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Silver Breaker  作者: イリアス
第二章 過ぎた力は害をもたらす
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第15話 彼方の存在

少々遅くなりました。でも漸く王様登場!

2012/04/28改訂終了


「ここが、ウィルビウス城―――」


 圧倒的な雰囲気を醸し出す目の前の城に感動したのか、それ以降口を開かなくなったアルに思わず薄く笑いながら、僕はここの説明を軽くすることにした。いつもは遠目からしか見れないここは、本来ならこんな近くで見ることは出来ないから仕方がない反応なのだろう。


「そ、彼此5000年位の歴史を持つ、世界一古い王城。魔術で保存されてるから、未だに崩れる事無くここまで保ってきたんだけどね」


 僕等の前にそびえ立つのは、青と緑を基調とした巨大な城。閉ざされた細かい装飾のなされた大きな門

の奥には、噴水や薔薇園などがある庭園。そして極めつけは、あちらこちらに居る尉官以上の軍人達。まさに壮観というに相応しいその城の前で、僕等は立ち止まっていた。理由は―――


「リーイーンー!」


「……で、リーン君。こっちに物凄い勢いで走ってくるあの女性は?」


―――ニッコニッコと笑いながら手を振ってくる二十代程の女性が、物凄い爆走してやってくるから。しかも左手には30歳前後の男の人が引きずられていて、何やらカオスな空間が出来上がっている。


「……女の人はアリア・ローリエ二等陸佐。前に言った特務部隊所属の研究員。引きずられてんのはフュズィ・トーレス。通称フュジー。Sランクオーバーの少将で主に魔物退治とか被検体とか荒事専門をやってる人。簡潔に言えばアリアのパシリ」


「……よく解る説明をどうも有難うございました……」


 これから重大な儀式の前だというのに何故か気分が落ち込む中、気付くと彼女はあと10m程の所まで近づいてきていた。


「リーンー!」


 そしてげんなりする空気を余所に、アリアは唐突にフュジーを捨て(・・)地面を蹴り上げる。


「へ?」


「ってまさか―――」


 何をするのか判らず疑問の声を上げるアルと裏腹に、安易についてしまった想像に顔を青ざめると、案の定次の瞬間に彼女は僕の頭上にいた。ふわりと浮かびあがった体。オレンジ色の長い髪が太陽光でキラキラとして、琥珀色の眼は輝いている。それはまるで獲物を見つけたライオ―――げふんげふん。もふもふしたウサギを見るようだ(ただしオオカミが、という言葉は追記したらいけないのだろうか?いや、バレたら殺されるな、僕)。


「ひっさしぶりー!!」


 さてここで質問です。僕より20cmほど背の高い女性に跳びつかれたら、僕はどんな声を上げることになるでしょうか?因みに答えは―――


「ごふっ!?」


「なんか小さくなったわねー。ちゃんとカルシウム取ってる?」


 僕の呻きを知ってか知らずか、アリアは膝をついた僕の頭を撫でくり回す。子供じゃないし縮んでない、と叫びたいところだが、更に揺らされて気持ち悪……


「おーい、いい加減離してやれよー。リーンの顔色がどんどんゾンビみたいになってんぞー」


「ってリーン君!?大丈夫ですか!?」


 揺らされて乗り物酔い状態(グロッキー)になっていると、そこで漸くフュジーからのストップサインとアルの心配する声が上がる。その声で気付いたのか、はっと顔を上げてやっとアリアは僕から手を離した。


「って、ヤバ。いやー、ごめんごめん。そーいやあんた身体弱かったのよねー」


「……いや、これはそれと関係ないと思―――ぅぷ」


 込み上げて来る酸味のあるモノを懸命に喉の奥へ戻し、息を整えてから始めて僕は三人の顔を見上げた。


「で、何で二人はこんなとこに来たの?普段は研究室に籠りっきりなのに」


 アリアが白衣を着ている事から今まで籠ってたのは簡単に想像がつく。なのに外に出て来るなんて珍しい。


「何いってんのよ。アンタの紹介した子が来るっていうから見に来たんじゃないのよ」


「そーそー。お前が直々に推薦なんて初めてだからなー。で、どの子?」


 ボサボサした長髪をがしがしとかきながら辺りを見回すフュジーに、僕は溜息をついて二人の後ろに居るアルを指差した。


「「ん?」」


 二人が目をやった先には、困ったような顔でこちらを見るアル。まぁ正直強そうにはさらさら見えない。


「……えーと、君が?」


「あ、はい……アルト・ルーラです」


 ぺこりと頭を下げるアルに、二人とも少し驚いた顔をする。そしてアリアの目がキュピーンという擬音が聞こえるような光り方をした。それにまさか、と思うや否や、ガバっとアルを掴んだ。


「じゃあアナタが透視能力者!?どのくらいの精度?大体距離や厚さはどん位まで分かる?解呪法も分かるってほんとよね!?」


「あーもうやっぱり。アリア落ち着いて」


 絶賛大暴走中のアリアに呆れつつも馬の要領でどうどう、と抑えようとしたがどうやら無駄だったようだ。


「これが落ち着いてられると思ってんの!?この能力だけでどれだけ先へ進めると思ってるのよ!そうすれば私の研究も……ぐふふふふふふふふふ」


 駄目だこりゃ。完全に暴走してる。明らかに顔は研究結果が出た時の事考えて恍惚の表情へ変わってるし。


「……あの、これどーいう状況ですか?」


 張本人なのに蚊帳の外なアルが戸惑いの表情をして此方を振り返る。助けて下さい、と訴える目に苦笑しながら一応はアリアを引き離す事にした。


「アリア、僕等これから儀式に出なきゃいけないんだし、取り敢えずアルを離してくんない?」


「えー!嫌よ!!これからあたしの実験室に連れて―――」


「ったく、結局こーなんのか。しゃーねーからリーン、コイツ連れてくなー」


 このままじゃ埒が明かないことを察したフュジーが、アリアの首根っこを掴みながらやる気のなさそうな声でそう言った。その台詞に少しほっとしながらも頼むことにした。


「うん、ヨロシク。暴走アリアは頼んだよ」


「おー。代わりに今度なんか手伝えよー」


 来た時とは逆に、今度はフュジーがアリアを俵と同じ感じで担いで去っていく。アルがドン引きする一方で、周りの人々はまたか、という雰囲気でなにも言ってこなかった。


「ちょ、こらフュジー!はーなーしーなーさーいー!」


「あーはいはい。研究所帰ったらなー」


 段々と遠ざかる叫び声に僕は一つ息をはき出してから、アルの方を向き直った。城の方を指差して軽く苦笑いをする。


「じゃ、中にはいろうか?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 あちらこちらに置いてある調度品の数々。それを眺めながら進む僕等には、ここに入ってからずっとこそこそとした声が聞こえ続けていた。




「なんだアイツ。なんでヴィレット学園の生徒が?」


「さぁ?ま、唯のガキじゃねぇんだろ」


「なんか噂で陛下が贔屓してるガキが居るっつってたな。アイツ等がそれじゃね?」


「うっわ。あの陛下が贔屓ぃ?なんなんだよそれ。いい御身分じゃねぇか」




 せめて聴こえないように言え。少しは視線を気にしろ。それでもお前ら陛下に忠誠誓った軍人かクズ共が。―――いや、軍人でも忠誠心なんて欠片も思ってないの、居るけどさ。

 そんな罵詈雑言を内心で撒き散らしながらも、表ではアルに気遣いを回す。


「アル、ごめんね。大丈夫?」


 先ほどから来る視線の数々。

 一部の僕を知ってるらしき者からは羨望か、憧憬か、嫉妬か。

 知らない者からは疑問か、嘲笑か、苛立ちか。

 そしてアルへは後半三つのみ。決して気持ちの良いモノではないそれに、僕は眉を顰める。きらびやかな筈の金の装飾ですら、鈍い光を放っているように感じてしまう程の暗い空気がそこには漂っていた。


「この位なら問題ないです。寧ろ、可愛い位ですね」


 それを案外あっさりと、まるで何とも無いように歩き続ける彼を見ていると、逆に更に眉を顰めたくなる。


 これが可愛いと言えるという事は、つまりは今までにもっと昏い空気を体験しているという事。

 それには僕も覚えがある。自分もこれより冥い(くらい)視線の中で生きてきた。半年の間に五つの村や町を渡り歩いていた頃、あの時のほうがずっと暗くて、殺意が混じっていた。

 そこから解放され、父さんに引き取られ、初めてここを訪れた時。この国が一番腐敗していた頃の方が、よっぽど陰湿で狡猾だった。

 とは言っても、あの頃の僕はろくに感情を持っていなくて、この空気が異常だという事にすら気づけなかったけれど。その点ではアルの方がいくらかマシなのだろう。一応はこの空気が不穏なものだという事は分かっているらしい。僕はこの空気から抜けた時、父さんから心配そうな目で、大丈夫だったか、と訊かれて初めて気付けた程だ。ああ、これは普通じゃないんだ、と。

 一方でアルは僕よりも経験が少し浅いような気がする。悪意の質も違っただろう。もっとも、そこまでは想像出来ないが……

 と、沈む気分を戻そうと、少し明るい声でアルに笑いかける事にした。


「ならいいんだけど―――あ、アルの服は僕の部屋に届けられてるから」


「え?軍人って、城内に部屋が貰えるんですか?」


 今の僕等は学園の制服を着ている。万が一学園で僕が軍服を着ていたなんてバレたが最後、あっという間に全体に広がってしまうだろう。そうなりゃ仕事どころじゃなくなってしまう。という訳で僕は王宮の自室に制服を置きっぱなしだった。その分非常時は面倒だが、そこは仕方がないという事で。


「いや、僕の場合は特殊例。残業が多くて帰れないとか、体調崩して泊りとかが多いから来賓用の部屋一個借りてるだけなんだよ」


「え゛?それってアリなんですか?」


 城内の来賓用の部屋と言えば、スイートルーム並の設備は完備してある。そんな部屋を一個人が使うなんて事は、そうそうないかもしれない。


「うーん……ま、僕はエンスに許可出されただけだし」


「エンスさん……ですか?」


 誰?と言いたそうなアルにヤベ、と一瞬顔を顰めるが、直ぐにバレるんだったと思い直し、早いけどいーやとネタバレすることにした。


「エインセルの愛称だよ」


「へー、エインセルさんの―――って、陛下ーーーーーーッ!?」


 名前を呟いてから気付いたらしい。場所を忘れて大絶叫するアルに、キーンとした耳を押さえながら苦笑した。


「まぁ、Sランクオーバーは皆『陛下』なんて仰々しい呼び方しないし」


 基本的にエンス、ふざけてればバカエンス、アホエンス、バカ王、アホ陛下、小僧、等等様々な呼び方で呼んでるが、本人を前に陛下と呼ぶことなんて公式の場以外では殆ど皆無に等しい。


「―――そうでした……ついつい忘れてたけど、リーン君高官でしたね、アハハハハ……」


「えーと、アルトさーん?なんか壊れてませんかー?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――


 王宮最奥部最上階にある広い部屋、つまりは玉座へ呼ばれた僕等。アルは下士官の正装を、僕は左官としての正装をした後に呼ばれ、辿り着いたそこに座る彼は翠の瞳でこちらを見下ろしていた。王の色を示す銀髪は金と宝石で装飾された髪留めで結われていて、いっそうその色を目立たせている。そして彼の口元は愉快そうに弧を描いていた。


「私の下へ来てくれた事を嬉しく思う。アルト・ルーラ君」


 まさに王、という振る舞いでアルを歓迎する意思を示したエンスに、アルはガチガチに固まった。


「い、いえ。私のような者にそのような―――」


「ああ、堅苦しい挨拶だの世辞の句だのはいい。リーンみたく堂々としてくれて―――いや、アレは堂々とし過ぎだな」


 アルの礼を遮ったかと思えば、出てくる言葉はまさかの僕への嫌味。そんなふてぶてしい佇まいに、僕も態度を崩す事にした。


「ふん。悪かったねヘーカ(・・・)。何分僕は人を選んで行動するからね」


 皮肉で皮肉を返すと、更にまけじとエンスも皮肉を返してくる。王とは思えない子供っぽさだ。


「ほお、なら私は王だから、それ相応の態度があるんじゃないのか?」


「ハッ。‘王’には頭下げるけど、‘エンス’にはごめんだね」


 大人げなくからかうように挑発してくるエンスに鼻で笑い飛ばすと、横でアルが青くなるのが見えた。でもアル?この位日常茶飯事だから、君もこんな風になる日が来るかもしれないいんだよ?


「エンスには、ってお前なぁ。普通なら不敬罪で投獄物の台詞だぞ?」


 呆れたような口調で呟いた彼に、更に笑って返す。気分はやれるもんならやってみろ、だ。


「へぇ。じゃあどうぞお好きなように僕を投獄してみれば?そーしたら僕も仕事から解放されるしうれしーよ」


 足場が無い程に僕の執務室へ積まれた書類の山々。それらを学校に行ってるのにも関わらずちゃんと仕上げてる僕が居なくなれば、国がどうなるかなんて目に見えている。もっとも、その点を考えないのなら、僕としてはあの白い地獄のような場所から逃げられるんだから嬉しい事だけど。


「ったく……可愛げの無い子供だな」


 エンスもそれを解っている以上、むやみやたらに僕に枷を付けるような真似はしないし、身体の関係から負担を軽減しようともしてくれてはいる。でも、それでもこれだけやる事が多いのが、今現在のこの国の実情だ。

 そんな事をつらつらと考えていると、ふと儀式に必要な物が無い事に気付いた。あれは気配が濃いから、近くにあればアルでも気付く物なんだけど……


「ねぇエンス、‘剣’は何処?」


 あれが無ければ儀式は始められない。この国で一番重要な宝具で、この国の国宝。一万年以上の歴史を誇るとされている儀式用の聖剣なんだから。

 そう思って声をかけたのに、エンスは面白そうな顔で予想外の答えを返してきた。ニヤニヤとこちらを見下ろしている彼を見ていると無性に殴りたくなってくるこの感情は取り敢えず無視しよう。ここでそんなことしたらアルが騒ぎ出す事間違いなしだ。


「ああ、アレか?今は絶賛逃亡中だ」


「へぇ、そ―――」


うなんだ。という言葉を飲み込んで、は?という疑問を呟く。コイツ、今めちゃくちゃ珍妙な事言わなかったか?




 剣が逃亡って、どーゆー事?

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