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Silver Breaker  作者: イリアス
第三章 夢が叶う瞬間
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第35話 苦渋の転移

夏休み入ったーーー!

来週は補講とピアノの発表会……


作品もそろそろ伏線回収入りそうです。

 ああ、今日もまた来た。

 憂鬱な心境を抱えながら窓の外を眺めれば、そこに立っているのは有名になる程の腕を誇る貴族上がりの軍人、ディグリス・ウェルダー。野心の塊のような性格のアイツを、オレは好きにはなれない。


「リーン?一体何を見て―――ああ、アイツまた来たの。懲りないわねぇ」


「身内内でドロドロの争いさせて爵位を継いだ挙句、次は父上だからな……上に上がって何が楽しいのかが私には解らないな」


 アリアも心底嫌そうな表情で外の無駄に高そうな車を一瞥し、エンスも辟易したような表情で目で車を追う。

 最近のウェルダーは王に取り入って貰う事に必死だ。まぁ、その分収める税金上がったから国民に還元できるかな、とも思うけれどその税はやっぱり国民から搾り取ったモノで―――


「オレ、アイツキライ。この間フィリアいじめてたんだもん」


「ああ、だから今日は連れてきてないの、フィリアちゃん」


 平民上がりと彼女を馬鹿にした挙句、自分が持ってきた物の荷物運び―――しかも少女じゃ運べないような大きな物だった―――をさせてたので流石にオレも口出しした。ウチの使用人を勝手に使うな、と。


「全く、これで横領でもしてれば告発して牢に閉じ込められるんだがな」


「王子が犯罪を望むってアウトでしょーが。……第一に、私たちが起こそうとしてるものも一応は犯罪じゃないの?」


 革命は、成功したら正義になるけど失敗したら悪以外の何者でもない。チャンスは一回、ギリギリまでバレてはいけないリスキーな綱渡りみたいな物だ。だからある意味アリアの言う事も間違ってはいないけれど……


「何、犯罪にしなければ問題はないんだろう?頑張ってくれよ、‘橙の研究者’サン?」


 橙の研究者というのは、国王がアリアに送った賛辞の称号だ。研究所でオレンジの髪を翻しながら次々と敵情報を解析していく様から作られたらしいが、称を送られた側からすればいい迷惑だ。


「そう呼ぶなっての。私なんかよりこの子の方が凄い称号じゃない」


「全然すごくない。何だよこのちゅうに(厨二)ってるしょうごう(称号)


 ふいとそっぽを向いて頬を膨らませれば、二人から苦笑が漏れる。オレが思わずキレそうになったアレは、思わず国王をメイドに―――じゃなく、冥土に送ろうかと考えた程だ。……あ、でもどっちに送っても地獄だよな。なら前者でもいーや。


「‘蒼杖の戦乙女(ヴァルキューレ)’だったか?よくもまぁそんな称号を思いついたよな」


「だれが乙女だ、だれが。それにヴァルキューレって勇者のせんてい(選定)用のでんせつでしょ?」


「そうだな。ま、その名に見合う位活躍して貰うからな?リーン」


 ニヤリと不敵に笑ったエンスにフンっと顔を逸らしてオレは拒絶を表した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 さて、当たり前だが王城は広い。そりゃもう、敵撃退用に入り組んでるし庭園やら後宮やら軍の施設やら宿舎やら城本体やらと建物が多いから面積はマジで広い。明らかに一つ建物じゃ無いものあるじゃん、というツッコミは残念だけど受け付けない事にする。

 そして僕はそのひたすら広い城内の、奥の奥にある超高位結界の編み込まれた部屋で、崩れ落ちていた。


「うぅ……キモチ、悪い……」


「ちょ、吐かないで下さいよッ!?」


 ズルズルと壁に身体を預けもたれ掛かり、重たい息を吐き出してどうにか現状を止めようと模索する。過去にあまり経験したことが無い程に減ってしまった魔力に、酷く違和感を感じた。

 その様子に困ったような顔で、フォロート侯が僕を覗き込んだ。


「今ので魔力は、どのくらいまで減った?」


「……恐らく、Aあるか無いか位かと……」


 ここまで消費したのなんて、革命の時以来だ。4ランク分も使うなんて、早々ある事じゃ無い。

 普段は満ち過ぎて苦しいばかりなのに、今は逆に物足りなくて違和感を感じる。どちらも嫌で、どちらも辛い。僕以外には分からない感覚らしいからあまり言わないけれど、身体が必死に抜けた分を取り戻そうとしているのは分かる。ああ、また直ぐに元に戻ってしまう……

 が、メイとアルはその会話に酷く呆れたような顔で僕を凝視した。


「……あんだけの距離転送してAかよ……」


「ホント、常人離れしてますよね。いっそ感服しますよ」


 グルグルと回る視界に辟易しつつその言葉に目を開けて二人を見上げる。頭痛を抑えるような様子を見せるメイに、僕はあえて苦言を漏らした。


「失礼な。僕は技術ランクが低い分無駄に魔力ロスさせてコレだよ……?リトスが同じ事やったら2ランクの消費ですむよ……」


 ついでにコウやアリアでも精々が3ランクの消費だろう。僕は経験の差で彼等とは劣るが、それは仕方無いだと思った。だって、僕が過ごしたのよりも長い間、あの腐ってた国に囚われ続けていたのだから。

 無駄に蒸し暑い部屋と、窓から差し込む明るい空に浮かぶ太陽の光に目を細めつつ僕は人が来るのを待つ。今なら僕が外に出ても問題無いだろうが、それ以前に動けない。


「人、来ませんね。呼んできますか?」


 いつもならこの部屋が使われた時点でコウやフュジー辺りが駆けつけてくるのだが、忙しい所為でか今日は誰も来ない。珍しい事もあるもんだ、と内心驚いているとアルが一歩前に出て訪ねてくる。一応城内の構図を覚えているアルなら問題ないだろうと踏んで、僕は二つ返事で頷いた。


「うん、宜しく……出来ればエンスとアズル、あとコレ(ウェルダー)を牢に運べる人適当に見繕ってきて」


「分かりました」


 実はあまり話題に触れていないが、キッチリこの犯罪者も移動時に一緒に運んできている。幾ら何でも市民がいつ通るかも分からないような場所(因みにあそこは道から少しずれた草原だった)に放っておく訳にもいかないだろう。横で呻く重罪人を一瞥し、溜息を一つ吐く。コレと関わると嫌なことばかりを思い出して気分が塞がってしまう。

 キィ……と大きな扉が軋む音と共にアルは一旦部屋を出て行った。一応軍曹を示すコートを着ているからその辺で掴まる事は無いと思うけれど、正直見慣れない顔だとその辺の輩に絡まれてないかが心配だ。


「……にしてもここ、城ん中だよな?何なんだ?この部屋」


 ただ広くて何がある訳でもない部屋に興味を持ったのかキョロキョロと見回すメイに、フォロート侯が嗜めるように睨む。うーん、英才教育しようとしたけど無理だった、って感じが漂ってるなぁ。


「ここは、暴走した高ランク魔導士を抑える為の部屋だよ……ケホッ……うあー、しんど。見えないけど、床に結界の陣が刻まれてんの……」


 斯く言う僕も何度かお世話になりました。いやー、小さい頃はあんま制御効かなかったからね。術を発動させようとしてはボフンッ(爆発音)て感じだったし。


「特に小さい頃から強大な魔力を持っていると魔力の扱いが難しいからな。リーン君や国王陛下は度々ここに連れ込まれていたと記憶している」


「え、陛下も?」


 あー、あれでもエンスってかなり魔力強いからなぁ。一応はAAAだけど、まだ成長期だし(現在19歳、あと一ヶ月位で20歳。魔力は25歳位まで伸びるから、エンスがSになる日も遠くないかもしれないのだ)生まれた時にはCCCあったって言ってたからな。僕は残念ながら生まれた時の事は覚えて無いけど、5歳の時には既にAAあった。因みに5歳児の平均はGランク。


「ああ、水属性だから攻撃には優れていないが、あの方の治癒は軍医長に並ぶと私は思う」


「アズルとですか……?あー、場数は別として、確かに潜在能力は二人共同じ位じゃないですか?」


 革命の時は王子だって立場を忘れさせる位ひたすら怪我人の治療に当たっていたし、捌いた怪我人の数はアズルと同じ位だった筈。……うん、良い笑顔で怪我人治療してたけど、エンス本人が怪我人の血だらけで凄く怖かったのを覚えてる。笑顔と血みどろを一緒にはしてはいけないんだという事を改めて実感したよね。


「へー。陛下って水属性なんだ」


「そっから知らなかったんだ……」


 フォロートの嫡子なら知っててもおかしくないと思ってたんだけどな。コレを見てるとそうは思えないけど、マジで金持ちのボンボン、権力の塊みたいな家なんだよね、フォロートもローゼンフォールも。

 ……まぁ、ウチの変人達に権力者らしさなんて教えても無駄だろうけど。

 とそこで響く扉が開く、軋む音。それに俯いていた顔を上げると、アルに頼んだ通りの顔ぶれ―――以上が並んでいた。


「リーン、済まないな。封印の事を伝えるのを忘れていて」


「いやぁ、アリアが気づかなければ私も忘れたままデシタヨ」


「お前等……頭良い癖に変な所で天然発揮するよな」


 ……アルの顔が引き攣ってる。そりゃそうだ、オーバーS三人(リトス、コウ、僕)国王(エンス)軍医長(アズル)フォロートの直系二人(フォロート侯とメイ)が揃う部屋とか嫌すぎるもんな。一人だけ身分が違いすぎる。

 哀れみを込めてお疲れ、と呟くと今すぐにでも逃げたい、という訴えを目で送ってくる。……逃げられちゃ、困るかな?


「取り敢えず、コウはコレ(ウェルダー)地下に運んどいて……僕が掛けたのだから拘束は時間が経てば解けるから。あとエンス、アルが‘時止の砂時計(ロック・グラス)’持ってるから」


 荒くなりそうな呼吸を抑えながら次々と指示を出し、アルがエンスにアイテムを渡した辺りでふと唐突にメイが声を上げた。


「そーいやさ、リーン何でわざわざ一人称‘僕’にしてんだ?さっきのから言って本当は違うだろ?」


 何気なくメイが口にした疑問に、ウェルダーを引きずろうとしていたコウの手と僕を診断しようとしていたアズルの手、そしてアイテムを興味深そうに捏ねくり回していたエンスの手がピタリと計ったように止まる。……てへ?


「……ちょ、ちょっと待ってくれメイ君。まさかコイツ……」


「実は今も軽くキレ気味だよ?エンス」


 ホッとしたような空間から一転。ギョッとしたように真っ青になった大人たちに笑って忠告しておく。そう、今はアルとメイが居るから抑えているが、未だ僕の中に……いや、この際だ。オレ(・・)の中に怒りは燻っている。体調が悪い分、尚更に。


「あっちゃあ……マジか。てことは……」


 焦りを隠そうともせずコウがアルを一瞥すると、乾いた笑いを浮かべるその様子に思わずといった具合に溜息をつく。


「あはは、だってそこの呼吸する公害ことヘドロ以下の生ゴミが一一オレのカンに障る事ばっか言ってくるんだもん。元々沸点低い自信あるし、そこまで寛大な心なんて生憎持ち合わせちゃいないし、仕方ないと思わない?」


「な、生ゴミ……」


 メイがドン引きしているが、メイから一人称について言われたなら今まで抑えていたモノを留めなくてもいいよね?


「最近見ないからなりを潜めたと思ってたんですガ……」


「健在みたいですね……リーン君の毒舌冷徹モード」


 昔はちょくちょく切れてたから耐性のついていた皆でも、数年振りに見ると驚くものらしい。ここ数年は実に平和で怒る機会もそうそう無かったからねぇ。逆にその分の鬱憤が溜まってるとも言うんだけど。こうなると逆に体調の悪さなんて気にならなくなるから少し楽なんだよね。


「大丈夫、既にモノに当たってある程度は発散してるからちょーっと口調が残ってるだけだし。メイに言われちゃったし、取り繕うのも面倒かなって思い始めたから暫くこれに耐えといてね?」


「自覚がある分タチが悪いがな」


 全く、と嘆息するエンスだけれどもこうなったオレが暫く止まらないのを知っているからそれ以外は何も言ってこない。それに丁度いいと考え、僕は先程から考えていた疑念をぶつけた。


「で、エンスは何でオレが封印具(リミッター)付け直すと体調悪くなる事予知できてた訳?」


 そう、さっきフォロート侯が伝えに来てくれたから一時的なモノで済んだが、オレとしては気になっている訳だ。何でオレ自身が知らなかった事を分かったのかが。

 それについて訪ねてみると、あからさまに固まったエンス、アズル、リトスの3人。という事は、コウは事情を知らないと見て間違い無いだろう。その様子に、ニコニコと能面のように笑顔を貼り付け続けていれば、リトスが意味ありげにオレとアルを一瞥する。


「あー、とだなぁ……リーン、その、だな。気をしっかり持てよ?」


 焦らすように前置きをしつつ、目をあちこちに泳がせる様にムッと眉を寄せる。まさか、前のメンテの時に変な物を仕掛けたのか?

 と、そこでアズルがエンスの言葉を引き継ぐよう、重々しく口を開いた。それに、オレ等子供3人は重大な事を知らされそうな気がしてゴクリと喉を鳴らした。それに、まるで憐れむかのような目で僕を見て、アズルが続ける。


「……リーン君さ、半年前で成長止まってるんだ。つまり、その封印具(リミッター)合わなくなる位に増えてるんじゃないかなっていうのが俺達からの見解なんだけど……」


「…………はい…………?」


 言われた事を脳内で処理しきれなかったオレは、直様意識を闇へと飛ばした。







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