第16話 意思の剣
スイマセン!遅くなりました!
解説に少し時間がかかって……
2012/05/01改訂終了
本日の天気、快晴。
目の前の様子、エンスが不敵に笑って僕等を見下ろしている。ウザい。
現在の状況、儀式用剣の逃亡を知らされる―――って、最後の明らかにおかしい!幾ら幽霊精霊竜魔物神yasai他もろもろ妙な生き物が大量にある世界でも、剣が逃げるなんて現象聞いたことも見たことも無い!
「何その珍状況!?あの剣が幾ら特別だからって言っても足が生えて逃亡なんて言うなよ!」
指をビシッとエンスの方に向けて怒鳴ると、アルは剣が逃げるなんて訳が解らないという顔をし、エンスは困った顔で頬をかいた。
「いやまぁ、言い方が悪かったな。正確には、剣を持ってくる手筈だったリトスが剣を持ったまま逃亡中だ。因みに足が生えて自分から逃亡するなんて発想、よく出てきたな」
変な所で関心しているエンスに、何故か幾分か顔色を悪くしたアルがポソリと呟いた。
「まぁ足が生えた野菜は奇声あげて実際に逃亡してもおかしくないと思いますけどね……」
「は?野菜?」
その呟きが聞こえたらしい。エンスが疑問を口にしたという事はコウとリトスから報告を受けてないのだろう―――ってそうだよ!リトだよ!!
「野菜は置いといて、リトスが逃走って、今日は何をやらかしたの?」
少々呆れも含ませて尋ねると、苦笑したアルがリトスのフォローを入れてきた。
「え?いやリーン君、そんなしょっちゅうリトス少将が何か問題を起こしてるような発言は―――」
「今日はまだ何も。だが何故か暴走したアリアが八つ当たりか何かでリトを追い回しててな。ああ、でも昨日はコウと久しぶりに手合せすると言って訓練場の一部を破壊してたな。修理は自分でやらせたが」
が、それをぶち壊すエンスの発言。さしものアルもえ……、と絶句したきり何も言わなくなってしまったが、事実なんだから仕方がない。寧ろ今のうちに現実を知っておけただけまだマシだろう。僕なんて最初にアイツらが暴走した時は、巻き込まれて悲惨な目にあったし。
「てかちょっと待て?もう一つ質問なんだけど、アリアが暴走しだしたのって、どの位前?」
「ん?確か―――30分程前か?もう少し前かもしれんが、私が気が付いたのはその辺だな」
……成程。間違いなさそうだ。
「あー……なんつーか、ごめん。アリア大暴走は僕等の所為かな」
明らかにアルを手に入れられなかった事を根に持ってる、どころかキレてる。じゃなきゃ幾らアリアでもリトを追い回して儀式の邪魔するなんてしない……筈。うん、アリアごめん。微妙に信じきれなかったよ。
「は?アリアのお気に入りのお前が?珍しいな」
「アリアが僕を気に入ってんのは明らかに探究心からってのはまぁほっとくとして、今日の暴走はアルが逃げたからだと思うよ」
そう言ってアルの方を振り向くと、ビクッと体を竦ませる。ま、モルモット扱いは怖いわな。
「……アル君、一体君の前でアリアは何をやらかしたんだ?」
一瞬アルが震えたのをとらえ、さしものエンスも冷や汗を流しつつも本人に問う。ま、大事なお客さんみたいなものだからな、アルは。僕はいつの間にかこんな扱いになってたけど。
で、質問を受けたアルは、ふいと顔を逸らしてポツリと呟いた。
「…………上から降ってきました」
ああ、あの時のアリアの(捕食する者の)目が怖かったのか。
「たしかにアレは昔ジャングルに放り込まれた時に見たライオンと同じ目してるよね」
「……あの、一体どんな生活を送ってたらジャングルに放り込まれる事なんてあるんですか?」
うんうんと頷いていたら、本気でドン引きした様子で訊かれてしまった。ちょっとショック。
「そーいやそんな事もあったな。たしかあの人に連れられてどっか行ったと思ったら、3日後に重症で帰ってきたっていう」
「っ師匠の事は思い出させないでよ!鳥肌たったじゃないか!」
ぞわりと何かが肌を這いずるような感覚が伝い、それに震え上がる。つまりは、それ程の恐怖なのだ。あの人の存在は。
「え、リーン君師匠なんていたんですか?」
一方何も知らないアルはへぇーといった具合に頷いている。……知らないって、世界一幸せな事なんじゃないかなとふと思った。
「いるにはいるんだけど……」
果たしてアルに教えても大丈夫なものか。あの人の存在はヘタすると前王以上にタチが悪い。
「どんな方です?」
更に追い打ちをかけるアルの一言。僕もエンスも困って顔を見合わせる。
とそこで。
バンッ!
「ス、スミマセン……っげほっげほっ、何とか、はぁ、アリアを撒けマシタ……」
突然扉が開いたかと思うと咳込みつつもリトスが入ってくる。なんてナイスタイミング。
「ああ……お疲れ様。で、剣は?」
苦笑しつつも心底労った後、早速剣の事を訊いてくる。が、そんなのは建前だ。この剣がちゃんと持ってこられている事なんて、見なくてもその存在感で分かる。
「勿論此処ニ」
ふっと笑って差し出した物は、青い宝石が一つ埋まっただけの簡単な作りの剣。しかし半端無い量の魔力が煉られている刀身からは重圧感がひしひしと出、一瞬座り込みそうになる。
「な、あの剣……!?」
一歩下がったアルが呆然と呟く。驚愕に開かれた眼にはプレッシャーのせいか焦りの色が濃い。
「聖剣スヴニールクレ。何でも1万とんで5千年位前に当時の国王が当時もっとも力のある者に魔力を籠めて作らせたとかで、この国の国宝。一応使い道は魔物退治だった筈なんだけど、人間には殆ど懐かないから今じゃ儀式用だね」
「な、懐く?」
どういう事だと問いかける目に、今度はエンスが受け答えする。
「この剣には意思があってな。王族、もしくは気に入った魂を持つ者にしか触らせないんだ。今代のお気に入りは私、リトス、リーンの三人で、それ以外の者が持つと体が拒絶して切り刻まれる」
「……それ、よく呪いの剣だと思われませんでしたね」
変な所で関心しているアルに苦笑しつつもエンスはまぁな、という返事を返す。
「因みに触れるって言っても、僕は三回しか触った事ないけどね。剣は苦手だし」
なのになぜアレが僕を気に入ったのか、激しく謎だ。
「ん?リーン君?今剣が苦手って―――」
「言ったね。実際使えなくもない程度だし」
ところでアルはエンスへの緊張はどこへいったんだか。いやまぁ僕としては良い事なんだけど。
「え、いやでも学校でメインウェポンにしてますよね!?」
「だって一番皆のレベルに近いじゃん」
いくら僕が魔術や武術に秀でていることになっていても、流石に学生の領分を超え過ぎる訳にもいかないだろう。その点、剣術ならメイ以下の腕だから多少の問題は軽減される筈。
「いやいや……流石にあのレベルで皆に近いって言われましても……」
ぶんぶんと首を振るアルに、面白そうにエンスが口を出した。
「いや、リーンは剣に関しては私以下だからな」
「ええ、昔はよくエンスを相手にして玉砕してましたッケ」
懐かしそうに語る二人にキッと睨む。
「うっさい。剣以外なら勝てるからいーんだよ」
忌まわしい事に僕の剣は凡人の域を出ない。お陰で剣に関してはかなりの才能があるエンスや、言わずともがなの天才リトス、武術に関してはリトスに並ぶコウには散々ボロクソに言われた。
「ま、そりゃそーだ。お前とは記憶力が違う」
「なにせSランクオーバーで度々見られる、記憶力拡張能力ですからネェ」
「へ?」
この中で唯一知らないアルは呆けた顔でこちらを振り向く。ま、今まで言ってなかったしな。
「まぁ、大雑把に言えば完全記憶能力的なものなんだけど。一回見たものは大抵忘れないよ?」
もっとも、完全に記憶は無理なんだけど。大体ぼーっとしてる時には記憶が働かないし。
「……あの、テストの点数は?」
暗記教科なら100点を取るなんて造作もないにも関わらず、90点台で止めている理由を訊きたいのだろう。
「それはエンスの命令」
「だって他の学生にはアンフェアだろう?そもそも根本的に違うんだからな」
あ、アンフェアときたか……確かに否定は出来ないんだけど、少々傷つく所がある。そっか、僕ってアンフェアな存在だったんだ……
「根本……アンフェア……卑怯……ふふふふふ」
「いやいやそこまで言ってませんカラ」
「えっと、大丈夫ですかー?」
どーせ僕は人外ですよーだ。魔力の質がそもそも違いますよーだ。
「人外……アンフェア……卑怯……化け物……」
「あー、変なトコ抉ったか?」
「ちょ、戻ってきて下さいリーン君!?」
「エンス!何落ち着いてんデスカ!?早くリーンの暴走止め―――」
リィン……
「へ?何今の音?」
唐突に響いた何かが鳴る音。それに僕等は話すのを止める。まるで鈴が鳴るような金属の音だが、別に何にもぶつかっていない筈。
リィン……リィン……
「……呼ばれてるぞ?リーン」
「効果音でリィンになってるだけだから!てか、何が鳴って……」
「剣です」
落ち着いた様子のアルが会話を遮り指を指す。
その指が指す先には、リトスが握ったスヴニールクレ。しかも微かに震え、リトスが一瞬落としそうになった。
「オット……って、あの何か、共鳴してる感じなんですガ……」
「共鳴?」
どうにか両手で押さえるも、顔を顰めてこちらを向く。押さえられた剣は未だ絶えることなく震え続け、少しずつ魔力を高めていく。
「共鳴って、一体何に―――」
「……リーン君、一つ質問いいですか?」
「え、いいけど何?」
突然声がかかり驚きつつもアルを見ると、既に聖痕が発動されて剣へと向けられていた。
「もしかして、この剣精霊によって造られた的な伝承もありませんか?」
「あれ、なんで分かったの?確かにそーいう説もあるけど、色々と矛盾点が多くて今はさっき言った説が有力だよ?」
真剣な表情な所が気になるが、一応はそういう事になっている以上それが関係するとは思えない。が。
「…………」
黙って何かを考え込むアルに、少し考えを変える。
「アル君、これが何に共鳴してるか分かるのか?」
「ちょっと待って下さい。リーン君、22+18って、どこからどう考えても40ですよね?」
は?何を突然言い出したんだ?
「そうだけど何か関連性があるの?」
「ええ、凄くあると思いますが―――あ」
そうだと言わんばかりに手をポンと叩いたアル。そして何故か、リトスの方を向き直る。
「ワタシに何カ?」
「……リトス少将、もしかして、聖痕持ちじゃないですか?」
…………………………………は?
「……いや、違いますケド……?」
勿論そうだったら、既にアルに話しているし僕の悩んでいたこともとうに解決していた可能性だってある。なのにリトスが聖痕持ちだなんて訳が無い。てか、質問が唐突すぎやしないか?
「……あー、因みに、お幾つですか?」
「29デスガ……」
ドンドン訳の分からん方に進む会話に僕とエンスは最早蚊帳の外状態だった。が、リトスの歳を訊いて逆にアルが絶叫する。
「は!?29!?え、いやいいとこ22、3かと思ってました……あれ?でも29?なら覚醒が始まってても……」
「ちょ、ちょっと待ったアル!覚醒ってのも気になるけど、なんでリトが聖痕持ちだって思ったの?」
このまま暴走しそうなアルにストップをかけ、こっちの質問をする。既に儀式なんて出来る状態じゃなくなってしまっている。
「えーと……魔力以外の力には階位があるんですが、この剣、その場に合計45以上の階位があると共鳴―――というか、選定を行おうとするんです?」
「何の選定だ?」
何故か疑問形で終わった解説は取り敢えず流し、エンスは肝心の部分を訊く。
「さぁ?流石にそこまでは視れませんでしたので―――ただ、もし選定の為に共鳴のような現象が起きるには、リーン君の聖痕22階級分と、僕の聖痕18階級分であと5階級足りないんです」
で、魔力以外の力=大半が聖痕っていう式の結果、リトが聖痕持ちと。
「ん?じゃあエンスの可能性は?エンスが聖痕持ちだってこともあるんじゃ……」
「あり得ません。ヴィレットやヘルメス、ミッテルラントのようなSランクオーバーが多く生まれる国の直系王族は普通聖痕持ちに産まれる事は無いんです。理由は分かりませんが……」
……何故アルがそんなことを知っているのかが気になる所だが、今はそれより―――
「ちょっと待ってくれ!王族は普通聖痕持ちに産まれないと言うのは本当か!?」
「例外はありませんカ!?」
突如エンスとリトスが必死の形相でアルを止める。が、何故そんなことを訊くのか僕には分からない。
「え、えーと、例外は4つの能力が当たりますが……あ、でも今は3つですね」
戸惑った様子のアルに二人は更に詰め寄る。
「3つ?」
「ええ……本来は4つで、身体火変、真抵土虚、聖源水栄、永遠風護が例外なんですが、もし例外的に王族から産まれたとしたら銀髪なんです。でもほら、永遠風護を持ってるリーン君は銀髪じゃないですから、その時点で可能性は3つです」
少し困った顔でアルが解説すると、二人は納得の表情を見せた。
「ええ、確かにリーンは金髪ですし、当てはまりませんネ……」
……って待てよ?じゃあ僕の力って例外になるような力だったのか?
そう思いつつもどこかホッとした様子の二人に声をかけてみる。
「昔王族に居たの?聖痕持ち」
「……ああ、一人、な」
苦笑して返すエンスに僕はそっかと返しておく。絶対昔何かあったな……
「という訳で、多分リトス少将は覚醒前―――つまり、皮膚に紋が浮かび上がる前の聖痕持ちですね」
……………………………………あれ、断定?