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Silver Breaker  作者: イリアス
第三章 夢が叶う瞬間
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第36話 異質な人々

無駄に主人公最強モノフラグが立っている……

まぁ、この後は最強とは言えなくなっていきますけど……

 カタリ。

 部屋の扉が閉まる音が響く。ありふれた家具以外に何も目立つ物が無い広めの部屋には、部屋の主と来客者が訪れていた。主人は灰色の髪をした中肉中背の男、来客は紫の髪と瞳を持つ少年、即ちリトスとアルトだ。

 椅子に座ることもなく向かい合った二人は、お互いに居心地の悪い空間にひたすら佇む。


「……リトスさん……いえ、この場合は土の第5階級と呼んだ方が良いでしょうか」


「そう、デスネ。今は‘リトス’というよりも、土の第5階級―――もしくは、土の第17位というのが正しいデショウ」


 日が落ちた為に薄暗い部屋に明かりの魔法を展開させつつもリトスは苦笑した。それを見たアルトは頷いて、改めて本題に入る。


「では17位。何故リーン君の成長が緩やかになっていた事を言わなかったんですか?」


「……まぁ、正直言おうかなーと考えはしたんですがネ。そこまで重要な事でも無いデスシ、何より本人すら未だ知らされていなかったんデス。先に18階級―――土の4位に伝えるのは躊躇われたノデ、せめて本人が気付くまでは、ト」


 珍しく開かれた紫の瞳が酷く冷たい色を写す。それに僅かな恐怖を感じつつも弁明をすれば、溜息混じりに睨まれた。


「……確かに、一理はありますね。僕等がそれを知ったからといって彼女が目覚める訳でも鍵が覚醒する訳でもないですから、強くは責められませんけど……」


 でも納得いかない、とジト目で見つめられリトスは動けなくなる。そう、‘リトス’なら‘アルト’よりも立場が上だが、‘土の第17位’なら‘土の第4位’には遠く及ばないのだ。文字通りの順位を写すそれに思わず世知辛さを感じる。


「す、スミマセン……以後気を付けマス……」


正に蛇に睨まれた蛙を実感して首を竦めていると、再び大きな溜息が一つ降ってくる。それに少し頭を下げると(普通に考えてリトスの方が背が高い)仕方無いなぁ、というように笑うアルトがそこにいた。


「全く……これは、鍵の覚醒には影響しないんですね?エンスさんの近しい人が変化を遂げた事で、彼も引きづられる、などという都合の良いことは起こらないんですね?」


「エエ……残念ながら、エンスの覚醒の兆しは皆無です。ま、それは彼女(・・)の意思も目覚めない状況で起きても意味は無いデスシ」


 後半は酷く落ち込んだように呟けば、アルトも同意するように笑う。寂しそうなその笑顔に、リトスは何も言えなくなった。迷子の子供が、それも感情を表に出さないようなタイプの子供が端のベンチで座り込んでいるような表情だと、やけに具体的な印象を抱く。


「早く、目覚めてほしいのにもう少しだけ今の彼等(・・・・)を見ていたいと思うのは、矛盾ですよね」


 5万年の奇跡を待って、そう彼女は言って深い眠りに落ちた。あれから5万年。ずっと長い間眠っていた聖痕持ち(同胞)達が目覚めつつある。

 それなのに、未だ目覚めない聖痕持ち(リーンフォース)や、他の国の聖痕(スティグマ)持ちに、不安を覚える。本当は未だ5万年も経っていないのでは、自分たちだけ早く目覚めてしまったのではと。

 何回も何回も繰り返した筈の人生は覚えていないが、毎回こんな不安に苛まれていたのだろうかと思うと、酷くここが冷たい場所のように覚えた。


「……アル君、気をしっかり持って下サイ。貴方は今、‘第4位’である以前に‘アルト・ルーラ’なんですヨ」


 突然弱気になったアルトに居た堪れなくなりリトスは声をかけた。

 どの道、暫くはこの生活のままなら少しくらい考えなくても良いというアドバイスを込めて送ったその言葉に、今度は一瞬呆けたようにぽかんとした後、クスリと楽しげな様子を乗せて笑った。


「ええ、そうでしたね、リトス隊長?」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ゆらゆら、ゆらゆら。

 暖かくて柔らかいそこで、随分と長い間微睡んでいたような気がする。居心地が良くていつまでもこうしていたい、と思い丸まったまま動かずに居ると遠く、靄がかかった意識の外から声が聞こえる。


「こうして大人しくしていれば可愛いんだがなぁ……」


「本人に聞かれたら怒られますよ?先程の怒りの矛先を自分にしたいんですか?」


「おおう、それはマジ勘弁。アレは怖すぎだろ」


 ああ、アルとメイか。何やら不快な事を宣ってるらしいと頭のどこかで処理し、唸り声を上げる。人がせっかく気持ちよく寝てたのに、無粋な会話を挟むな。


「ん?起きそうか?」


「……さあ……ぶっちゃけ僕、リーン君が寝てるのって殆ど倒れたか魘されてるかの二択しか見た事無いんで、現状がどの位なのか分かりませんし」


 意識が少しづつはっきりしてくる感覚。ぼやけた音が段々と声に聞こえるようになり、会話を聞き取れるまでに覚醒すると仕方なしに瞼を上げなければいけない気分になるから損した生活してると思う。でもやっぱりもう少し寝ていたい。


「なんだそりゃ。コイツに安眠の二文字はねぇのか?」


「さあ?基本書類に埋まったまま寝てますし、魘されるのも仕方は無いと思いますけどね。最近の僕の朝は書類を枕にして床で寝てるリーン君起こしに行く事から始まってますし」


「……逆に言えば、わざわざ寝るために書類退かして横になれるスペース作ってんだな?」


 ベッドの上は壊れやすい端末置き場になってるから寝れないだけなんだけどなぁ……と何気メイに突っ込んでいた自分に気付く。どうやら頭は完全に起きているらしい。


「ああ……そういえば。まぁ、布団も掛けずに寝てる御陰で起こす度に体調悪そうにしてますけどね。自業自得ではあるんですけど、少しばかり自分の身体を考えて生活して欲しい所です」


「善処はするよ……ふぁ……」


 カタリと二人の椅子が揺れる。大欠伸をしながら上半身を起こすと、案の定目を丸くした二人が椅子に座っていた。外はすっかり暗くなっていて部屋には暗めの明かりが点いている。時計を見れば8時過ぎ。


「起きてたのかよ」


「起きてたんじゃなくて今起きたの。……で、さっきの聞き捨てならない情報漏らしてた馬鹿共は今何処にいる?具体的に言うなら自意識過剰で自由奔放かつ傍若無人で独断専行無理往生で無理難題ふっかけてくる国王と、意味不明な思考回路をもつ奇天烈で脱俗超凡な変人語尾限定外人のサボリ魔と、螺子の外れた実験大好き自分本位奇異荒唐マッドサイエンティストな女研究者と、苦労性で馬鹿な兄をもつ軍医長サマの四人なんだけど」


 別に僕が今まで触れなかったからって忘れていた訳では無い。ただ眠気に負けてただけで。

 逆に、眠気から解放された今となっては一番それが重要事項になったけど。


「国王と上司をよくそんなボロクソに言えますね……」


「僕からしたら国王=近所のおにーちゃん的な立場で生活してた御陰で敬う精神が無いだけなんだけどね」


 なにせ僕が小さい時、人間不信だった頃なんてやけに近寄ってくるウザったい存在ってのがエンスの立ち位置だったのだ。ついでにリトスはそのお付き、アリアは恐いおねーさん。


「……なんつーか、今日一日で聞いちゃいけない事知りすぎたな……いや、正直お前等が何か隠してんなーってのには薄々気付いてたんだけどさ」


「え?そうだったんですか?」


 本気で驚いている様子のアルにはなんだが、ぶっちゃけ一部の実力者には勘ぐられてると思う。だって最近アルの実力がやけに上がってきたし、学校に来ても微妙に疲れた顔してる時あったし、僕とアルが揃って消える事(城に報告書出しに行ったりとか)多かったし。


「だってお前、リーンの仕事知ってるみたいな素振りちょくちょくあったじゃねぇか。ならお前も何かやってんのかな?って思うだろ?」


「……成程。って事は他の皆にもバレてます?」


 さあっと顔色が悪くなるアルに僕は苦笑いで応えた。僕は今更だけど、アルは隠す気で生活してたからねぇ。


「多分、何かやってるって事はな。……そろそろネタバレしないとスゥ辺りがキレるんじゃね?」


 ……確かに。実はこういう事に関して一番沸点が低いのはスゥさんだ。プッツリいった彼女は間違いなく陽炎纏って炎の拳(語弊はあらず)を振り回す。実際彼女に告った無駄にプライドの高い男子共は、あまりの傲慢さにキレたスゥさんの手によってステーキにされかけた。

 その御陰で実はスゥさんは学校から危険指定されてるという事実もあるけど……まあ、基本は水属性のネリアさんがストッパー努めてくれてるから問題無いだろう。


「…………ソウダ、リーン君確か皆さんを呼んでくるよう言ってましたよね。ちょっと行ってきます」


 その光景を思い出したのかすっかり冷や汗ダラダラになったアルはガタンっと大きな音を立てて立ち上がる。片手を上げて外出を示すや否や、素晴らしい速度で医務室を逃げ出した彼に、僕等は嘆息した。


「逃げたな」


「しかも現実からね。あーあ、僕だけじゃなくてアルも巻き込んじゃったかー。契約違反で訴えたりしないでくれると助かるんだけど」


「いや、気にするとこそこじゃねぇだろ……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 アルが招集した役者が全員揃う。フォロート侯やコウ、ソラなど呼んでない人物も来ているのは放置してぐるっと見回す。前者四人は揃って嫌そうな顔をしているが、半年間も隠していた時点で自業自得だ。


「……ええと、取り敢えず魔力が完全回復したら測定するけど、どうだい?先に身長とか測っておくものも色々あるんだけど」


 カルテを片手に問いかけてくるアズルの言葉に、一つ唸って目を閉じる。今は封印加工してないから魔力量はかなりの量放出され続けてる筈なんだけど……


「魔力は既に回復済み、だと思う。ただ今までのツケで体調自体は本調子じゃないから、体力に響くのは止めてほしい」


 全く体内で違和感が無い事に寧ろ落胆する。4ランクをたったの三刻足らずで回復って、我ながらどういう体してるんだろう。

 今日一日ですっかり異常に慣れた筈のメイですら宇宙人でも見るような目で僕を凝視してると言えば異常性は分かって貰えるだろうか。逆にアルは何度か体験してる事もありそれが普通、といった雰囲気だ。……ヤバイ、僕が言えた義理じゃ無いけどアルの常識も崩れてきたかもしんない。


「……ったく、何でそこまで魔力回復早いんだか。羨ましいよ。なら取り敢えず、それから量るか」


 イラついた口調で一旦席をたったアズルにコウが苦い顔をする。コウは回復が早いけど細かい事が苦手で、アズルが回復速度は絶望的だけど細かい作業が大得意。正に真逆の兄弟だしなぁ。色々思う所があるのだろう。

 そしてアズルがガラガラと引きずってきた機材が視界に映る。その巨大さに初めて見るであろう子供二人組はギョッと目を剥いた。


「ええ!?何ですかアレ!?」


「普通測定器ってパソコン位だろ!?」


 メイ、パソコンは既に死語だと思う。あんな機械、とっくのとうに絶滅してる。

 と内心呆れながらも目をやった先にあるソレは、パソコンなんて目じゃないサイズ、大型テレビ位(因みにこれは死語じゃない)の大きさをしている。Sランクオーバーを測定する気なら、このくらいの大きさがなきゃキャパオーバーしてしまうのだ。うん、つくづく思う。僕等異常過ぎ。


「ほら、リーン。既に起動してあるから手翳せ」


 恐らく準備を手伝ったのだろう。ソラが顎をしゃくって勧めるので、僕は緊張しつつも中央の石へと手を伸ばした。淡い白の丸いソレは、僕が触れると蒼い波紋を写して反応する。久しぶりの計測に、思わず肩が震えた。


「大丈夫デス。この機材が壊れる事なんて早々無いデスカラ、思いっきりやっちゃって下サイ」


「ほら、この機材起動するだけで馬鹿にならないエネルギー食ってるんだから早く」


 ヒヤリと冷たい石に触れながら、いいかという意味を込めてエンスを見上げれば、同じく緊張した面持ちでコクリと頷き返した。それに頷き返して、僕は一気に魔力を機材に流し込む。


 ブワリ!


 広がる波紋。放出してる全ての魔力も注ぎ込むために空気中の魔力も少し薄くなる。逆に熱を帯びていく計測器と、レベルを示すモニターがそのエネルギーがどれほど大きいのかを見せつけているようだ。


「な、んだコレ……!?」


「嘘でしょ……!?」


 驚愕なんて言葉じゃ済まされない。万単位で跳ね上がる数値に各々が戦慄し、息を呑んだ。斯く言う僕も呼吸を忘れて呆然とモニターに見入る。知らない。僕はこんなにも理不尽な数値を見たことなんて無い。

 最初に動いたのは誰だったろうか。恐らくは最も頭の切り替えが早いリトスが最初。次はなんだかんだで僕を見続けているエンス。固まったその空間で、震える唇を抑えようともせずに呟いた。


「……9万、1200……!?」


「嘘、だろ。それってまさか……」


 ―――世界で換算しても、歴代5位の魔力量。つまりは千年に一人現れるかどうかも怪しいという、SSSの数値だった。

短編「しるばー ぶれいかー」のネタを集めています。

ぜひリクエスト下さい。

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