第2話 迂遠の真実
まさかこんなに早く投稿できるとは自分でも思ってませんでした。自分にビックリ。
2012/03/24改訂
「あのセンセ、絶対オレの事目の敵にしてるよな……」
「当たり前だろ。寝るお前が悪い」
昼休み、突っ伏して唸るメイの横ではソルトが尤もな突っ込みを入れていた。ソルトは中等部からの新入生だから、頭は並以上にいいのだ。
この学園、文武共にそれなりの成績が無いと入れないから。まあ、本性はイジラレヤラレキャラなのも追記しておこう。
ああ、あと特徴を上げるなら、顔はそこそこいい。女の子がきゃいきゃい騒ぐ位には。……ただ、流石貴族というか、メイの方が整ってる事は否めないので、そんなに目立たないという残酷な事実もあったりするが……
「あ、そういえば次の授業って、『形状記憶武器』の解禁でしたよね?」
ポンと手を叩いたアルに、バッと顔を上げるメイ。すっかり目には生気が戻っている。
「え、今日だっけ!?よっしゃあ!!」
先ほどまでのイジイジした空気は何処へやら。打って変わって随分と興奮してガッツポーズをしていた。
さて、この辺りで『形状記憶武器』についての解説を。名前の通り、魔力を通すと武器に変わる十センチ程の棒の事だ。―――というか、特殊な金属の棒に武器の形をインストールさせたって方が正しいのか?
持ち運びを楽にする為に三十年程前に造られたんだけど……あー、軍事目的で。戦争用とも言う。まぁ今は普通に普及してるけどさ。
因みにやろうと思えば数種類の武器を記憶させることも可能。
数種類使いこなせる人はそうしてる人もいるし。だけどそれは一部の例外。使用するには予め設定された起動ワードを言った上で魔力を注ぎ込めばいいんだけど……武器が多ければ多い程、細かい魔力調節か、それが出来ない人は莫大な魔力量が必要になるし、調節に失敗すれば、剣を出す筈が矢が出てきたとかあるし……ね、面倒でしょ?
「にしても作んの大変だったなぁ、アレ」
「ああ、そうですね……」
三人揃って目が遠い所を見ている。まぁ判らなくもないけど。
「やっぱ何処で作っても大変なのは一緒なんだ」
「ああ……ってそーか。お前元々持ってたんだったな。羨ましーぞ、お貴族サマ」
「貴族つっても元平民だって何度言えば分かるかな」
メイ、アル、ソルトは形状記憶武器を学校に作って貰っている。学校でではないのがミソだ。つまり、タダで、オーダーメイドのを作って貰っている。僕からすればそっちの方が羨ましいぞ。一個五万位すんのに。
で、僕はというとちょっとした事情と知り合いにより、数年前に作っていたのだ。というか学校で作ったのなんて使ったら……多分、いや絶対昔みたいな事が起こるんだろうなぁ……
「はぁ……何の武器がいいですか、は予想してましたけど、硬度と魔力どっちをとりますかとか、あんな質問が来るとは……」
疲れた溜息に、二人はうんうんと同意するように首を縦に振り続けた。僕もアレを作った時は大変だった。……皆とは少々違う意味でだけど。
「計217項目の質問だっけ?作るのに一年かかったし」
「俺なんて入学決まってから作ったんだから、もっと大変だったんだぞ」
僕はあはは……と、乾いた笑みを浮かべることしか出来なかった。入学決まってからっつーことは、実質二月で作ったのかー……ご愁傷様でした。
で、体操着に着替え(初等部じゃないから長ズボンなんだよね。冬場はえらい寒かったから助かった……)訓練室(体育館並の広さがある)に移動してからも話題はそのままで。
「そういえばリーン君の武器ってなんなんですか?」
クラスで今現在僕だけが手にしている武器(もっとも棒のままだけど)を指してアルが訊いてくる。それに首を傾げつつ持ち上げて、じっと観察する三人が見やすいようにする。結構年季が入ってる物なんだけど、そこそこ良い素材を使ったから見た目は悪くない―――棒状のままでも、多少は滑り止めとかの関係で彫られた装飾があるから。
「コレ?一応は剣だよ」
「フツーだな」
メイが詰まらなさそうにポツリと呟くが、それには僕だって反論したい。
「そーいう君だって剣でしょ?」
「まあな」
メイの専攻武器は剣。才能ならヴィレット軍一の天才と名高いリトス=コーラル少将にも劣らないだろう。けど前になんでそんなに上手なの?という質問に対して「勘?」と答えてたよな……僕と違って純血の貴族―――しかも侯爵家の次期当主なのに。
「じゃあ、似た文字同士のアルトとソルトは?」
「偶々だろ!」
「そーですよ!苗字違いますからね!」
ソルトのフルネームはソルト=レーニング。勿論アルと血が繋がってるなんてこともない。そもそも目も髪も紫なアルと違って、ソルトは黒髪に茶色の目。見た目からして全然違う。
「ど……はいはい、で、何にしたの?」
そう言って二人を宥め透かし落ち着かせると、不請不請といった具合に二人は答えた。―――一瞬、どうどうって言いかけたのは見なかった方向で。
「僕も剣です」
「俺は槍」
うーん、四人中三人が剣か……そう思い、自らの右目に手を添える。尤も、そこにあるのは黒い眼帯だが。あ、ちゃんと目はあるよ?抉られて~とかいうグロい理由では無いから。
「やっぱ、一番多いのは剣なんだな。貴族は大抵そうだって聞くし」
「あー、そうかもな。オレの父さんも剣だし」
メイのお父さん―――というか、メイの家はフォロート家。代々王の盾として仕えてきた家で、王が乱れた政治をしていた間もまともな政治をとり続けた数少ない家でもある。
一方のアルとソルトは一般市民。ま、差別的に言ってしまえば平民になるんだけど。
この学園、それなりの能力があれば平民だろーが貴族だろーが外国人だろーが反逆者の子供だろーが(刃向かわなければ)元犯罪者だろーが(過去数人いる)関係無しに入れるのである。
あ、ついでに僕も貴族。といっても殺されかけて死にかけてたときに、父さんに(文字通り)拾われた後、養子入りした元平民だけどさ。
ただ、産まれつき顔はどうも貴族っぽかったらしい。元近所のおばちゃん曰く。お陰であんまりその事は気付かれないって所は、運が良かったかなって自分では思ってる。何せ、僕が平民だってバレると父さんに迷惑が行くしね。全く、世知辛い世の中だよ。
キーンコーンカーンコーン……
なんて事を話している間にチャイムが鳴ってしまう。あ〜あ、この時間結構楽しいんだけどなぁ。