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Silver Breaker  作者: イリアス
第二章 過ぎた力は害をもたらす
28/84

第26話 雨季の学生

今日でSilver一周年です。


つまり一年で26話しか進んでないって事ですよね……?

 果たして、私は何処に居るのだろうか……


 暖かい赤が広がるこの場所で、いつまでも自問自答を繰り返す。

 世界を灰色で塗り潰したような、淀んだ空間。此処に居続けるのは、酷く辛そうだと溜息混じりの吐息を漏らせば、凍てつく寒さがそれを白に変貌させる。いや、この表現はおかしいのだろうか。なにせ、もともとここは『白が埋め尽くしていた』のだから、変貌というよりも、元に戻ったというのが正しいのだろう。

 最早そこに在った愚か者達は下級兵によって火の中。しかし赤は未だ暖かい。


「……ハ、これも、彼の王の呪いの一環デスカ……」


 自嘲気味に零した言葉が、自分自身に突き刺さる。

 この部屋はもう二度と使えない。どんなに拭っても取れない赤がこびりついているのだから。

 そして何よりも、私も少しづつ使えなくなっている感覚。それが突き刺さる原因。


 違う、自分はこんな話し方しか出来ない訳じゃ無かった。こんな、異国民が使うような発音じゃ無かった筈だ。

 なのに……


 ワタシ自身も、彼の王のように壊れ、彼の王のように赤に塗れている。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「…………はい?今なんつった?」


『だからだな、モントローズの使者がウチ(ヴィレット)の訪問に高位魔導士引き連れて来る可能性があるからお前は学園から一歩も出るな。あと時期を早めてソラを学園に突っ込むからその準備を頼んだ』


 ……ああ、なんて良い天気なんだろうか。空は重々しい鉛色をしていて、いい具合に城の辺りに雷鳴が轟いでいる。こんな夜中では民家もあまり電気はついていない。それ故におどろおどろしい雰囲気がより一層目立っている。


『おいリーン?現実逃避も程々にしろよ?仕方ないだろう。訪問は前から決まっていた事なんだからな』


 分かってる。前々からモントローズからヴィレットの復興具合がどの位か確かめに来るという名目で視察がある事位は分かってたさ。けどなぁ―――


「じゃあ何で今更高位魔導士来るかもなんて言い出すんだよ」


 こちらの事情というのは考えないのかあの国は。いやまぁ、相手は南西の大国。同じ大国とはいえ疲弊しているこの北東の大国とは格が違うし文句が言える立場じゃ無い。この国がたった7年でここまで復興できたのは他国の協力や支援があったからこそなんだから。


『…………恐らく、今尚増え続けるオーバーSの探りだろう。しかも新たなレアスキル保持者が居る事もリークされているだろうからな』


 ああ……そうか、アルか。確かにここ数十年のヴィレットは異常だ。原因があるのか、それとも偶然なのかは僕らでも判らないが、外から見れば更に不気味に見えるものだろう。

 となるとアルも城に向かわせない方が―――いや、帝都に出さない方がよさそうだな。万が一魔導士とかち合わせたら目も当てられない事態になりそうだ。テスト期間中だと文具を買いに出る事がままあるから、事情説明して購買部で買うか通販にしてもらうかしよう。


「ちっ……面倒な」


 取り敢えず僕が外に出る事は城以外には無いからそちらはいいとして、問題はソラだ。彼も僕と同じで少々特殊。使者が来る日―――つまり、中間試験の日までに学園に詰め込まなければ厄介な事が起きかねない。

 が、よりにもよって今はあの学園では国内最困難と言われるほどの試験一歩手前。ソラの頭ならまぁ問題はないだろうが、周りの生徒からの疑問が上がるのはどうするべきか……


『既にソラ本人には伝えてある。本人は軍務に就いている事を公表する気でいるから生徒の事は安心して欲しい……が、問題は保護者をどうするかだな』


 ああ、そこもあったか。ソラの保護者……というか後見人は僕、という事になっている。拾った責任というものもあるが、元々僕は軍でもかなりの立場。責任を負うことには何も問題が無かった―――年齢を考えればだが―――のだ。

 が、学園に提出するとなればその年齢が足を引っ張る。軍務情報として僕やソラ、アルの情報はブロックされていて、見ることが出来るのはエンスか僕が許可した人、今は校長位なのだが、それでも外部から干渉されて見られてしまう可能性が無い訳では無い。となれば即ちソラの情報から僕の情報が漏れる危険性も有り……


「あー、もうメンドくさいな!保護者は取り敢えずそこそこの地位にいる奴から志願頼んで!居なかったら僕かキミ。ただしその場合ブロックを他の3倍に頼んだよ!」


『どんな横暴な台詞だ……が、分かった。その欄以外は手続き宜しくな』


「了解しましたよっ、とと、危ない危ない。肝心な事訊いて無かったよ」


 そうだ。一番はソラの保護者じゃない。重要なのは、ここが国外からも知られているような超有名校という点だ。


「ところでさ、ここに(違う意味での)危険人物隔離しておくのはいいけど、肝心の先方が「彼の有名な学園を見てみたい」とか言い出さないよね?てか言い出してもテスト期間中で生徒の気を逸らさないようにとかいう名目で止めておけ」


 ヴィレット学園は国内からの評価こそ、天才の集う超エリート校で済んでいるが、国外からの評価は、‘実力者を集め国を強化するための特殊な軍事施設’だ。視察が目的であるだろう相手方なら間違いなく興味を示す場所だろう。


『……なるだけ善処はしよう。最悪逆にこっちに逃げてこい。私の自室にでも隔離しておけば流石に大丈夫だろう……多分』


 ……エンスの部屋に隔離はいやだなぁ。あんな書類だらけの真っ白空間。

 うげぇ、と顔を顰めて見せるがそれ以外にどうしようも無いのも事実。取り敢えず、そうならないよう祈ろう。あと、ソラにテスト勉強ガンバレのエールを送っておこう。こんな時期にとか、災難すぎるだろうから。


「ホント、頼むよマジで。という訳でソラの軍務時間テスト勉強に回してあげて。入軍志望科に入るつもりだって言ってたから、そこなら武器の操作とかが主な試験内容だって事も教えといてあげてね」


『分かった。……因みにお前は今回テスト勉強は?』


「してると思う?」


『だろうな。書類の処理速度が全く落ちてないしな。……因みに、何点代を狙う気だ?』


 呆れたようにやれやれと首を振るエンスにニヤリと不敵に笑って見せ、今回のテスト結果予想図を口に出す。


「そりゃ勿論、オール満点だよ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「なあ……今日お前の部屋に泊まってもいいか……?」


 放課後、一段とレベルがアップしている授業の上に普段やらない所為で慣れない勉強をやっていたせいですっかりやつれきったメイが、ぐったりと―――というか、鬱々とした表情で僕に依頼をしてきた。

 その依頼内容に、僕は思わずパチクリと目を瞬かす。いや、僕だけじゃない。この場にいるいつものメンバー全員が奇妙なモノを見る目でメイを凝視した。


「……いいけど、何で?」


「このままだとマジでやばいんだ……お前の部屋に泊まるなら、消灯時刻過ぎても勉強会出来るだろ……?」


 この文章に、本気で驚いた。まさかあのメイが自分から勉強会を望むとは……

 皆こんな発言をしたメイに不信感を隠せない。その代表として、ソルトが恐る恐る提案する。


「おいメイ、少し医務室行こうな?いや、カウンセリングの方がいいのか?」


「ってそりゃどーいう意味だアホ眼鏡ッ!」


 あ、良かった。普段通りのメイだ。でも僕の部屋でかー。書類どかさなきゃなー。あ。


「いいけど、条件付けていい?」


「条件?なんだ?」


 依頼されたんだから少しばかり報酬があってもいいよな、と丁度良い駒に使えそうだと判断した。いや、駒扱いは流石に酷いか。


「うん、明後日に知り合いが学園入りしてくるんだけど、それと顔見知りになって欲しいなって。僕の部屋に訪ねてくるのは間違いないし、どうせメイも泊まるの今日だけじゃ変わりないでしょ?」


 つまりテストが始まる直前まで僕の部屋に泊まれ、というのが僕からの報酬の提案なのだが、そんなものでいいのかとメイはあっさり頷いた。


「全然構わんどころか寧ろ願ってもないが……この時期に転校生?」


「しかも明後日って、テスト2日前じゃない。なんでよりにもよって入学試験受けた直後に?」


 ほら来た。考えてた通りの生徒からの声が。


「……もしかして、こないだリーン君が言っていた件からすると……」


 アルは気づいたか。テスト期間に帝都に出ないよう依頼したのといつだったかに言った夏にくる転校生で分かったんだろうな。


「多分アルが考えてる通りだよ。来るのはソラだから」


「やっぱり……」


 はぁ、と溜息をつくアルにソラを知らない全員が首を傾げた。納得を見せたアルに、逆に納得がいかなかったのだろう。


「そのソラ?って人、二人の知り合いなのか?」


「うん。本名アストロン・エイス。まぁ……十分ワケアリで入学するんだけど、今高2かな?」


 学校に通った経験がないのに学年でいうのもおかしな話だが、間違ってはいないだろう。書類上はすでにそういう事になってるんだから。


「ふぅん、訳あり、ねぇ」


 含みのあるネリアさんの冷たい目に苦笑を漏らしつつ、この後の面倒な説明は本人に頼もうと心に決めた。ただでさえ厄介事大量に抱えてるのに、これ以上抱えたいなんて思わないさ。


「凄い方ですよ……ええ、ホント……」


 アルはあのゲーム形式の修行モドキを思い出しているのだろう。目がとんでもなく遠いところを見ているし、何よりも死んだ魚のようになっている。


「アル君~……?なんか凄く疲れてない~?」


 うーん、ここ暫くはあんなトラウマ確定修行じゃなくてちゃんとした基礎訓練やってるんだけどなぁ。今はテスト期間間近だから訓練すらしてないし。そんなにキツいのだろうか?少なくとも僕の修行はあんなもんじゃ無かったんだけど……


「あはは……少し勉強疲れしただけなので大丈夫です。それよりリーン君、ソラさんが来るのは問題ないですけど、何科に所属する事になってるんですか?科によっては試験半端なく大変なのでは……」


「あ、そこは大丈夫。ソラも十分ここについて来れる位には頭良いし、魔術に関しちゃキミが知ってる通り。入るのは入軍志望科だって」


 ソラの強みは何と言っても理解力の早さだ。正直アレには僕はついていけない。なにせリトスと並ぶ程なのだから、記憶力に頼る僕とはまた違った強みだ。


「へぇ!じゃあ軍人志望なんだな!オレもそこ行きたいし、話とか聞けるか!?」


「あー……うん。メイにとっては物凄く有益な情報とかも手に入るかもね」


 だって入軍志望どころか、12で軍に入ってるし。


「やっぱお前は入軍志望科だったか。俺は国に使えるとしても宮廷魔導士の方だなぁ」


「え~、あそこ超エリートコースじゃん~」


 ……宮廷魔導士、ねぇ。僕も一応その資格持ってるや。じゃなきゃ術式の改造とか解呪とか出来ないし。

 てか宮廷魔導士って、軍と同じ括りになってるから入軍志望科からも行けるんだけどな。


「私は国になら城の事務員とかやってみたいわね。色々な所に出入りする権利が与えられるって聞くし。スゥは?」


「ん~……あ!司令塔とかやってみたいな~。ほら、封印具(リミッター)の解除とかもあそこだから、有名な人と一杯知り合いになれそう~」


 ああ、僕が凄くお世話になってるあそこですね。でもぶっちゃけ有名人になるような人が封印解除しなきゃいけなくなる事態とかは避けて欲しいんだけどなぁ。

 因みに僕は緊急は緊急でも心臓止まりそうとかいう理由であそこにお世話になってるから論外な方向で。


「アル君とリーン君は?」


 この場で答えてないのは僕等二人だけ。訊かれるとは思っていたが唐突だったので、アルが奇妙な声を上げた。


「ぅえ!?僕ですか!?ええと……そう、ですね……解析系、でしょうか?僕ができるのがそれ位なので」


「僕はそもそも国に仕えてる身だしねぇ……強いていうなら書類仕事やんなくていいトコ」


 切実に願うけど、それが無理な願いだという事は自覚している。僕の願いを受け取ってか、その場の全員が苦笑した。


「うっわ、すげぇ必死だな。その希望」


「それにしても、皆どこまでもバラバラねぇ。いかにも高等部行ったら自分の学科が何やってるかで盛り上がりそうな気配」


 …………学科、ねぇ。マジどこに進もうか。


「というかそれより一ついいか?」


「ん~?どうしたのソルト君~?」


 挙手して困ったように笑うソルトに疑問を抱けば、これまた困った回答が返ってくる。


「……そーいやテスト勉強の話ってどこ行った?」





 ―――――――あ。

一方、ソラは……




リトス「ソラ君ここ違いマスネ。ここはこうかけてカラ、1の式を代入してデスネ……」


コウ「何だこれ?えーと……算数?」


ソラ「……アンタホント学生舐めてますよね。これは数学ですよ、数学」


コウ「って言われても俺算数と数学の差がわかんねぇし」


リトス「その時点で社会人としてアウトデスヨ」


エンス「お前もう一度小学生からやり直してみるか?家庭教師位はつけてやるぞ」


コウ「冗談じゃねぇ。今んトコは不自由ねえからいいんだよ」


リトス「でもこの間街で商品の値段の計算できなくて買うの諦めてましたヨネ?」


全員「……………は?」

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