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Silver Breaker  作者: イリアス
第二章 過ぎた力は害をもたらす
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第24話 騎士と鍵鑰

このままズルズル王城編なのもつまらないのでここで城内編終了です!

当分シリアスはない―――とは言い切れない。


あ、あとかなり前にSilverの番外編、「しるばー ぶれいかー」を始めたので良ければそちらも見て行って下さい。あっちは基本ギャグにしようと考えています。



 還りたい……戻りたいんです―――




 どこからか、酷く辛そうな慟哭が聞こえる。耳を澄ませなくても聞こえてくるそれに、酷く心をうたれる。

 誰なんだ、一体何処へ還りたいんだ?


 何故かは分からないが、その悲痛な叫びに()は応えたいと思った。しかし、質問しても返答は無く、ただただ切望する声のみが響き渡る。


 還らせて……姫よ、どうか私達をあの場所へ連れて行って……


 姫とは誰だ?


 姫様、どうか、あの約束の場所へ―――


 埒があかない。少しずつ情報は入って来るが、果たしてそれが何を指すのかが、点で検討がつかない。

 そう、思い続けていた。が。


 姫よ……どうか、私達を蒼穹に還して……


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「これより、アルト・ルーラの騎士の誓いを行う」


 ステンドグラスの向こう側から光が差し込み、王の姿を照らし出す。それは御伽噺のようで、見慣れている筈の僕ですら一瞬魅了される。

 時間は丁度正午。日差しが最も高く上るこの時間にエンスは儀式を選んだ。それが何故かは知らないが、少なくともSランクオーバーが全員召集されたこの儀は、並大抵の事では無い。つまり、これは聖痕(スティグマ)持ちの存在の貴重さを表した、ある意味忌々しく、ある意味喜ばしい物だ。


 宣言したエンス―――いや、ここでこの呼び名は無粋だろうか。エインセル国王は跪づいたアルトが持っていた聖剣を受け取り、そして鞘からスヴニールクレを抜いてアルトの肩へと剣の刃を置き、そう宣言した。


「汝、騎士として謙虚であれ」


 国王が紡ぐのは、昔騎士になる者の儀式だった騎士としての任命の言葉、騎士の誓い。このような形をとるのは近年では早々無いが、逆にこの儀を取り計らったという事は、その者の重要性を公にするためだという事の表れ。


「汝、騎士として誠実であれ。汝、騎士として礼儀を守れ」


 アルトは国王の姿を見る事無く、只々目を伏せて朗々と低い声で謳い上げられる命に耳を傾ける。

 彼の宣言は、何故か聞いていて心地の良い物だ。

 それは、そこに先王のような欲望も、貴族たちのような下劣な感情も混じっていないからだろうか?少なくとも、彼の愚者の詔とは違い、寧ろ神聖なモノすら感じる。


「汝、弱者には常に優しく、強者には常に勇ましく、己の品位を高め、堂々と振る舞い民を守る盾となれ、主の敵を討つ矛となれ」


 が、王が命じたその言葉に、その場に居た僕を含むオーバーSがハッとして顔を上げる。

 ここに来て明らかに異常な文が出てきた事に狼狽える。横に座っているアリアからはギリッという歯軋りの音すら聞こえてくる。

 そう、これは騎士の誓いの中でも、十分異端な物だ。

 本来、騎士の誓いには大まかなマニュアルのような物がある。王の言葉もそれに倣っている物だ。が、彼は一番重要とも言える言葉を抜かした。抜かす事のあり得ない、本来弱者に優しくあれという宣言の前にある筈のそれは、「裏切る事無く、欺く事無く」という二文の筈だ。


 アイツ、一体何を考えているんだ。僕の時でさえ抜かさなかったのに……

 幾ら信頼を置いている相手でも、あの二文を抜かす事だけは考えられないのに……ッ。


「騎士である身を忘れるな」


 しかし、そんな驚愕も最後の一文の強い意志に吹き飛ぶ。鋭く研がれた抜身の刃のような命に、スッと動揺していた気をが落ち着いた。

 そうだ、そうだった。彼が何を考えているかは知らない。彼がアルに何を求めているか知らない。

 が、彼の最後の言葉はつまり、決して味方を裏切るなと言う意味が籠っていたのは判った。エンスが裏切りを許すような愚か者で無い事位、否応ながらも理解している。のに、かれは敢えてあのようにした。

 なら、それに賭けてみようじゃないか。僕の主は、あくまでエインセル(・・・・・)なのだから。


 そしてエンスが口を閉じた事で全ての詔を唱え終わった事を確認し、アルトが向けられた刃へ口づけを落とす。

 そう、ここに誓いは成立した。


「我、汝を騎士に任命す!」


 その一言は後に残される、彼が行った祭事一覧の重要な部分として後世に残るという事を、僕等は誰も気付いていなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……何で、あんなに短い儀式なのにこんなに疲れるんでしょうね……?」


 無事に儀式を終えたアルはあの緊張感に堪えられなかったのか、部屋に戻ると士官服(魔術での防御機能付き。正し下っ端の方に近いのでそんなに強い物ではない)を脱ぐこともせずに机に突っ伏した。


「そりゃまぁ精神疲労でしょ。幾ら皆封印してるとはいえ、Aランク以上の魔力抱えた人間が7人も集まればその場の魔力(プレッシャー)も大きくなるしね」


 残念ながらその魔力を持って産まれてしまった僕には全く感じなかったが、恐らくあの時の緊張感からして相当の無意識に発散された魔力が玉座に溜まっていただろう。

 魔力は謂わば精神力。集中すればするほど高まり、使われなかったモノは体内に毒だと判断され空中へと気化される。

 ……まぁ、僕が魔力溜め込んでるのも、気化される魔力量だけで通常でもBBBランクとかトンデモナイ量で封印されてるのが原因なんだけど。ああ、もしかしたら水分を発散させないよう気孔に油を塗られた植物に近いのかもしれないなぁ。


「……ええ、皆さん半端無い威圧感で……特にリトスさんとアリアさん、途中から発散される魔力増えてたのは何ででしょうねぇ……」


 ぐったりとしながら虚ろな笑いを浮かべるアルに、僕は苦笑を返す。魔力量が増えたのは明らかにエンスの爆弾発言が原因だろうが、果たしてアルにそれを言って良いのか……いや、自分で気付いて貰おう。


「ああ、アルは知らないのか。リトスは国内2位の魔力量だからね。元々の器が他の人達とは違うよ」


 量の順位は僕がトップで、次がギリでSランクに留まっている位の量を持つリトス。で、その後にソフィアさん(オーバーS最高齢なのにどこからどう見ても僕と同年代にしか見えない凄い人。お婆ちゃんは禁句)、アリア、コウ、フュズィと続いて行く。

 まぁ、これが実力だとソフィアさん、リトス、アリア、コウ、フュズィ、僕に変わってしまうんだけど……


「……ああ、それは前にも聞きましたね。あれ?じゃあアリアさんは?」


「……うーん……実は儀式の中盤にちょっとエンスがポカやらかしてねぇ。それに目ざとく気付いたんでしょ」


 間違ってはいない筈だ。ただやらかしたのは意図的に、だけど。


「え、そうなんですか?全く気づきませんでした」


 驚くアルに僕は何とも言えぬ罪悪感を感じる。僕は悪くないんだけどなぁ……


「アルが気にする事じゃないから大丈夫だよ。とりあえず、改めておめでとう、アル」


 すっかりダレきってしまっていたので言い出せなかったが、一応はこれでアルの就職先が決まった事になる。進路を決めるには随分と早かったような気もするが、それを僕が言うと寧ろおかしな事になってしまうのでそこは黙っておく。

 だって、僕何て10代にすらなってない時に就職だしねぇ。他国じゃ少年兵は禁止されてる所も多いのに、この扱いの差はなんなんだろうか。嫌じゃないし、人殺しなんて真似も僕はしてないから今の所は別にこの生活に不満がある訳じゃ―――あったわ。仕事量の多さが。


「態々ありがとうございます。これで当分は、メイ君含む学園メンバーにばれない様にする事が目下の目標ですね。死にたくはないですし」


「……いやあの、それは嫌味なの?それとも純粋に言ってるの?」


 腹黒なアルがこの台詞をいうと僕はどちらで受け取ればいいのか本気で迷う。僕もそこそこ人をおちょくって遊ぶタイプだけど、アルのように完全傍観者なタイプのほうが絶対傍迷惑だと思うんだ……


「嫌味と純粋さの割合が7:3位で」


「ニッコリ言わないでよ!顔がやつれてて逆に怖いよ!」


 疲れて悪くなった顔色で笑われても恐怖しか浮かばない。しかも嫌味の方が比率が上ってトコが嘆かわしい事この上ない。


「あはは、まぁ80%は冗談としてですね」


「残りの20%は本気なんだね」


 こういったところが何よりもアルらしい。ちゃっかり自分の意見は通すのだ。


「これからの事なんですが、学園で生活する以上(こちら)で行われる訓練って、参加できないじゃないですか。それって、どういう扱いになるんです?」


 予想外の台詞に思わず目を瞬かせる。こんなに疲れた顔してても、ちゃんと軍属だという自覚はあるんだなぁ……今、本気で感動したよ。じゃあ、その期待に合う回答を返さなきゃね。


「そこは大丈夫。これから毎日僕と夜間訓練だからさ」


 嬉しいな。アルがそんなに仕事をする気になってくれているなんて、と上機嫌になっていく一方で、とうの本人はげ、と蛙が潰れたような声を出した。


「……リーン君と、夜間訓練ですか……?あの、因みにどんな……?」


「んー、どんなって言われると僕との連携とか、単体での攻撃力の強化とかかなぁ?一応僕はこんな身体だからさ。今まではどうにかなってたけどこれからもそうとは限らないし、アル一人で襲撃に応えられるようにしてもらわないと」


 ここに来る団体さん(テロリスト)は地味に強いから、幾ら鍛えても鍛え足りないという事態にはならないだろう。僕自身が教導したことのある人物はソラ含め数人しかいないから少々自身が無いが、そこは暫く学校で教導の授業をするコウとリトスにどうにかしてもらおう。


「……ええと、リーン君忙しいのにそんな事して大丈夫なんですか……?」


「何引け腰になってるんだよ。アルに教えるのも仕事だし、これからは僕の仕事の一部がキミに回るから少し手が空く―――可能性が出るから多分きっと恐らく大丈夫だと信じたいよ」


「凄く不安な台詞ですね」


 う゛……だって、それに付け込んでエンスが更に仕事の量増やす可能性が無きにしもあらずどころか目茶苦茶ありまくるんだもん……


「べ、別にアルを見る時間が無い程多忙にはならない筈だからさ。うん、大丈夫。時間が無ければその分内容を濃くするだけだし―――」


「…………………………………はい?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 アルがこれからの恐怖に顔を引き攣らせる一方で。

 彼と同じように机に突っ伏して目を瞑っていた城の主に、毛布を掛けるソラ。偶々書類を提出しに来ただけだったのだが、ここ数日ろくに睡眠を取れていなかったエンスはついに気力が切れたらしい。すっかり寝入ってしまっている様子に溜息をつきつつ、部屋に用意されている布団から掛けられるものを取ってきて被せると、僅かに身じろぎをした。


「ん……?」


「あ、起きたのか?」


 薄っすらと目を開いたので顔を覗きこめば、未だ半分眠っているような顔で身を起こした。


「……ああ、ソラか。ふぁ……眠いな」


「じゃあさっさと寝てくれよ。アンタが倒れるとリーンの負担が増えんだから」


 目をこするエンスに書類を差し出しつつ休むよう提言すれば、困ったような笑いを返された。この笑いはリーンと同じだ。いや、正確には彼にエンスの行動が移ってしまったのだろう。二人とも、この笑いは無理だという表れなのだから。


「相変わらずのリーン至上主義だな、お前は」


 言外にこれからも仕事だと表現しつつも、口は違う事を言う。明らかに話を逸らしている事位は気付いたが、どうも少し様子がおかしいエンスに合わせてみる事にした。いつもの堂々とした雰囲気をリトスやコウ等、エンス本人よりも年上なメンバー以外の前でもないのに外すなど、普段では早々無い。


「ふん、アイツには散々借りがあるからな。そもそもそう言うアンタだってリーン至上主義だろ?」


「そこは否定出来ないな。なんせ弄ると面白い弟分だ。可愛いに決まっている」


「……マジでブラコンだな。極度の」


 キッパリ言い放ったエンスに、うげぇっと顔を顰める。可愛い。確かに見た目は可愛いが中身は昔と変わらず全然可愛くない。主に訓練時のえげつなさは殺意すら覚える位だ。

 尤も本気で殺すには体調不良の時ですら難しいのを知っているからやろうとは思わないが。そんな真似をしたらその場で楽しい訓練(イヂメ)が始まる事間違い無しだ。


「ま、あの子は忘れ形見だからな。大切にしたくなる気持ち位察してくれ」


「……チッ。やっぱ今日はなんか変だなアンタ。普段ならもっと茶化すのにやけに真面目だし。何があった?」


 脆そうな笑みを浮かべたエンスに訝しみ、一向に元の調子に戻らない事にイラつく。元々回りくどい事は嫌いなのでとっとと聞き出そうとストレートにぶつければ、当の本人は何故か首を傾げた。


「そういえば、何でだろうな?自分でもよく分からないが―――ああ、でも多分さっき見た夢だな」


「夢?」


 王族が見る夢は予知夢を含む事もあるというのは有名だ。それ故に気を引き締めて尋ねれば、フッと切なげに瞳が青い空を見上げる。空高くを見つめながら、囁くように息を吐いた。


「……ああ、誰だか分からないんだが、ずっと声が聞こえてたんだ。姫様、蒼穹に私たちを還してってな」




 


 それが宝箱に鍵が刺さった音だという事を知る者は、この場にはいない。

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