で反応を探っていますが検出されていません」


 外見上はにこやかに。内容自体は危険地帯。ほら、この二人一緒にしたらいけないんだよ貴族の皆さん。貴方方が十把一絡げに弄られて彼等のストレスはけ口にされるだけだからね。今度から気をつけて。二人のコンビ名があったら僕は迷わずこう付けよう。「混ぜるな危険」。


「そうか、ならコレが唯一の毒入りなんだな」


 そう言ってヒョイっとフォークを皿の上から奪い、容赦なくグサッと肉に突き刺したエンスに皆さんがポカンと口を開けた。なんて男らしい行動なんだ、なんて褒める現実逃避者も居るけど気にしない。

 そしてソレをどうするのか……なんて誰も考えないうちに、エンスは一口大の肉をパクリ。


 ―――そして会場には再び沈黙が落ちる。が、何人かの正気を取り戻した人たちが、呆然としたままエンスと皿を見比べ続ける。


「……え、陛下?ソレ、毒入り……なの、では?」


「ああ。まぁ遅効性の物だな。この微妙な苦さは」


「………………………今すぐ吐き出して下さいッ!?」


 ナニやってんじゃー!と言わんばかりに大騒ぎし出す取り入ろうと必死な皆さん。おう、我先にと医者を探し出した。


「早く!早く医者を連れてこい!」


「寧ろ病院が来い!」


「誰か!お医者様の中にお客様はいらっしゃいませんかーッ!?」


 ……どうしよう。ヴィレット、もうダメかもしれない。主に内部が。ウチの一族も結構変人として有名だけど、こいつ等それ以上の頭してるよね。


「いや逆じゃね?」


 おいメイ。どこから湧いてきた?

 阿鼻叫喚の人だかりを物ともせずに横から顔を出したメイが最後の人に容赦なく突っ込む。まぁ、聞かれて無いんだけど。それどころじゃ無いしね。にしても流石は生粋の貴族。礼装の上に部隊のコート羽織るという微妙な姿なのに格好良く見えるから不思議だ。

 と、その騒ぎを聞きつけたのか第6科の部隊長―――つまり、アズルが急いで駆けつけてきて……エンスが料理を普通に食ってるのを見て減速、いや停止した。


「……陛下、何事かと思ったじゃないですか……」


「あはは……私もここまで知らない者が多いと思ってなかった。悪い」


 苦笑してまた一口料理をパクついた国王に悲鳴を上げた皆さんが煩い。が、そこでアズルが呆れたように声を上げた。


「皆様、ご安心ください。陛下は分解型の魔力なのでこの程度の毒は問題ありません」


「…………分解、型?」


 何を言っているんだと言わんばかりに首を傾げた貴族・お偉いさん共に僕等は一瞬目を見張り、そしてお互いの目を見て溜息をついた。おいおい、こんな事も知らないのかよ……


「分解型と吸収型。魔力をどのように空気中から取り入れるか、そして取り入れた魔力をどうやって自分の物とするかの分け方……分解型は取り入れた物を分解し、魔力だけを自分の物に精製しなおす(・・・・)。一方吸収型は取り入れた物を自分の物と感知させる(・・・・・)……で、合っているかな?」


 と、凛とした声が奥の方から聞こえてきたかと思うと、カツン……と響く革靴の音。誰もが反射的に左右にザッと別れ、彼に道を作り、そして誰かを理解してから驚く。僕も驚いた。……まさか、あの人が騒ぎの中央に現れるなんて……


「久しぶりだね、エインセル君?」


「お久しぶりです、ゼラフィード公」


 ふわりと笑ったエンスの目の前に立った、薄い緑色と銀の混ざった髪の青年。いや、青年という言葉は正しくないだろう。一応彼は30代半ばだ。だが、あの人の纏う雰囲気が年齢を感じさせない。


「それにしても、今の貴族は随分とものを知らないらしい。確かにこれが顕著に現れるのはA以上だが、いつ自分の子供が強者として生まれてきてもおかしくは無い国なんだ。このくらいは常識と思った方がいいだろうに」


 そういってやれやれ、と首を振る彼に誰も何も言えないのは、彼が‘ゼラフィード’だからだ。

 ゼラフィード。王家存続の危機の時にのみ王位に就くことの出来る代理王家。初代国王の末裔である彼らにも王族たる所以の‘銀’は稀に生まれる。それはつまり、絶対的な力の象徴だ。


「あはは、手厳しいですね。まぁ、今の説明通りだから私には毒物や酒は効きません。何せ体内に摂取された物は飲食・休憩・睡眠などで全て‘分解’されてしまいますからね」


 ヒョイっと皿から料理を掬って食べる国王に、皆が血の気の引いた顔をする。毒入りだと分かっているのにも関わらず食べ続ける事に、ある意味の畏敬の念を抱いているらしい。


「逆に吸収型だと毒や酒に物凄く弱いですけどね。まぁ、陛下がAAAの分解型で助かりますよ。医師としては」


 ただし分解型の弱点は、休憩中であっても常に魔力を作る為にエネルギーを使うため、人よりも疲れやすい点にある。エンスがバテやすい理由もそこにあるんじゃないだろうか。ついでに僕も。


「という訳で、私は大丈夫です。アル君、徹底的に洗い出すよう第一と第二に伝えてくれ」


「畏まりました」


 場の雰囲気に呑まれる事なく立ち去ったアルを、無知な貴族たちはただ呆然と後ろ姿を見送った。


   ◆   ◆   ◆


「……マークイス?」


「うん」


「……ローゼンフォール?」


「うん」


 誰も通らない廊下に呆然と立ち尽くす子供と、嬉しそうに頷く大の大人。微妙な空気が漂っているのにも気付かず、唯唯信じられないと言わんばかりにパカっと口を開けた子供が、最終確認に入った。


「……マークイスって、こうしゃくけ(侯爵家)とうしゅ(当主)だよね?」


「そう、で、ここはヴィレット帝国侯爵家、ローゼンフォール領本邸だよ」


 信じたくなかった。目の前のボケボケ青年が貴族なのは理解していたが、まさか三大貴族が一門、ローゼンフォールの当主などという大役を担う程の人物などとはまるで思いつかなかった。精々が、お金持ちなんだなー程度の認識だったのに、たった一瞬でそれが脆く崩れ去った。


「……え、ぼく、このままじゃローゼンフォールのちゃくし(嫡子)?」


「うーん、フォーが望むならなれるかもね。でも一応は養子だから、他の人に渡る可能性もあるけど……」


「いや、むしろそれがいい」


 少しホッとした。平民の、しかも最下層に居たような子供が侯爵家の跡取りなんて、どんな下克上だ。と言うか逃げたい。リアルに今晩にでも逃亡してやろうか。

 そんな事出来ない程に見張りが多いなんて、残念ながら幼い思考の彼には思いついてもいなかった。いや、恐らく今まで誰にもすれ違ってすら居ないからてっきり人が居ないものだと思い込んでいるのだろうが。


「そう?じゃあまぁ、一応は手続きだけにしておくよ。……それに、フォーはユグドラシルだから守んないとね」


「ゆぐ……?」


 何それと目を瞬かせると、さっきまでのほけほけした表情から一変。哀しそうで、困ったような笑い顔に急変した。


「……フォーはね、国から―――いや、世界から凄く大切にされてる目を持ってるんだよ」


「め?」


 目、と言われて気づくのは、この人が自分の目を見ても今まで何一つ反応しなかった事だ。いつもなら、皆が不思議がるか怖がるかの二択だったのに、まるで目が二色なのが当たり前といった態度だったような気がする。


「うん。詳しい話は私の部屋に入ってからにしよう。ここでしゃべり続けると、誰が来るか分からないからね」


 誰が来るか分からない。そのひと言で、一気に胸の奥に冷たい物が滑り落ちた。息が上手く吸えない。ヒュウッと喉の奥で音が鳴る。それほどまでに、人が怖い。


 誰か。人。他人。怖い。殴る。蹴る。アクマ。鬼。化物。


 ―――怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い―――


「おっと!?フォー、大丈夫。大丈夫だから落ち着いて。ほら息吸って、はいて」


 一気に真っ青になって震えだした子供―――リーンに、慌てたように安心させる言葉を呟いて細い身体を抱え込んだ。今にも暴走しそうな魔力にも怯えず、あやすように頭を撫で付ける。自分の失言に、珍しくも青年―――シトロンは後悔した。


「大丈夫だって、この辺一帯には人が寄らないように指示出してるからね。取り敢えず、部屋に行くよ?」


 怯えた身体を抱え上げ、少し急ぎ足で部屋に足を運ぶ。ギュッと服を握って蹲るリーンに気遣いながら、思考を巡らし続けていた。

 人、という者に怯えていたのは寝ている時、意識がないにも関わらず自分以外の他人が近づくと過呼吸を起こしかけた事で分かっていた。それ程までにストレスを与えていて、しかも様々な怪我があるとしたら虐待か、それに近い物だと言う事位はすぐに分かる。シトロンとて馬鹿ではないのだ。馬鹿そうに見えるだけで。


「にしてもフォーは軽すぎだねぇ。うん、やっぱカロリーだね。お肉とか好き?てか食べて貰わなきゃいけないけど」


「…………そんなの、むらになかった」


 小さいながらも返事が返ってきた事にホッと息をはく。少しはダメージから回復したらしい。


「…………でも、カエルはすきかな」


 ピタリ。急ぎ足だった足が進まなくなった。

 え、この子なんて言った?カエル?え、食べ物の話じゃ無かったっけ!?


「……どうしたの?」


 そこで漸く不審に思ったのか、リーンが伏せて肩に沈ませていた顔を上げる。うん、可愛い。文句無しに可愛い。目元は涙で潤んでるし、コテン、と傾げた仕草も可愛い。もう親バカでいーや。等と現実逃避に走る暴走した頭を落ち着かせ、慎重に言葉を選んだ。


「……ええと、カエルを‘見る’のが好きなんだよね?」


「ふぇ?ううん、カエルをたべる(・・・)のがすき」


 ……どうしよう。父親やっていけるかと言う不安が脳裏を占める。先程親バカ宣言をした直後なのにそれが揺らぎかけた。


「……そっか。うん、もっと美味しいもの、沢山食べさせてあげるからさ」


 結局、言えたことはそれだけだった。凄い勢いでシリアスが崩れたような気がする。


「……?どくいり(毒入り)でも、たべれればいーよ?()かないから」


 ―――やっぱり父親やっていけるかが不安になった。

書いていてとても不安な子です、リーンは。

書いていてちょっと常識人になりました、お父さん。

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