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Silver Breaker  作者: イリアス
第四章 鐘の音が響く
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第48話 達観と緊張

さあやってまいりましたお父さん大暴走!


……日にち空いてすみませんでした。お父さんマジ書きにくい。

過去編は切り替えのシーンが◆になります。

 彼らは、目の前を通り過ぎる映像に茫然自失以外の言葉を思い出せないでいた。


「…………何よ、コレ」


 隣に座っているのはどこぞの国のお偉いさん。後ろに座っているのは確か有名財閥の社長だった筈だ。向こうに立っているのはテレビにも出る程の有名軍人。アレ?自分の身分って何だっけ?と首を傾げる二人と、雰囲気には慣れているがただ場所が場所なので気が気でない社長令嬢が一人。

 後ろに座っている重役の皆さんは最前列に座っている子供達を微笑ましそうに眺めているが、当の本人たちは今自分たちがこの国の中心にして、国王が住む場の一箇所、‘城内’にいるという事で現状はいっぱいいっぱいだった。


「…………なぁ、あのスクリーンに映ってるのって、凱旋の様子……だよな?」


「…………ついでに言えば~、あの画面に何やら見覚えのある紫色とか茶色とか金髪とかが映ってるのも気の所為かな~……?」


 全軍が配置できる程巨大なホールの後ろ、椅子が用意されていて観覧出来る様になっている部分から一望出来る部屋には重々しい雰囲気が蔓延する。そして画面越しに見える、本来見えてはいけない3人の様子が巨大なスクリーンに投影された。

 しかも一人は明らかに他の兵達の着ている黒地に白と青のラインが入ったコートではなく、着ている人がたった7人しかいない白地に青のラインが入ったコートを羽織っている上、ヤケに髪は長いし風属性でも早々使える人はいない術を易易と使って宙を自在に飛び回り、終いには煌びやかなパフォーマンスを繰り広げている。ああ、しかも彼の横に並行しているのは4つ上の先輩ではないか。


「…………ソラ先輩まで、新部隊員かぁ」


「道理であの3人、時間になっても来ない訳よ……」


「今頃学校は阿鼻叫喚かな~……」


 場所が場所なので騒げない彼らは、現実逃避を決め込んで精神を落ち着けようと頑張っているようだ。子供が覚える事では無いが、この場合彼等の選択は最も適切な物なのかもしれない。……現実とは、常に世知辛い物だ。


「……アイツ等、生きて夏休みを過ごせるといいな」


 そしてどうやら彼らがたどり着いた結論は、これから学園で発生するであろう殺人事件の幕開けに繋がるようだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そこは広く壮大で、それでいて繊細な城。ここまで来るのに約5キロ。飛び続けている僕はともかくとして、行進していた兵達の中には一瞬だけ疲れを滲ませる人たちも居た。それはそうだろう。だって、ただ歩いているだけでなく様々な所で無駄に細かい制御を必要とする術をばら撒いて来たんだから。

 けれど、それもここで終わる。


「…………陛下、お疲れさまです。これより先では、玉座にてお休みを」


 口ではそう言う物の、休める筈がない。これからはこの国の重役達への説明と、接待なのだから。ここから先が本番。分厚い壁が閉ざした向こうにはエンスの口上と、僕等の大暴露が待ち受けている。


「そうだな、久しぶりに酒を公に飲めるんだ。少々ハメを外させて貰う」


 ニヤリと口元を歪ませるエンスの姿に一瞬アリアが羨ましそうな顔をした。……隊長格は後でパーティーの時に飲めるよ?


「では、もう少しの辛抱ヲ。さあ陛下、皆がお待ちデス」


 そして目の前の扉は重そうに開き、その向こうには頭を目一杯に下げた人々が待ち受けている。その中に青と黒とクリーム色が混ざっている事に少し寂しさを感じるのは仕方が無い。……仕方、無いんだよ。

 赤く、柔らかい絨毯を最高級の革で出来た靴が進む。それに続くのは、リトス、アリア、フュジー、コウ、ソフィアさん、アズル、そして僕。さらに後ろに総勢343人の部下達。訓練された動きで規定の位置に並び、来客たちの方へ向き直る。

 それを無表情に見下ろした僕等は、エンスが玉座に座るのを確認してから、彼の後ろに一列に立つ。……身長差激しいけど、気にしないでおこう。僕とソフィアさんが身長そんな無いだけだから。

 エンスの斜め後ろに立った僕からは下の方につい昨日まで軽口を言い合っていた友人たちがよく見える。緊張の所為か、微かに震えているのを見て一瞬顔をしかめそうになった。そうだよな、エンスを見るって事は、本当はその位重い事なんだよな……


「顔を上げてくれて構わない」


 エンスが宣言した事で、次々と来客が下げた頭を上げる。その人たちの先頭に立つ幼い3人の顔には軽く呆然としたモノがあった。微妙に何か言いたそうに動く口元が気になるが、今見るべきものは彼等ではなく、来客達の行動だ。


「まずは今日の祝いの席に出向いてくれた事に感謝を。貴方たちの助けが無ければ、この部隊は出来上がらなかった」


 どこか丁寧で、それでいて傍若無人なエンスの言葉。澄んでいて耳に良く残る声がホールの中を木霊する。


「さて、先ずは改めてこの部隊の趣旨から説明させて頂く。ベルム中将、頼んだ」


「はい」


 国王からの指名に一旦頭を垂れてから一歩前へ。幼さ残る顔つきが今は引き締められ、目の奥に讃えられている光が鋭さを持つ。伊達に150年以上軍人を務めている訳では無いのだ。僕等若造とは格が違う。


「それでは、この部隊について説明したいと思います―――」


  ◆   ◆   ◆


 霞む視界。動かない体。止まらない呼吸。

 いつしか倒れていた事すらも気付かなかった子供が漸く目を覚ますと、先ほどよりも幾らか日が登った森の景色がぼんやりと見えた。目は決して悪い方では無いのにいつまでも安定しない世界に、少しだけ憂鬱そうな溜息を漏らす。整った顔に付いた土にすら気づけない程疲弊しきった彼は、明らかに死にたがっていたのだ。


(……まだ、しねてないんだ……)


 ぼーっとする頭の何処かで考えられる事は、そんな事のみ。ここ数ヶ月程度の記憶しか無い子供が思える事では無いのに、ここ数ヶ月でここまで追い込まれていた彼の精神状態が良く分かる。今までの生活は、ガリガリにやせ細った体や、栄養が足りていない事がよく現れている顔色が表していた。最早、誰かに手厚く介護でもされなければ今のご時世では生きていけない事間違いなしだ。


 が、逆で考えれば、手厚く介護出来る人物が居れば話は別なのだ。


「おや、珍しい。こんな所に面白いモノが転がってるねぇ」


 唐突に響いた声に、ギョッと子供は身体を強ばらせた。そう、声。それは即ち彼が今現在尤も怖いと感じるもの、‘人’が発する物だ。青白い顔が更に蒼白に変わる。怯えた様子を隠す余裕すらもなく、ガタガタと震えながら目をやれば、日差しを背負って子供を見下ろす身なりの良い男が自分の顔を覗き込んでいた。


「おーい、君大丈夫かな?寒いかい?でも今日は久しぶりにあったかいよねぇ」


 うーん、と首を傾げたその大人―――そう、大人だ。話し方が子供っぽい気もするが、少なくとも30は近いだろう―――が何を呑気にか、今にも死にそうな自分を見下ろして悩んでいる様に子供は怯えも忘れて一瞬ぽかんと目を丸くした。今までに見たことが無い程のほほんとしていて警戒心が無い人間だ。

 話には聞いた事がある。もしかしなくても、これが貴族という‘イキモノ’だろう。‘ケンリョク’とかいう力を持っていて、それを民に振るいかざすエライ人。

 そんな‘イキモノ’が何でここに、とまじまじと見つめてしまった所で、唐突にその人物は手を打った。


「よし、じゃあ拾って家で育ててみるか。うん、それがいい。ここに居たらいくら暖かくても風邪をひいてしまいそうだしね」


 風邪どころではなく弱っているのに気付いているのかいないのか。余りにも唐突すぎる思考と行動に目を丸くした。へ?と掠れた声で呟いたのは、残念ながら伝わらなかったらしい。

 その驚いた隙に腹に手を入れられてブランと小脇に抱えられた。その事にハッとして、急いでそこから脱出しようにも、身体は動かない。何故だろう、急にロクなものを食べなかった事に後悔を覚え始めた。

 あれ?死にたかったんじゃなかった僕?と驚きのあまり段々とおかしな方向へ向かう思考回路に頭が痛む。


「うーん、でも子連れで帰ったら皆に何を言われるんだろうねぇ?隠し子説とか出ないといいんだけど……いや、アイツ等なら更にブッ飛んで人さらい説まで出してきそうだな……」


 いや、寧ろ人さらいが正しいだろう。「親は何処に居る?」「何でこんな森の中に居た?」「動ける?」といった質問を全てすっ飛ばした上で終いにはお持ち帰り宣言だ。これを人さらいと呼ばずに何と呼ぶ。横暴だ。


「まぁいっか。取り敢えず、ウチに帰ったら風呂入ってもらうよー。泥遊びでもしてたの?僕」


 駄目だ、この人には常識が存在していないようだ。このガリッガリに痩せて青白い顔をした子供が泥遊び?貴族の子供でなければ働かずに食べていく事なんて出来ないという事を知らないのだろうか?……知らなさそうで怖い。

 宙ぶらりんな体勢のまま運ばれていく事に軽く絶望を覚えたが、掠れた喉で表現できる言葉など、残念ながら無かった。


   ◆   ◆   ◆


 いつの間にか気を失っていたらしい。次に目が覚めた時にはヤケにフカフカした布団にくるまれていて、何だかとても感動した。身分違いな寝具なのにとても寝やすい。流石最高級品―――と、そこまでボーっとした頭で考えてから思いっきり驚愕して飛び起きた。


「おや、起きた?随分弱っていたから心配したんだよ。体調は大丈夫かい?」


 突如として降ってきた声に肩が跳ねた。ガバっと横を見れば本を片手にほけほけと笑う先程の青年―――アレ?なんでこの人育児書なんて読んでるんだ?薄暗い部屋に小さく灯された魔力の明かりが彼の手元を照らしている。


「…………なんで、ぼくをたすけたの?」


 色々と聞きたい事はあるが、一番の疑問を探せばそこに行き着く。何の利益があって自分を助けた?というか弱ってるって事位は分かってたんだ。そんな本来では考えないような所にある種の感動を覚えた。見ず知らずの、赤の他人に!


「何でって……というかこっちの質問には答えてくれないんだ……まぁいいけど。何でかって言えば、フツー助けないかい?目の前でちっちゃい子が倒れてたら」


 ……あまりにも最初のインパクトが強すぎたらしい。案外真面な回答だ。ああでも、この回答以外が返って来ていたら自分はきっと直様にでもここを逃げ出しただろう。けれど、助けられた事には感謝は浮かばない。出来ればあのまま放置していて欲しかった。


「……ぼくはしにたかった」


「死にたかった、では無いだろう?生きたく無かった、が正しいのではないのかな?」


 へ?とその柔らかい言葉に顔を上げた。どう違うのかが全然分からない。どちらも言っている事は同じだ。


「うーん……何というか、生きる事の大変さをその歳で理解してしまったからもう生きたくなくなったって所じゃ無いのかい?死にたいなら既に死んでそうだし」


 やっぱり訳が分からない。死にたいなら死んでそう。助けた割には随分と投げやりな言い方だと思う。結果として生きているから何とも言えないけれど。

 兎に角俯いて手触りのいい布団を握り締めながら、こんな所はとっとと出ていこうと決意した。何でかこの人は怖くないけど、多分この人の、貴族の家だとしたら人がそこそこ居る筈だ。―――人は、怖い。


「…………とりあえず、たすけてくれたことにはかんしゃする。いまからここ、でてくから。めいわくかけて―――」


「いやいやいや。何を言ってるんだい?さっき言ったじゃないか。家で育てるって。その様子じゃ、保護者もいないんだろう?僕の養子になってくれて構わないよ」


 …………一瞬思考が停止した。ギギギ、と下を向いていた首を機械のように上向きにする。今、物凄い事をサラッと言われたような気がする。養子?平民が、貴族の養子?いやいや、そんな訳が無い。確か「ようし」という言葉は他にもあった筈だ。「用紙」「容姿」「陽子」「要旨」―――駄目だ、意味が当てはまらない。


「な、え、は?」


「何が言いたいのか分からないんだけど……?まぁ、あの森の辺りには村も無いし、何処に住んでたか多分分かってないでしょ?大丈夫、キミの見た目なら絶対平民育ちだなんて思われないからさ」


 ケラケラと笑って手を振った青年にこっちは顔色は悪くなる一方だ。ヤバイ、この人冗談言わなさそうなタイプだ。というか冗談を天然で受け入れてしまいそうだ。どうにかして断ろうと思っても、残念ながら幼児の思考ではろくな考えが浮かばない。


「いや、ちょ、まって!?そんなきゅうにいわれても!!」


「あーと、部屋はテキトーに空いてる所で良いとして、問題は服だよなぁ……今はエンス君のお下がりもらってきてどうにかなっているとはいえ、後で採寸来てもらわないと……」


「だーかーらーッ!!」


 何なの?何なのこの人!?人の話聞かなさすぎるだろう!


「ん?ああ、そうだ。水飲む?」


 ……駄目だ、この人に常識を求めた自分が悪かった。とても幼児とは思えない達観した回答に頭痛がやまない。もうどーでもいーや、と投げやりに頷けばハイ、と透明なグラスに何やらオレンジ色の液体が入っている。……水じゃないの?


「なに?コレ」


「知らないのかい?オレンジジュースって言うんだよ」


「いや、しってる。……アレ?なんでぼくしってんの?」


 今まで巡ってきた村でこんな物は見たことが無いのに、知識にはちゃんと存在する。味は分からないが。

 取り敢えずいっか、とかなりの水分を欲している喉の欲求に負けて一口飲めば、平民では飲む事なんてとても考えられないような飲み物の味が広がって、思わず目を丸くする。甘い。


「気に入ってくれたか。今は栄養が足りてないからね。ガンガンカロリー取ってもらうよ」


「カ……なに?」


 よく分からない事を言われた。兎に角、言いたい事は痩せすぎだからもう少し太れ、に近い事だろうか?と当たりをつけると、そこで再びピシリと固まった。……あ、なんか、絆された。ヤバイ、逃げらんないっぽい。


「その様子なら食事も大丈夫そうだね。今から持ってくるよ」


 笑ってクシャっと髪を撫でた青年は本を置いて立ち上がり、部屋から出て行った。

 そして静かになった薄暗い部屋。夜目が効く自分には凄く綺麗な装飾が施された花瓶だの壁掛けだの家具だのに目が行ってしまう。いや、それ以前に、だ。


「…………え、なに。ぼくここにいるの、けってい?」


 独り言は虚しくただっ広い部屋に木霊した。

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