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Silver Breaker  作者: イリアス
第二章 過ぎた力は害をもたらす
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第18話 黄金の車

今回は早く書き上げられた!

でもリーンの出番少ないです。あといつもよりぐだぐだ感が増してます……


2012/05/10改訂終了

 懐かしい、夢を見た。


―――ちょ、待ってよフォー!?―――


 彼女(・・)はギョッとした顔で僕を追いかけて来る。彼女だけが呼ぶ、僕の愛称を呼びながら。


―――もー、早く!早くしないと、席無くなっちゃうよ!―――


 一方の僕は彼女が振り返って、怒ったフリをして頬を膨らます。

 少し活気が僕が知っていた頃より寂れてしまった街だが、人がいる限りはあちらこちらから商売の声が響く。白と茶と緑で統一された街は、様々な感情を呼び起こす。

 そして、その景色に僕はやっと気付いた。

 そうか、これは彼女と初めてお忍びで遊びに行った時か……


 夢の中の僕は、笑いながら街の中で後ろ向きに走る。追いかけて来る彼女の必死さが可笑しくて、初めて一緒に遊びに行けた事が凄く嬉しくて、くすくす笑いながら手を振れば、彼女も笑ってこちらへ向かってくる。


―――フォーみたいに訓練受けてないんだから、早くって言われても無理だよー!―――


 そう叫びつつも駆けて来る彼女は、だんだんと僕に追いついてくる。

 翻る薄い平民用のスカート。

 踊るように乱れる薄茶の髪。

 まるで宝石のように輝く琥珀の瞳。

 少しでも悲しい事を忘れて欲しくて贈った、赤い髪止め。


―――捕まえた!―――


 後ろ向きで速度が落ちた僕を、ついに彼女は捕まえた。彼女の右手に掴まれた左手は、彼女の熱で温まっていった。


―――まったく、ホントに6歳?なんで12の筈の私が捕まえらんない速さで走れるのよ―――


 荒い息をつきながらも呆れたような声で笑う彼女に、僕は皮肉気に笑ってみせる。


―――そりゃまぁ、きたえてるからねぇ―――


―――……はぁ、絶対そんな言葉じゃ片付かないでしょ。速すぎ―――


―――んー、しいて言うなら聖痕(スティグマ)じゃない?たいがいこの力持ってる人ってハイスペックらしーし―――


―――……私もそうなんだけど、この差はどーいう事なんでしょう?―――


 剥れた彼女に更に僕は笑うと、頭をパシンと叩かれた。

 それを今の僕(・・・)はごちゃ混ぜになった辛い感情で眺める。

 今の僕が見ている街も、人も、彼女も、全てが僕の記憶通りで、それ故に叫びたくなる。


 もう止めて。

 見たくないよ。

 僕が悪かったから。

 楽しかったあの頃に戻れない事位、解ってるから……

 理解してるから……だから……



このまま、平穏な事の()まで思い出させないでよ……!



―――――――――――――――――――――――――――――――――


「へ・い・か?おかしいな?確か俺、前にリーン君が倒れる程の仕事押し付けないように言いませんでしたっけ?」


 首を傾げてニッコリ微笑む白衣の男は、エンスを刺すような視線で見つめた。吹雪が吹き荒れる中、針の筵に立たされたような気分を味わいつつも、エンスはその視線をあえて見ないように努力する。


「……ああ、確かに聞いたな……」


 顔を反らして目を泳がせつつも、一応返答した国王に更に男は笑みを深くした。それを見たリトスが悪魔降臨……と呟いたのをアルトは運悪く聞いてしまった。

 そして二人は氷河期に突入する。


「そうですか。良かった。てっきり言い忘れてたのかと思いましたよ。それでは、ちゃんと覚えているという事なので一つ質問しますが、ちゃんと、約束守る気はありましたか?」


 小首を傾げる白衣の男に顔を更に逸らすエンス。それを見た男は深く溜息をついた。


「全く……何度も何度も何度も何度も言ってるのに一向に改善されないのは、こちらとしても困るんですよ。特に丁度成長期の筈のリーン君が一向に大きくなれないのは、半分以上陛下の所為ですよ」


 疲れた顔でそう宣言され、エンスはぐぅの音も出なくなった(死語)。リーンが背が伸びないのを気にしているのも、あまり肉が付かず軽いのも、それが自分が押し付けた仕事の所為だと理解はしている。


「…………………………………」


 だんまりを決め込んだエンスに、更に男は説教モードへ変化していった。


「それと、貴方自身の身体もです。ここ一月、点滴を打つ回数が増えてますよね。しかも俺が知らない間で」


「あー……そう言われても、夏が近くてだなぁ……」


「ええ分かってます。あと2カ月で、準備が終わりそうにない位は。でも陛下やリーン君が無理して倒れたら、更に面倒になるという事くらい分かりませんでした?」






 そんな風にエンスが押され続ける姿を部屋の隅で眺めていたアルトがポツリと呟いた。


「……陛下でも、押される事ってあるんですね」


 この短時間でエンスの性格をどう思っていたのかがありありと見えるその台詞に苦笑しつつ、リトスは氷河期からアルトへと視線を移した。


「特に彼、アズルはリーン君とエンスの主治医ですからネェ。色々と昔にあったんデスヨ……そう、本当に、色々ト―――」


「……色々って、なんですか……」


 遠い目で語るリトスに訊きたいような、訊きたくないような気分になりつつも思わず口に出す。それを知ってか知らずか、リトスはふっと微笑んだ。


「知りたいデスカ?あまりお勧めはしませんガ……」


「結構です」


 嫌な予感がバリバリな台詞に、死亡フラグはいらないと即答するアルト。恐らくその選択は間違っていないだろう。


「ま、そーいう訳で、エンスも下手に逆らえないンデスヨ」





「そもそも、リーン君もどれだけ弱ってたか気付けなかった理由は、陛下が尽く仕事で病院に来る筈の日を潰したからなんですが。ああ、後は最近襲撃が竜以外に無かったことで、魔力の発散が出来なかったんでしょうか?……彼、回復も早いからなぁ………………………フフフフフフ………………………」





「……そうですね。僕も逆らっちゃいけないような気がしてきました…………」


 寒気を覚えるような気味の悪い笑い方に思わず鳥肌が立つ。ぎょっとしてアズルの方を見れば、虚ろな目で笑っていた。


「あー、アズルは魔力の回復量が絶望的に遅いんですよ……ワンランク回復するのに一週間とかかかるンデ……」


「へ、へぇ……確かにリーン君、回復量も凄いですからね……」


 確か(ドラゴン)退治の後、あれだけ大技を繰り出し続けても次の日には元の量に戻ったと言っていたような気がする。それではコンプレックスが刺激されるのも無理はないのだろう。


「……まぁ、そうデスネ……」


 どこかバツの悪い顔で頷くリトスに首を傾げようとすると、それを遮るようにエンスが言葉を発した。


「そ、それよりアズル。リーンの具合は、どうなんだ?」


 明らかに逃避するための台詞だと分かっているものの、それが一応は本題なので溜息を深くつきつつもアズルはリーンが寝ているベッドの方を向いた。丸まって横たわる当の本人は、相変わらずの白い顔で魘され続けている。


「……最悪、まではいかなくてもそこそこ辛いと思いますよ」


「……症状は?」


 漸く真面目な雰囲気に変わった個室(リーン専用部屋)に集う4人は揃って眉を顰める。その様子に、アズルは深刻そうな顔で俯いた。


「寝不足から頭痛、眩暈、気持ち悪さ、魔力から体の節々の痛み、体温調節の不調、疲労、悪心、腹痛、息苦しさ、他諸々、いずれかの可能性がありますが。多分、魔力の精製は胸の辺りなのでその辺りには間違いなく異常が起きてるでしょうけど」


「……あの、真面目な雰囲気でこんな事言い出すのもアレですケド、それ病気全部って言った方が早くないデスカ?」


 真面目な顔で伝えられた内容にリトスは顔を呆れさせ―――もとい、引き攣らせる。そもそも、体調が悪い時点でそのうちのいずれかに該当している事くらい3歳児でも分かる。


「そう言われても……魔力がもたらす影響っていう分野は被検体が絶対的に少なくて、殆ど何も分かってないんですよ。そんなバカ魔力量がポコポコいたら堪ったものじゃないですし。でもまぁ今回は死にかけた訳でも死にそうな気配も無いんで、マシな部類に入りますから安心してください」




「……ぅ……ぁ……」


 さり気無く罵倒された事に怒るように声を上げるリーン(偶々)。死にかけてないとはどういう事かと眉間に皺を寄せるアルト。それを流してサラっと毒をはいたアズルは言葉を続けた。


「ああ、でも多分この後熱が上がるのは確実でしょうね。今は逆に低体温になってますけど」


 その言葉にギョッとしてエンスはリーンの体に触れる。確かに、冷たい。


「……気付かなかった……」


「そりゃまぁ、抱えて来たのワタシデスシ。陛下が気付かないのも無理は無いト―――」


 何故かリトスが言葉を続けるごとにどんよりと落ち込むエンスに敢え無く閉口した。


「……気付けなかった……」


「あー、へーか?そんなに落ち込む事ないじゃないデスカ……」


「……気付けなかった……」


 駄目だこりゃ。と完全に見切りをつけたリトスは二人に首を振る。それに大仰にアズルは溜息をついた。


「流石ブラコン。たかだかその程度で落ち込むとは思ってませんでしたよ……」


「ブラ……一応訊きますが、リーン君と陛下って血の繋がり無いですよね……?」


 確認でアルトが尋ねると、アズルとリトスは黙って顔を見合わせた。そして困ったように目じりを下げ、リトスが口を開く。


「……まぁ、リーン君は記憶喪失で見つかってますし、王族は今や陛下とゼラフィード公爵家だけですから、そこで分かると思いますガ……エンスがリーン君を義弟だと思ってるのは、エンスは三人兄弟の末っ子デシタシ、あんなのが兄弟だったから、どうも弟ができた気分だったラシク……」


「昔は素直で可愛かったリーン君を溺愛した結果みたいな感じかな?」


 二人から語られる過去にへぇとアルトは相槌を打つ。小さい頃のリーンを見て見たいかもという気になったのは普段の少し捻くれてるリーンを見れば仕方がない。


「リーン君、小っちゃい頃は可愛かったんでしょうねぇ」


「エエ、それはモウ。下手に髪を切る事すら許されなかったので、正に女の子デシタヨ」


 くすくすと笑うリトスにうんうんと頷くアズル。エンスは再起不能らしく未だ俯いて何かをブツブツ呟いている。


「あと性格も中々、ね。昔はリーン君、エンスの事を『にいさま』って呼んでた位」


 今ではあり得ない台詞に目を見開いた。憎まれ口を叩くばかりの関係かと思っていたが、案外親密だったらしい。それなのにどうやったらこうなってしまったのか―――





「……ッあぐ……っ!」


 唐突にリーンがあげた苦しげな声に、全員が顔を上げた。苦しげに丸まって胸元を押さえるその姿に、息を呑んだ。


「リーン!?」


 一番リーンの傍で座っていたエンスがガタンと大きな音をたてて立ち上がり、リーンの顔を覗き込む。

 一方アルトは眼を開き、リーンの状態を調べようと解析を始める。

 それと同時にバンっと勢いよく扉が開き、誰かが入って来た。


「リーンが帰ってきて早々倒れたと聞いたんだが……!」


 入って来たのは16、7歳前後の青年。灰色がかった空色の長い髪を後ろで一括りにしていて、そこそこ背は高い。恐らく急いで来たのだろう。そこそこ息が乱れているが、そんな事お構い無しでアズルを見る。


「ソラ君……なんてバッドタイミングで来たんだい……」


 呆れたようなアズルの目線に訝しげな顔をするソラと呼ばれた青年。しかし次の瞬間にその言葉を理解する事となった。


「……や、だ……っ……っつ……ぐあっ……」


 魘されている上に痛みの声が混じり、何が何だか分からない台詞。それなのに何故かソラはリーンの状態を一瞬で理解した。


「この状態……魔力が大分溜まったのか?」


「ああ。流石はソラ。よくわかったね」


 アズルはそれに肯定を示しつつ、リーンへの鎮痛剤の準備を始めた。その手馴れた様子にアルトが声を上げる。


「ア、アズルさん?症状が分かってないのに鎮痛剤って大丈夫なんですか?」


「ああ、ソラが来たなら直ぐ分かるから」


「へ?」


 唐突過ぎる展開についていけないアルトとは裏腹に、エンスがソラへ質問をする。


「今のリーンの症状は分かるか?」


「んー……幾らオレでも限度はあるんだが……頭痛、眩暈、寒気、吐き気、あと……多分心臓か、いや、肺の痛み?だな」


 アルトのように能力を使ってる訳でもないのに言い当てていく事に、更にアルトは大きく目を開く。


「合ってる……?」


 独り言のように呟いた台詞を聞いていたリトスが、その疑問に答えるように説明を始めた。


「ソラは少々特殊な環境で……?というか不思議な状態で……?アレ何かこれもしっくりきませんネ……うーん……ま、ちょっと面白い育ちをしたんで、その影響でリーンの体調変化が分かるんデスヨ」


 が、あまりにも説明があやふやすぎて結局大した事は分からなかった。


「……そうなんですか……」


 取り敢えず頷いておいたが、全く理解出来ていないのが分かったのだろう。ソラは苦笑してアルトを見下ろした。


「お前がリーンが後見に立ったていうアルト・ルーラか」


「あ、はい!アルト・ルーラです!」


「オレはアストロン・エイス。ソラってのは渾名みたいなもんだ」


 ガラガラとアズルが点滴を運んでくる横で苦笑して自己紹介をする二人。少々場違いなのは否めない。


「んで、何でリーンが早々倒れたのか説明が欲しい―――いや、やっぱいいわ」


 エンスの方を向き直って尋ねようとしたのを途中で止める。訝しげな顔をするエンスに、ソラは顎をリーンの方へしゃくった。


「お目覚めだ」


「……う………?」


 それと同時に震える左目。ゆっくりと上がる瞼に全員がホッと息をはいた。


「リーン君、起きてるか?」


 目を何度も瞬きさせる様子にアズルが声をかけると、視線はのろのろと上に向かう。

 そして。





「……何?このむさ苦しい部屋」





 まさかの言い放った一言に、全員が絶句した。

この間行ったネズミの国でのテラと破矢音と友人Mとの会話。


テ「あれ?あの草、毒草じゃなかったけなぁ……」

破「お前夢ぶち壊すなよ。幻想殺し発動?」

イ「……いつか言い出すと思ってたよ……そーいう(植物)知識……」

M「……」(無口キャラ。幻想殺しのネタは分かってない)


因みに自分はディズニーオタの家に産まれてしまったディズニーオタク(遺伝)です(笑)

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