第23話 冬の悲劇
文化祭終わったぁあああ!
よしじゃあ次は合唱祭!(え?)
……という訳で、執筆速度は遅くなってます……はぁ……
「……どういう事ですか?リーン君が半狂乱?」
目を大きく開いた後、スッと細めて疑問をぶつけるアルト。その目は、何を映し出しているのか分からないほど様々な感情を孕み、それにエンスは一瞬怯む。
……そう、ほんの一瞬だけ、アルトが遥か年上の存在のように感じた。
「…………その様子だと、無いんだな。じゃあアル君、リーンが一番嫌っている言葉は知っているかな?」
怯んで崩れた困り顔を真面目なそれに変え、質問に答えずに更に質問を畳みかける。アルトはそのことに内心ムッとしつつも、恐らく自分の質問に繋がる事なのだと考えなおして、思考を質問の答えに回し、口を開いた。
「……‘‘天才’’、ですか?」
しばし考えた後、最も彼が嫌がる単語に当たりを付ければ、返ってくるのは首肯。
「ああ。アイツ曰く『都合の良い言葉だから』らしいんだが、私達から見れば、それは『普通でない事の表れだから』嫌いなように―――いや、怖がっているように思える」
怖がっている。その一言にアルトは驚きを露わにした。
学校でのリーンは怖い者知らずといった感が強い。
例えば、教師の目の前で堂々と授業中に内職(ある意味本職)をしていたり、初等部であった訓練、完全な暗闇に一時間一人で待つ、というのでもケロッとして出てきた。子供は闇を怖がる。一応は軍学校へのルートもあるこの学園ならではの授業だが、その中で全く動じた様子を見せなかったのは、そう何人もいなかった。
それに加えてテロリストに刃物を突きつけられても尚、気丈に振舞っていた事もある。
そういった事は、今思えば軍の生活で慣れているからというのもあるのだろうが、しかし彼が何かに怯えた姿というのはついぞ見た事が無い。
「アイツは普通じゃない。それは誰から見ても明らかだ。膨大な魔力、平民出身にも関わらず貴族的な顔立ち、世界で一番優遇されているレアスキル、魔力量故の記憶力といった具合に、非常識の塊みたいな存在だからな」
独り言のように紡がれる寂しげな言葉を、アルトは真剣に聞き続ける。様々な複雑に絡まった因子に思いを馳せ、その先の言葉に聞き入る。
「それ故にあの子は普通の子供のように接して貰えない事が多かった。私も王族だからな、その傾向は強かったからその寂しさはよく解る。ある者は取り入ろうと近づき、またある者は蔑んだ目で嘲笑ってくる。あの子の場合は、平民上がりの癖にとか、呪い持ちに近づけばこちらまで呪われるとか言われていたな」
苛立った様子のエンスに、アルトは顔を顰めた。自分も平民だ。貴族からどんな風に見られているか理解もしてるし、実際にそういった目で見られた経験も少なからずある。が、それに何も感じていない訳では無い。
「……あれって、イラつきますよね……自分が何をしたって訊きたくなります」
「だろうな。私も元は第3王位継承者。兄達よりも低かった所為でかなり舐められた事があるから同じような扱いを受けた。が、リーンの受けている物の比では無いんだろうな……」
呟いた後、軽く目を伏せ、エンスは言葉を続けていく。アルトには、まるで懺悔のようにも聞こえてくる、その独白。
「一度、あの子が魘されてる時に訊いた事があるんだ。「なんで僕は普通じゃないの?」ってな。その言葉だって、今までで一番危なかった時―――一回心臓が止まってしまった時の直前に聞いたものだ。あの子は、人が傍に居るだけで寝る時すら気を抜けていないからな。余程の事がないと、あの子の心にある本音は聞けない」
瞼の裏に映る、今よりずっと小さく、苦しそうに、ギリギリで息を吐く子供。
その子供専用に完備された部屋に響いていた、不規則な電子音。
白い腕に繋がれ、また、口元に伸びる様々な管の数々。
そしてその様子を苦い顔で、必死に息を吸う子供を見つめ続けた、友人達。
今でもくっきりと思い出せる程、それは長い時間だった。そこに、突然響いた彼の慟哭。
―――な……で…………ぼくは……ふつうじゃ…………ないの―――
切れ切れな言葉から伝わる深い悲しみと、頬を零れ落ちた一筋の涙。
それを最期に、子供は息を止め、機材は煩い電子音を鳴らし続けた。
あの子は、自分の存在自体が迷惑だと考え、それ故に迷惑を掛けないよう、心配をかけない様にと何も言わなかった。のに、あの日、ついにそれが崩れた。
「…………僕等は」
ポツリと何かを伝えようとしてくるアルトに顔を上げれば、冷めた紅茶を手で包み込み、ティーカップを持て余しているような感じがした。
「僕等、聖痕持ちは皆、何故か隠し事が上手いんですよ……僕だって長い間力を隠してきたし、リーン君はあの様子からして、自分の最奥は自分でも気づけない位偽ってるんでしょう。僕の力は、リーン君の力より弱くて彼の心はこの力ですら読めません」
自分の困った癖を探し当ててしまったように心の中に在る苦慮を吐露していく。
彼がいう事は、つまり自分も嘘をつくのが得意だと、偽っても誰にも気づかれない自信があると言っているも同然の事だった。が、彼はそれを明かしてでも真摯に慰めの言葉をかけていく。
優しい、それがエンスの中でのアルトの位置づけになった。
何か大事な事を隠されるかもしれない。裏切られても気付けないかもしれない。本来王である以上見逃せない物だったのに、不思議とアルトは大丈夫なような、そんな気がした。
しかし、でも、とアルトは言葉を繋げる。
「リーン君、目を見てると凄く分かり易いんですよね。学校で何気ない会話をしてる時は楽しそうだし、嫌だと思う事があると本気でやりたくないっていう色が出る。……逆に、彼が瞳に映さない時は、何か悲しい時とかなんだって事、気付いていますか?」
微笑を浮かべたアルトに、いつの間にか固定されてしまっていた顔の筋肉をほぐし、フッと息を吐いた。良く見ている、とその観察眼に感心もする。
「……流石に、その位はな。伊達に兄だと豪語している訳じゃない―――ま、残念ながら私が末っ子の時点でアイツは本当の兄弟じゃないけどな。第一、そうだとしたら私はあの子を玉座に縛り付ける事になってしまう」
本気で嫌そうな顔をするエンスに、アルトは久方振りに心から笑った。自分から玉座に座ったのに、玉座が嫌いという王もどうなのか。
「アル君?笑う所か?ここ」
「クスッ……ええ、エンスさんがあまりに王族らしく無かったので」
唐突に笑い出したアルトに、拗ねたようなな顔で質問すれば、何やら楽しそうな声で返事が返ってくる。
一体何が彼の琴線に触れたかは分からないが、先程までの重苦しい空気は完全に消えた。
その事に釈然としない面持ちでいながらも、まぁいいかと最後のダメ押しをする。
「はぁ……ま、そういう訳だから、ちょいとアイツの精神状態には注意してくれ。昔はちょくちょくその関係で魔力爆発させてたからな」
「うわ、それは不味いですね……分かりました。気を付けておきます」
あの魔力量が暴走するなんて、考えるだけで寒気がする。少なくとも王都全てが灰になる事だけは確かだ。
「……因みに昔、暴走させてヴィレットの島を一つ消した事もあるからな。そうなった時は真っ先に身の安全を確保してくれ」
「…………え?なんですかソレ。初耳なんですが……」
島一つが消えた?冗談かと一瞬耳を疑うが、そんな冗談を言ってくる人とも思えない。
和やかな空気を消し去り、引き攣った顔になるのは仕方が無いだろう。心のそこでアルトはこう呟いた。流石人外。やれる事のレベルが違う。
「ま、表だっては先王の時代だから騒がれなかったしな……」
「あー、それなら仕方が無いと思える事が凄いですよねー」
島一つ吹っ飛んでその程度の反応なのがあの時代の恐ろしい所だ。恐らく世界一常識知らずな国というランキングがあればヴィレットは間違いなく一位になる事だろう。
そんな事実に溜息をつけば、エンスが思い出したと言うように手を叩いた。
「そうだ、あと冬―――雪が降る位がリーンが一番不安定になるという事も覚えておいてくれ」
「―――ああ、それは知ってます。毎年温度が下がるごとに顔色も悪くなってますしね……」
ヴィレットは、基本冬場でも暖かい国だ。その為雪などアルト達の世代どころか、コウやリトスの世代ですら10回見たか見ないか程度だろう。
が、エンスは雪が降るほど、と言った。リーンフォースやアルト、メイドリヒが産まれてから雪が振った回数は3回。そして、内1回は革命の日だ。
「矢張り学校でもそうか……リーンも私も、雪の日にはロクな事が無いからな……」
陰のある、自嘲するような笑みを浮かべた王を、アルトは痛々しい物を見るような目で眺める。
革命の日。それはつまり、多くの命が無くなり、多くの命が報われ、そして、目の前の王が父親を殺した日でもある。
「……でも、学園の皆は雪が振るのを凄く楽しみにしているんですよ。雪は救いをもたらすんだって」
その一方で民衆からは束縛から解放され、自由を手に入れた日ともされている。落ち込んだ様子のエンスに、慰めるように笑いかけた。
「……そうだったのか。初めて知ったな」
それを分かってだろう。エンスも、不安を隠すように、アルトに笑いかけた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「という訳で、リーン、これとこれと、あとこの書類を一週間以内に頼む」
「……あのさぁエンス?キミ、少し脳外科にでも言った方が良いんじゃないの?「私の頭がおかしいんです」って」
必死扱いてアズルに頭下げて布団から出てきた後、朝食を一緒に摂ろうとエンスに誘われ、アルが泊まっている僕の自室(エンスの部屋は食事何て出来る状況じゃないのは皆さん良くお分かりだろう)に入れば、第一声がそれだった。
都合の良いように頭が出来上がってるバカ王は、ソファにデンッとエラそうに寛いだ様子で踏ん反り返っていた。
「ああ、それと調査の結果がこれだからな。扱いには気を付けてくれよ?」
「話聞けよ脳味噌ゾンビ国王。頭だけじゃなくて耳まで納豆状態だったのか?」
キビヤック(海鳥を海豹の中に入れて地面に埋めて発酵させた多分きっと恐らく一応食材という括りに入っている物)並に腐ってるのは根性だけにしろ。あそこまで臭いと近寄れないけどな。
エンスの隣に座ってるアルなんか縮こまっちゃってるじゃないか。……アレ、でも何か楽しそう?
「いつも思うんですけど、リーン君って苦労性ですよねぇ。人をイジメて楽しみながらいじめてる人に巻き込まれるなんて、そうそうできませんよ」
グサッ!
うわ、なんか凄い突き刺さる事言われた!気付いてたけど凄い突き刺さるんですけど!
「ククク……言われてしまったな?巻き込まれ体質だと」
「ぅう、ほっとけ!第一に一番の原因は、キミの周りが変人ばっかだからじゃないか!」
奇人変人の塊やらマッドサイエンティストやら人外体力やら、何故かエンスの周りには変なのしか居ない。つまり、僕の周りがそういう人物ばかりなのは、殆どコイツの所為だ。
「…………いや、あの学校のメンバーもかなり濃いですよ?」
たとえば戦闘狂とか見た目限定天才とかおっとり系毒舌とか器用貧乏とか。
「アル、頼むから肩震わせてないでよ。てかどこに笑う要素あったの?」
本気でおかしそうな様子のアルに疑問をぶつければ、傍観者と化したエンスでさえ顔を引き攣らせる解答が返ってきてしまった。
「え?だってリーン君が本気で嫌そうな顔してるのって、新鮮で楽しいじゃないですか」
……唐突なキャラ豹変に、僕もエンスもドン引きだ。久々に見たよ。ドSモードのアル……
てか、学校のメンバーで一番キャラ濃いのはお前だよ、と言っちゃいけないんだろうか……
くつくつと後ろから紫の身体に悪そうな物を溢れさせて忍び笑いしてるアルは正直怖い。具体的に言えば師匠が楽しそうに笑っている姿の100万分の一位怖い。
「……それに、昔は散々人のこと巻き込んでたのに、今じゃコレですからね。笑いたくもなりますよ」
「ん?昔?」
少し笑いを薄くして呟いたアルに疑問を感じる。なんか、寂しそうな感じが―――
「ええ、だって出鱈目な魔法ばかり使うんですもん、リーン君。度肝を抜かれましたよ」
………………うん、そこはあんまり否定できないや。確かにあの頃は皆より何段も上の術ガンガン使ってたから、その所為で散々騒がせてた自覚あるし。
「あぁ、あの頃な。ついつい甘やかして常識レベル教えるのやらなかったら、学校から苦情来た事もあるしなぁ……」
「え、何ソレ。聞いてないよエンス」
僕の保護者は未成年とはいえ責任問題では全く心配の無いエンスという事になっている。
本来はローゼンフォールで領主に頼むべき―――だったんだけど、あの人は僕よりもポックリ逝っちゃいそうで、保護なんて勤まらなかったのだ。
で、その僕の保護者エンスに苦情が来るという事は、よっぽど学園側も手を焼いていたのだろう。国王に苦情とかフツーないわな。ゴメンナサイ、先生達。
「まぁ、授業中に一番レベルの高い技使えって言われて『誓願浄罪』なんて無属性の中でも超絶マニアックかつハイレベルな術を使う小学3年生とか嫌すぎるだろ。流石にその後はそこまでの事はしてないらしいから注意が回ってきただけで済んだが、これからも気をつけろよ?」
……ああ、あの時かぁ。そういえば皆さんポカーンって感じだったなぁ……てへ?
「……リーン君……そういえばそんな事もやってましたねぇ……」
痛い。なんでだろうか。アルの目線が発作より痛いんだけど……
てか別に今はそんな事やってないからね!いたって今は常識人ですから!
「「どの口がいうんだか」」
…………あー、今日も城内は平和な様子で―――
『陛下ッ!リトス少将が朝一で脱走しました!それとアリア一佐が実験室を爆破させて―――ッ!』
―――は無いようです。
メイ「なぁ……オレ達、ホントいつまで出番無いんだ?」(嘆き)
ソル「……名前はちょくちょく出てるじゃないか……」(遠い目)
スゥ「作者は城内編の方がシリアス入れやすくて良いんだって~」(爆)
ネリ「……の癖に大人組の陰謀を考えて進めるのは大変らしいわよ?」(冷)
全員「なら早く出番よこせよ」(怒)
リー「……僕何て、登場してるのに殆ど布団の中……僕の視点からのみだった筈がどんどん三人称に……」(爆涙)
アル「僕はこれからも活躍予定ですけどね。……主にいかにも怪しい役で……」(落ち込み)