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Silver Breaker  作者: イリアス
第四章 鐘の音が響く
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第43話 飛沫と牢死

R15入りました。グロ注意です。


そしてご連絡。テラさんの作品『THAT DICTIONARY』に捻くれ時代のリーンが登場してます。興味がある方はご覧下さい。

内容の重いこちらとは違ってギャグですが。

 おかしい、何かがおかしい。

 頭の何処かで鳴り続ける警鐘。このままではいけない。早く、早く。このままでは駄目だ。グルグルとそんな感情が回り続けるのにそれが一体何を指しているのかが分からない。

 普段は考えるなんて造作もない真似なのに、今だけは回答にたどり着けなかった。


「……一体、何がなんなのカ……」


 他の聖痕(スティグマ)持ちとは違い、順位の低いリトスは攻撃する術が‘昔は’無かった。だが、それ故に人一倍鋭かったのが、‘勘’。それは現在再び覚醒した状況でも引き継がれたらしいが、肝心な部分に到達出来ないそれに苛立つ事も少なくは無い。


「……第17位。一体どうしましたか?」


 その言葉にハッとして顔を上げると、いつの間にか目の前にはアルトが立っていた。部屋に入ってきた事すら気づかない程熱中していたらしい。将官として褒められた事ではないそれに内心反省した。我ながら気を抜きすぎだ。


「よく分かりましたネ。これが‘リトス’として悩んでいるものではない、ト」


「貴方は昔から勘が良かったですからね。大概そうやって考え込んで周りが見えなくなっていた時は緊急時の予兆を感じた時とかだったでしょう?」


 見透かすような紫の視線に成程、と呟いて一つ溜息を漏らす。流石に自分の元上司だっただけはある。どうやらキッチリ観察されていたらしかった。

 そしてアルトは繰り返し何を感じたのかを質問した。


「で、何があるんですか?この忙しい時に」


「…………分からないんデス」


「は?」


 目の前にそびえ立つ書類。自分はかなり処理するのが早い方なのだが、それでも一向に片付かないそれをこれ以上放置するのはマズイ。しかし―――


「焦燥は凄くあるんですガ、何故かは分からないンデス。手遅れになりそうというカ―――」


 相変わらず脳内で急げという言葉が回り続ける。何に急げというのか、何がそんなに大変なのか。全くその辺を感知してくれない勘はひたすら警報を鳴らし続けるのみだ。


「手遅れ……?今手遅れになってはいけないものは、新部隊か、彼女の覚醒か―――」


 無意識の内にだろう。アルトが爪先を地面に軽く叩き続けて考える素振りを見せる。昔と変わらない癖に少し懐かしさを覚えると、脳内の警鐘が唐突に答えを導き出した。


「―――牢、獄?」


 そこで何かがある。いや、あった。このままではいけないと急かす頭に釣られ、勢い良く立ち上がった。


「牢獄、ですか?」


「ハイ。絶対何かありマシタ。急いだほうがよさそうデス」


 瞼の奥にチラつく闇。この城の牢獄は全て地下にある。革命の名残で獄中に居るものは多いので誰が原因か探すのは大変そうだ。基本的に頑丈には作られているし、リーンの封印なんて目ではない程柵の中は封印石が敷き詰められているので内部犯では無いだろう。獄主が向こうにつくことも無い筈だが―――

 チラリともう一度書類を見る。溜まりに溜まったそれからして、自分がここから動くのは上策では無いが、仕方無い。後で直々にエンスに釈明に行こう。


 そうして彼らは下へと走り出した。が、既にそれ自体が手遅れとなっていたのに気付くのは、とある牢に辿りついた後―――


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 何かが脳内を掠めた。それはふと思い出したようなそれでなく、革命の時に感じたような不快な感覚。背に冷たいものが滑り落ちたような焦燥と恐怖に、僕自信が驚いた。


「何、今の……」


 頭の中で何かが騒ぐ。下へ行け、早く、あれはマズイ。下と言えばあるのは地下牢。師匠が紛れ込んだこともあるので行った事は何度かあるが、あそこはある意味この城の中で一番安全な筈だ。だけど、今回は違う、何かがヤバイ。

 分からないそれに募る焦燥。気がついたら僕は部屋を飛び出して下へと走っていた。


「リーン君!?」


「キミも気づきましたカ」


 無駄に広く迷路な城内に舌打ちを打ちながら階段を一気に飛び降りると(良い子はマネしないでね?)、なんと向こうからアルとリトスが走ってきていた。


「リトも気付いたんだ。何?この感じ」


「さあ?ただ間違いないのは、かなりマズそう、という事デスネ」


 顔を顰めて首を傾げているから多分僕と同じ程度だろう。気付いた事は。一旦緩めた速度を合流した事で再び速め、全速力で地下へと足を向ける。途中でかなりの高位階級の面々が走っている事にギョッと目を剥く人も居るけど今は気にしない。


「リーン君も何かは分かってないんですか?」


「うん、なんか革命ん時に感じてたような焦燥感だって事はわかるんだけど……」


「アア、同感デス」


 あの時、まさに激戦区だった頃はリアルに生きるか死ぬかの攻防戦。気がついたら親友は敵側だった~とか、あるぇ~お前何裏切ってんの?みたいな貴族達も居たけど、なまじ国王に近かった奴は妙に頭がよかったので行動が早かったのだ。

 その所為で見方もかなり被害が出たし、僕は途中で戦線離脱、最後にエンスが前王の首取った時に残っていたオーバーSはリトス、コウ、ソフィアさんの3人のみ。他はアリアフュジー含め敵も見方も血みどろになってたし。

 で、この感覚は正にあの頃。助けなきゃ、という焦りと、今何処に居る?という疑問渦巻いていたあの状況に妙に似ている。


「地下牢って、あとどの位なんですか……?」


 今までに行った経験の無いアルはどこまでもグルグルと回り続ける迷路に辟易していた。うん、マジで遠いです。隠し通路だの隠し部屋だの拷問室だのが溢れる場内は正しいルートを覚えなきゃ行っちゃいけない場所がてんこ盛りなのだ。

 そして今通っている3階が正にそのフロア。ちゃんと道を覚えたというテストを受けて合格しなきゃ入ることすらも禁止なエグイ階だ。


「んー、あと4階下だね。このフロア、僕等が居なきゃ入れない位無茶苦茶だからはぐれないでね?」


「3年前にとある一室から発見された白骨死体は20年近く放置されていたようデスシ」


 ぞっとしたのだろう。真っ青になってコクコクと頷く様は見ていて面白―――げふん、痛々しい。普段はサドなだけあってアルが怯える様はそうそう見れな―――あれ?結構最近見てるぞ?


「わ、分かりました。最悪能力フル活用します」


「うん、いい心がけだね」


 ニッコリ笑ってラストスパートと洒落こんだ僕等は一気に階段を飛び降りた。すると目の前には分厚く不気味な扉。見張りの下っ端君達(服からして陸曹)はキッチリ気を抜かずに剣の柄を握って立っている。


「しょ、少将!?それに空佐まで―――一体何用でしょうか!?」


 僕等の姿を確認すると、警戒を解いて敬礼してきた。最早反射に近いスピードに内心拍手しつつ口を開いた。僕の見た目で侮らないから、かなりの人物だな。もう片割れはギョッとしたまま活動を停止してしまっているが、正直こんな高官がここに訪れたんだからそれが普通の反応だ。


「少し中に入ってモ?少々確かめたい事がアリマシテ……」


「え、中に、でありますか?それだと佐官以上が同伴なら階級章を確かめさせて頂きますが……」


「構いません。僕のはこれです」


 僕が懐から階級章と呼ばれるカードを取り出して見張りの片割れに渡す。因みにこのカードを偽造とか無理!だって現王(エンス)と自分の魔力が僅かに含まれていて、それを確認するんだから。魔力は指紋と一緒で同じモノとか無いしね。

 そして全員が階級章を渡し、機械に翳してスキャンさせると(そしてコレは最新技術。アリア特製。いやー、世の中便利になったよね)特にアラームが鳴る事もなく無事に許可が下りる。二人の顔が僕の顔を凝視しているのは、まぁご愛嬌だ。


「……確かに、確認しました。リトス少将、リーンフォース三佐、アルト陸曹、許可します」


 ギィ……と重そうな音がして開く金属製の扉。ここは万が一を考えて全く電子ロックも何もかかってないので、凄く古めかしい(電子ロックとかだとハッキングされたら終わりだし。いや、でもアリア辺りがハッカー撃退するか?)。

 いかにも出そうです、という貫禄を残すそれにアルは唾を飲み込んで中を覗き込んでいる。しっかりと聖痕(スティグマ)を発動させて視ているので恐らく圧巻だろう。


「……中、聖痕(スティグマ)は一応使えるんですね。いえそれより、なんですかあの頑丈極まりない独房とか一体どれだけ封印石使われてるんですかあと怖いです犯罪者達の虚ろな目とか壁にこびりついてる100年前の血痕とかあの呪っちゃいます的に佇んでる半透明なナニカとか血の匂いとか」


「ちょ、アル君落ち着いて下サイ!?というか後半何か見ちゃいけないモノまで視てマセンカ!?―――って、エ?血の匂イ……?」


 アルのマシンガントークにギョッとしたリトスが諭そうとした所で僕も気付く。……ここでは拷問とか無いし、血の匂いなんて流れてくる筈も無いんだけど……?


「うそ、ホントに血の匂いだ……え?何?ヤバくない?」


 まさか侵入者か?いや、それとも脱獄者?でも入口は今居るここしかなくて、窓も子供ですら入れない程度の大きさしか―――

 ゾッとするような思考にまで走った所で、僕等は我を取り戻して中へと足を踏み入れた。カツン、とブーツの音が響く。


「二人共、走りますヨ」


 脳内の警鐘がマズイと叫ぶ。言われるまでもなく暗い牢屋を駆け抜ける。場所は匂いである程度分かるだろう。手前側に居る囚人は軽く精神破壊済みの人達ばかりなので虚ろな視線しか向けてこないが、奥に進み、まともな精神をしている人ほどいつもとは違う雰囲気に呑まれて怯えている。

 横目でそれを眺めつつ顔を顰めていると、一際強くなる血の匂い。独房に入ったところで一層濃くなったそれに再び顔を上げた所で、リトスが足を止めた。


「……な、んですか……ッ!?コレ…………」


 アルが口元を押さえて愕然と呟く。リトスも眉を寄せてソレを凝視する。一方の僕は、唇をかみしめてこみ上げる感情を無理矢理抑えた。

 獄中で監視していた筈の兵士が、原型を留めていない。小さな窓から差し込む日の光が(アカ)を照らす。極悪犯用の独房故に犯罪者が()しか居なかったからこそ、ここが防音されているからこそ気づくのが遅れてしまった。


 ポタリ、ポタリと彼だったもの(・・・・・・)から滴り落ちる(アカ)

 ぐちゃぐちゃに掻き回されたような内蔵が腹から溢れ出ている兵士の胴体と、遠くに転がっている恐怖の表情に染まった頭。

 ()を壁に磔にする為の、手足に突き刺さった捻曲がった紫の不気味な槍。

 幼い子供が無邪気に遊んだ人形のように、向いてはいけない方を向いた腕と、ピンクの肉の色が露になった足。腱が斬られて逃げられないようにされている。


 多分、殺された後に遊ばれたのだろう。生きている時は多分首をはねられた程度だった筈。でなければ、兵士の恐怖の顔が苦痛も帯びていた筈だ。ある意味それが唯一の救い。ただ、()はどうも生きたまま磔にされたようだ。


「……やられましたネ……ウェルダーが惨殺されるトハ…ッ!!」


 ギリ、と歯ぎしりの音が響く。目の前に広がる忌まわしい地獄絵図が、あの時代とかぶる。磔にされたウェルダーの下に溜まった紅い粘着液。壁中に飛び散った飛沫。そしてその壁には―――


「古語……ですよね、コレ……なんて書いてあるんですか……?」


「……アル、この古語はちゃんと授業で習った範囲なんだけど……まあ今話す事じゃないね。にしても意味不明な文だな……」


 血で描かれた古語が狂気を物語る。殴り書きのようなそれが意味している言葉は、文法こそ合っているものの何を指しているかが分からない。


「ミツケタ、ミツケタ、オヒメサマミッケ。アリガトウェルダー、サガシビトイタヨ。コレデムカシミタイニマタアソベルネ……か。しかも態々子供が書くみたいな文にされてるし……一体どうやって侵入したのか」




 『見つけた、見つけた、お姫様見っけ。ありがとウェルダー、探し人居たよ。これで昔みたいにまた遊べるね』全くもって何を言いたいんだか……




「……お姫様、見っけ……デスカ。この国に今現在姫はイナイ。となるト……」


 リトスが苦渋の顔でこちらを見てくる。アルも厳しい顔でリトスを一瞥し、何かを考えている素振りだ。


「……兎に角、まずはエンスに報告だ。アル、ここに結界張って。絶対にここのモノには触れないでね」


「……はい」


 宙に映るホログラムを操作して映像通信を選択する。するとすぐに画面がエンスの姿を映す。


『なんだ?書類に不備でもあったか?……って、おい!?その映像……!?』


 驚愕をあらわにしたエンスに僕は一つ息を吸って、噛み締めていた唇から歯を離した。


「エンス。緊急事態だ。実は―――」

このあと暫くはまたグロはなくなります。

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