第19話 目陰の能力
今日はお知らせが二つ程。
一つはこっちと並行で新作始めました。
タイトルは『ビブリオンの導く先へ』。『silver』より明るめになる予定です。
それともう一つ。あまりにも『silver』の最初の方が拙く、また文字数も少ないので同時並行で改訂を行います。ストーリーには全く響かないようにしますが、一応はそのことを承知下さい。
2012/05/08改訂終了
体を動かすのが苦痛だった。
枷を付けられたあの日から、ずっと終わらない、永遠にも感じる痛み。最初は本当に熱くて、辛くて、苦しくて、起きている間はずっと唸り続け、父さんやエンスに縋りついて泣き続けた。
けれど、いつからかそれに慣れ、動けるようになると、今度は逆に痛みを隠す事を覚えてしまった。父さんがごめんと謝る姿を見たくなくて、エンスがひたすら懺悔するその姿を見たくなくて。
でも、それが逆に二人を、皆を苦しめているのに気付いたのは、それからずっと後。それ故に最早癖になってしまったその行動を直せなくなり、それは今でも逆に皆に心配をかける。心配させてしまう。
そんな事、ずっと前から……解ってた。解って、るけど―――
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「……何?このむさ苦しい部屋」
ずっと寝ていたいという衝動をどうにか押さえ目を開けば、そこは何故か男ばっかの小部屋。……いやまぁ、女の人いるのは逆に怖いけど。軍の女性は個性が強すぎる。
「……散々苦しそうにしてた奴が起きたと思ったら、第一声がそれか」
沈黙を破って呆れたように目を細めたエンスはスルーし、取り敢えずここが自分用の医務室だという事を理解してから(寝ぼけて頭微妙に働いてないんだよ)痛みを訴える体を気にしないようにしながら肘をついて上半身を起こし、随分と久しぶりに見たソラに目をやる。
「久しぶり、ソラ。また背が伸びた?」
身長が中々伸びないこっちとしては大変恨めしく思いながらも声をかけると、眉間に皺を寄せたまま、彼は不機嫌そうに怒った。
「オレに隠しても無駄だって解ってんだろ。辛いなら病人らしく寝てろ」
「そうですよリーン君。ホント、凄く苦しそうに寝てたんですよ。隠すだけ無駄です」
ソラとは違い、諭すアルの声と表情への罪悪感もさることながら、後ろで黙って立つアズルが怖い。また心配させてしまったと内心反省しつつ、大人しく布団の中に戻ることにした。
「分かったよ。ごめんごめん」
苦笑してごそごそと暖かい布団の中に戻ると、全員がホッと息を吐き出す。流石に寝てる時までは分からなかったが、この分だと大分唸っていたらしい。まぁその位は体が辛いから自覚はある。
「取り敢えず、今から鎮痛剤は打つから。薬が効いたら兄さんでも引っ掛けて訓練場で魔力発散する事」
事務的にいつもの言葉を繰り返すアズルにこくりと頷いておく。が。
「ん。りょーかい。あーでもこの感覚、間違いなく近いうちに熱でてきそうかも……」
今は寒いんだけど、このダルさには凄く覚えがある。人って学習する生き物だっていうけど、こんな事学びたくはなかったなぁ。
「それ位はソラ君が既に分かってマス。あと、『間違いなく』と『かも』を同時に使うのは言葉としておかしいですからネ」
何気に勉強を強要するリトスに、うげぇっと顔を顰めて睨む。
「頭働いてない時にそんな事言わないでよ……本音、喋ってる事すら辛いってゆーのに」
「なら黙っていなさい」
ピシャリと言い放つアズルには逆らえず、大人しく口元まで布団を被る。そこでふとアルが質問してきた。
「あのところで、アズルさんのお兄さんって、誰ですか?」
首を傾げるアルに、僕も首を傾げる。
「アズルのフルネーム、聞いてないの?」
寝ている間にてっきり自己紹介をしている物かと思ってたけど、どうやら違うらしい。
「あー、アズルはずっとエンスと氷河期に入ってましたからネェ」
「氷河……?」
どういう事だと目で問えば、曖昧に笑って誤魔化される。ホント、何があった……?
「そういえば、まだだったね。じゃあ改めて。俺はアズル・シュタット。AAAの一等医官でここの軍医長やってます。あ、普通の軍人の位でいうと中将位の権限かな?」
爽やか好青年―――という見た目をキープする20代前半だが、権限は半端無く高い。医者というのは須らくして身分が高い者なのだ。
「……ん?シュタット?って。まさか、コウ元帥の弟さん!?」
あまりにも見た目が違うから気付かなかったのだろう。共通点は金の目位しかない。
「そ。君には兄さん―――コウが多大なる迷惑をかけるかもしれないから、先に謝っとくよ」
苦笑するアズルに、ええ!?と絶叫するアル。似てない兄弟は一杯いるだろうに、何をそんなに驚いているのか。
「だ、だって……コウ元帥の方が若い……」
見た目の問題か。
「うん?アル君も知ってるだろう?魔力が高ければ高い程長命で、それ故に成長も遅くなると」
エンスが何気ない事のようにいうが、そもそもそんなの知っていても身近にはいないから遠い世界の話となってるのが普通だろう。流石王族。どこか違う。
「あ……確か、第二次成長の中間頃から魔力の成長が止まる25歳前後で、急激に成長が遅くなるっていうアレですか……?」
「そう、それだ。今オーバーSで成長が止まってないのはリーン位だからな。コウは見た目は23位で止まってるが、実年齢は28、ここにいるリトスに関しては29。アズルも止まっているが、それもここ一年位で気付いた事だからな。コウの方が止まるのが早かったんだ」
成程、と頷くアルの一方で僕とソラは溜息をつく。いつ成長か止まるのか分からないのは正直怖い。
「……?二人揃って溜息ついて、どうしたんですか?」
アルにとっては成長が遅くなる=強い、という考えだから、寧ろ喜ばしい事だとでも思ってるのだろう。が、現実はそんなに甘くない。
「……あのさ、いつ成長止まるか分かんないって、下手すると大人になるのにうん十年かかる可能性があるんだよ?」
「流石に、2、30年子供の見た目は御免だしなぁ……」
顔を見合わせて微妙な気持ちを共有する僕等に、アルは小さくあ、と声をあげる。
「まぁ、ワタシ達のように成人してから止まれば大分楽ですけど、成長期で止まるとカジノとか、出入りするのが面倒になる場所も少なくないですからネェ」
ニヤニヤと笑うリトスの頭を怒って叩くエンス。目を吊り上げて睨んでいた。
「子供に何を言ってるんだお前は!そんな場所に興味を持ったらどうする!」
「安心して。そんなトコ行く暇が出来るとは思えないから」
年々増えていく仕事量から考えてもそんなところに行けるほどの時間は無いと断言できる。クリーム色の布団を更に深く被って潜ると、アズルが顔を顰めた。
「その言葉は医者として見過ごせないんだけれど、取り敢えず置いておこう。それより、薬打つから一端布団から腕出して」
「え、寒いんだけど」
嫌だなーと思いつつも鎮痛剤は欲しいので大人しく腕を出すと、いつの間にやら持っていた注射器の先端がキラリと光る。
「暖房、入れるか?」
ソラが腰を上げてヒーターのスイッチに近づくのを、首を振って止める。僕は寒いけど、5月の汗ばむ陽気で暖房なんか付けたらここにいる全員がばてる事間違いなしだ。
「……あんま、無理はすんなよ?」
流石に暖房は正直嫌だったのだろう。すんなりと受け入れてパイプ椅子に腰掛ける。
「善処はする……っ、いっつー……」
針が刺さる感覚に顔を顰めると、アルが顔を逸らす。アレ、もしかして注射駄目だったか?
「はい、終了。即効性だからあと5分もあれば効いてくると思うよ」
「ん、サンキューアズル」
アルコールの浸みた脱脂綿で腕をぐりぐりと捏ね繰り回し、血が止まった事を確認する。病気には慣れてるけど、傷とかにはあまり慣れてないのだ。
「んで、儀式どーすんの?エンス」
一端話に区切りが付いたので本題に入れば、全員が渋い顔をする。どうすればいいのか、迷っている感じだ。
「ホント、どうしような?リーンは兎も角、アル君は寮の方に宿泊届出してないんだろう?」
「はい……城に泊まれるとか、考えて無かったですし……」
まぁ入れたこと自体が凄いからなぁ。尤も、僕は後宮に泊まったりとかもしてるからそんな感覚はとうの昔に捨てたけど。
「うーん。じゃ、私の方から寮へは連絡を入れるか。取り敢えず今日はリーンも返すの危険だからな。リーン、アル君はお前の部屋に泊めてやれ」
「いーけど、ベッド一つしかないよ?」
そういって首を傾げれば、横から何やら紫のモノが見えてくる。
「何を言ってるんだい?君は今日一日ここに泊まって貰うよ?」
がしっと肩を掴まれたことに、びくりと体が揺れる。え、何、入院決定デスカ?
「そーだそーだ。今日一日ゆっくり休んでろ。仕事はしゃーねーからある程度は引き受けてやるよ」
そう言ってくれるソラに一瞬希望の光が見えるが、流石のソラでもあの量は片付かないだろう。
「リトス、お前もリーンの分引き受けろ」
「げ、ワタシもデスカ!?」
自主的に受け持ってくれたソラとは真逆で、嫌そうに顔を顰めるリト。正直、こんなのが上司だと考えたくもない。
「ありがとーソラ。育てた甲斐があるよ」
「お前に育てられた記憶はないがな」
「え、何言ってんの?色々世話したじゃん」
ふいっとそっぽを向くソラにわざとらしく目を丸くすれば、チッという舌打ちの音が聞こえる。
「え?育て?ど、どういう事ですか?」
そんな様子に疑問を感じたのだろう。明らかに年下の僕がソラを育てたという事が理解できないんだろうな。
「んー、ソラは革命の日に、僕が拾った子なんだよ」
「子っていうな。お前のが年下だ」
生意気だが昔よりも丸くなったその言い方に、ふっと笑って見上げる。居心地悪そうに目を逸らした子供っぽさに、リトもエンスもクスリと笑った。
「で、僕が学園に入学するまで衣食住の面倒見てたんだ。ま、当時から有り余る位には稼いでたから、そんなに大変な事は無かったよ?」
「強いていうなら、プライドが高くて大変デスケドネ。現在進行形で」
「う、うるせぇな……」
どんどん縮こまっていくソラが可愛く感じる。ま、軍で生活してて、細いながらもしっかり筋肉ついてる人に感じる事じゃないと思うけどさ。……僕はソラより長い年数軍にいるけど全然筋肉つかないけど……
「っと、話がずれたな。取り敢えず、儀式は明日に持ち越しだ。で、リトス。確かにあの剣は収まったんだな?」
その言葉にハッとする。そうだよ、またあんなに圧迫感満載なもの前に置かれても困る。
「ええ、そこは大丈夫デス。ネ、アル君」
「はい。選定は終わった―――っぽいので、もうああなることは無い筈です」
いたずらっ子がするそれに近い笑いを浮かべるリトスと、困ったようなアル。とにかく、あの状況に戻ることはないらしいと安堵し、どうやって戻したのかを疑問に思う。
「で、どうやって宥めたの?」
ピシリ
そんな音が聞こえたような気がする程、二人は急に固まった。え、何。何やったの!?
「あ、あははー……まぁ、アレですよアレ」
「そうそう、アレデスッテ。ネ?」
「いや、アレって何だよ」
支離滅裂な二人の言動に全員が怪訝な目を向ける。一体何があった。
「そうだな、参考に訊きたいのだが。あと、リト、お前の聖痕についてもだ」
エンスが尋ねると、更に二人の行動はおかしくなっていくのだった。が。
「……はぁ……黙ってても、いつかは言わなきゃいけない事デスヨネ……」
お、腹を括ったか。重々しく溜息をついたリトスの方を向いて全員が固唾を呑むと、焦らすように続く。
「ワタシの能力ハ―――」
「能力は?」
エンスが繰り返すと、ニッコリと笑っててへっと首を傾げるリトス。
「果物の木限定で成長を促せマス!」
その言葉に全員が凍りついたのは、言うまでもないだろう。
メイ「……なぁ、ソルト」
ソルト「……なんだ?」
メイ「……オレ達の出番って、いつあんのかな……?」
作者「えーと、下手すると10話位ないかもねー」
メイ・ソルト・ネリア・スゥ「マジでッ!?」
マジです。