第1話 仮初の日常
ああ……テストが終わりました……色んな意味で……
これからは投稿スピード少し上がる……といいなぁと思ってます。
2012/03/24改訂終了
麗らかな春の陽気。窓からぽかぽかと暖かい太陽の光が差し込み、何人かのクラスメイトを夢の旅に誘い込んでいる。そしてその誘いに乗ってしまった者は皆一同に船を漕いでいた。
そんな、いかにも春です、というような日差しの中……
すこーん
―――という妙に小気味の良い音が、僕の左斜め前から聞こえてきた。誰もがその音に多少なりとも驚き顔を上げた瞬間、声があがった。
「って~」
「そこ、授業中寝ない」
メイが痛みを訴える声と、静かに怒る先生の有り難い怒声が。
「だからって魔力固めた玉投げんのは止めて下さいよ!」
あー、今のはそれがメイに当たった音か。あの音からして、かなりの硬度はあった筈なんだけど、流石はメイ。痛みだけでそれ以外は特に何も感じてないらしい。僕だったら瘤出来てる自信があるぞ。
「あのね、いい加減に懲りる、とか反省、とかいう言葉を覚えてくれない?」
先生が呆れの籠った溜息をつくのも無理は無い。なんてったって、相手はここ数週間、授業=睡眠時間という等式を実践しているメイドリヒだから。
初等部からエスカレーター式に中等部にあがって約三週間。普通、やっと新たな環境に慣れてきた頃なんだけど……メイは最初の授業―――丁度今と同じ魔道学―――で、堂々と寝たのだ。そう、堂々と。流石に三年程同じクラスだった僕も驚いた。いや、ぎょっとした。
まぁ先生も最初は優しかったが……毎回(魔道学は毎日あるからそっちの方が適切か?)寝てたら、考えも変わるよなぁ。
「先生!オレはちゃんと反省して、先生にバレないように寝てたじゃないですか!」
『それは反省と言わないだろ!?』
クラス全員の渾身のツッコミがメイに入る。そして彼に向かう視線はとても冷たい。このクラス、頭は良いがその代わりというように奇人変人が多いのだ。……僕はその範疇に無いと自分では思ってるけど、ここで皆を見てると正直自信は無くなっていく。
「はぁ……仲いいんだから、ルーラとかローゼンフォールとかに、常識を習ってきなさい」
先生が呆れた声と共に言った台詞に、ギョッとしてガバっと振り向く。は!?何でアルはともかく僕まで!?
「先生、僕の名前を出す意味が分かりません。そもそも僕の成績は中の上程度でそんなに高くありませんが。初等部の内申書にもそう書いてあった筈ですが」
「リーン……ローゼンフォール君の言う通りで、僕も分かりません。……っていうかリーン君?何で僕の名前を否定しないんですか?」
アルが心底嫌そうにこちらを見るが、僕だって謎だ。そもそも学校は学習の場で、教えるのは教師の役目だろう。―-―常識なんて授業、あったらヤだけどさ……
そんな無駄な口論に走ったところで、先生からのストップがかかった。
「ハイハイ、君たちまで言い争い始めない」
そう言って手を叩きながら僕等を諫めた後、先生はメイに話を振った。
「フォロート、次の問題が解けなかったら居残り補習」
「ええええええーーー!?ムリ!絶対ムリ!」
メイが解ける訳がないという風に首を横にブンブン振り回す。しかし先生は容赦無かった。
「問題、聖痕を持っていたとされるリオウ=ヒューズリーが創り出したとされる攻撃魔術の名を述べよ」
術―――それはこの世界で魔術・魔法などと呼ばれる魔力というエネルギーを変化させたもの。自らの中、及び周りにあるエネルギーを言語、行動、儀式などで形づくり、様々な変化を起こす。
元は日常生活の手助け程度に使っていた筈が、見つかった数千年たった今では、軍事、医療、防衛など、多方面に伸びている。ま、良くも悪くも、だけど。
そしてその中でも先進的発達が早い国の一つが、セレスティア大陸北東部に位置する此処、ヴィレット帝国。歴史も古いし国土面積も大陸4位。……と、ここまでは明るい話だけど、数年前までは所謂暴君が治めてたもので、技術こそトップレベルだったのに、他は暗黒だったような国だ。ぶっちゃけ、腐れ貴族達がウザイ。
ま、暗い話はともかくメイはというと―――
「えーと……『滅殺氷』あたり?」
「居残り決定」
という、無情なんだか当然なんだかよく分からない判決が下されていた。
因みに『滅殺氷』は、人が使える中でも最上級に位置する位威力が高い術で―――つまりそれだけ魔力を喰うから使える人は少ないし、やたらと呪文は長いし、短縮呪文(威力は下がるけど、時間がない時には楽)とか詠唱破棄(喰われる魔力量が跳ね上がる)とかもムリ、更には強力過ぎて山一個吹っ飛ぶという、戦争位にしか使えない代物だったりする。何のために創ったのか本気で謎だ……
「えーっ!?当たりだと思ったのに!」
「残念でした。放課後3時半からね」
先生も忙しいのに、一人の生徒に此処まで手を焼かなければいけないなんて大変だろう。しかも出来が悪い生徒はなんと貴族筆頭のフォロート侯爵家次期当主。1世紀前だったら恥さらしも良い所だったであろう事態だ。
「そんな……」
落ち込んだ様子のメイに、僕もアルも、勿論クラスメイト全員も何とも言えない雰囲気を発する。
おかしいなぁ……初等部五年で習った筈の内容なんだけどなぁ……最も、あの頃もメイは寝てたけどな……机に突っ伏して、それはそれは気持ちよさそうに。何度殴ろうかと考えたことか……ッ!
「ローゼンフォール、正しい答えは?」
え、僕?と急な指名に戸惑いながらも記憶の奥底から知識を引っ張ってくる。今まで考えてた殺意は取り敢えず置いとこう。うん。
「正答は『静呪殺』で、全ての音が聞こえなくなり、その事に違和感を覚えた時には死んでいる事から名付けられました。効力の原因は脳内へのダメージからで、中央の大国、ミッテルラント帝国が約千年前に遺跡から発掘してきたことで広まりました。魔力、技術共にAAの大技です」
AAというのは、魔術のランクの事だ。魔力ランクと技術ランクに別れていて、前者はその術に必要な、もしくは個人の魔力保有量を、後者はその術を使うにあたる、技巧的上達度を指す。
G<F<E<D<C<CC<CCC<B<BB<BBB<A<AA<AAA<S<SS<SSSと細かく別れており、平均値は魔力がCC、技術がCCC。
また、BBからは軍事関係者からの推薦さえあれば、入軍試験の後、軍入り可能となる。アルとメイがこのBBで、今の僕は一つ上のBBB。つまり、推薦が来れば入れるって事。特にメイは憧れているみたいだし。
あ、因みにSランク超えたら人外みたいなもんだというのがこの世界の常識ね。
「正解。よく此処まで覚えたわね……という訳でフォロート?同学年よね?」
呆れたように先生は大きな溜息をつく。
こんな台詞、他の学校で言ったら事件になりそうだけど、此処なら当たり前に言われる。入るにはそれだけの覚悟もいるのだ。何せ国王すらも直々に視察に来るような所なんだから、醜態は見せられない。
「う……ま、まぁ実技は上位10位内に入ってるじゃないですか、いつも」
そう、メイがあれだけ勉強ができないのにこの一流魔導師育成学園、ヴィレット学園にいられるのは、魔術・体術に関しては異常な程秀でているから。……多分、Aランクの術位なら使えるんじゃないかな?今僕等が習っているのがCCランク。同い年の人達より一歩も二歩も先を行っている。
「へぇ、でもルーラもローゼンフォールも十分貴方と張り合える位の実力よ?他にもエラルド、カストル、同学年でも総合すれば貴方レベルは何人もいるけど?」
流石にこの口激(誤字にあらず)には言い返せないらしい。突っ伏して唸り続ける。
「……うぅ……」
「という訳で補習よ」
「嫌だぁぁぁぁ!!」
そんな断末魔の叫びを最後に、彼は一週間の補習を言い渡された。
そして、気付いたら僕こと、リーンフォース=Y=X=Rと、アルト=ルーラがそれに巻き込まれていた。……正直、これはいつもの事なんだけど。初等部からのお約束というヤツだ。
ああ、めんどいなあ……