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Silver Breaker  作者: イリアス
第三章 夢が叶う瞬間
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第39話 唯一の王子

思った以上にペンならぬキーボードが進まない……

早く夏休みネタバレ編書きたいです。

 何故、彼は運命を変えられないのだろう。


「なぁ、おまえはこのへんくわしいのか?」


 あれは父さんに連れられてゼラフィードを訪れた時。広い庭を興味半分で覗いていた時に見つけた同い年位の銀髪の子。まだ5歳にもなって無かったオレは、銀が何を指すのかなんて知りもしなかった。


「ふぇ?おまえ……って、ボク?」


 キョトンと青い目で見つめてきたそいつに、オレは少し興味を持った。今まで一度も見た事の無い髪の色。庭の池を眺めて笑っていたそいつの見た目に惹かれて声をかけると、何故か驚いた顔をされた。しかも、声をかけられた事ではなく、お前と呼ばれた事に。


「おまえいがいこのへんにひといないだろ。へんなこときくヤツだな?」


 何度も言うが、当時のオレはそいつがオレよりずっと偉い事なんて全く知らなかった。これは自身の保身の為だ。何度でも言い訳として言ってやる。じゃないと下手をすれば首が飛んでもおかしく無い。


「え、ああうん。そうだね。ボクおまえっていわれるの、はじめてだからおどろいたよ」


 確かに貴族なら―――いや、アイツを貴族と括っていいのかは分からんが、まぁ偉い身分である以上そんな呼称は受けたこと無かったんだろう。あると言った方がビックリだ。


「で、このへんにくわしいのか?」


「あ、うん。だってここがボクのいえだもん」


 フォロートも広い家だが、ゼラフィードはもっと広い。それを家だというソイツにオレは少し―――いや、更に興味を増して、近付いていった。


「じゃあさ、すこしあんないしてくれないか?オレ、メイ!メイドリヒっていうんだ」


「メイドリヒ―――?あ、フォロートの。ボクは―――そうだな、ほんみょうはだれにもおしえちゃダメっていわれてるから、リィって呼んで?」


 承諾の返事はなかったが、偽名を教えた事がその意味も込められてたのだろう。オレは立ち上がったソイツに、喜んでついて行った。


 ―――それは、今ではお目にかかる事すら出来ない、ゼラフィードで幽閉状態の第一王子と知り合った話。そして、オレが軍に入りたいと言い出した切っ掛け―――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「さて、と。取り敢えずここまでが急遽伝えなきゃいけなくなった‘ユグドラシル’についての説明で」


 段々と師匠の恐怖話に進みそうになった話題を、手を叩いて軌道修正する。嬉々として語るエンスと現実を思い知る子供二人に区切りをつけさせてそろそろ本題にはいろうと思う。


「ああ、そういえば本題そっちじゃ無かったっけ?」


「本人が忘れるなよ……で、メイは何が知りたい?」


 ポンっと手を打ったメイにリトスすらも脱力して崩れた。ホント困った頭だと最早癖になった溜息を吐き出す。


「あー……全部?」


「ざっくばらん過ぎますよ」


 思わずといった具合に脳天にハリセンを叩き込んだアルにちょっとビクッと身体をすくませる。

 え?アル、どっからハリセンなんて取り出した?


「ハリセンなら椅子の下に括りつけてありましたよ?」


 お前はエスパーか。そう思ったけど言うまでもなくある意味エスパーだった。そういやアルは心も読めるもんなぁ……って読まれたのか!?


「ハリセンこんな所に仕込むとなると、十中八九ソフィアさんだろうな……」


「ああ……デショウネ。あの無敵ご老人、彼此150年成長してないみたいですけど本当に人類デスヨネ?」


「150!?」


 素っ頓狂な声を上げるメイとは裏腹に、何度か城内で彼女を見たことがあるのだろう。アルは口元を引き攣らせるだけの反応だった。


「流石に150年は普通じゃないからねぇ……リトスもまさかそうならないよね?」


 万が一魔力の関係で成長していないのなら、ソフィアさんより多いリトスや僕がそうなる確率が凄く高い。本気で150年は止めて欲しい。せめて身長170は欲しいんだ。欲を言えば180以上だけど。


「あー……保証は出来ませんネェ……そもそも何故成長が止まるのかが先ず研究途中デスシ」


 嫌な事を呟いてくれたリトスに一瞬冷や汗が流れる。マジで成長止まらないで。もうこの際緩やかでいいからちゃんと成長はしたい。


「……えーと、取り敢えず説明だったよね?うん、ちゃっちゃか終わらせよう」


 人はコレを現実逃避と呼ぶが、僕は敢えてコレをストレス防止と呼ぼう。嫌な事は考えるな。どうせ忘れたくても忘れられないんだから。


「逃げましたね」


「うっさいアル。で、全部って言うとまずは僕等の階級から?」


「後は今後のリーン君の立場とか」


 ああ、確かに後々騒ぎ出すよりは先に言っておいた方が楽か。一一メイに問い詰められるのも面倒だ。

 斯く言うメイは微妙に緊張感を漂わせている。これから何を言われるか、というよりはエンスが隣に居る事に関してだな、これは。昔のアルと同じ反応で懐かしい。残念ながら順応の早いアルはエンスを王扱いしない事にあっという間に慣れたのであまり長くは見れなかったけれど(他国でコレをやってはいけません)、中々に面白い反応だった。


「ああ、テキトーにその辺頼む」


「適当にって、キミねぇ……まぁいいや。じゃあ改めて」


 そこで顔を少し上げると、エンスがニヤリと笑った。それに気付いた僕とアルは揃ってその意図を理解し、機敏な動きで椅子から立つ。


「うおっ?なんだ?」


 それを理解していないメイに内心ニヤニヤしつつ、僕等は踵を踵で叩いて敬礼する。


「自分はヴィレット帝国軍特別特殊部隊所属、リーンフォース・Y・X・ローゼンフォール三等空佐であります!」


「同じく、アルト・ルーラ陸曹であります!」


 他人行儀に所属をバラせば、案の定アホヅラで呆けるメイ。エンスもリトスも肩を震わせてそれを眺めている。ついでに悪乗りしだした僕等は、そのノリで自己紹介を続けていく。


「魔力値SSS、技術は特殊総合AAA、主に補助・砲撃に優れ、部隊内では事務仕事も請け負っています」


「魔力値BB、技術は特殊総合AA、主に解析に優れている為部隊内では探索を請け負っています」


 ポカーンという表情のまま固まってしまったメイに、同じく敬礼したままの体勢で動かない僕等。異質な空間にリトスが呼吸できなくなった頃、漸くメイが動き出した。


「……特別、特殊部隊?」


「ハッ、その通りであります!」


 あからさまな態度にエンスの腹筋も崩壊を始めた。机をバシバシ叩いて蹲る国王というのも中々にレアな図だと思う。という訳で、もう少しイタズラをしてみよう。と思えば先にアルが行動した。


「何だそのキモチ悪い対応。ってかそれ以前にソコオレが入りたい部隊じゃん!」


「現在とりつぶし間近な協調性皆無オンボロ部隊でもあります」


「ぶはっ!!」


 言っちゃた、と言わんばかりに打ちひしがれるメイを見てついにリトスが笑い声を抑えきれなくなった。ヒィヒィいって笑い転げる少将、机をぶっ叩き続ける国王、自分の所属をオンボロと言い放った陸曹に囲まれ正常な判断が出来無くなった貴族嫡子は、SSSという数字に突っ込む事もせず目を回している。まぁ、昨日の時点で知ってた事実だから反応しないんだろうけど。


「…………エ?ちょっと待て?リーンとアルがオレの夢の部隊所属だけどそこはオンボロで取り潰されそう?てかリーンが三等空佐?え?あれ?オレなんかまだ寝てる?」


「残念ながら起きているかと思われますが……」


 あ、素に戻―――ってないか。アルの場合は言葉じゃわかりにくい。敬礼崩れてないから多分まだ悪乗り中だな。


「って事は、その話マジ?」


「厳密に言えば取り潰し後、来月には超精鋭部隊として再結成される予定ではあります。しかし現状、上司がサボり国王が書類に忙殺されているため本当に来月結成出来る可能性は5割を切っています」


「ちょ、リーン君!?そこは黙ってて下さいヨ!」


 お前の責任なのに何故黙っていなければいけないんだ。別にメイに知られてはいけない事は言っていない筈だ。

 そう思ったのは僕だけじゃないらしい。アルもそれに加勢してきた。


「リトス少将、もう少し先を見て行動されてはいかがだったのでしょうか?」


「冗談のような事態に陥らせた責任は誰が取るのか教えて頂けますか?」


「お前等リトス相手だと容赦無いよなぁ……」


 そう言うエンスはリトスに甘い。というか、僕含め身内に甘い。特に古参の知り合いであるリトスとコウに対しては一味違った甘さを持つけれど、その所為で今苦しめられている事にコイツは気づいていないのだろうか?てかもしも彼らが罪を犯した場合、ちゃんと処罰を下せるのかが不安だ。


「必要性を考えているだけです。陛下」


「おまっ……まだその茶番続けてんのか?」


「言いだしたのはアンタでしょーが」


 流石に腕が疲れてきたので敬礼を解けば、メイがホッと息をつく。なんだ?もう少し敬礼してた方が良かったかな?


「……で、結局アレは部隊は解散して更に強化するって事か?」


「ええ。一応聖痕(スティグマ)持ちという事で僕と、隊長補佐としてSSSのリーン君もそこに所属する事が内定されてます。隊長格は全員オーバーS、副隊長格もオーバーAの規格外部隊ですね。一部隊50人全7部隊予定です」


 但し未だ副隊長は全員は決まらず、といういらないオプション付きだけど。どこまでも不安要素が残る部隊だ。おっかしいなぁ……部隊結成の案は革命直後に出てた筈なんだけど。


「って事は、更に入るの難しいんじゃね?ソレ。人数制限はマジキツいって」


「―――なら、君をそこに推薦しようか?メイドリヒ君?」


『へ?』


 背もたれに寄りかかって呻いたメイへ、唐突なエンスはの言葉。それに全員が目を剥いてエンスを凝視すれば、いい事を思いついたと言わんばかりの表情でメイを見ていた。


「元々君は素質的にアル君と同等。家柄も申し分なく、万が一いちゃもんを付けらる可能性も無し。軍入りする気もあるし、発展途上の身とはいえ実力は下手な下士官を遥かに凌駕する。青田買いには問題無いだろう?」


「……確かに、言われてみれば問題点は成績以外にありませんネェ」


「成程。貴族の護衛とかも、身分に煩い輩に付けても問題無い家柄だし苦労が減るかな?」


 今は戦争なんかもやってないから、前線に出る危険性も少ない。アルのようにレアスキルがある訳でもないし書類を任せられる程頭も良くないから(酷い)学業に支障をきたす事も無い。うん、良く考えれば結構な優良物件じゃないか。


「って、え?ええ?」


「……軍入りする気ある?正規じゃないから訓練は少し厳し目になるけど」


 最後のダメ出しに本人を見上げれば、凄く輝いた目で頷き返した。


「勿論!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 それからは兎に角忙しくなった。メイの入軍に関しては反対意見ゼロで楽だったのだが、問題は僕の封印具(リミッター)だ。無駄に多くなった魔力の影響で全部作り直し。僕には痛くは無いが、国庫の中から百万単位で金がなくなっていくのは正直微妙な心境だ。


「で、リーン。今度は何にするの?前と同じネックレス、リング、ブレスレットでいくの?」


「あー……リングをイヤリングにでも変えようかなぁ……ピアス穴って痛そうだし開けたくは無いから」


 画面と睨めっこするアリアの横で書類を捌きながら今までの支障を考える。指輪って偶に邪魔になるんだよね。


「イヤリング?まぁ出来ない事はないけれど、珍しい物選ぶわね」


「んー……理由の一つに最近貴族で付けてる人が多いってのもあるんだけどね」


「ああ、目立たないって事ね」


 既婚者でもないのにリングを付けてる貴族は実はあまりいない。いや、いるにはいるんだけど成金趣味の無駄にデカイ宝石ついた指輪とかばっかなので、僕の小さな封印石が付いているだけのリングは異質なのだ。

 一方最近流行りのイヤリングなら、種類も豊富だから多少小さな石でもある意味目立たないだろう。


「そう。これから嫌という程目立つのは目に見えてるからね。どうせならどうでもいい所で少しは反抗したいじゃん?」


「訳分かんないわよ」


 そうかな?僕としては割と幼稚な理由だと思うんだけど。


「ま、いいわ。明日には作り終えるから取りに来なさい。それまではその馬鹿魔力であんまりフラフラしない事。学校も試験休みで丁度良い時なんだし、帰っちゃだめよ」


「んな事出来ないから安心して。場外に出ること禁止されてるよ」


 しかも城の隣の寄宿舎にまで行くのを禁止された。向こうにも自室があるのにも関わらず。身体は楽なのに行動が不便過ぎて泣けてくる。


「その活動範囲だと、場内の女中(メイド)とか執事(バトラー)とかが倒れないといいわね」


「ほっとけ。まぁ、アルは仕事中だしメイもエンスと話し込んでるから仲間内には被害出さないと思うけど……」


 そう、何故かメイはエンスに連れさらわれてしまった。一体エンスは何を企んでいるのやら……

小ネタ




メイ「そういえばさ、何でこの城女中は多いのに執事が少ないんだ?」


アル「確かに、すれ違う使用人に男の人ってあんまり居ませんよね」


リーン「ああ、だって下士官を使用人代わりに使ってるもん」


メ・ア「……え?」


リーン「君たちは此処にいる時間短いだろうからそんな事させられないとは思うけど、ぶっちゃけ士官レベルはパシリ扱いだしねー」


メイ「良かった……マジで良かった」


リーン「あ、でも代わりにここのメイドさんたち、料理出来ないから厨房は気をつけてね?たまに途轍もないのが来るから」


アル「……例えば?」


リーン「牛肉のコーヒー煮とか、納豆ケーキとか」


メ・ア「………………………は?」




ヴィレット城内はカオスです。

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