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Silver Breaker  作者: イリアス
第三章 夢が叶う瞬間
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第30話 平安の停止

ああ、ギャグに移行することなくシリアスが始まった……

 うつらうつらと微睡みを楽しんでいた中、覚醒を促す感覚が枕元から聞こえてくる。それに少々不快感を覚えつつも叩き壊すつもりでボタンを押せば、ピタリと音は止んだ。……残念ながらアリア特性の合金で出来た目覚ましだからその程度じゃ壊れる兆しすらないけど。

 ぼんやりとした頭を振って眠気を飛ばそうとし、左右に首を降ればサイドテーブルに置いてある小瓶がふと目に入る。それに、思わず苦笑いをした。

 それは幾つかのカラフルな石と、赤い髪留めの入っただけのありふれた小瓶。ちっぽけなそれは僕の宝物で、僕の契約の品。そんな本来なら変哲のないモノに、万感の想いを込めて笑いかけた。


「……おはよう、フィリア(・・・・)。今日は試験が返ってくるんだって。多分皆今頃ゾンビみたいな顔色じゃないかな?……ごめんね?未だキミとの約束果たせてないのに、僕だけが楽しんじゃって」


 自分に言い聞かせるように、毎朝の報告をしてから小瓶の横の眼帯を手に取る。

 これは祈りなんて高尚なものでは無い。毎朝、例え体が動かなくてもするこの日課の名は、『懺悔』。

 そう、僕は楽しんでいて良いような程余裕のある人間じゃないんだ。けれども、暖かいここはついついそれを忘れさせて(・・・・・)しまう。

 それが凄く嬉しくて、たまらなく苦しい真綿の呪縛だという事も、理解はしているけれども。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……あー……死んだわ」


「あ……綺麗な花畑が川の向こうにありますよ~……」


「………………」


 上から順に、ソルト、アル、メイ。ソルトは机に突っ伏して虚ろな笑いを浮かべ、アルは明らかに見てはいけない川を幻視し、メイに限っては真っ白な灰がサラサラと舞う幻覚をこっちが見てしまうような有様だ。下に行くほどランクは酷くなっている。


「こりゃ暫くは使い物にならなさそうだねぇ」


「そう言うリーン君はいつも通りだね~……」


「羨ましい頭ね」


 一方の女子二人は、顔色こそ良くないものの、受け答えはしっかり出来るようだ。女の人って、妙に強いよね……度が過ぎるとアリアやソフィアさん(オーバーS最年長。歳と身長とおばあちゃんは禁句。破れば間違いなくアルが見ている川に酸素ボンベ無しでダイビング決定)のようになってしまうので何事も程々が一番だけど。


「いやまぁ。今回初めて全教科受けれたし、点数は一応満足いったし……」


「……リーン……『ファラリスの雄牛』と『アイアン・メイデン』と『三角木馬』と『猫の爪』と『祈りの椅子』と『エクセター公の娘』と『運命の輪』と『魔女の楔』、好きな物を選べ」


 あ、メイ(サンドリヨン)(灰に準えてみました)が喋った。

 それとアイアン・メイデンって、針の長さで死亡率変わるんだよね。長ければ心臓クサリだけど短いと切り傷刺し傷程度らしい。城にいくつかあったなぁ。血痕付いてたし間違いなく過去に使われてたんだろうな。


「じゃあその中のどれにも入ってない『異端者のフォーク』で」


「…………あのさ~、二人ともなんでごく普通の事のように拷問具が出てくるの~?」


 何を戸惑うんだか、スゥさん?本音をばらせば未だに場内に残ってるしね、拷問器具保存部屋。通称『リトス隊長の悪意部屋』。何でも昔リトスが訓練でしかけたトラップが拷問といって差し支えなかったからとその名が付いたらしい。ついでに言えば拷問に引っかかった哀れな新兵達はその後の訓練で「ミジンコー!」と叫んで突撃している姿が度々見受けられた。

 ……ホント、あいつは何をやらかしたのだろうか?あの後は上官達が涙ながらに精神科へ引きずっていく姿が場内でちょくちょくあったし。頭が良いのは素晴らしい事だが、アイツは使い方が残念過ぎる。いや、正直存在が残念だ。


「貴族なら基本拷問方を覚えるのは必須だしな」


「ん。僕は幾つか体験してるよ?結構機密事項知っちゃてるから、もしもの時用にって耐性付けるために。正直意識飛ばせない痛みほどキツいもん無いって思える位辛かったけど」


 因みにローゼンフォールではなく軍の方での演習だけど。エンスは凄く嫌そうな顔してたけど、僕にそれだけの責任を背負わせたのだから仕方ない事だったんだろう。男に泣きつかれて謝られても(泣いてないけど)迷惑なだけだったというのは、今だから言える事だ。


「…………ゑ?」


「なんか発音おかしいのが聞こえたような気がしたけど、まぁいいや」


 てかこの学年貴族の子供がやけに少ないよな。90人中2人しかいないし。ほかの学年だと5人位いるからこういう話に同意して貰えるんだけど。あと普通ここの貴族って金に物言わせた勉強しているのが普通だから僕やメイは異端の存在だったりする。

 と、そこで肝心のモノを聞いてなかった事を思い出し、くたばってる男子二人組にニコリと笑みを浮かべた。


「そーだ。メイ、順位上がった?アルも古語の点は?」


 メイは言わずもがなだが、アルは何故か古語だけはメイと張り合えるほどに壊滅的だ。その所為で毎年国語だけ補修に引っかかっている。決して頭の回転が問題な訳でも記憶力が悪い訳でも無いのだが、彼の古語の成績だけは教師をも首を傾げて悩ませられている。

 そして僕の悪意多き疑問に、吐き捨てるように二人が口を開く。


「…………お陰様で、3位程上がったさ……」


「僕は2点下がりました……」


「ホントアルに関しては意外だよな」


 掠れた声での返答に、ソルトが物珍しそうに首を傾げた。外部組のソルトは初めてのテストだから、今までの悲惨さを知らないのだ。今年も死んでいるが、特に一昨年に関してはアルのお母さん襲来(呼び出し)と言う素晴らしき悪夢があった所為も有り、聞くも涙、語るも涙、教師の目の端からは涙がちょちょぎれんばかりの苦労と心労が重なった。あれよりは何万倍もマシだ。


「いやいや、アル君毎年こんなんよ?」


「というか下がる程の点あったんだね~」


 本当、酷い言われようだ。僕も正直フォローに回れない位の悲惨さだから何も言わずに黙っているけど。


「で、何位だったんだ?」


 あ、メイに矢印マークが突き刺さった。えーと、こういう時はなんて言うんだっけ?あ、「きゅうしょにあたった。こうかはばつぐんだ」だ。リトスが訓練抜け出してやってたゲームの言葉。

 因みにその後彼は鎖に縛られ牢獄で泣く泣く書類を捌いていました(笑)

 うん。あれは僕からしたら(嘲笑)の方が正しいんだけども、それは流石に酷いかなと思い胸の内に留めて置きました(こう説明してる時点で留めてないってのは、まぁ無視の方向で)。夏の蒸し暑い中冷房無し魔法使用禁止という地獄のような空間で汗だくだくになってたけれど、アレは間違いなく自業自得だ。


「…………全体で62位」


 あれ、どん底だと思ってたのに。補足として言えばこの学年の総人数は87人。1クラス29人(初等部では80人だったけど落第した人が3人居て、入学した人がピッタリ10人いた結果だ。ソルトはその数少ない10人中の一人)で3クラス。


「意外ね」


「ま、僕としてはありがたいけど」


「リーン君、それ嬉しいって意味じゃなくて有り難しの意味ですよね?」


 勿論。メイの順位が上がったのは嬉しいっちゃ嬉しいけど、ぶっちゃけ僕には何の益も無い。寧ろそれをエンスに伝えたらメイの勧誘用の書類作れとか言われかねないから、ある意味迷惑だ。


「で、全体でって事は、各々ではどうだったの~?」


 あ、トドメ刺しちゃった。さて、結果は(80位代という)期待を裏切らないでくれるのだろうか?


「…………はちじゅうさんい…………」


『…………………………………………』


 ……本当に、そこまでドン底だったんだ。てことは前回86位?本当に侯爵家の時期当主?通りでテスト後の侯爵の機嫌が最悪な訳だよ。幾らなんでもそれじゃあ家名に傷がつく。


「逆に聞きたい。コイツより下って誰だ?」


 …………ああ、凄く聞きたいな。後で調べてみようか。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 所変わって僕の自室にて。

 疲れた顔でトボトボと家路(寮路?)についていた僕を待ち受けていた自室。いつの間にやらそこでは、素晴らしい量の書類が転送されていてついに部屋へ入ることすら出来無くなっていた。……これって何の嫌がらせ?


「うわぁ……ここまでは初めてですね……」


 アルの声が遠くに聞こえる。トサリとカバンが手から滑り落ちたことすらも気づかず、天を仰ぎ見た。


「え?何?ねえアル、僕そんなにエンスから嫌われてたっけ?確かにこの間イラっときて罵詈雑言ぶちまけて来たり乾いて使えないインク置いといたりお茶に眠り薬入れたり部屋を布団で埋め尽くしたりしたけどさ」


「……いや、後半二つは3日も寝てないエンスさんを気遣ってですよね?あと彼の机に花が置いてあったって噂があったんですけど、あれはリーン君じゃないですよね?」


「失礼な。僕はそんな面倒な事せずに直接黄泉路に送る」


 多分それは反エインセル王派の貴族共だろうな。うーん、やることが幼稚過ぎて逆に哀れ。それよりこれは本当に何が原因だ?


「どんだけ忙しいんだよその人」


「てかどんだけ嫌われてんだよ。机に花って小学生のイジメかよ」


 ええと、あと何やったっけ?ああ、3ヶ月前に無理矢理アズルのトコに引っ張っていった所為か?それとも去年の提出した書類にあった不備か?あと4年前に―――


「リーン君、一つ言っておきますが、あのブラコンっぷりじゃ明らかに君を嫌うことは無いと思いますから安心して下さい。寧ろ目に入れても痛くないと言う言葉が正にピッタリな溺愛具合なんですよ?とにかく連絡とったらどうです?」


「……そうだね、うん、そーいやそうだった」


 そうだよな。あの馬鹿王が僕に嫌がらせするなら間違いなくもっと陰湿で迷惑なもののはずだよな。

 ひとしきり安堵してから、横にいるメイとソルトの目を考えて音声通信でエンスに連絡を取る。すると数コールの後にペンが走る音(但しガリガリと)と書類のめくれる音、そしてバタバタ走り回る音だの怒号だのが聞こえる。


『もしもし?リーンか?』


「……なんかあったの?僕の部屋ついに侵入禁止になったんだけど」


 目の前にはいつも以上の白い巨塔。玄関までもが書類と資料で埋め尽くされているその様子を、後ろ三人は呆然と見上げている。


『ああ、えーと事情説明用に、シリアル119の書類見つかるか?』


「そんな救急車みたいな書類を見つける以前に僕の部屋が今どんな状況か見せてあげるよ」


 数秒間エンスの見た目を隠すように、カメラの視点を相手の目線の先にするようにしてから映像通信に切り替える。と見えてくる書類に埋まったエンスの執務室。向こうには僕の部屋の惨状が映っている事だろう。


『何だこれ!?あ、いや悪い。確かにこれでは無理だな。えーと取り敢えず後ろの三人……アル君とメイ君とソルト君かな?は、少し席を外して貰えるか?』


 この三人をどかしたって事は非常事態か?随分切羽詰まってるようだし。ごめんという意味を込めて三人をチラリと垣間見れば、察したように三人が頷く。


「あ、はい。んじゃ、リーン。オレこれから実家帰るから。明後日には帰るからさ」


「また後でな」


「では」


 それぞれが別れの挨拶を言って去った所で、僕は人気の全く無い屋上へと移動する。勿論、いつだったかの説明にあるように本来は侵入禁止だ。


「…………で、何が起きた?」


 カメラをエンスの方に切り替えれば、難しい顔で俯く姿と魔道具の魔道書が映る。つまり、なんかヤバイ感じのモノが見つかったようだ。

 かなりの重大そうな様子だが、果たして僕がどこまで関わる事になるのかは正直未知数だ。何せ、今の僕が最優先にするべき仕事はここの守り。この学園から長期に離れる訳にはいかない為、エンスがどの位仕事を押し付けて来るのかが解らない。

 と、その僕の疑問に応えるべく、エンスが重たい口を開く。


『……‘時止の砂時計(ロック・グラス)’が見つかった。場所はヴィルヘルム地方、フォロートに近い村だが、所有者が厄介だ』


「フォロート!?うわ、メイ交通規制とかに引っかからないと良いけど……」


 ‘時止の砂時計’。そう名付けられた古代の魔道具は今では最上品とも言える程希少価値が高い。個数はたった一個。効果はある一定範囲―――大体村一つ分といった所だろうか―――の時を止める物だ。

 その範囲に居るモノは、使用者意外動く事が出来無い。その為、悪人にはただ一方的に傷つけられてしまうという使用法が出来る。勿論、良い使い方をすれば怪我人から流れる血を止めている間に使用者が治癒する、なんて事も出来るけど世の中そんなに甘くは無いのだ。


 つまり、僕の言いたい事はアレマジ危険物。国が保管するから寄越せや。なのだが、残念な事にここ数百年行方不明だったので、全くあれを使われた時の対策が無いのだ。

 クエスチョン、現状で時を止められた時はどうすれば良いでしょうか?

 アンサー、大人しく捕まって貰いましょう、僕が「永遠風護(エターナル・フェザー)」の能力を使いましょう、偶にあるめっちゃ強力な護符(アミュレット)で乗り切りましょうの三択。


『しかも、所持者はあの元子爵、ウェルダーだ』


 ヴィレット革命時の王国派筆頭、現賞金首の名に、嫌悪感を持った事は仕方のない事だと思う。

因みに皆の今回の成績順位


リーン  1位(ぶっちぎり満点)

アル   5位(ソルトと3点差)

ソルト  7位(入試成績トップから転落)

スゥさん 15位(前回17位から向上)

ネリア  42位(変わらず)

メイ   62位(実技はトップレベル)



……リーンの成績は作者の願望です。努力しない奴ェ……

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